- 作成日 : 2025年9月16日
役員報酬で節税するには?法人税と所得税の最適化戦略を解説
役員報酬は、会社経営者や役員にとって節税の有力な手段です。法人が報酬を経費として計上することで法人税を軽減しつつ、個人側では給与所得控除や所得分散などを活用して所得税を抑えることができます。
本記事では、役員報酬の基本的な仕組みから節税のメリット・デメリット、報酬額の設定方法や注意すべき社会保険料への影響などを解説します。
目次
役員報酬の基本
役員報酬は、企業の役員が会社から受け取る報酬のことを指します。一般社員の給与とは異なり、その金額や支給方法は法律上や税務上の取り扱いが定められており、企業経営や節税において重要です。ここでは、役員報酬の基本的な意味とその種類について解説します。
役員報酬とは
役員報酬とは、取締役や代表取締役などの会社役員に対して支払われる報酬です。一般的にその金額は株主総会の決議に基づいて決定されますが、中小企業ではオーナー社長自身が役員報酬を自由に設定するケースも多く見られます。税務上は、役員報酬は「給与所得」として扱われるため、受け取った役員本人には所得税および住民税が課されます。
一方、会社にとっては役員報酬は経費(損金)として計上できるため、課税所得を圧縮することで法人税の節税効果が期待できます。この「支給=経費」という構造が、法人が役員報酬を活用して節税できる仕組みの土台となっています。
役員報酬の種類
役員報酬の支給形態には、主に3つの種類があります。
定期同額給与
定期同額給与は、毎月一定の金額を継続して支払う役員報酬の基本形態です。税務上、法人の経費として損金算入が認められるのはこの形式が最も一般的です。ただし、事業年度の開始から3ヶ月以内に設定された金額でなければならず、途中での増減は原則として認められていません。変更する場合は、翌期の期首から再設定する必要があります。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、税務署に事前に届け出た上で、特定の時期に特定の金額を支給する役員給与です。通常、役員への賞与は損金にできませんが、事前に届出をしておけば、賞与であっても損金算入が可能です。役員への賞与を損金にするには、事業年度開始後の早い段階で「事前確定届出給与」に関する届出を税務署に行う必要があります。
業績連動給与
業績連動給与は、会社の業績や株価の変動に連動して支給額が決定するインセンティブ型の報酬制度です。主に上場企業で採用される形式ですが、同族会社では原則として損金算入が認められず、経費として扱うことはできません。そのため、中小企業の役員報酬にはあまり一般的ではありません。
通常、中小企業では「定期同額給与」が最も一般的な役員報酬の形態です。本記事では、この定期同額給与を中心とした節税方法について解説していきます。
役員報酬を使った節税の仕組み
役員報酬による節税は、法人と個人それぞれの税制上の扱いの違いを活用して、トータルの税負担を軽減する方法です。ここでは、役員報酬を用いた節税の仕組みについて、法人・個人それぞれの観点から解説します。
会社側では経費計上によって法人税を圧縮できる
役員報酬は法人の損金として全額経費計上することができます。期末に1,000万円の利益が見込まれる場合、役員報酬を500万円支給することで法人の課税所得は500万円に圧縮されます。中小企業に適用される法人税率は、所得800万円以下で15%、800万円を超える部分は23.2%であるため、このように報酬支給によって法人税を抑える効果が期待できます。「800万円の壁」と呼ばれる法人税率の境界を意識し、800万円までは会社に利益を残し、超える部分を役員報酬として取り出すことで、効率的な節税が可能になります。
個人側では給与所得として所得税・住民税が課税される
一方で、役員報酬を受け取った個人には、給与所得として所得税と住民税が課されます。日本の所得税は累進課税であり、所得が高くなるほど税率が上がり、最高で45%(住民税を含めると約55%)に達します。そのため、報酬を高額に設定しすぎると、個人の税負担がかえって増え、節税効果が薄れるおそれもあります。
ただし、役員報酬は給与所得に該当するため、「給与所得控除」が適用されます。たとえば、年収1,000万円であれば約195万円が自動的に控除されるため、課税所得を圧縮することができます。これは個人事業主の事業所得にはない仕組みであり、法人化して給与という形で収入を得るメリットの一つです。
法人税と所得税の最適なバランスがポイント
法人税の軽減と個人の所得税・住民税の負担を比較しながら、最適な報酬額を設定することが、役員報酬による節税の基本です。利益が800万円を超える場合は、その超過分を役員報酬として支給することで、法人税率の高い23.2%部分を回避し、個人側でより低い税率での課税に移すことが可能です。
たとえば、会社利益が1,200万円の場合、800万円までは法人税率15%の恩恵を受け、超過の400万円を役員報酬として支給することで、会社の利益を800万円に抑えつつ、個人の税率が20%台に留まる構成とすることができます。これにより、会社と個人トータルの税負担を最小化する効果が得られます。
社会保険料の影響にも注意する
役員報酬を設定する際には、税金だけでなく社会保険料の負担も考慮する必要があります。法人の役員は原則として厚生年金や健康保険への加入義務があり、報酬額に応じて会社と本人が保険料を折半して納付します。役員報酬には社会保険料(健康保険・厚生年金)がかかり、その保険料率は会社負担分と本人負担分をあわせて約30%になるため、高額な報酬設定は保険料の負担増にも直結します。
一方、役員報酬が極端に少ない、あるいはゼロの場合は、社会保険への加入要件を満たさず、将来的な年金や医療保障が不十分になるリスクもあります。また、法人である以上、社会保険への加入は原則であり、意図的に加入を避けることは法的リスクを伴います。節税だけを目的とせず、保障の観点からも適正な報酬設定が求められます。
役員報酬を活用した節税のメリット
役員報酬を活用した節税は、法人化によって初めて可能になる制度が多く、中小企業経営者にとっては強力な節税手段となります。法人税と所得税のバランス調整に加え、家族への所得分散や退職金制度なども組み合わせれば、長期的に見て大きな節税効果を得ることができます。
法人税と所得税の合計負担を圧縮できる
役員報酬を通じて法人と個人に利益を分けることで、それぞれの税率を最適化できます。たとえば、各種控除後の課税所得が1,000万円の個人事業主と、法人利益と役員報酬に分散させた場合では、法人税・所得税・住民税、さらに社会保険料の総負担額が大きく変わることがあります。役員報酬を使えば累進課税の影響を緩和し、全体の税負担を軽くすることができます。
家族へ分散して所得税を軽減できる
法人化すれば、配偶者や子を役員にして役員報酬を分配することが可能です。所得税は個人単位の課税であるため、1人に1,000万円支給するより、夫婦で500万円ずつ受け取る方が課税対象が分散され、節税になります。ただし、実態のある役員である必要があり、名義貸しのような運用は認められません。
退職金による大幅な節税が可能
法人では役員退職金を支給でき、これは退職所得として大きな税制優遇を受けられます。勤続年数×40万円の控除に加え、課税対象は半額となります。さらに退職金は分離課税であり、社会保険料の対象にもならないため、非常に効率的な資金移転手段です。
役員報酬を活用した節税のデメリット・注意点
役員報酬を活用した節税にはさまざまな利点がありますが、一方で見落としがちなリスクや制約も存在します。ここでは、節税を行う際に押さえておきたい注意点を解説します。
社会保険料の負担が増える可能性
役員に報酬を支払うと、厚生年金と健康保険への加入が必要となり、会社と本人が保険料を折半します。会社負担分と本人負担分をあわせて報酬額の約30%が保険料に充てられるため、高額な役員報酬は社会保険料の負担も大きくなります。たとえば年600万円の報酬では、年間180万円前後の保険料が発生する計算になります。節税で浮いた法人税が保険料で相殺されるケースもあるため、報酬設定時には保険料とのバランスを考える必要があります。
逆に報酬をゼロにして保険料負担を回避しようとすると、厚生年金・健康保険に加入できず、老後の年金や医療保障が不十分になるリスクがあります。税務上も「報酬ゼロ」が不自然とされ、他の役員報酬まで否認される恐れがあるため注意が必要です。
報酬の設定・変更にはルールがある
役員報酬は、原則として期首から3ヶ月以内に決定し、以降は定期同額で支給しなければ損金算入が認められません。期中に報酬を変更しても、その増額分は経費として扱われないため、節税には寄与しません。賞与についても、事前確定届出給与として税務署に届出を行い、指定された金額と時期で支給しなければ経費にできません。適切な手続きを怠ると、せっかくの報酬が節税効果を持たないことになります。
高すぎる報酬は経費にできないリスクも
税務上、役員報酬が「不相当に高額」と判断された場合、その一部または全部が損金として認められなくなります。たとえば小規模企業で社長が数千万円の報酬を受け取っていると、税務署から「配当の偽装」と見なされる恐れがあります。職務内容や同業他社との比較、従業員とのバランスなどを踏まえ、常識的な報酬額の設定が求められます。
法人化によるコストと手間も考慮が必要
役員報酬節税は法人化していることが前提です。法人化には設立費用や毎年の住民税(最低7万円)、会計・税務の管理費用などが発生します。また、法人と個人の資金を厳密に分けて管理する必要があり、経理や社会保険の手続きも煩雑になります。節税効果がこれらのコストを上回るかどうかを見極めた上で、法人化や報酬設計を検討することが大切です。
節税につながるよう役員報酬を設定するポイント
役員報酬を活用した節税では、会社と個人それぞれの税率を見極めたうえで、最適な報酬額を設定することが重要です。以下では、節税につながる役員報酬の設計方法を解説します。
法人税率「800万円の壁」を意識する
資本金1億円以下の中小法人には、課税所得800万円まで15%、800万円超には23.2%の法人税率が適用されます。そのため、会社に利益を800万円まで残し、超過分を役員報酬として支給することで、高税率ゾーンの法人税を回避できます。これがいわゆる「800万円の壁」を活かした節税戦略です。
個人の所得税率にも配慮する
役員報酬を高く設定しすぎると、所得税・住民税の累進課税により個人側の負担が増えます。報酬は年500〜700万円程度であれば、比較的低い税率帯に収まる可能性が高いため、法人利益とバランスをとって設定すると効果的です。給与所得控除も活用できるため、節税に有利な水準を意識して報酬額を決定しましょう。
役員報酬を活用して、効果的に節税しよう
役員報酬を活用した節税は、法人と個人それぞれの税率や制度の違いを活かして、トータルの税負担を最適化できる有効な手段です。会社側では役員報酬を損金として計上することで法人税を軽減し、個人側では給与所得控除の適用や家族への報酬分散、退職金制度などを通じて、所得税や相続税も抑えることが可能です。
ただし、報酬の設定・変更には税務上のルールがあり、社会保険料や手続きのコストも考慮する必要があります長期的な視点で制度を正しく理解し、自社にとって最適な役員報酬戦略を構築していくことが大切です。
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