- 作成日 : 2025年11月13日
経営セーフティ共済で節税できる?仕組み・課税タイミング・加入方法を解説
中小企業が取引先の倒産による資金難に備える制度として注目されているのが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」です。万一の事態に備えた共済金の貸付だけでなく、掛金を全額経費にできることから節税対策としても活用されています。
本記事では、制度の特徴や税務上の注意点、2024年税制改正の影響などを解説します。
目次
経営セーフティ共済とはどんな制度?
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐ目的で設けられた中小企業向けの共済制度です。以下では、制度の目的、仕組み、そして資金面での特徴について解説します。
取引先倒産による資金難から中小企業を守る制度
経営セーフティ共済は、取引先企業が倒産した際に、売掛金などの未回収債権により資金繰りが悪化することを防ぐために作られた制度です。倒産の連鎖を回避するため、中小企業者は共済に加入し、一定の掛金を積み立てることで、万が一取引先が倒産した場合には、掛金総額の最大10倍(最高8,000万円)までの共済金貸付を、無担保・無保証で受けられる仕組みになっています。
掛金を積み立てて緊急時に備える仕組み
共済制度では、毎月5,000円から20万円までの範囲で掛金を拠出し、積立の上限は800万円となります。掛金は掛け捨てではなく、解約時には一定の条件を満たすことで解約手当金として戻る仕組みです。共済金の貸付けは取引先の倒産が発生した場合に限られますが、加入から一定期間経過後の任意解約でも、掛金の一部または全部が返戻されるため、事業者にとって将来の資金確保策としても有効です。
掛金は全額損金算入が可能
法人であれば掛金は全額を損金に、個人事業主であれば必要経費として計上可能です。そのため、黒字決算が見込まれる年度に掛金を多く拠出することで、所得を圧縮し、法人税・所得税の負担軽減を図ることができます。掛金は任意で月額変更や前納もできるため、利益の変動に応じて柔軟に活用することができる制度です。
参考:経営セーフティ共済とは|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
経営セーフティ共済は節税になる?
経営セーフティ共済は、掛金を全額損金または必要経費にできることから「節税対策」として広く認識されています。しかし「税の繰り延べ効果」によるメリットが本質です。以下では、節税と言われる理由と節税効果について解説します。
掛金を全額損金・必要経費にできる制度設計
経営セーフティ共済の最大の特徴は、拠出する掛金が全額損金(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)として計上できる点にあります。たとえば、年間240万円(毎月20万円×12ヶ月)の掛金を拠出した場合、その金額全てがその年の費用として扱われ、利益がその分だけ圧縮されます。
これにより課税所得が下がるため、結果的に法人税や所得税、住民税の納税額を減らすことができ、現金流出を抑えながら事業資金を積み立てることができます。黒字幅が大きく、納税負担が重い年度には、掛金を上限まで拠出することで大きな節税効果が得られます。
実際の効果は「節税」ではなく「税の繰り延べ」
経営セーフティ共済は「恒久的な節税策」ではなく、「税金の繰り延べ(課税のタイミング調整)」として位置づけられる制度です。制度上、解約により支給される解約手当金は法人では益金、個人事業主では事業収入として課税対象になります。
たとえば、積み立てた800万円を解約して一括で受け取った場合、その金額全てがその年の収益となり、税金が課されます。つまり、拠出時に費用として落とした税金を、将来に先送りしているだけなのです。
なお取引先の倒産により受け取る共済金(貸付金)は原則として課税対象とはなりません。
長期的に見れば節税そのものというよりも、利益のある年度に掛金を拠出し、利益が少ない年度に解約することで税負担を平準化する「タイミング戦略」が必要です。
解約時の税金はいつ発生する?課税タイミングと注意点
経営セーフティ共済では、掛金拠出時には税負担が発生しませんが、解約して解約手当金を受け取る時点で課税が生じます。
解約手当金の受け取りで初めて課税対象となる
経営セーフティ共済の掛金は、拠出時には全額が損金(法人)または必要経費(個人事業主)として処理され、節税効果が期待できます。しかし、共済を解約して解約手当金を受け取った場合、その金額は法人では「益金」、個人事業主では「事業収入」として課税されることになります。
この課税は、掛金の拠出段階では発生せず、資金を解約によって現金化した時点で一括して生じるため、税金を繰り延べている構造となります。つまり、解約によって過去の節税分が「後からまとめて課税される」という認識が必要です。
解約の時期によって税負担が変動する
解約手当金は受け取り時に課税されるため、解約するタイミングによってその年の納税額が大きく変わります。赤字決算や繰越控除のある年度に解約すれば、手当金にかかる税金を抑えることができます。一方、黒字が大きい年に解約してしまうと、手当金が課税所得に加算されて、想定以上の税負担になる恐れがあります。
そのため、解約は資金ニーズだけでなく、当期の収益状況や翌期以降の見通しを踏まえて慎重に判断することが重要です。タイミングを誤ると、せっかくの節税効果が帳消しになることもあります。
解約時期と返戻率の関係にも注意が必要
共済を解約する際は、課税だけでなく「掛金の戻り率(解約手当金の返戻率)」にも注意が必要です。制度上、加入から12ヶ月未満で解約すると解約手当金は支給されず掛け捨てになります。また、40ヶ月未満での解約では一部掛金が戻らないケースもあります。
したがって、最低でも40ヶ月以上の継続加入を経てから解約することで、掛金の全額を受け取ることができる状態にするのが望ましい運用です。
経営セーフティ共済は誰におすすめ?法人も個人事業主も加入できる?
経営セーフティ共済は、法人・個人を問わず、一定の要件を満たした中小企業者であれば加入可能な制度です。
法人・個人問わず中小企業者であれば加入可能
経営セーフティ共済に加入できるのは、「中小企業者」に該当し、かつ1年以上継続して事業を営んでいることが条件です。中小企業者には、法人だけでなく個人事業主や事業協同組合も含まれます。業種によって定義される基準は異なりますが、製造業であれば資本金3億円以下または常時使用する従業員数が300人以下、サービス業であれば資本金5,000万円以下または従業員100人以下などの条件があります。
これらの基準を満たしていれば、法人企業はもちろん、フリーランスを含む個人事業主でも制度の利用が可能です。ただし、創業間もない場合、1年未満の事業継続では加入が認められないため、開業直後の事業者はまず1年以上の事業実績を積む必要があります。
また、法人税や所得税を滞納している場合には、加入審査で信用が確認され、共済への加入が拒否されることがあります。適切な経理処理や納税が制度利用の前提となります。
安定的に利益を出す事業者におすすめ
この制度は、定期的に利益が出ており、節税や資金備蓄の両面でメリットを享受したい事業者に向いています。掛金は全額が損金または必要経費として処理できるため、黒字が続く企業にとっては税負担を軽減しながら内部留保を積み上げる手段になります。
また、解約時には手当金が戻る仕組みのため、資金繰りの一助にもなります。取引先との依存度が高い業種においては、万が一の倒産に備えて共済金の貸付制度を活用できる点も、経営上の安心材料となります。
一方、常に赤字が続く事業者や、将来的に解約金を受け取る見込みが立たない場合には、節税の恩恵を受けにくくなります。よって、安定した収益が見込め、長期的に制度を活用できる見通しのある中小事業者こそ、経営セーフティ共済の効果を最大限に活かせると言えるでしょう。
2024年税制改正の変更点は?再加入時の損金算入制限に注意
2024年10月施行の税制改正により、経営セーフティ共済の「解約→再加入→再度の損金算入」を繰り返す節税スキームが制限されました。今後は、共済制度本来の目的である経営リスクへの備えとして、長期的な活用が求められます。
解約から2年間は掛金を経費計上できない新ルール
税制改正により、2024年10月1日以降に経営セーフティ共済を解約した場合、解約日から起算して2年間は再加入後の掛金について損金(または必要経費)算入が認められなくなります。これは、租税特別措置法第66条の11の2の改正によるもので、短期間の節税目的による再加入を防止するために導入されたものです。
これにより、過去に見られた「年度末に解約手当金を受け取り収益化→翌期に再加入して掛金を経費化」という手法は、今後は税務上否認されることになります。制度の趣旨に反した再利用を制限する措置といえます。
節税目的の短期解約・再加入は封じられた
改正前は制度上の抜け道として、税負担のタイミングを操作する意図で解約・再加入を繰り返す事例が存在しました。しかし、改正後は再加入後の掛金が損金にならないため、短期的な節税効果は得られません。この点からも、今後は経営セーフティ共済を「一時的な節税策」としてではなく、長期的にリスク備蓄と税負担の平準化を図る仕組みとして活用することが求められます。
なお、この新ルールは2024年10月1日以降の解約分から適用されるため、それ以前に解約したケースについては、現時点では制限の対象外です。ただし、今後税務調査等で形式的な再加入と判断されれば否認される可能性もあるため、注意が必要です。
正攻法による活用へと転換する時代に
この改正によって、経営セーフティ共済は制度本来の趣旨に立ち返り、経営の安定と資金の緊急時対応を目的とする制度としての位置づけがより明確になりました。今後は、利益が出た年に適切な掛金を積み立て、将来の資金需要や赤字リスクに備える「計画的な運用」が重要となります。
経営セーフティ共済の加入方法は?
経営セーフティ共済への加入は、所定の条件を満たしていれば法人・個人を問わず可能です。制度を確実に利用するために、流れや必要書類を事前に確認しておきましょう。
加入申込の流れ・受付窓口
加入手続きは、所定の申込書類を準備し、中小機構が指定する取扱窓口に提出することで行います。受付窓口は、全国の商工会・商工会議所、金融機関(銀行・信用金庫など)、中小企業団体中央会、青色申告会などが担当しています。中小機構の公式サイトでは、地域別に取り扱い窓口の検索が可能です。
提出後は中小機構による審査を経て、通常1〜2ヶ月程度で契約が成立し、「共済契約締結証書」などの書類が郵送されます。共済金貸付や解約の際に必要となるため、大切に保管しておく必要があります。
掛金の支払いは、指定口座からの口座振替(毎月27日)による自動引き落としで行われます。支払方法は月払いのほか、年払い(前納)も選択可能で、前納分はその年の損金・必要経費としてまとめて計上することもできます。
必要書類と事前準備
申込時には、次のような書類を提出する必要があります。
- 共済契約申込書
- 掛金預金口座振替申出書
- 反社会的勢力の排除に関する誓約書(重要事項確認書)
これらに加えて、事業者の種別(法人・個人)に応じて、以下のような書類を準備します。
- 所得税の確定申告書(収支内訳書または青色申告決算書を含む)
- 所得税の納税証明書(その1)または領収証書
いずれの場合も、税務署受付印付きの書類を提出する必要があります。不備があると審査に時間がかかるため、あらかじめ確認しておくとスムーズです。
経営セーフティ共済は計画的に活用しよう
経営セーフティ共済は、万一の取引先倒産に備える制度であると同時に、掛金を全額損金算入できることから節税にも活用できる仕組みです。ただし、解約時には課税が発生するため、単なる節税ではなく「税金の繰り延べ」として理解し、解約のタイミングや事業状況に応じた計画的な運用が求められます。
税制改正により、短期的な解約・再加入による節税策には制限がかかりましたが、適切に活用すれば資金備蓄と税負担平準化の両立が可能です。安定した利益が見込まれる中小企業や個人事業主にとって、有効な経営手段となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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