• 更新日 : 2025年10月21日

本店移転の法人登記とは?手続きの流れ・費用・必要書類を解説

会社の本店移転は、事業の拡大やブランディングの向上、あるいはコスト削減などを目的に行われます。そして、本店を移転した際には、法律で定められた本店移転登記の手続きが不可欠です。この手続きは、移転先が現在の法務局の「管轄内」か「管轄外」かで手順や費用が異なります。

この記事では、本店移転の法人登記についてケース別の詳しい手順から必要書類、登記完了後に必要な行政手続きまでをわかりやすく解説します。

本店移転の法人登記とは?

本店移転登記とは、会社の公式な住所変更を法務局の登記記録に反映させるための手続きです。これは、会社の登記情報を常に最新の状態に保ち、誰でもその情報を確認できるようにするために会社法で定められた義務といえます。

管轄内移転と管轄外移転の違い

本店移転の登記手続きで最初に確認すべきなのは、移転先が現在の本店所在地を管轄する法務局と同じか違うかです。これを管轄内移転、管轄外移転と呼び、手続きの仕方や費用が異なります。

項目管轄内移転管轄外移転
定義同一の登記所の管轄区域内での移転

(例:東京都渋谷区 → 東京都渋谷区)

異なる登記所の管轄区域への移転

(例:東京都渋谷区 → 神奈川県横浜市)

登録免許税3万円6万円 (旧本店・新本店で各3万円)
申請先1ヶ所 (管轄の法務局)書面:移転前の登記所へ旧・新あて申請書を2通まとめて提出/オンライン:旧・新を同時申請(連件)
印鑑カードそのまま継続して利用できる新しいものを新所在地の法務局で作り直す

たとえば、同じ東京都内でも市区町村が異なれば法務局の管轄が変わる場合があります。手続きを始める前に、必ず法務局のウェブサイトで新旧所在地の管轄を確認しましょう。

参照:管轄のご案内|法務局

いつまでに移転登記を申請すべき?

本店移転の登記は、実際に本店を移転した日から2週間以内に申請しなくてはなりません。 ここでいう「移転日」とは、実際に本店所在地が新住所として業務を開始した日を指します。これは通常、社内で決定した正式な移転実施日であり、登記簿上もその日付が記録されます。期限を過ぎてしまうと登記懈怠(とうきけたい)となり、代表者に100万円以下の過料が科されるおそれがあるため、迅速な手続きが求められます。

本店移転の法人登記の流れは?

本店移転登記の手順は、まず社内で移転を決議し、必要書類を準備するという流れが基本です。ただし、準備する書類と費用は、「管轄内」か「管轄外」かで異なります。

STEP1:社内での移転決議(株主総会など)

まず、本店移転について、会社として正式な意思決定を行います。 手続きは、会社の定款に本店所在地がどう記載されているかによって変わります。

  • 定款変更が不要な場合:定款に「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。」とだけ記載があり、渋谷区内で移転する場合などです。この場合は、取締役会(取締役会がない会社では取締役の過半数の一致)の決議で移転先住所と移転日を決定します。
  • 定款変更が必要な場合:定款に市区町村名まで記載されており、渋谷区から新宿区への移転など、記載された行政区を超えて移転するケースです。この場合は、株主総会の特別決議で定款変更を行う必要があります。

いずれの場合も、決定内容を証明する株主総会議事録や取締役会議事録を作成しなくてはなりません。

STEP2:登記申請書と添付書類の作成・準備

次に、法務局に提出するための書類一式を作成・準備します。中心となるのは本店移転登記申請書です。これに加えて、STEP1で作成した議事録など、移転を証明する書類を揃えます。管轄外移転の場合に、これまで新しい法務局に印鑑届書が必要でしたが2025年4月21日以降は不要になりました。ただし、印鑑カードは管轄外移転では引き継がれないため、移転後に新所在地の法務局で新たに交付申請が必要です。

STEP3:法務局への登記申請

書類がすべて揃ったら、法務局へ申請します。 申請先は、移転前の本店所在地を管轄する法務局です。管轄外移転の場合でも、旧所在地の法務局に、旧新両方の法務局へ提出する申請書2通をまとめて提出します。申請後、登記が完了するまでの期間は、1週間から2週間程度が目安です。なお、移転日から2週間以内に登記申請を行う必要があります(会社法915条)。

本店移転登記の必要書類と費用

本店移転登記で準備する書類と費用は、「管轄内」か「管轄外」かで異なります。ここでは、それぞれのケースで必要になる主な書類と、登録免許税について解説します。

「管轄内」移転の場合

同じ法務局の管轄内で移転する場合の手続きです。登録免許税は3万円です。主な必要書類は以下のとおりです。

  • 本店移転登記申請書
  • 株主総会議事録:定款変更が必要な場合
  • 取締役会議事録(または取締役の過半数の一致を証する書面)
  • 委任状:司法書士に依頼する場合

「管轄外」移転の場合

異なる法務局の管轄へ移転する場合の手続きです。 登録免許税は、旧所在地分と新所在地分でそれぞれ3万円ずつ、合計6万円かかります。主な必要書類は、以下のものが必要になります。

  • 本店移転登記申請書(2通):旧法務局用と新法務局用を作成
  • 株主総会議事録:定款変更が必要な場合
  • 取締役会議事録(または取締役の過半数の一致を証する書面)
  • 委任状:司法書士に依頼する場合

なお、印鑑届書は、2025年4月21日以降は不要(管轄外移転でも提出不要)になりました。ただし、印鑑カードは引継ぎ不可のため、移転登記完了後に新所在地の登記所で印鑑カードの交付申請が必要です。

本店移転登記申請書の書き方

本店移転登記申請書は、法務局のウェブサイトから書式をダウンロードできます。記載例を参考に、商号や会社法人等番号、新しい本店所在地などを正確に記入します。登録免許税額を記載し、相当額の収入印紙を貼り付けます。

詳しい申請書の書き方については、こちらの記事を参考にするとよいでしょう。

参照:商業・法人登記の申請書様式|法務省

本店移転登記の申請方法とは?

書類がすべて揃ったら、法務局へ申請します。申請には、法務局の窓口へ持参する方法、郵送する方法、そしてオンラインで申請する方法の3つがあります。それぞれにメリットや注意点があるため、ご自身の状況に合った方法を選ぶとよいでしょう。

法務局の窓口で申請する

管轄の法務局へ直接書類を持参する方法です。作成した書類一式と登録免許税額の収入印紙を、旧所在地の管轄法務局の窓口に直接提出します。

担当者に直接書類を渡せるため、軽微な不備であればその場で訂正できる場合があります。ただし、法務局の開庁時間は平日の日中に限られるため、時間を確保する必要があります。

法務局に郵送で申請する

本店移転に関する書類一式を管轄の法務局へ郵送する方法です。法務局へ出向く手間を省けるのがメリットといえるでしょう。郵送の際は、配達記録が残る書留郵便などを利用するのが安心です。申請日が書類の到着日となる点には注意しましょう。

参照:商業・法人登記の郵送申請について|法務省

オンラインで申請する(電子申請)

政府の「登記・供託オンライン申請システム」を利用して、インターネット経由で申請する方法です。法務局へ行く手間を省けます。利用時間は午前8時30分から午後9時までとなり、利用者登録やICカードリーダライタの準備、専用ソフトのインストールなど、事前の環境設定が必要になります。ただ、一度設定してしまえば、今後のさまざまな登記手続きでも利用できるため、利用頻度が高い場合は慣れておくと便利でしょう。

オンライン申請の基本的な手順
  1. 登記・供託オンライン申請システムに利用者登録し、パソコンに申請用総合ソフトをインストールする。
  2. 申請用総合ソフトのフォーマットに必要事項を入力し、申請書情報を作成する。
  3. 作成した申請書情報に、電子署名を付与する。
  4. 申請書情報を、管轄の法務局へ送信する。
  5. インターネットバンキングなどで登録免許税を電子納付する。

参照:株式会社の本店移転の登記をしたい方(オンライン申請)|法務局
参照:登記・供託オンライン申請システム

本店移転登記は自分でできる?

本店移転登記はご自身で行うことも、専門家である司法書士に依頼することもできます。それぞれにメリット・デメリットがあるため、費用、時間、正確性の3つの観点から比較し、どちらが自社に合っているかを判断しましょう。

自分で登記するメリット・デメリット

ご自身で手続きを行う最大のメリットは、司法書士への報酬がかからないため、費用を安く抑えられる点です。一方で、書類の作成や法務局とのやり取りに多くの時間を要するほか、書類に不備があると登記が遅れるリスクもあります。とくに、定款変更が必要な場合や管轄外移転は手続きが複雑になるため、注意が必要です。

司法書士に依頼するメリットと報酬相場

司法書士に依頼する最大のメリットは、時間と手間を大幅に削減でき、正確な手続きが保証される点です。経営者は事業に集中できます。報酬の相場は、管轄内移転で3万円~5万円程度、管轄外移転で5万円~8万円程度が目安です。この報酬に、登録免許税などの実費が加わります。

本店移転登記後に必要な行政手続き一覧

本店移転登記が完了しても、税務署や年金事務所など、さまざまな行政機関へも住所変更の届出が必要です。これらの手続きを怠ると、重要な通知が届かないなどの不利益につながる可能性があります。

税務署への届出

法人税消費税などの国税に関する手続きのため、税務署への届出が必要です。

「異動届出書」は、移転前の納税地を所轄する税務署長に速やかに提出します。「移転前と移転後の両方へ提出」は不要です。

給与支払事務を行っている場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を移転の日から1か月以内に提出します。提出先は原則、移転前の事務所等の所在地の所轄税務署長です。

インボイス(適格請求書)の登録情報(本店所在地・名称など)に変更が出た場合は、原則「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」を提出します。ただし、法人の本店所在地・名称の変更を「異動届出書」で提出した場合は、変更届出書の提出は不要とされています。

提出書類:①異動届出書、②給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

提出先:①②移転前の所在地を管轄する税務署

提出期限:①移転後速やかに、②移転の日から1ヶ月以内

参照:C1-8 異動事項に関する届出|国税庁

都道府県税事務所・市町村役場への届出

法人住民税・事業税等に係る「法人異動届」等の提出が必要です。提出先・様式・期限は自治体ごとに異なり、自治体によっては旧・新の双方への提出を求める場合と、新所在地のみで足りる場合があります(例:東京23区内は都税事務所で取り扱い、区役所への提出は不要)。事前に移転先・移転前双方の自治体サイトで指示を確認してください。

提出書類:法人異動届(名称は自治体による)

提出先:

  • 都内⇄都内の移転:都税事務所(所管の都税事務所を確認)
  • 県外・市外への移転:旧・新の各自治体の指示に従う(双方提出の運用あり)

提出期限:移転後速やかに(自治体により異なる)

年金事務所への届出(社会保険)

社会保険の手続きのため、移転後の所在地を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地・名称変更(訂正)届」を提出します。

提出書類:健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地・名称変更(訂正)届

提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所(管轄内/管轄外で案内が分かれます)

提出期限:事実発生から5日以内(管轄内・管轄外いずれも)

参照:健康保険・厚生年金保険 適用事業所 所在地・名称変更(訂正)届|日本年金機構

労働基準監督署・ハローワークへの届出(労働保険)

従業員を雇用している場合は、労働保険の手続きも必要です。労働基準監督署とハローワークの両方に「労働保険名称、所在地等変更届」を提出します。

提出書類

  • ①労働基準監督署:労働保険名称、所在地等変更届
  • ②ハローワーク:雇用保険事業主事業所各種変更届

提出先:①所轄の労働基準監督署、②事業所所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)

提出期限:変更の翌日から起算して10日以内

添付書類:登記事項証明書(コピー)など

参照:労働保険関係成立(変更)届・名称、所在地等変更届|厚生労働省

その他の手続き

上記以外にも、銀行、郵便局、許認可を受けている官公署、電話やインターネット回線の契約先など、取引のあるすべての関係各所への住所変更連絡が必要です。

  • 銀行、信用金庫などの金融機関
  • 郵便局(転送届)
  • 許認可を受けている官公署(建設業許可、古物商許可など)
  • 電話、インターネット、水道光熱費などの契約先
  • 顧客、仕入先、外注先などの取引先

本店移転の法人登記は管轄の確認と期限内の申請が重要

法人の本店移転登記をスムーズに進めるには、まず移転先が現在の法務局の「管轄内」か「管轄外」かを確認します。それによって、手続きや費用が変わります。そして、どちらのケースであっても、移転日から2週間以内に登記申請を完了させなくてはなりません。

この記事で解説した手順や必要書類、そして登記後に必要な行政手続きのチェックリストを参考に、計画的に手続きを進め、円滑な事業運営につなげましょう。


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