- 作成日 : 2025年7月23日
法人の解散登記と清算手続き|必要書類から法務局での流れ、費用まで徹底解説
会社の経営状況の変化、事業承継の課題、あるいは事業目的の達成など、様々な理由で法人の解散や閉鎖を検討されることがあるでしょう。しかし、手続きが複雑で専門的な知識を要するため、「何から始めれば良いのか」「自分で手続きできるのか」といった疑問や不安が尽きないものです。
この記事では、法人の解散およびそれに伴う登記手続きについて分かりやすく解説します。
目次
法人の解散・清算結了・閉鎖の違い
法人の活動停止に関連して「解散」や「閉鎖」という言葉が使われますが、法的な意味合いや登記手続きにおいては明確な違いがあります。
- 解散とは
法人が本来の事業活動を停止し、会社の財産関係を整理する「清算手続き」に入ることを指します。解散しただけでは法人格は消滅しません。この段階で、法務局に「解散の登記」を行う必要があります。登記簿には解散した旨と清算人が登記され、会社は「清算会社」となります。 - 清算結了とは
選任された清算人が、会社の債権取立て、債務弁済、残余財産の分配といった全ての清算事務を完了させることを指します。清算事務が完了し、株主総会で決算報告が承認されると、「清算結了の登記」を法務局に申請します。この清算結了の登記が完了すると、法人格が完全に消滅します。 - 閉鎖とは
清算結了の登記が受理されると、その会社の登記簿は閉鎖されます。これを一般的に「閉鎖登記」と呼ぶことがありますが、正確には「登記記録の閉鎖」です。閉鎖された登記記録は、「閉鎖事項証明書」として過去の情報を確認することができます。
つまり、「解散」は清算手続きの開始を意味し、「清算結了」によって法人格が消滅し、その結果として登記記録が「閉鎖」されるという流れになります。
法人の解散から清算結了の登記手続きまでの流れ
法人の解散から清算結了登記、登記簿の閉鎖に至るまでの一般的な手続きの流れと、それぞれのステップで要する期間の目安は以下の通りです。
- 株主総会での解散決議と清算人選任
株式会社の場合、原則として株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)によって解散を決定し、同時に会社の清算事務を行う清算人を選任します。定款に別段の定めがある場合はそれに従います。 - 解散・清算人の登記申請
解散の日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局に「解散及び清算人選任の登記」を申請します。 - 関係各所への届出
解散登記完了後、速やかに税務署、都道府県税事務所、市区町村役場、年金事務所、ハローワークなどに解散の届出を行います。 - 官報公告および債権者への個別催告
解散後遅滞なく、会社債権者に対し、2ヶ月以上の期間を定めて債権を申し出るよう官報に公告し、かつ、判明している債権者には個別催告を行います。この期間中は原則として債務の弁済はできません。 - 清算人による現務の結了と財産調査、財産目録等の作成・承認
清算人は就任後速やかに会社の財産状況を調査し、財産目録および貸借対照表を作成し、株主総会に提出して承認を得ます。進行中の業務があれば、それを終わらせます。 - 債権の取立て・資産の換価、債務の弁済
債権申出期間が満了したら、清算人は会社の債権を取り立て、資産を売却するなどして現金化し、それをもって会社の債務を弁済します。 - 残余財産の分配
全ての債務を弁済した後に財産が残れば、株主に対し、その有する株式の数に応じて分配します。 - 決算報告書の作成と株主総会での承認
清算事務が全て終了したら、清算人は決算報告書を作成し、株主総会に提出してその承認を受けます。 - 清算結了の登記申請
株主総会での決算報告書の承認の日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局に「清算結了の登記」を申請します。この登記が完了すると法人格は消滅します。
全体の期間としては、債権者保護手続きである官報公告に最低2ヶ月を要するため、スムーズに進んでも解散決議から清算結了まで最低でも2ヶ月半〜3ヶ月程度はかかります。事案によっては、資産の現金化や債務整理に時間がかかり、半年から1年以上かかることもあります。
解散登記・清算人選任登記の法務局での申請方法
解散及び清算人選任の登記申請は、その会社の本店所在地を管轄する法務局に対して行います。 管轄の法務局は、法務局のウェブサイトで確認できますので、事前に調べておきましょう。
支店がある場合は、本店での解散登記完了後、2週間以内に支店の所在地を管轄する法務局にも解散の登記を申請する必要があります。
オンラインでの登記申請も可能ですが、商業登記電子証明書の取得など事前の準備が必要となる場合があります。ご自身の状況に合わせて申請方法を選択してください。
必要書類
解散及び清算人選任の登記申請に通常必要となる書類は以下の通りです。 法務局のウェブサイトで様式や記載例が公開されていますので、参考にしながら準備を進めましょう。
- 株式会社解散及び清算人選任登記申請書
法務局指定の様式を使用します。 法務局のウェブサイトからダウンロード可能です。 - 株主総会議事録
解散及び清算人選任を決議した株主総会の議事録です。 議長および出席取締役、監査役の記名押印(または電子署名)が必要です。 - 定款
会社の最新の定款の写しが必要です。株主総会での決議内容や清算人の資格などを確認するために必要となる場合があります。 - 清算人の就任承諾書
清算人に選任された者の就任承諾の意思を示す書面です。 株主総会議事録の記載を援用できる場合(議事録に被選任者が席上で就任を承諾した旨の記載があり、かつその者が記名押印している場合など)もあります。 個人の実印を押印し、印鑑証明書の添付が必要な場合があります。 - 清算人の印鑑証明書
清算人が個人の場合で、取締役会非設置会社など、会社実印の届出がない場合に必要となることがあります。 発行から3ヶ月以内のものが必要です。 - 委任状
司法書士などの代理人に登記申請を依頼する場合に必要となります。 自分で申請する場合は不要です。 - 株主リスト
株主総会の決議によって登記すべき事項を定める場合など、一定の条件に該当する場合に必要です。変更内容によって必要となることがあります。 - 登録免許税納付用台紙
収入印紙を貼付するための台紙です。 登記申請書と一体になっている場合もあります。登録免許税の金額は以下の通りです。- 解散の登記:30,000円
- 清算人選任の登記:9,000円
- 清算結了の登記:2,000円
事案により追加書類が求められることもあるため、不明な点は事前に法務局の相談窓口や専門家(司法書士など)に確認することをお勧めします。
登記申請書の書き方と注意点
登記申請書は、法務局のウェブサイトで入手できる記載例を熟読し、正確に作成することが極めて重要です。登記すべき事項(解散年月日、登記原因、清算人の氏名・住所など)に誤りや漏れがあると、補正指示を受け、手続きが大幅に遅延する可能性があります。特に、添付する議事録の内容と申請書の記載が一致しているか、押印は正しいかなどを入念に確認しましょう。
法人の解散登記は自分でできる?
解散・清算に関する一連の登記手続きは、ご自身で行うことも、司法書士などの専門家に依頼することも可能です。それぞれのメリット・デメリット、費用感を比較検討し、最適な方法を選びましょう。
自分で解散登記を行うメリット
- 費用を大幅に節約できる
司法書士などへの依頼報酬が不要となり、登録免許税や官報公告費用といった実費のみで手続きを進められます。 - 会社法・登記実務への理解が深まる
自身で書類を作成し、法務局とやり取りする過程で、関連法規や手続きへの理解が格段に深まります。
自分で解散登記を行うデメリット
- 多大な時間と労力がかかる
必要書類の収集・作成、法務局への問い合わせや複数回の訪問など、相当な時間と手間がかかります。本業が忙しい方には大きな負担となります。 - 書類の不備・手戻りのリスクがある
専門知識がない場合、書類の記載漏れや添付書類の不足、法的な要件を満たさない議事録作成などが発生しやすく、法務局からの補正指示により手続きが停滞・長期化するリスクがあります。 - 精神的な負担と責任が生じる
慣れない複雑な手続きを正確に進めるプレッシャーや、万が一誤りがあった場合の責任は全て自身が負うことになります。
司法書士などの専門家に依頼する場合の費用相場
司法書士に解散・清算登記を依頼すると、複雑な書類作成から法務局への申請、関連するアドバイスまで一括して代行してくれます。
費用相場は、司法書士事務所や会社の規模、手続きの複雑さによって異なりますが、解散・清算人選任登記で5万円~10万円程度、清算結了登記まで含めた一式で10万円~20万円程度が一般的な目安となります。事前に複数の事務所に見積もりを依頼し、サービス内容と費用を比較検討すると良いでしょう。
法人の解散・清算手続きにおける注意点
解散登記が完了しても、それで全ての手続きが終了するわけではありません。むしろ、そこからが本格的な清算手続きの始まりです。いくつかの重要なポイントと注意点を押さえておきましょう。
解散後の登記簿謄本の取得方法
解散登記が完了すると、会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書や現在事項全部証明書)には、その旨が明確に記載されます。
この登記簿謄本は、解散後の税務署への各種届出、金融機関での口座名義変更や解約手続き、その他の行政手続きなどで必要不可欠な証明書類となります。取得方法は、全国の法務局窓口での直接請求、郵送請求、または「登記ねっと」を通じたオンライン請求が可能です。
清算人の職務と責任
選任された清算人は、善良なる管理者の注意をもって清算事務を遂行する義務を負います。主な職務は以下の通りです。
清算人はこれらの職務を忠実に行い、その経過を株主総会に報告する責任があります。
官報公告と個別催告の重要性
会社法では、解散した会社に対し、債権者保護のために官報による解散公告を行うことを義務付けています。この公告では、会社が解散した旨と、債権者に対して一定期間内(最低2ヶ月以上)にその債権を申し出るべき旨を記載します。さらに、会社が把握している個別の債権者に対しては、別途、書面などで解散の事実と債権申出の催告をしなければなりません(個別催告)。
これらの手続きを怠ると、後日、公告期間内に申し出なかった債権者から損害賠償請求を受けるリスクが生じたり、最悪の場合、清算結了登記が受理されない可能性もあります。法的に非常に重要な手続きであり、正確な実施が求められます。
税務・社会保険関係の手続きも忘れずに
法人が解散した場合、法務局への登記手続きとは別に、税務署、都道府県税事務所、市町村役場、年金事務所(日本年金機構)、ハローワーク(公共職業安定所)など、関係各所への届出が義務付けられています。
税務署関連では、「解散届(異動届出書)」の提出に加え、解散日までの事業年度の「解散確定申告」、残余財産が確定した事業年度の「清算確定申告」が必要です。これらの申告・納税を怠ると延滞税などのペナルティが発生します。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)や労働保険(雇用保険・労災保険)についても、「適用事業所全喪届」などを提出し、被保険者の資格喪失手続きなどを遅滞なく行う必要があります。これらの手続きは複雑な場合もあるため、社会保険労務士に相談することをお勧めします。
法人の解散登記は専門家への相談も検討しましょう
法人の解散及びそれに伴う一連の登記手続きは、多くのステップと法的な要件、注意点を伴う複雑なプロセスです。特に、解散登記や清算結了登記といった法務局での手続きは、提出すべき書類も多岐にわたり、その内容の正確性が厳しく問われます。ご自身でこれらの手続きを進めることも理論上は可能ですが、多大な時間と労力、専門知識が必要となります。不明な点は早めに専門家に相談し、後悔のないように万全の準備を整えることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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