- 更新日 : 2022年1月21日
資本金1円で会社設立ができる?
理論上、現会社法では資本金が1円でも会社設立が可能です。実際、資本金1円での会社設立は現実的なのでしょうか。この記事では、資本金の概要や資本金1円で会社設立するメリット・デメリット、資本金以外に準備する必要がある会社設立の費用について解説します。
目次
資本金1円で会社設立ができる?
会社設立時には、事業資金となる資本金(または出資金)を払い込む必要があります。現行法においては、資本金や出資金が1円であっても会社設立は可能です。
旧商法では株式会社の最低資本金は1,000万円、旧有限会社法では有限会社の最低資本金は300万円(※現在は新たに有限会社を設立できません)と定められていました。
旧法では特例で5年以内に最低資本金の額まで資本金を増やすことを条件に、最低額に満たなくても会社設立を認められていましたが、5年以内に増資できない場合は解散などを選択するほかありませんでした。このような制限があると、起業は促進されません。
そのため、2006年の会社法改正では、起業の促進やベンチャー企業の育成を目的に最低資本金が撤廃されました。現在は最低資本金という概念がないため、理論上は資本金が1円でも会社を設立できます。
そもそも資本金とは?
資本金とは、会社が事業を行うために必要な資金の中の自己資金を指します。自己資金とは返済の必要がない資金のことで、株式会社の場合は株主から払い込まれた資金を指します。上場企業とは異なり、創業時は第三者による株式の引き受けが難しいため、創業者自身が自分の資産を資本金として払い込むケースがほとんどです。
資本金については以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。
資本金1円で会社設立を行うメリット
資本金1円で会社を設立した場合のメリットをいくつか紹介します。
貸付という形でリスクを分散できる
新たに会社を設立する人を対象にした公的融資などもありますが、会社設立前に希望額の融資を受けられるとは限りません。初期投資があまり必要ない事業であれば、先に会社を設立しておくケースもあるでしょう。
会社設立では資本金の払い込みが必要になりますが、基本的に資本金は返済されないものなので、会社設立後は自由に引き出せなくなります。通常は創業者が自己資金を資本金として払い込むことになりますから、資本金を多くすると創業者個人の生活に支障が出ます。
資本金の額を1円といった少額にし、残りを創業者からの貸付とすることでリスクを分散する方法もあります。資本金の額を増やさず貸付にするメリットは、創業者が必要に応じて返済という形で会社から資金を引き出せることです。
個人事業主より信用力が増す
資本金を少なくしたい場合は、資本金の出資がいらない個人事業主という形で事業を始める方法もあります。個人事業主は法人のような登記申請の手続きがないため、すぐに事業を始められるのがメリットです。
しかし、信用力の面で個人事業主は法人に劣ります。主な理由は法人のように登記されないことと、法人名義で事業を行えないことです。大企業を中心に、「法人でないと取引をしない」という会社も少なくありません。法人向け、または法人との取引が多い事業を始める場合は、たとえ資本金が1円であっても会社を設立したほうがよいでしょう。
一定期間消費税が免除される
資本金1円での会社設立に限りませんが、会社設立時の資本金の額が少ないと一定期間消費税の課税が免除されます。消費税の課税が免除されるのは、会社設立時の資本金や出資金の額が1,000万円未満の法人です。
消費税の納税義務の判定については、その課税期間の2期前の事業年度になるため、会社設立時は基準期間の売上がない状態です。そのため、資本金が1,000万円以上のような規模の大きい会社でなければ、設立当初は課税基準期間がないことを理由に、消費税の課税が免除されています。
資本金が少なければ、課税売上高が設立当初に1,000万円を超えても、一定期間は免税の恩恵を受けられるということです(※資本金が1,000万円未満の法人は原則2期免除されますが、特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6ヶ月の期間その他一定の期間)の課税売上が1,000万円を超えた場合、または特定期間の給与支払額が1,000万円を超えた場合、のいずれかに該当する法人は、1期目は免除されるものの2期目から消費税が課税されます)。
法人にかかる税の均等割や資本割が少なく済む
会社を設立して法人として事業を始めると、所得などに対してさまざまな税金が課税されます。
資本金の額が課税額に影響する主な税金は、法人住民税です。法人住民税には法人の所得にかかる法人税割と、条件に応じて一律に課税される均等割があります。均等割は、法人の資本金の額と従業員の人数によって税額が変わります。資本金の額が少なくなるほど、課税される均等割の額も少なくなる(資本金等の額1,000万円以下が下限)ので、1円といった少額の資本金で会社を設立すれば、均等割の納税額を抑えられます。
法人住民税のほか、資本金の額を基準にした資本割などが税額の計算に用いられる税金の納税額を抑える効果が期待できることが、資本金を1円などの少額にするメリットです。
資本金1円で会社設立を行うデメリット
次に、資本金1円で会社設立を行うデメリットについて考えてみます。
取引先からの信用に影響がある
会社の資本金の額は、ホームページに掲載がなくても登記簿事項証明書を取得したり、インターネット上の登記簿情報提供サービスを利用したりすることで、誰でも確認できます。
資本金の額は事業の元手であり、どのくらい事業投資ができるか、どれくらい資金力があるかを計るものでもあるため、資本金の額が高くなるほど会社の信用力は高まります。
他人資本の借入金も事業投資に使えますが、借入金は返済が必要です。資本金1円など資本金が極端に少なく、返済義務のある借入金が多い会社は、取引先に「債権を回収できないリスクがあるのでは」といった懸念を抱かせることがあり、会社の信用に影響します。
法人口座の開設に影響がある
資本金が1円など極端に少ない場合は、法人口座を開設できないことがあります。資本金1円で簡単に設立された会社の口座は、詐欺やマネーロンダリングなどに利用されるおそれがあり、金融機関側は慎重に審査を行うからです。
会社設立時には多くの会社が法人口座を開設しますが、資本金が極端に少ないと口座開設に悪影響を及ぼすため、資本金1円など少額の資本金での会社設立は避けたほうがよいでしょう。
金融機関からの融資が受けにくい
資本金が1円ということは借入金など、資本金以外で資金を調達しなければならないということです。自己資金である資本金に比べて他人資本である借入金が多いと、会社の財務状況が健全でないと判断されるため、金融機関からの融資を受けにくくなります。
新規事業者を対象にした融資もありますが、一定の自己資金額を要件にしているものが多いため、融資の対象者にさえならないこともあります。会社設立時に融資を必要とする場合は、資本金を少額にするのは避けたほうがよいでしょう。
業種によって許認可が下りない
業種によっては、許認可を必要とする事業もあります。許認可が必要な業種の中には、資本金が一定以上ないと許認可が下りないものもあり、資本金が1円だと事業を始められないことがあります。
例えば許認可が必要な特定建設業では、「資本金2,000万円以上かつ自己資金4,000万円以上」の要件を満たさなければなりません。これは許可が必要な大規模の工事を請け負うことができる資金力のない業者が、特定建設業を行うことを避けるためです。
会社設立を行う際は開業したい事業は許認可が必要か、必要な場合は資本金の額が要件になっていないか、よく確認しておきましょう。
会社設立に必要な費用は資本金だけではない!
「会社設立時には事業の元手となる資本金の払い込みが必要」と説明しましたが、会社設立時には資本金以外に登記に関わる費用も発生します。登記に必要なのは、以下のような費用です。
- 商業登記の登録免許税
- 収入印紙代(※紙の定款の場合)
- 定款の認証費用(※株式会社や相互会社の場合)
そのほかに法人の印鑑作成費用や、登記申請を専門家に依頼した場合は登記申請の代行手数料がかかります。
会社設立にかかる資本金以外の費用については、以下の記事で詳しく解説しています。
資本金をいくらにすべきかきちんと検討しましょう
資本金が1円でも会社設立は可能です。資本金1円での会社設立には、創業者の資金のリスクが分散できるといったメリットがありますが、信用力や融資の面でネックになることがあります。資産管理を目的としたプライベートカンパニーなど、融資が必要ない会社の設立であれば資本金1円での会社設立を検討しても構いませんが、事業の拡大や融資、信用の獲得を考えるなら、資本金はある程度の額にしておいたほうがよいでしょう。
よくある質問
資本金1円でも会社設立はできる?
現在の会社法には最低資本金の定めがないため、資本金が1円でも会社を設立できます。詳しくはこちらをご覧ください。
資本金1円のメリットは?
創業者の貸付にしてリスクを分散できる、個人事業主と比べると資本金が1円でも法人のほうが信用力は高くなる、といったメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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