- 作成日 : 2025年7月24日
法人化の種類とは?それぞれのメリット・デメリットから選び方までわかりやすく解説
個人事業主として事業が軌道に乗ってきた方や、新たな事業を立ち上げようとするときに、法人化は重要な選択肢の一つとなります。しかし、一口に法人と言っても種類は多岐にわたり、それぞれに特徴やメリット・デメリットが存在します。
本記事では、法人化を検討されている方に向けて、主要な法人の種類とその違い、そしてご自身の事業に最適な法人格を選ぶためのポイントを分かりやすく解説します。
目次
そもそも法人とは
法人とは、法律によって「人」と同じように権利や義務を認められた組織のことを指します。自然人(私たち個人)とは別に、法律上の人格(法人格)を持つことで、法人名義で契約を結んだり、財産を所有したり、銀行口座を開設したり、訴訟を起こしたりすることが可能になります。
法人格の代表的な種類一覧
日本で設立できる法人には様々な種類がありますが、ここでは特に代表的なものをピックアップして解説します。それぞれの特徴を掴み、ご自身の目指す事業形態と照らし合わせてみましょう。
株式会社
株式会社は、株式を発行することで資金を調達し、事業を行う法人形態です。出資者は株主となり、経営は取締役などの役員が行います。日本で最も多く設立されている法人であり、社会的信用度が高いのが大きな特徴です。
株式会社のメリットは、資金調達の選択肢が豊富であること(株式発行による増資、社債発行など)、事業規模の拡大を目指しやすいこと、上場も視野に入れられることなどが挙げられます。一方で、設立費用が他の法人形態に比べて比較的高く、役員の任期(非公開の株式会社の場合、最長10年)があり、定期的な役員変更登記が必要となる点、決算公告の義務がある点などはデメリットと言えるでしょう。
合同会社(LLC)
2006年の会社法施行により創設された合同会社は、アメリカのLLCをモデルとした法人形態です。出資者全員が会社の業務執行権を持つ「社員」となり、利益配分や権限などを定款で比較的自由に定めることができます。
合同会社の最大のメリットは、設立費用が株式会社に比べて安価であることです。また、役員の任期がなく、決算公告の義務もないため、ランニングコストを抑えやすい点も魅力です。意思決定の迅速化も期待できます。デメリットとしては、株式会社に比べて社会的認知度がまだ低い場合があること、上場ができないこと、出資者間の意見対立が経営に直接影響しやすいことなどが挙げられます。
合名会社
合名会社は、出資者全員が会社の債務に対して直接・無制限に責任を負う「無限責任社員」で構成される法人形態です。社員同士の信頼関係が非常に重要となるため、家族経営などの小規模な事業で用いられることがあります。
メリットとしては、定款自治の範囲が広く、設立手続きが比較的簡単な点が挙げられます。一方で、無限責任という大きなリスクを伴うため、現代では選択されるケースは多くありません。社員が1人もいなくなった場合は解散となるなど、組織としての継続性にも課題があります。
合資会社
合資会社は、事業から生じる債務に対して無限に責任を負う「無限責任社員」と、出資額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任社員」の両方から構成される法人形態です。無限責任社員が事業経営を担うのが一般的です。
メリットとしては、多様な形で事業への参加が可能になる点が挙げられます。しかし、無限責任社員の存在が不可欠であることや、無限責任のリスク、そして合同会社という、より柔軟な形態が登場したことにより、新規設立は減少傾向にあります。
NPO法人(特定非営利活動法人)
NPO法人は、ボランティア活動などの特定非営利活動を行うことを目的とした法人です。株式会社などの営利法人とは異なり、利益の追求を主目的とせず、得られた利益は非営利活動に充てられます。
NPO法人のメリットは、社会的な信用を得やすく、活動内容によっては税制上の優遇措置を受けられる可能性があることです。また、情報公開が義務付けられており、透明性の高い運営が求められます。デメリットとしては、設立に所轄庁の認証が必要で、株式会社などに比べて手間と時間がかかること、利益を役員や会員に分配できないことなどが挙げられます。
一般社団法人・一般財団法人
一般社団法人および一般財団法人は、剰余金の分配を目的としない「非営利型」の法人ですが、NPO法人のように活動内容が公益的なものに限定されません。一定の要件を満たせば、税制上の優遇措置がある「公益社団法人」「公益財団法人」への移行も可能です。
一般社団法人は、一定数以上の社員が集まることで設立でき、事業内容に大きな制限はありません。同窓会や学会、業界団体など、様々な組織で活用されています。一般財団法人は、一定額以上の財産の拠出によって設立され、その財産を管理・運用して事業を行います。どちらも設立手続きが比較的簡便で、自由な事業運営が可能ですが、株式会社のような資金調達の多様性はありません。
法人化の種類を選択する上で重要なポイント
ここまで各法人の特徴を見てきましたが、実際にどの法人形態を選ぶべきか迷う方も多いでしょう。ここでは、法人種類を選択するうえで特に重要となる比較ポイントを整理します。
事業目的と規模
まず考えるべきは、どのような事業を行い、将来的にどの程度の規模を目指すのかという点です。例えば、不特定多数から広く資金を集めて事業を大きく成長させたい、将来的には上場も視野に入れたいという場合は、株式会社が適しているでしょう。一方で、小規模で機動的に事業を展開したい、設立・運営コストを抑えたいという場合は、合同会社が有力な選択肢となります。社会貢献活動を主目的とするならNPO法人、共益的な活動なら一般社団法人などが考えられます。
資金調達の方法
事業を行ううえで資金調達は不可欠です。株式会社は株式発行による増資や社債発行など、多様な資金調達手段を持っています。ベンチャーキャピタルからの出資を受けやすいのも株式会社です。合同会社は、出資者(社員)からの出資が基本となり、金融機関からの融資も可能ですが、株式のような柔軟な資金調達は難しいです。NPO法人や一般社団法人・財団法人は、会費や寄付金、助成金などが主な資金源となります。
責任の範囲
出資者の責任範囲も重要なポイントです。株式会社や合同会社の出資者は、原則として出資額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任」です。これに対し、合名会社の社員は「無限責任」であり、会社の債務に対して個人資産も含めて全責任を負います。合資会社は無限責任社員と有限責任社員が混在します。事業リスクを考慮し、適切な責任範囲の法人形態を選びましょう。
法人設立費用と手続きの煩雑さ
法人を設立するには、定款認証手数料や登録免許税などの法定費用がかかります。株式会社の設立費用は一般的に20万円〜25万円程度(電子定款の場合)、合同会社は6万円〜10万円程度と、株式会社と比べると合同会社の方が安価です。また、設立手続きの煩雑さも異なります。NPO法人は所轄庁の認証が必要なため、設立までに数ヶ月以上かかるのが一般的です。専門家に依頼する場合は、別途手数料も考慮に入れる必要があります。
節税効果
法人化の大きなメリットの一つに節税効果がありますが、法人税の税率や控除の種類は法人の種類によって直接的に大きく変わるわけではありません。ただし、利益の分配に関する制約(NPO法人など)や、公益法人認定による税制優遇などは存在します。個人事業主から法人化する場合、所得の分散や経費の範囲拡大により、所得税・住民税と比較して税負担が軽減される可能性があります。具体的な税金面については、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
法人化のメリット・デメリット
個別の法人種類に関わらず、法人化そのものには共通するメリットとデメリットがあります。これらを理解しておくことも重要です。
法人化のメリット
法人化の主なメリットは以下の通りです。
- 社会的信用の向上:個人事業主よりも法人の方が、取引先や金融機関からの信用を得やすくなる傾向があります。
- 節税効果:所得が一定額を超えると、個人事業主の所得税率よりも法人税率の方が低くなる場合があります。また、役員報酬や退職金の活用、経費として認められる範囲の拡大などにより節税が期待できます。
- 資金調達の円滑化:法人になることで、金融機関からの融資を受けやすくなったり、出資を募ったりする際の選択肢が増えます。
- 事業承継の円滑化:個人事業の場合、事業主の死亡により事業資産が相続財産となりますが、法人の場合は株式の相続や譲渡により事業を承継しやすくなります。
- 責任の有限化(株式会社・合同会社の場合):事業上の債務に対して、出資者は出資額の範囲内でのみ責任を負うため、個人の財産を守ることができます。
法人化のデメリット
一方で、法人化にはいくつかのデメリットもあります。「法人化したことを後悔している」という声が聞かれることもあるため、あらかじめ十分に理解したうえで判断することが大切です。
- 設立・維持コストの発生:定款作成費用、登録免許税などの設立費用に加え、赤字であっても法人住民税の均等割が発生するなど、維持コストがかかります。
- 社会保険への加入義務:法人化すると、たとえ社長一人であっても健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が義務付けられます。これにより、個人負担・会社負担ともに保険料の負担が増加します。
- 事務作業の増加:会計処理や税務申告が個人事業主よりも複雑になり、事務作業の負担が増えます。税理士などの専門家への依頼費用も考慮する必要があります。
- 利益の自由な引き出しが難しい:法人の利益は個人のものではなく、役員報酬や配当といった形でしか引き出せません。
- 交際費の損金算入制限:個人事業主は事業に関連する交際費を全額経費にできますが、法人の場合は損金算入に一定の制限があります。
これらのデメリットを理解せず安易に法人化すると、「思ったより手元にお金が残らない」「事務作業が大変すぎる」といった後悔につながる可能性があります。
法人化を検討すべきタイミングや年収の目安
法人化を検討する適切なタイミングは、事業の状況や目的によって異なりますが、一般的に以下のような点が目安となります。
- 所得(利益)の増加
一般的に、課税所得が800万円~1000万円程度を超えてくると、法人税の方が税負担を抑えられる可能性が出てきます。ただし、社会保険料の負担なども考慮に入れる必要があります。 - 消費税の課税事業者になった場合
前々年の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となります。法人化することで、新たに設立された法人は場合によって最初の2年間は免税事業者となれるため、節税につながる場合があります。 - 対外的な信用が必要になった場合
大企業との取引や、金融機関からの高額な融資を検討する場合、法人格がある方が有利に進むことがあります。 - 事業拡大や人材採用を本格化したい場合
法人化することで、求職者からの信頼度が増し、優秀な人材を確保しやすくなる傾向があります。
これらの要素を総合的に考慮し、税理士などの専門家にも相談しながら最適なタイミングを見極めることが重要です。
法人化できない人はいるのか
基本的に、法律で定められた欠格事由に該当しなければ、誰でも法人を設立することは可能です。しかし、以下のようなケースでは法人化が難しい、あるいは法人化しても意味がない場合があります。
- 許認可が必要な事業で、法人としての要件を満たせない場合
建設業や古物商など、特定の事業を行うには許認可が必要です。法人として許認可を取得するための要件を満たせない場合は、事実上、その事業での法人化は困難です。 - 個人としての信用情報に問題がある場合
法人設立自体は可能でも、代表者の信用情報に問題があると、金融機関からの融資が受けられないなど、事業運営に支障をきたす可能性があります。 - 法人化のメリットがほとんどない場合
所得がそれほど多くなく、社会的信用も特に必要としない小規模な事業の場合、法人化のメリットよりもデメリットの方が大きくなることがあります。
法人化はあくまで手段であり、目的ではありません。ご自身の状況を客観的に分析し、本当に法人化が必要なのか、どの法人形態が最適なのかを慎重に検討しましょう。
法人化の種類を検討し、事業を成功に導きましょう
本記事では、法人化の主要な種類とその特徴、選択のポイントについて解説しました。法人化は、事業の成長と発展のための強力なステップですが、そのためには慎重な準備と適切な法人種類の選択が不可欠です。この記事が、あなたの法人化検討の一助となれば幸いです。最終的な判断に際しては、税理士や司法書士などの専門家に相談し、個別の状況に合わせたアドバイスを受けることを強くおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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