- 更新日 : 2025年8月28日
一人会社のリスクは?回避策も解説
一人会社(ひとり法人)の設立を検討している方にとって、事前にリスクを把握し適切な対策を講じることは成功への重要な鍵となります。一人会社には経営の自由度が高いというメリットがある一方で、責任の集中、資金調達の困難さ、事業継続を阻む脆弱性といった特有のリスクが存在します。
この記事では、一人会社が直面する可能性のあるリスクや、それぞれのリスクに対する回避策を解説します。
目次
一人会社のリスク
一人会社特有のリスクを財務面、経営面、法的責任の観点から詳しく解説します。
経営責任の集中リスク
一人会社では、すべての経営責任が代表者一人に集中するため、意思決定の迅速性がメリットとなる反面、リスク管理上の課題も生じます。
意思決定に関するリスク
一人会社では経営判断をすべて一人で行うため、客観的な視点を欠いた判断をしてしまう危険性があります。特に重要な投資判断や事業方針の決定において、第三者からの助言や検証を受ける機会が限られるため、主観的な判断に偏りがちです。
また、専門知識が不足している分野での判断を迫られる場面も多く、法務、税務、財務などの専門領域で不適切な判断をしてしまうリスクが高まります。これらの判断ミスは、後に大きな損失や法的問題を引き起こす可能性があります。
さらに、代表者の健康状態や精神状態が経営判断に直接影響するため、体調不良やストレスが事業運営に深刻な影響を与える場合があります。
業務負荷の集中
一人会社では営業、経理、総務、人事など、あらゆる業務を一人でこなす必要があります。この業務負荷の集中は、以下のようなリスクを生み出します。
業務の質の低下は避けられない問題の一つです。すべての業務に等しく時間と労力を割くことは現実的に困難で、重要な業務に集中するあまり、他の必要な業務が疎かになる可能性があります。
取引先との関係、業務のノウハウ、重要な情報などがすべて代表者個人に依存するため、何らかの理由で代表者が業務を継続できなくなった場合、事業全体が停止するリスクがあります。
財務・資金調達リスク
一人会社は資金調達において構造的な制約を抱えており、これが事業運営上の大きなリスクとなる場合があります。
信用力の限界
金融機関からの融資において、一人会社は組織としての信用力に限界があります。従業員数、売上規模、事業の安定性などの評価項目で、大企業や中小企業と比較して不利な状況に置かれることが多くなります。
特に創業間もない時期には実績が乏しく、事業計画の実現可能性について金融機関からの信頼を得ることが困難です。また、担保となる資産が限られている場合も多く、無担保での融資は高い金利設定となったり、融資自体を断られたりする場合があります。
代表者個人の信用情報も会社の信用に直結するため、個人の信用情報履歴が会社の資金調達に大きく影響します。
資金繰りの脆弱性
一人会社では売上の変動が直接的に資金繰りに影響する場合もあるため、キャッシュフロー管理が特に重要になります。大口取引先からの急な発注キャンセルや入金遅延などが発生した場合、運転資金不足に陥るリスクが高くなります。
また、代表者個人の生活費も会社の資金から役員報酬として支払うため、事業資金と生活資金の両方を同時に確保する必要があります。売上が低迷した場合、役員報酬を削減せざるを得ず、代表者の生活にも直接的な影響が及びます。
設備投資や事業拡大のための資金も、内部留保に依存する部分が大きく、大規模な投資を行う際には資金調達の制約が事業成長の阻害要因となる可能性があります。
事業継続性リスク
一人会社では事業の継続性について、複数の角度からリスクを検討する必要があります。
代表者依存のリスク
事業運営のすべてが代表者一人に依存しているため、代表者に何らかの問題が発生した場合の事業継続リスクは深刻です。
病気や怪我による長期間の業務不能は、一人会社にとって致命的な問題となります。入院や療養により業務を継続できない期間が発生すると、取引先との契約履行ができなくなり、信頼関係の悪化や契約解除につながる可能性があります。
また、代表者の突然の死亡や重篤な疾患により業務継続が不可能になった場合、事業の清算や承継について事前に準備していなければ、関係者に大きな迷惑をかけることになります。
市場環境変化への対応力
一人会社では市場環境の変化に対する対応力に限界があります。新しい技術の導入、法規制の変更、競合他社の参入など、外部環境の変化に迅速に対応するための人的リソースや資金的余裕が不足しがちです。
特定の取引先や特定の商品・サービスに依存度が高い場合、その取引先の方針変更や市場ニーズの変化が事業に与える影響は甚大になります。リスク分散の観点から複数の収益源を確保することが重要ですが、一人会社では人的制約により多角化が困難な場合があります。
法的責任とコンプライアンスリスク
一人会社であっても法人として様々な法的義務を負うため、コンプライアンス体制の整備が重要になります。
法令遵守の体制不備
一人会社では法務部門が存在しないため、各種法令の把握と遵守について代表者が全責任を負うことになります。労働法、会社法、税法、業界特有の規制など、事業に関連する法令は多岐にわたり、これらすべてを適切に把握し遵守することは容易ではありません。
法令違反が発生した場合、会社としての処罰に加えて、代表者個人への刑事責任や民事責任が問われる可能性があります。
契約管理のリスク
取引先との契約書作成や契約条件の交渉についても、法的知識が不足していると不利な条件で契約を締結してしまったり、重要な条項を見落としてしまったりするリスクがあります。
特に損害賠償責任に関する条項、知的財産権の取り扱い、機密保持義務などについて適切に規定されていない場合、後にトラブルが発生した際に大きな損失を被る可能性があります。
一人会社のリスクを回避する方法
前述したリスクに対する具体的な対策と予防策について、実践的な方法を解説します。
経営体制の強化策
一人会社であっても、適切な経営体制を構築することでリスクを軽減できます。
外部専門家との連携強化
税理士、社会保険労務士、弁護士、経営コンサルタントなどの外部専門家と継続的な関係を築くことで、専門知識の不足を補完できます。定期的な相談体制を整備し、重要な判断を行う前には必ず専門家の意見を求める仕組みを作ることが重要です。
特に税理士との顧問契約は、税務申告業務だけでなく、資金繰り相談や経営指標の分析などでも重要な役割を果たします。月次での業績報告と相談の機会を設けることで、問題の早期発見と対策立案が可能になります。
また、業界団体への加入や経営者向けの勉強会への参加を通じて、同業他社の経営者とのネットワークを構築することも有効です。情報交換や相互支援の関係を築くことで、孤立しがちな一人会社の経営において貴重な相談相手を確保できます。
業務システムの整備
業務の標準化とシステム化を進めることで、代表者の業務負荷を軽減し、業務品質の安定化を図ることができます。
顧客管理システム(CRM)や会計ソフト、業務管理ツールなどのITシステムを活用することで、定型業務の自動化と効率化が可能になります。これにより、代表者はより重要度の高い業務に集中できるようになります。
業務マニュアルの作成も重要な対策の一つです。現在は一人で行っている業務であっても、将来的な従業員雇用や外部委託、事業承継に備えて、業務プロセスを文書化しておくことが必要です。
財務リスク管理の強化
健全な財務体質の構築と適切なリスク管理により、資金繰りの安定化を図ります。
複数の資金調達手段の確保
金融機関からの融資だけでなく、複数の資金調達手段を確保しておくことが重要です。メインバンクとの関係構築に加えて、サブバンクとの取引も開始し、万が一の際の選択肢を増やしておきます。
日本政策金融公庫や信用保証協会の制度融資なども活用し、創業期や成長期に応じた適切な資金調達手段を検討します。また、クラウドファンディングやビジネスローンなど、新しい資金調達方法についても情報収集を行い、必要に応じて活用できるよう準備しておきます。
取引先との支払い条件についても見直しを行い、売掛金の回収期間短縮や前受金制度の導入など、キャッシュフローの改善につながる条件交渉を積極的に行います。
緊急時資金の確保
事業運営において予期しない出費や売上減少に備えて、緊急時資金を確保しておくことが必要です。一般的には、月商の3か月から6か月分の資金を緊急時のために準備しておくことが推奨されます。
この緊急時資金は、通常の運転資金とは別に管理し、本当に必要な時以外は使用しないルールを設けます。定期預金や短期国債など、元本保証のある金融商品で運用し、必要時にすぐに現金化できる状態で保有します。
また、売上の季節変動や取引先の支払いサイクルを分析し、資金需要の予測精度を向上させることで、より効率的な資金管理が可能になります。
事業継続計画(BCP)の策定
代表者に依存しない事業継続の仕組みを構築し、様々なリスクに対応できる体制を整備します。
代替要員の確保
一人会社であっても、緊急時に業務を代行できる体制を整備しておくことが重要です。家族や信頼できる知人に基本的な業務内容を伝えておき、緊急時の連絡先や重要な取引先の情報を共有しておきます。
外部の専門業者との契約により、緊急時の業務代行サービスを利用できる体制を整えることも有効です。特に経理業務や顧客対応については、外部委託先を事前に確保し、必要時にすぐに対応してもらえるよう準備しておきます。
重要情報の整理と共有
事業継続に必要な重要情報を整理し、緊急時にアクセスできる状態で保管しておくことが必要です。取引先の連絡先、契約書の所在、銀行口座の情報、各種パスワードなどを一元管理し、信頼できる人物と共有しておきます。
クラウドストレージを活用して重要書類をデジタル化し、場所を選ばずにアクセスできる環境を整備することも重要です。ただし、セキュリティ面での配慮も必要で、適切なアクセス権限の設定と定期的なパスワード変更を行います。
保険によるリスクヘッジ
適切な保険商品の活用により、様々なリスクに対する経済的な備えを行います。
経営者向け保険の活用
代表者の死亡や高度障害に備えて、生命保険や所得補償保険への加入を検討します。事業資金の確保、家族の生活保障、事業承継資金の準備など、目的に応じて適切な保険商品を選択します。
また、経営者の病気や怪我により業務を継続できなくなった場合の所得を補償する就業不能保険も重要な選択肢です。入院や自宅療養期間中の生活費や事業の固定費をカバーできる保障内容を設定します。
事業リスクに対する保険
事業運営に関連するリスクについても、適切な保険でカバーすることが重要です。損害賠償責任保険により、業務上のミスや製品の欠陥により第三者に損害を与えた場合の賠償責任をカバーします。
火災保険や地震保険により、事務所や設備の物理的な損害に備えます。近年ではサイバー攻撃による情報漏洩や業務停止のリスクも高まっているため、サイバー保険の加入も検討する価値があります。
株式会社や合同会社が向いているケース
事業内容や将来計画に応じて、最適な会社形態を選択することで特定のリスクを軽減できます。
株式会社が適している場合
株式会社形態が一人会社のリスク軽減に効果的なケースについて説明します。
対外的信用力が重要な事業
取引先との契約において信用力が重視される業種では、株式会社形態を選択することでリスクを軽減できます。建設業、システム開発業、コンサルティング業などでは、取引先企業が株式会社以外との取引を制限している場合があります。
また、金融機関からの融資や補助金の申請においても、株式会社の方が有利に扱われる場合があります。事業規模の拡大や設備投資を積極的に行う予定がある場合は、資金調達の選択肢を広げるために株式会社を選択することが効果的です。
将来的な組織拡大を計画している場合
従業員の雇用や役員の追加を予定している場合、株式会社の方が組織運営において柔軟性があります。取締役会の設置や監査役の選任など、ガバナンス体制の整備により、一人会社特有の経営責任集中リスクを軽減できます。
将来的に外部投資家からの出資を受ける可能性がある場合も、株式会社の方が適しています。株式の発行による資金調達や、ストックオプション制度による人材確保などの選択肢が広がります。
事業承継を視野に入れている場合
家族や第三者への事業承継を計画している場合、株式会社の方が承継手続きが明確です。株式の譲渡により所有権の移転が可能で、段階的な承継計画を立てやすくなります。
また、事業価値の評価や承継税制の活用においても、株式会社の方が制度が充実しています。
合同会社が適している場合
合同会社形態が一人会社のリスク管理に効果的なケースについて解説します。
コスト重視で小規模事業を予定している場合
設立費用や維持費用を抑えたい場合は、合同会社が適しています。設立時の登録免許税が6万円(株式会社は15万円)で、公証人による定款認証も不要なため、初期費用を大幅に削減できます。
決算公告の義務がないため、官報掲載費用(年間約6万円)も不要で、継続的な維持費用も抑制できます。小規模な事業で利益率を重視する場合、これらのコスト削減効果は大きなメリットとなります。
柔軟な利益配分を希望する場合
合同会社では出資比率に関係なく、自由に利益配分を決めることができます。将来的に複数の出資者を迎える予定があり、出資額と貢献度に応じて柔軟な配分を行いたい場合に適しています。
また、配当に関する手続きも簡素で、社員間の合意により随時配当を実施できます。株式会社のような株主総会決議は不要で、機動的な資金配分が可能です。
意思決定の迅速性を重視する場合
合同会社では株主総会や取締役会の開催義務がないため、迅速な意思決定が可能です。この迅速性は大きなメリットとなり、市場環境の変化に素早く対応できます。
将来計画との整合性
事業の将来計画とリスク管理を総合的に考慮して、最適な会社形態を選択することが重要です。初期段階では合同会社を選択し、事業が軌道に乗った段階で株式会社に組織変更するという段階的なアプローチも有効な選択肢です。
成功する一人会社のリスク管理戦略
一人会社の経営においてリスク管理は生命線となります。適切なリスク認識と計画的な対策により、一人会社特有の脆弱性を克服し、持続的な成長を実現することが可能です。
重要なのは、リスクを恐れて行動を制限するのではなく、リスクを正しく理解し適切な対策を講じることです。外部専門家との連携、複数の資金調達手段の確保、事業継続計画の策定、適切な保険の活用など、多層的な防御策を構築することで、様々なリスクに対応できる強靭な経営基盤を築けます。
また、株式会社と合同会社の選択についても、目先の費用だけでなく、将来的なリスク管理の観点を含めて総合的に判断することが重要です。事業の性質、成長計画、資金調達の必要性などを総合的に評価し、最適な会社形態を選択してください。
一人会社は確かにリスクを伴いますが、適切な準備と継続的なリスク管理により、これらのリスクを管理可能なレベルに抑制できます。事前の準備と計画的な経営により、一人会社としての成功を実現していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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