- 更新日 : 2025年11月25日
子会社の資金調達方法は?親会社からの出資や融資、利益供与を解説
子会社の資金調達は、親会社からの出資や融資、外部金融機関からの借入、株式上場(IPO)など、企業の状況に応じて多様な選択肢があります。それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、グループ全体の戦略や税務上の影響を慎重に考慮して最適な手段を選ぶ必要があります。
実務において、「子会社の事業拡大に資金が必要だが、どの資金調達方法が良いかわからない」「親会社が支援する場合、税務上のリスクはないか」といった課題に直面することも少なくありません。
この記事では、子会社の資金調達における主要な方法から、親会社との取引における法務・税務上の注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
子会社の資金調達、どんな方法がある?
子会社の資金調達方法には、親会社からの調達や外部からの調達、グループ全体での管理などがあります。会社の成長ステージや必要な資金額、調達スピード、税務・ガバナンス上の影響などを考慮し、これらの方法を単独または組み合わせて活用するのが一般的です。
親会社からの資金調達
親会社から資金を調達する方法は、迅速な意思決定が可能で、柔軟な条件設定をしやすいのが特徴です。
親会社から子会社への出資(増資)
親会社が子会社の株式を追加で引き受ける形で資金を注入する方法です。子会社にとっては返済不要の自己資本となるため、財務基盤が安定します。
親会社から子会社への融資(貸付)
親会社が子会社に直接資金を貸し付ける方法です。金融機関からの借入と異なり、柔軟な金利や返済期間を設定しやすいメリットがあります。ただし、親子間の貸付であっても、合理的利率設定と金銭消費貸借契約書の整備が必須です。
親会社による債務保証
子会社が金融機関から融資を受ける際に、親会社が連帯保証人となる方法です。子会社単独では信用力が不足する場合でも、親会社の信用力を背景に融資を受けやすくなります。
親会社から子会社への寄付金
無償資金は寄附金として損金算入に限度があり、受贈側は益金算入が原則です。ただし法人による完全支配関係(100%)のグループ内寄附は、グループ法人税制により寄附側全額損金不算入・受贈側全額益金不算入となるため、グループ通算で中立化されます。
金融機関など外部からの資金調達
親会社の支援に頼らず、子会社自身が外部から資金を調達する方法です。経営の独立性を高めることにつながります。
株式上場(IPO)
子会社が証券取引所に株式を公開し、広く一般の投資家から資金を調達する方法です。多額の資金調達が可能になるほか、社会的信用度や知名度の向上も期待できます。
金融機関からの融資
銀行や信用金庫などの金融機関から直接融資を受けます。親会社保証の可否(保証付融資かプロパー融資)で条件が変わります。子会社単体の返済能力に加え、グループ全体の安定性が評価されるのが通例です。
社債の発行
子会社が投資家に向けて債券(社債)を発行し、直接資金を調達する方法です。金融機関からの融資よりも、一度にまとまった資金を長期で調達しやすい場合があります。
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資
特に成長性の高いスタートアップ型の子会社の場合、VCなど外部の投資家から出資を受ける選択肢もあり得ます。
グループ全体での資金管理
「グループ全体での資金管理」とは、複数の関連会社(親会社・子会社・関連会社)を持つ企業グループにおいて、各社が持つ現金・流動資産・資金余剰・資金不足をグループレベルで統合・最適化する仕組みです。
代表的な手法として キャッシュ・マネジメント・システム(CMS) があり、これは「各社の資金収支を本社(または財務統括会社)が集中管理し、余剰資金を不足会社に短期貸付・振替・相殺して、外部借入を抑制・支払利息を削減する」枠組みです。
親会社から資金調達するメリット・デメリットは?
親会社からの資金調達は、迅速さと条件設計の柔軟性が大きなメリットである一方、親会社の経営方針・業績に依存するという構造的なデメリットがあります。グループ内で意思決定が早まる反面、親会社の資金政策が変われば子会社の資金繰りに直結する点は避けられません。
メリット:迅速な意思決定と柔軟な条件
- 審査・手続きの迅速化:グループの事情を踏まえた判断が可能で、外部金融機関に比べて意思決定が速い。
- 条件設計の自由度:返済期間・金利・担保・コベナンツ等を、事業計画やキャッシュフローに合わせて機動的に調整しやすい。
- 信用補完・資本戦略の選択肢:出資(自己資本強化)と貸付(資金弾力性)の使い分けで、財務指標や銀行与信への見え方を調整できる。
デメリット:親会社の経営状況への依存
金融機関から融資を受ける際、親会社も審査される?
子会社が金融機関から融資を受ける際には、多くの場合、親会社の経営状況や信用力も審査の参考とされます。金融機関は、返済能力を子会社単体の財務内容だけでなく、グループ全体の安定性・資金繰り・収益力をもとに総合的に判断します。
親会社の信用力が審査に影響する
金融機関は、融資稟議の段階で子会社の財務指標(自己資本比率・債務償還年数等)に加え、親会社の連結財務や資本関係・支援姿勢を評価します。
特に非上場グループや中小企業では、子会社単体での信用力が限定的なため、親会社の経営基盤や業績見通しが主要な判断要素となることが一般的です。
一方、上場企業グループの子会社では、親会社の保証を付けずにプロパー融資(独自融資)を受ける事例も増えているようです。
親会社が連帯保証人になるケース
子会社の信用力を補完する目的で、金融機関が親会社の連帯保証を求めることは少なくありません。
親会社が連帯保証をすることで、金融機関は貸し倒れリスクを低減できるため、より有利な条件での融資や、より大きな金額の融資が期待できます。ただし、この場合、万が一、子会社が返済不能に陥った際には、親会社が返済義務を負うことになります。
親会社が子会社の費用を負担するのは利益供与にあたる?
親会社が子会社の赤字補填をしたり、家賃や人件費等の経費を負担したりする場合、税務上は寄附金(利益供与)認定のリスクがあります。親子会社間の取引であっても、第三者間と同様に経済合理的な条件(対価・利率・役務の範囲等)で行われていることが求められるためです。安易な資金移動は、思わぬ課税につながり得ます。
寄附金(利益供与)と見なされるリスク
親会社が子会社に無利息(または著しく低利)で貸付を行う、時価に比べ著しく低い対価で役務提供する、といったケースでは、その経済的利益相当額が「寄附金」と認定される可能性があります。
もっとも、子会社の整理・倒産防止などにつき、社会通念上やむを得ない相当な理由がある場合、損失負担や無利息・低利貸付であっても寄附金に該当しない取扱いが国税庁通達で示されています。ケースごとに再建計画の合理性等を資料で説明できるようにしておくことが肝要です。
寄付金として扱われる場合の税務上の注意点
法人税法上、寄附金は原則として損金(経費)として認められる金額に上限(損金算入限度額)が設けられています。親会社から子会社への資金援助が「寄附金」と認定された場合、親会社側では損金として算入できる額が制限されるか、場合によっては全額が損金不算入となる可能性があります。一方、資金を受け取った子会社側では、その金額が「受贈益」として益金に算入されることがあります。
法人による完全支配関係(内国法人が他の内国法人を100%支配)にある法人間」の寄付については、グループ法人税制の適用により、寄付した側では全額損金不算入、受け取った側では全額益金不算入として扱われ、グループ全体で課税関係が生じない仕組みになっています。
とはいえ、子会社の整理・再建目的で合理的な理由の下で行った無利息貸付等は、例外的に寄附金扱いとされず、損金算入が認められる場合もあるため、単純に“資金援助=寄附金”とはせず、支援の目的・契約条件・会計税務上の処理根拠をあらかじめ整理しておくことが重要です。
適正な取引条件の重要性
親子会社間で費用の負担や資金の移動を行う際は、なぜその取引が必要なのか、その金額は妥当であるのかを客観的に説明できるようにしておくことが不可欠です。業務委託契約書や出向契約書、金銭消費貸借契約書などを整備し、取引の根拠を明確に残しておきましょう。
日本政策金融公庫の融資は子会社でも利用できる?
日本政策金融公庫は、民間金融機関の取り組みを補完する政府系の金融機関であり、中小企業や小規模事業者、創業期の企業を積極的に支援しています。もちろん、子会社であっても、要件を満たせばこれらの融資制度を利用することが可能です。
新規開業・スタートアップ支援資金の概要
これから事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度です。女性や若者、シニア向けの優遇制度も用意されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内) |
※2025年10月時点の情報です。最新の詳細は公式サイトをご確認ください。
融資を受けるためのポイント
融資審査では、事業の将来性や収益性を具体的に示す創業計画書(事業計画書)の内容が重視されます。親会社の事業との関連性やシナジー効果、子会社独自の強みなどを明確に記載し、説得力のある計画を策定することが、融資実行の鍵となるでしょう。
子会社の資金調達はグループ全体の戦略的判断がカギ
子会社の資金調達を成功させるためには、その方法と注意点を正しく理解し、自社の状況に合った最適な手段を選択することが不可欠です。親会社からの支援は迅速で柔軟な一方、依存度が高まるリスクも伴います。金融機関からの融資や市場からの調達は経営の自立につながりますが、相応の信用力や準備が求められます。
また、親子間の費用負担や資金移動に際しては、利益供与と見なされないよう、取引の妥当性を常に意識し、税務上のリスク管理を徹底しなければなりません。最終的にどの方法を選ぶにせよ、子会社の成長ステージや事業内容、そしてグループ会社全体の戦略をふまえた、総合的な判断が重要となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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