- 作成日 : 2025年2月20日
 
弁護士が法人化すべきタイミングは?目安やメリット、デメリットを解説
弁護士は、法人化することが可能です。法人設立のタイミングによっては、節税にもつながります。
この記事では、弁護士が法人化を検討すべきタイミングの目安やメリット・デメリット、法人設立の流れや法律事務所(個人事業主)との違いについて解説します。法人化を検討している場合、ぜひ参考にしてください。
目次
弁護士が法人化を検討すべきタイミング
弁護士は、法人化することが可能です。
弁護士には、以下のようにさまざまな雇用形態・働き方があります。
- 法律事務所:事務所を経営する個人事業主など
 - 企業内弁護士:一般企業の従業員
 - 行政内弁護士:国や自治体の職員
 - 弁護士法人:法人の従業員
 
平成14年4月より、弁護士は法人化して弁護士法人を設立できるようになりました。
弁護士法人とは弁護士が結成した法人であり、弁護士個人が法人格を持って弁護士業務を行う法的な組織体です。
税法上のメリットを考慮すると、個人事業主の弁護士が法人化を検討すべきタイミングの目安は、以下が挙げられます。
- 年間所得が800万円程度になったとき
 - 年間売上が1000万円を超えたとき
 
それぞれ詳しく見ていきましょう。
年間所得が800万円程度になったとき
個人事業主の弁護士が法人化を検討すべきタイミングの1つは「年間所得が800万円程度になったとき」です。法人化して納める税金が所得税から法人税に変わることで、税負担を減らせる可能性があるためです。
個人事業主は所得税、法人は法人税を納める必要があります。所得税率は5~45%で、所得が高いほど上がる累進課税の仕組みが採用されています。一方、法人税率は一律15~23.2%です。
年間所得が800万円程度に達すると、所得税よりも法人税の負担額のほうが低くなりやすいため、法人化を考えるタイミングといえるでしょう。
年間売上が1,000万円を超えたとき
「年間売上が1,000万円を超えたとき」も、個人事業主の弁護士が法人化を検討すべきタイミングの1つに挙げられます。
個人事業主・法人を問わず、「売上が1,000万円を超えた2年後」には消費税を納税しなければなりません。一方、資本金1,000万円未満で新たに法人を設立した場合、設立1期目と2期目における消費税の納税義務が免除されます。
「2年前の課税売上高」で課税事業者の該当有無が判断されるため、個人事業主の弁護士としての売上が1,000万円を超えたタイミングで「資本金1,000万円未満」で法人化すれば、消費税の節税につながります。
弁護士が法人化するメリット
弁護士の法人化には、以下のようなメリットがあります。
- 支店を展開できる
 - 事業が安定しやすい
 - 事業承継しやすくなる
 - 節税効果が期待できる
 - 社会保障が充実する
 
それぞれ解説します。
支店を展開できる
弁護士が法人化する1つめのメリットは、支店の展開が可能になることです。
弁護士個人では、原則として1つの法律事務所しか開設できません。一方、弁護士法人の場合、主たる法律事務所のほかに、従たる法律事務所を開設することが可能です。設置する支店の数に制限もありません。
「より幅広く法的サービスを提供したい」と考える弁護士にとって、支店展開が可能になることは大きなメリットといえるでしょう。
事業が安定しやすい
弁護士が法人化するメリットの2つめは、事業が安定しやすくなることです。
弁護士の法人化は1名でも可能であるものの、複数の弁護士が共同で業務にあたるケースが一般的です。所属する弁護士がそれぞれの専門性を活かして業務に取り組めるように、さまざまな部門や専門分野が設置されるケースが多く見られます。
法人化によって業務運営基盤が拡大・強化されれば、事業の安定化につながるでしょう。
事業承継しやすくなる
弁護士が法人化するメリットの3つめは、事業承継しやすくなることです。
法人格のない法律事務所の場合、以下のようなあらゆる契約が、経営者である「弁護士個人」に帰属します。
- 依頼者との契約:事件の受任
 - 事務所経営に関する契約:事務所の賃貸借、水道光熱費、電話回線、OA機器のリースなど
 
そのため、法人格のない法律事務所の経営者弁護士が引退して新たな経営者に事業承継する場合、手続きが煩雑になることが一般的です。
一方、弁護士法人におけるさまざまな契約は「弁護士法人名義」で締結されるため、事業承継の際に名義を変更する必要がありません。たとえ1名のみが所属する弁護士法人の社員が亡くなってしまったとしても、相続人の同意を得て新たな社員を加入させることで、弁護士法人を存続させられます。
節税効果が期待できる
節税効果が期待できる点も、弁護士の法人化によるメリットに挙げられます。「弁護士が法人化を検討すべきタイミング」として紹介したとおり、所得や売上によっては、法人化したほうが所得税(法人税)や消費税を節税できる可能性があるためです。
法人は、個人事業主に比べて経費に計上できる範囲が広がります。たとえば役員に支払った退職金は損金として算入できるため、損益通算による節税につながります。
個人事業主の場合は3年だった欠損金(赤字)の繰り越し期限が、法人では10年になることも特徴です。万が一、事業所得がマイナスになった場合、欠損金を翌期以降に繰越して将来の利益と相殺することで課税所得を抑えれば、節税を期待できます。
ただし、必ずしも節税メリットを享受できるとは限らない点には注意が必要です。
参考:国税庁 No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
社会保障が充実する
社会保障が充実することも、弁護士の法人化によるメリットの1つです。
法人格のない法律事務所に勤務する個人事業主の弁護士は、勤務先と「業務委託契約」を締結することが一般的です。この場合、全額個人負担で国民年金や国民健康保険に加入しなければなりません。
一方、弁護士法人に勤務する弁護士が勤務先と締結するのは「雇用契約」です。雇用契約であれば、厚生年金や健康保険に加入することが可能です。
弁護士が法人化するデメリット
弁護士が法人化することには、いくつかのデメリットもあります。主なデメリットは、以下のとおりです。
- 個人・法人の両方に弁護士会費がかかる
 - 意思決定に時間がかかる場合がある
 - 既存顧客との契約変更に手間がかかる
 - 手続きや申告の手間や費用がかかる
 
それぞれ詳しく見ていきましょう。
個人・法人の両方に弁護士会費がかかる
1つめのデメリットは、個人・法人の両方に弁護士会費がかかることです。
弁護士は必ず弁護士会に加入する必要があり、弁護士会費を負担する義務があります。法人化した場合、設立した弁護士法人も、必ず弁護士会に登録・加入しなければなりません。
そのため、「個人」としての弁護士会費と「法人」としての弁護士会費の二重負担が発生します。
意思決定に時間がかかる場合がある
デメリットの2つめは、法人化の意思決定に時間がかかるケースがあることです。法人化に関係する弁護士が複数いる場合、合意を得るための時間が必要となるでしょう。
関係者は法人化による影響を受けることから、意思決定に時間がかかる可能性があるため、余裕を持ったスケジュールを立てておくと安心です。
既存顧客との契約変更に手間がかかる
既存顧客との契約変更に手間がかかる点も、法人化のデメリットといえるでしょう。
個人事務所から法人化した場合、既存顧客との契約を法人名義に切り替える必要があります。法人格のない法律事務所と弁護士法人では、事件を受任する際の主体と名義が異なるためです。
法律事務所の場合、依頼者や勤務弁護士などと結ぶ契約は、経営者である弁護士の個人名義にする必要があります。一方、弁護士法人は弁護士法人の名義による契約締結が可能です。
既存顧客を多く抱えているほど、契約変更や見直しに膨大な手間と時間がかかることが想定されます。
手続きや申告の手間や費用がかかる
以下のような手続き・申告の手間や費用が発生することも、弁護士の法人化によるデメリットに挙げられます。
- 法人化の手続き
 - 設立コスト
 - 組織運営の各種手続き
 - 会計管理・税金の申告
 
法人化した場合、法人税申告書の作成など法人ならではの事務作業が発生します。税務や会計の知識に基づく正確な作業が求められるため、手間がかかるケースもあるでしょう。業務を外注する場合、コストもかかります。
法人化にともなう事務的な作業についても、事前に確認しておくとよいでしょう。
弁護士法人と法律事務所(個人事業主)の違い
ここでは、弁護士法人と法律事務所(個人事業主)の形態の違いを比較して紹介します。
| 弁護士法人 | 法律事務所 (個人事業主)  | |
|---|---|---|
| 法人格 | あり | なし | 
| 名称 | 「弁護士法人」という文字を使用する必要あり | 「法律事務所」という文字を使用する必要あり | 
| 支店展開 | 可能 | 不可能 | 
| 弁護士会への加入対象 | 個人および法人 | 個人 | 
| 契約の主体 | 法人名義 | 個人名義 | 
| 課される税金 | 法人税:15~23.2% | 所得税:5~45% | 
| 社会保険への加入 | 社長1人の法人でも加入義務あり | 
  | 
| 規模 | 差はない | |
| 業務内容 | 差はない | |
なお弁護士法人の場合、名称に「弁護士法人」と入っていれば問題ないため、「弁護士法人○○法律事務所」といった表示も可能です。
弁護士が法人化する流れや手続き
弁護士が法人化するための基本的な流れは、以下のとおりです。
- 資格証明書の取得
 - 定款の作成
 - 公証人の認証
 - 法人設立の登記
 - 日弁連・弁護士会への届出
 
なお、法人化手続きの詳細は以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
資格証明書の取得が必要
法人化の手続きには、資格証明書の取得が必要です。
「定款の作成」「公証人の認証」のタイミングで、「弁護士法人の社員となる資格の証明書」が求められます。所属する弁護士会にて、資格証明書の申請手続きが可能です。
日本弁護士連合会(日弁連)に発行してもらう必要があるため、即日の取得は難しいでしょう。手続きのスケジュールには、余裕をみておくことをおすすめします。
日弁連・弁護士会への届出が必要
法人設立の登記を済ませた後は、日弁連・弁護士会への届出が必要です。
登記事項証明書に記載された「成立日」から2週間以内に、弁護士会に法人設立の登記が完了した旨の届出を行わなければなりません。主たる法律事務所が所在する地域の所属弁護士会を経て、日弁連へ成立届出書を提出します。
支店となる法律事務所の設置登記をする際も、同様の手続きが必要です。
メリット・デメリットをふまえて弁護士の法人化を検討しよう
弁護士の法人化には、支店展開や事業の安定化、事業承継や社会保障などの面でメリットがあります。法人設立のタイミングによっては、節税効果も期待できるでしょう。
一方、弁護士会費の二重負担が発生するほか、法人化にともなう各種手続きの手間や費用が生じるといったデメリットもあります。
メリット・デメリットをふまえ、節税につながるタイミングも考慮しつつ、法人化を検討するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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