• 更新日 : 2025年11月25日

税金を滞納したら創業融資は無理?対処法と資金調達を解説

税金を滞納している状態では、日本政策金融公庫や銀行からの創業融資は原則として受けられません。納税は基本的な義務であり、融資審査では返済能力や信頼性を判断する重要な指標と見なされるためです。

資金調達を急ぐ中で、過去の税金滞納が審査にどう影響するのか、不安を抱える経営者の方もいるのではないでしょうか。

この記事では、税金滞納が創業融資に与える影響、滞納解消後の適切な対応、そして融資以外の資金調達方法まで、具体的な手順をふまえてわかりやすく解説します。

税金を滞納していると創業融資は受けられない?

国税や地方税などの税金を滞納している場合、日本政策金融公庫や民間の金融機関からの創業融資を受けることは極めて困難です。融資審査では、事業主としての信頼性や法令順守の姿勢が厳しく見られます。特に、政府系金融機関である日本政策金融公庫は、この点を厳格に審査する傾向があります。

提出書類から滞納の事実は発覚する

日本政策金融公庫の創業融資を申し込む際には、納税証明書や確定申告書など、書類の提出を求められるのが一般的です。したがって、税金の滞納を隠して審査を通過することはできません。

主に以下の書類の提出が求められます。

書類の種類確認される内容備考
納税証明書
(その1・その2・その3)
その1:納付すべき税額・納付済額・未納税額

その2:所得金額

その3:未納の税額がないこと

「未納がないこと」の証明はその3です。目的に応じて税目・年分を指定し、税務署(国税)または自治体(地方税)で交付を受ける。
確定申告書・決算書の控え事業の収支状況、納税額の計算根拠過去2期分の提出を求められることが多い。
源泉徴収票または課税証明書個人の所得と納税状況サラリーマンから独立する場合などに確認資料として提出する場合あり。

これらの書類から未納が判明した時点で審査通過は難しくなります。意図的に提出しなかったとしても、審査の過程で担当者から提出を求められるでしょう。

参照:納税証明書の交付請求手続|国税庁 

なぜ税金滞納で日本政策金融公庫の審査に通らないのか?

日本政策金融公庫の創業融資審査で税金滞納が問題視されるのは、単に「ルール違反」というだけではなく、事業主の資質や事業の将来性に関わる懸念材料と見なされるためです。

主に以下の3つの理由から、審査のハードルが高くなります。

1. 信頼性・計画性の欠如と判断される

納税資金を確保できない、あるいは納税を後回しにするという事実は、資金管理能力や事業計画の甘さの表れと評価されます。

日本政策金融公庫は、事業の計画性や経営者の資質を重視します。税金という、基本的な支出を管理できない状態では、「融資の返済も計画どおりに行えないのではないか」という疑念を抱かせることになります。納税義務を果たせない事業主が、借入金の返済義務を誠実に履行できるとは考えにくいのです。

2. 返済能力への直接的な懸念

税金の滞納は、キャッシュフローが滞っている・事業の支出が収益を上回っている可能性を示すサインです。

つまり「利益が出ていない」「支出をまかなえていない」といった財務状況が想定され、それだけで新たな返済義務を担う事業に対して、貸倒れリスクが高いと判断されます。金融機関から見て、まずは事業収益構造を改善し、納税体制を整えていることが前提とされるでしょう。

3. 公的機関としての立場

日本政策金融公庫は政府出資の金融機関であり、創業支援・中小企業支援という公共性の高い使命を担っています。

そのため、納税義務を果たしていない事業者に対して融資を行うことは、その設立目的や社会的公平という観点から慎重にならざるを得ません。

つまり「公的資金を使って納税義務を果たしていない事業者を支援する」という印象を与えかねないため、税金滞納の有無は審査上、特に重視される要素となります。

銀行融資も税金滞納があると難しい?

民間銀行や信用金庫などの金融機関でも、税金を滞納している状態での融資は極めて困難です。とくに創業融資や運転資金などの新規借入では、納税状況が審査の基本項目の一つとされます。

銀行が納税証明書や確定申告書の控えなどを確認するのは、日本政策金融公庫と同様に、事業主の信頼性・資金管理能力・返済能力を見極めるためです。

銀行は営利企業であり、融資審査においては「貸し倒れリスクを最小化すること」が大原則です。税金を滞納しているという事実は、次の2つの観点で大きなマイナス要因となります。

  • 財務状況の悪化
    納税を履行できないということは、手元資金が逼迫していることを示します。納税は事業における予測可能な支出であり、それが滞っている場合、返済原資となる利益・キャッシュフローが不足していると判断されます。
  • コンプライアンス意識の欠如
    税金は法律に基づく義務であり、それを怠ることは「法令順守への姿勢が低い」と受け取られます。銀行は融資先の経営者の信頼性を重視するため、この点が大きく評価を下げます。

さらに、税金を滞納していると、税務署や自治体によって預金口座・売掛金・不動産などが差し押さえられる可能性があります。

銀行にとって融資先の資産が差押えの対象となることは、担保権や回収順位が税務当局より後順位になるリスクを意味します。そのため、差押えの可能性がある滞納者への新規融資は慎重にならざるを得ません。

もっとも、納税猶予や分納の合意を税務署と結び、誠実に履行している場合は、例外的に審査対象となることもあります。金融機関によっては、「滞納の経緯・解消計画・直近の納税実績」を確認し、改善の意思が明確な場合に限り検討されるケースもあります。

滞納した税金を完納すればすぐに融資を申し込める?

滞納していた税金をすべて納付すれば、創業融資の申し込みは可能になります。ただし、完納直後の申し込みが必ずしも最善とは限りません。審査を有利に進めるためには、いくつかのポイントをおさえておくべきです。

完納後の申し込みタイミング

公式に待機期間の定めはありませんが、完納直後の申し込むより、直近の確定申告、納付を一通り問題なく完了してから申し込むなど、一定期間の無遅延実績を作ったうえで申し込むほうが望ましいでしょう。

完納した事実に加えて、「今後は安定して納税を継続できる体制が整っている」ことを示す必要があるからです。特に、過去に何度も滞納を繰り返している場合、完納直後では「また滞納するのではないか」と懸念される可能性があります。

納税証明書の取得と提出

完納後、融資を申し込む際には、納税証明書(その3)(個人はその3の2、法人はその3の3)を提出します。この証明書をもって、滞納が解消されたことを客観的に証明できます。納税証明書は、管轄の税務署や市区町村役場で取得可能です。

滞納理由を誠実に説明する準備

審査の面談では、過去の滞納理由について質問される可能性があります。その際に、ごまかしたり他責にしたりせず、事実を誠実に説明することが大切です。

例えば、「売上の急な減少で一時的に資金繰りが悪化した」「経理上のミスで納付が遅れてしまった」など、具体的な理由と、それに対する再発防止策をあわせて説明できるように準備しておきましょう。「現在は〇〇という対策を講じ、安定的に納税できる体制を整えています」と前向きな姿勢を示すことが、評価の回復につながります。

参照:納税証明書の交付請求手続|国税庁 

税金滞納以外で創業融資の審査に影響する項目は?

税金の問題をクリアしたとしても、創業融資の審査はそれだけで通過できるわけではありません。滞納問題とあわせて、創業者自身と事業計画に関する複数の項目が総合的に評価されます。特に重要な3つのポイントを紹介します。

自己資金の状況

創業融資において、自己資金は事業への本気度や準備の周到さを示す指標として非常に重視されます。

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」では、自己資金要件は撤廃されましたが、実際には、創業資金総額の3分の1程度の自己資金を準備しておくことが望ましいでしょう。自己資金が厚いほど資金繰りの安定性や計画の実現可能性が高いと判断されやすく、審査上は有利です。

個人の信用情報(CIC、JICC)

事業主個人の信用情報も審査の対象です。過去にクレジットカードの支払いやローンの返済で延滞があると、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。

信用情報機関(CICやJICCなど)には、個人のクレジットやローンの契約内容、支払状況が記録されています。金融機関は審査の際にこれらの情報を照会し、申込者の返済に対する姿勢を確認します。もし過去の延滞に心当たりがある場合は、事前に自身の信用情報を開示請求して確認しておくとよいでしょう。

参照:情報開示とは|CIC 

事業計画の具体性・実現性

「なぜこの事業を始めるのか」「どのように収益を上げていくのか」を具体的に示した事業計画書は、融資審査の根幹をなすものです。

事業の経験や強みを活かせる内容か、提供する商品・サービスの市場性は十分か、売上や費用の見込みは現実的か、といった点が厳しくチェックされます。机上の空論ではなく、具体的なデータや経験にもとづいた、説得力のある事業計画を作成することが不可欠です。

創業融資が難しい場合の他の資金調達方法とは?

税金の完納がすぐに難しい場合や、他の理由で創業融資が困難な場合でも、事業資金を調達する方法はいくつかあります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った手段を検討しましょう。

補助金・助成金の活用

国や地方自治体が提供する補助金・助成金は、原則として返済が不要な資金です。創業期に活用できる制度も多くあります。

補助金や助成金の最大の魅力は、返済義務がないため、経営上の負担が軽いことです。また、公的な審査を経て採択されること自体が、事業の社会的な信頼性や将来性の証明となり、今後の金融機関との取引や事業展開において有利に働くこともあります。

一方で、公募期間が限定されており、申請から受給まで時間がかかる点や、補助金・助成金は原則として後払いであり、対象となる経費を一度自己資金で立て替える必要があります。また、公募期間が短く設定されていることが多く、申請書類の作成には専門的な知識と多くの時間を要します。

創業期に活用しやすい代表例
  • 小規模事業者持続化補助金
    販路開拓や生産性向上のための取り組み(例:ウェブサイト制作、広告宣伝費、店舗改装費)にかかる経費の一部を補助します。
  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
    新製品・サービスの開発や生産プロセスの改善に必要な設備投資などを支援します。
  • IT導入補助金
    会計ソフトや受発注システムなど、業務効率化に資するITツールの導入費用の一部を補助します。
  • 各自治体の創業助成金
    地域での開業を促進するため、都道府県や市区町村が独自に設けている制度です。

参照:支援情報ヘッドライン|J-Net21
小規模事業者持続化補助金|全国商工連合会
ものづくり補助金総合サイト|全国中小企業団体中央会
IT導入補助金2025|中小企業庁

親族や知人からの借入(出資)

親族や知人から資金を借り入れる、あるいは出資してもらう方法です。金融機関からの融資が難しい場合の選択肢となりえます。

この方法は、当事者間の合意にもとづくため、金利や返済期間などの条件を柔軟に交渉しやすい点でしょう。しかし、金銭トラブルが人間関係の破綻に直結するというリスクもはらんでいます。

たとえ親しい間柄であっても、必ず「金銭消費貸借契約書」を作成し、借入額、返済方法、利率などを明確に書面で残すべきです。安易な口約束は、将来の深刻なトラブルの原因となります。また、返済の実態がないと税務署から贈与と見なされ、思わぬ贈与税が課される可能性にも注意が必要です。

ファクタリング

ファクタリングは、保有している売掛債権請求書)をファクタリング会社に買い取ってもらうことで、支払期日よりも早く資金化するサービスです。

  • メリット:融資ではないため、税金滞納や赤字決算でも利用しやすい。最短即日で資金調達が可能。
  • デメリット:手数料が発生するため、受け取れる金額は売掛金の額面より少なくなる。売掛債権がないと利用できない。

税金滞納を解消し、着実な準備で創業融資を実現する

創業融資を受けるためには、税金の滞納がないクリーンな状態であることが大前提です。もし滞納がある場合は、まず一日も早く完納し、事業主としての信頼を回復することから始めましょう。納税は、事業を継続していくうえでの基本であり、資金繰り計画の根幹をなすものです。

完納後は、事業計画を改めて見直し、自己資金の確保や信用情報の確認といった準備を万全に整えてから、日本政策金融公庫や銀行に申し込むことが成功の鍵となります。融資以外の資金調達方法も視野に入れつつ、自社の状況に最も適した形で、事業のスタートに必要な資金を確保していきましょう。


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