• 更新日 : 2025年8月28日

1円起業とは?資本金以外に必要な費用やメリットを解説

起業に興味があるものの「多額の資金が必要」と思って諦めている方も多いでしょう。しかし、現在の会社法では資本金1円から株式会社を設立することが可能です。

この記事では、1円起業の基本概念から実際にかかる費用、具体的な設立方法、メリット・デメリットまで詳しく解説します。起業を検討中の方にとって知っておくべき重要な情報をまとめました。

1円起業とは?

1円起業の基本概念と背景について、法的な変遷も含めて詳しく説明します。

1円起業の定義

1円起業とは、資本金を1円に設定して会社を設立することです。正式な法律用語ではなく、通称として『1円株式会社』『1円資本金会社』と呼ばれ、2006年5月の会社法改正で資本金1円以上での設立が可能になりました。

旧商法では、株式会社の設立には最低1,000万円、有限会社の場合は300万円の資本金が必要でした。この「最低資本金制度」は債権者保護のために設けられていましたが、実効性に乏しく、新規企業参入の阻害要因となっていたため廃止されました。

法改正の背景と目的

2006年の会社法改正は、起業の促進やベンチャー企業の育成を目的としていました。最低資本金制度の撤廃により、資金調達のハードルが大幅に下がり、誰でも気軽に株式会社を設立できる環境が整いました。

現在では国としても起業を増加させて経済を活性化させたいという狙いがあり、1円起業はその政策の一環として位置付けられています。

1円起業の現実性

ただし、実際に1円だけで事業運営を行うことは現実的ではありません。1円起業とは「最低限の資金を用意すれば起業することができる」という意味で理解する必要があります。事業を運営していくためには、設立費用以外にも運転資金や設備投資などの元手が必要となります。

1円の他にかかる費用

資本金以外に必要となる会社設立の具体的な費用について詳しく解説します。

株式会社設立に必要な法定費用

資本金1円で株式会社を設立する場合でも、以下の法定費用が必要です。

定款認証関連費用
  • 定款用収入印紙代:4万円(電子定款の場合は不要)
  • 公証人手数料(定款の認証):3万円
  • 定款の謄本手数料:約2,000円(1ページ250円)
登記関連費用
  • 登録免許税:15万円(資本金の額×0.7%と15万円のうち高い方)

これらを合計すると、紙の定款を使用する場合は約22万2,000円、電子定款を使用する場合は約18万2,000円となります。

電子定款による費用削減

電子定款を活用すれば4万円の収入印紙代が不要となります。ただし、電子定款の作成には以下が必要です。

  • 専用ソフトウェアのダウンロード
  • ICカードリーダライタなどの機器
  • 電子証明書の取得

これらを個人で揃えるより、専門家に依頼した方が結果的に費用を抑えられるケースが多くあります。

その他の必要費用

会社印鑑作成費
  • 法人実印、銀行印、角印などの作成:1万円~3万円程度
専門家への依頼費用(任意)
  • 司法書士への登記手続き代行:7万円~10万円
  • 税理士への設立サポート:5万円~20万円

実際の最低必要金額

現実的に1円起業を行う場合、最低でも20万円~30万円程度の資金が必要となります。これは資本金とは別に必要な費用であり、事業開始後の運転資金も別途考慮する必要があります。

1円起業の方法

1円起業の具体的な手続きの流れと各段階でのポイントを詳しく株式会社の設立を例に説明します。

会社設立の基本事項決定

まず、会社の基本的な事項を決定する必要があります。

決定すべき主な項目
  • 商号(会社名):「株式会社」という法人格を前後どちらかに入れる
  • 本店所在地:会社の住所
  • 事業目的:具体的かつ適法な事業内容
  • 資本金:1円と設定
  • 役員構成:最低1名の取締役が必要
  • 事業年度:決算月の設定

商号については、同一住所に同じ会社名がある場合は登記できないため注意が必要です。

定款の作成と認証

定款は会社運営の基本ルールをまとめた重要な書類です。

絶対的記載事項
  • 目的(事業内容)
  • 商号(会社名)
  • 本店所在地
  • 設立に際して出資される財産の価額または最低額(1円と記載)
  • 発起人の氏名または名称及び住所

1円起業の場合、「設立に際して出資される財産の価額または最低額」の項目に1円と記載します。

定款作成後は、本店所在地を管轄する公証役場で認証手続きを行います。この認証済み定款が後の登記手続きで必要となります。

資本金の払込み手続き

定款認証後、資本金の払込みを行います。

払込みの注意点
  • 発起人の個人口座に振込みを行う
  • 「振込入金」として記録が残る方法で行う
  • 1円のみではなく、事業資金も含めた金額を入金可能

資本金1円の場合でも、事業運営に必要な資金を併せて入金することが実務上は一般的です。これにより手数料の面でも効率的になります。

登記申請手続き

資本金払込み完了後、本店所在地を管轄する法務局で設立登記を申請します。

主な必要書類
  • 登記申請書
  • 定款(認証済み)
  • 発起人の決定書
  • 就任承諾書
  • 印鑑証明書
  • 資本金の払込証明書
  • 印鑑届書

登記申請後、法務局での審査を経て手続きが完了すれば会社が正式に成立します。通常、審査期間は10日程度です。

設立後の手続き

会社設立後も以下の主な手続きが必要です。

これらの手続きも含めて、総合的な設立サポートを専門家に依頼することも可能です。

1円起業のメリット

1円起業が注目される理由となる具体的なメリットについて詳しく解説します。

初期コストの大幅削減

最大のメリットは、起業時の金銭的負担を最小限に抑えられることです。従来の株式会社設立の場合、資本金1,000万円以上という高額な資本金要件がなくなったことで、自己資金が少ない人でも迅速に会社を設立できるようになりました。

特にアイデアやスキルはあるものの、まとまった資金調達が困難な場合に、1円起業は有効な選択肢となります。

リスクの最小化

事業の成功が不確実な段階では、投入資金を最小限に抑えることでリスクを軽減できます。資本金を最低限の1円に設定し、残額を創業者貸付とすることで、必要に応じて返済の形で会社から資金を取り出すことが可能です。

このようなリスク分散により、万が一事業がうまくいかなかった場合の損失を最小限に抑えられます。

消費税の免税メリット

資本金1,000万円未満で設立した会社は、設立から最大2年間は消費税の納税が免除されます。これは1円起業の大きな税務上のメリットです。

ただし、設立1年目の前半期(6ヶ月間)の売上または給与等支給額が1,000万円を超えた場合、2年目から消費税の納税義務が生じるため注意が必要です。

法人としての信用力獲得

個人事業主と比較して、株式会社は社会的信用度が高く評価される傾向があります。取引先との契約や金融機関との関係において、法人格を持つことで有利になる場面が多くあります。

資本金1円であっても株式会社としての法的地位は変わらないため、このメリットを享受できます。

将来の成長への柔軟性

資本金は後からいつでも増資することができます。株式会社の場合、株式を発行することで出資を受けることが可能です。

事業が軌道に乗った段階で適切な金額まで増資を行えば、信用力の向上や資金調達力の強化につながります。増資の際は2週間以内に登記変更手続きが必要ですが、この柔軟性は1円起業の重要なメリットです。

税制上の優遇措置

法人化することで、所得税と比較して法人税率が有利になるケースがあります。また、経費として認められる範囲が個人事業主よりも広くなり、節税効果を期待できます。

生命保険料なども法人では全額経費として計上できるため、税務面でのメリットは多岐にわたります。

1円起業のデメリット

1円起業には多くのメリットがある一方で、重要なデメリットも存在します。

資金調達の困難さ

最も深刻なデメリットは、銀行融資が受けにくくなることです。資本金1円は金融機関から「自己資金が少ない」「事業への本気度が低い」と判断される要因となります。

銀行は資本金の額を企業の信用度を測る重要な指標としているため、融資審査において不利に働く可能性が高くなります。これにより、事業拡大時の資金調達に支障をきたすリスクがあります。

対外的信用力の低下

取引先や顧客から見た場合、資本金1円の会社は「財務基盤が脆弱」「事業継続性に不安がある」という印象を与えかねません。

特にBtoB取引において、相手企業が与信管理を重視する場合、取引開始を断られるケースや、取引条件が不利になる可能性があります。

法人口座開設の困難

銀行の法人口座開設審査において、資本金1円は審査を厳格化させる要因となります。近年、マネーロンダリング対策の強化により、金融機関の審査は一層厳しくなっており、資本金が極端に少ない法人には慎重な対応を取る傾向があります。

法人口座が開設できなければ、事業運営に重大な支障をきたします。

個人資産からの持ち出しリスク

資本金1円では事業運営に必要な資金が圧倒的に不足するため、経営者が個人資産から資金を持ち出す必要が生じます。

事業が軌道に乗るまでの期間、継続的に個人資金を投入し続けることになり、経営者の生活を圧迫するリスクがあります。

固定費負担の重さ

会社設立後は、売上に関係なく以下の固定費が発生します。

  • 法人住民税の均等割:7万円/年
  • 社会保険料
  • 税理士報酬
  • 事務所賃料(該当する場合)

資本金1円では、これらの固定費を賄うことができず、すべて別途資金を用意する必要があります。

事業継続性への不安

資本金1円では、一時的な売上減少や予期せぬ出費に対する耐性が極めて低くなります。資金ショートによる事業停止のリスクが常に存在し、安定的な事業運営が困難になる可能性があります。

1円起業を成功させるアプローチ

1円起業を成功させるための具体的な戦略と注意点について詳しく解説します。

適切な事業選択

1円起業に適した事業の特徴を理解することが重要です。

適している事業
  • ネットビジネス(アフィリエイト、Webサービス、オンライン販売)
  • コンサルティング業
  • IT関連サービス
  • 知識・スキルを活用したサービス業

これらの事業は初期投資が少なく、在庫を持つ必要がないため、1円起業との相性が良好です。

適していない事業
  • 製造業(設備投資が必要)
  • 小売業(在庫投資が必要)
  • 飲食業(店舗・設備投資が必要)
  • 建設業(資金力が重視される)

段階的成長戦略

多くの成功事例では、以下のような段階的アプローチを取っています。

  1. 個人事業主としてスタート:元手0円で事業を開始
  2. 事業の検証:収益性と成長性を確認
  3. 法人化のタイミング:売上が安定してから1円起業
  4. 適切な時期での増資:事業拡大に合わせて資本金を増加

このアプローチにより、リスクを最小化しながら事業を成長させることができます。

資金計画の重要性

1円起業を成功させるためには、詳細な資金計画が不可欠です。

計画すべき項目
  • 設立費用(20万円~30万円)
  • 運転資金(最低3ヶ月分)
  • 固定費(法人住民税、社会保険料等)
  • 緊急時資金

事業計画を綿密に立て、売上が上がるまでの期間を正確に見積もることで、必要な自己資金を適切に準備できます。

専門家の活用

1円起業には多くの専門知識が必要なため、以下の専門家のサポートを受けることをお勧めします。

  • 司法書士:設立登記手続きの代行
  • 税理士:税務面での適切なアドバイス
  • 社会保険労務士:社会保険手続きのサポート

専門家の助言により、設立後のトラブルを未然に防ぎ、適切な事業運営を行うことができます。

増資のタイミング

事業が軌道に乗った段階で、適切な金額への増資を検討しましょう。

増資を検討すべきタイミング
  • 月次売上が安定して黒字化した時点
  • 銀行融資を受ける必要が生じた時点
  • 大口取引先との契約を控えた時点
  • 事業拡大のための投資が必要な時点

1円起業のメリット・デメリットを理解して方針を決める

1円起業は確かに起業のハードルを下げる有効な手段ですが、すべての人に適しているわけではありません。成功のためには、メリットとデメリットを十分に理解し、自身の事業計画と照らし合わせて慎重に判断することが重要です。

特に重要なのは、資本金の額よりも事業計画の質です。綿密な事業計画と十分な準備があれば、1円起業でも成功の可能性を高めることができます。逆に、計画が不十分であれば、どれだけ資本金があっても失敗のリスクは高まります。

また、1円起業は「とりあえず会社を作る」ための手段ではなく、明確なビジョンと戦略を持った上で選択すべき方法です。起業への強い意志と継続的な努力があってこそ、1円起業のメリットを最大限に活用できるのです。

現在の会社法により、誰でも気軽に株式会社を設立できる環境が整っていますが、それは同時に経営者としての責任も伴います。1円起業を検討する際は、これらの点を十分に考慮し、必要に応じて専門家のアドバイスを求めながら、慎重に判断することをお勧めします。


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