• 作成日 : 2025年10月24日

絵画の購入で節税できる?仕組みや節税のポイントを解説

美術品、とくに絵画の購入が節税につながるという話を耳にしたことはありませんか?一定の条件を満たせば絵画は減価償却資産として扱うことができ、法人税や所得税の軽減につながる場合があります。

この記事では、絵画による節税の仕組みから、節税方法、注意点などを解説します。

絵画の購入で節税できるのはどんな人?

絵画による節税は、すべての納税者が利用できるわけではありません。節税の対象となるのは、絵画を事業の一環として使用する法人経営者や個人事業主に限られます。ここでは、どのような人が絵画の購入で節税できるのか、特徴を見ていきます。

富裕層・高所得者

高所得者や富裕層は、法人を活用したアート節税に積極的です。資産管理会社などを設立し、法人名義で事業の用に供する絵画を取得した場合、減価償却費として計上し法人税を抑えることができます。さらに、個人の所得を役員報酬などで分散させることで、全体の税負担を軽減する構造がつくれる点も魅力です。

また、絵画などの美術品は資産価値の維持が期待でき、インフレ対策や資産の分散手段としても有効です。そのため、税対策だけでなく、資産保全の観点からも富裕層にとって合理的な選択となっています。

中小企業オーナー・個人事業主

中小企業の経営者や個人事業主も、絵画を業務に関連づけて購入することで、経費として処理することが可能です。例えば、オフィスの応接室やクリニックの待合室に飾る絵画であれば、事業用資産として認められ、減価償却や少額資産の特例によって節税効果を得られます。

ただし、自宅に飾るなど私的利用に該当する場合は経費として認められません。あくまで「業務上の必要性」があるかどうかが判断基準となるため、設置場所や用途を明確にし、税務署にも説明できるようにしておくことが重要です。

絵画の購入で節税が可能な理由は?

絵画の購入が節税に有効とされるのは、それが税務上「減価償却資産」として認められ、取得費用を経費として計上できる仕組みにあるためです。事業に供する目的で絵画を購入した場合、その費用を数年に分けて損金処理することで、法人税や所得税の負担を軽減できます。ここでは、制度的根拠と会計処理について解説します。

事業に使う絵画は減価償却資産として経費にできる

税法上、事業のために取得された絵画は、一定の条件を満たせば減価償却資産として扱われます。2015年の税制改正以降、取得価額が100万円未満の美術品は原則として減価償却の対象とされるようになりました。これにより、たとえば80万円の絵画をオフィスに飾ることで、固定資産として計上し、法定耐用年数に応じた減価償却費を経費にすることが可能です。その結果、事業年度ごとの課税所得を圧縮でき、法人税や所得税の節税効果が生まれます。

減価償却により購入費用を分割して損金処理できる

減価償却とは、長期にわたって使用される資産の取得費用を、耐用年数に応じて毎年一定額ずつ経費にする会計処理です。絵画の場合、用途が「室内装飾用」であれば、国税庁の定める法定耐用年数は8年とされており、たとえば80万円の作品であれば年10万円ずつを損金算入することになります。こうして利益を計画的に圧縮することで、各年度の税負担を抑えることができます。
絵画の耐用年数は一般的には8年ですが、材質や用途によって異なることに留意が必要です。

絵画を活用した節税方法は?

絵画を節税目的で購入する場合、その取得価額に応じて適用される会計処理や節税スキームが異なります。安価な作品であれば即時に経費化できる一方、高額な美術品は原則として経費計上ができません。以下では、取得価額ごとに区分された節税方法とポイントを解説します。

【10万円未満の絵画】「消耗品費」として即時に全額経費化できる

1点あたりの取得価格が10万円未満の絵画は、「消耗品費」として購入年度に全額を損金算入できます。これは税法上、使用可能期間が1年未満または取得価額が10万円未満の資産については消耗品として取り扱えるという規定に基づくものです。

オフィスに飾る5万円の版画を購入した場合、その全額を当期の経費として処理できるため、即座に節税効果が得られます。また、複数の絵画を同時に購入しても、1点あたりが10万円未満であれば、それぞれを消耗品として計上することが可能です。

【10万円以上20万円未満の絵画】「一括償却資産」で3年均等償却

取得価額が10万円以上20万円未満の場合は、「一括償却資産」として3年で均等に償却する方法が選択できます。これは、資産ごとに法定耐用年数を用いる通常の減価償却と異なり、取得時期にかかわらず3年間で毎年1/3ずつを費用として計上できる制度です。

15万円の絵画であれば、毎年5万円を3年間にわたり経費化できます。さらに一括償却資産は、償却資産税の課税対象とならないメリットもあります。なお、青色申告をしている中小企業者等であれば、次の項で紹介する「少額減価償却資産の特例」を選択し、取得年に全額を損金算入することも可能です。

【30万円未満の絵画】「少額減価償却資産の特例」で即時償却可能

30万円未満の美術品であれば、青色申告をしている中小企業者等に限り「少額減価償却資産の特例」が適用され、取得年度に全額を一括で経費にできます。この制度では、1点30万円未満の減価償却資産について、年間300万円までの範囲で一括損金算入が認められています。

資本金1億円以下の会社が29万5,000円の絵画を10点購入すれば、合計295万円をその年の損金として処理できるということです。この制度は年度末の利益調整にも有効で、決算間近に絵画を購入して節税を行う戦略にも使えます。ただし、特例の利用には中小企業者であること、青色申告をしていること、従業員数が500人以下であることなどの条件があります。また、この特例には期限(2025年3月末まで)もあるため、今後の延長状況にも注意が必要です。

【30万円以上100万円未満の絵画】「通常の減価償却」で計画的に節税

取得価額が30万円以上100万円未満の絵画は、「通常の減価償却資産」として耐用年数に応じて段階的に経費化します。絵画の法定耐用年数は原則として8年とされており、50万円の絵画であれば、年間約6万2,500円ずつを8年間にわたり経費計上することになります。

法人の場合、定率法を選択すれば初年度に多めの償却費を計上する「加速償却」も可能ですが、基本的には長期的かつ安定的に節税効果を得るスタイルとなります。また、絵画以外の美術品(たとえば金属製の彫刻など)は法定耐用年数が異なるため、資産の種類ごとに確認が必要です。

【100万円以上の美術品】原則として経費計上不可

1点100万円を超える絵画や美術品は、原則として減価償却の対象外となり、経費として計上できません。これは、税法上「時の経過によって価値が減少しない資産」とみなされるためであり、歴史的価値のある骨董品や保存状態が良好な高額作品などは、損金処理の対象にならないとされています。

ただし、例外として「時の経過により価値が減少することが明らか」なケースでは、減価償却が認められることがあります。たとえば、不特定多数が利用する施設に恒久的に設置され、移動が困難で再販売の見込みがない作品などがこれに該当します。とはいえ、この判断は非常に厳格であり、税務署に説明責任を果たす必要があるため、一般的には「100万円超の絵画は経費にできない」と考えておくのが無難です。

少額減価償却資産の特例の適用期限は?

中小企業者等が30万円未満の資産を取得した場合に、取得年度に全額損金算入できる「少額減価償却資産の特例」は、中小企業にとって即効性の高い節税手段です。ただしこの制度には適用期限があり、令和8年3月31日(2025年度末)までに取得した資産が対象となります。制度終了後は同様の即時償却ができなくなる可能性があり、計画的な活用が求められます。

特例の適用期限は令和8年3月31日まで

租税特別措置法第67条の5および国税庁タックスアンサーNo.5408では、この特例の期限が令和8年3月31日までであることが明示されています。この特例は、1点30万円未満かつ年間合計300万円までの資産を、その年度に一括して経費化できる制度です。適用期限を過ぎると、同じ資産でも通常の減価償却を行う必要があり、毎年少しずつしか費用計上できなくなります。

制度終了を見据えた早期活用が重要

この特例は過去にも延長されてきましたが、2026年以降の延長は未定です。絵画などの美術品を節税目的で取得する場合は、制度の有効期間内に実行することが望ましいでしょう。期末直前の取得でも令和8年3月31日までに取得し、事業の用に供した資産については、要件を満たせば当該事業年度に全額損金算入の特例適用が可能ですが、期限を超えると同じ処理はできなくなるリスクがあります。中小企業にとっては、特例の期限を意識し、早めに購入・計画することが節税戦略上不可欠です。

参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁

絵画を節税目的で購入する際の注意点は?

絵画を節税に活用する場合、税務上の要件と資金計画、さらには維持・管理のコストやリスクについて慎重に検討する必要があります。節税効果だけに目を向けて購入すると、経費否認や財務悪化を招くおそれがあります。

事業に関連する用途でなければ経費として認められない

絵画を経費計上するためには、「事業の用に供していること」が大前提です。たとえば、オフィスの応接室や受付など業務に関連する場所に飾っていれば、経費として認められる可能性があります。一方、経営者の自宅や個人的な空間に飾っている場合は、私的利用とみなされ、損金算入は否認されるリスクが高まります。

また、会社の業種と関係の薄い高額な絵画を購入した場合にも、税務署から業務関連性の説明を求められることがあります。領収書や設置写真、社内利用の目的を説明する資料を準備しておくことが重要です。

節税効果だけを狙って無理に購入すると逆効果になる

経費になるとはいえ、絵画の購入には現金支出が伴います。たとえば、100万円の絵画を購入して30万円の法人税が節税できたとしても、差し引き70万円のキャッシュは失われます。利益を減らす効果はあっても、現金が減っては事業運営に支障をきたす可能性があります。

また、節税目的が過度と判断されれば、税務調査で否認されるリスクもあります。過度な節税志向や実態の伴わない購入は、結果として損失となるおそれがあるため、資金繰りや本業への影響を十分に考慮したうえで判断することが必要です。

固定資産税(償却資産税)の負担にも注意が必要

絵画を減価償却資産として計上すると、原則として毎年1.4%の固定資産税が課税されます。たとえ少額減価償却資産の特例で即時償却した場合でも、償却資産税の対象になる点に注意が必要です。

課税標準額が150万円未満であれば非課税となりますが、美術品を複数購入してこのラインを超えると、翌年度以降の維持コストが発生します。税務処理だけでなく、固定資産税の申告義務も忘れずに対応する必要があります。

美術品そのものの価値変動や管理コストにも配慮する

アート作品は市場での評価が変動するため、購入時よりも価値が下がることがあります。また、偽物のリスクや、湿度管理・保険料といった維持コストも発生します。これらを無視して購入すると、節税どころか損失につながるおそれがあります。

そのため、絵画を購入する際は、税務面の効果だけでなく、将来の価値や保管環境、専門家の意見も踏まえて慎重に判断することが重要です。節税はあくまでも付随的な効果として捉える姿勢が求められます。

絵画の活用で賢く節税しよう

絵画の購入による節税は、税法の優遇措置を正しく活用すれば高い効果を発揮します。本文で解説したように、美術品を事業に用いることで減価償却費として経費計上でき、課税所得の圧縮につながります。一方で、節税メリットばかりを追求せず、税務上の要件遵守や自社の資金状況を踏まえた計画的な活用が重要です。アートの持つ芸術的価値を楽しみつつ、正しい知識と戦略に基づいて賢く節税対策を行いましょう。


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