- 作成日 : 2025年5月1日
社労士に創業支援を依頼できる?メリットや選び方を解説
「企業人材」の専門家である社会保険労務士(以下「社労士」)へ創業支援を依頼すれば、労務人事や資金調達面で手厚いサポートが受けられます。社労士は、独占業務である労働社会保険の申請代行に加え、規程の作成や助成金の申請など、高い専門性が必要な業務を支援できるためです。本記事では、社労士が提供する創業支援の内容やメリット、注意点を解説します。
目次
社労士に創業支援を依頼する経営者は多い
新たに会社を設立する経営者の間で、社労士が提供する「創業支援」サービスのニーズが高まっています。会社設立時に必要な専門性の高い手続きを経営者が行うことは、負担が大きすぎるためです。
<会社設立時に必要な手続きの例>
- 社会保険の加入手続き
- 従業員を採用する際に不可欠な労務面の整備
- 創業時の資金調達に活用できる助成金の申請
従業員を採用すれば、公的保険の申請や労働条件通知書の作成などが求められます。これらを適切に処理するには、最新の関連法令に対する深い理解が欠かせません。
さらに社労士は、雇用や労働環境に関する助成金の専門家として、申請業務をサポートしてくれます。設立間もない企業にとって、創業時に活用できる助成金をスムーズに受けられれば、資金面の不安軽減につながるでしょう。
社労士は、社会保険や労働保険、労働環境の整備といった、他の士業では対応できない労務関連手続きに強みを持っています。労務面のリスクを未然に防ぎ安心して事業運営に集中できるため、社労士による創業支援の需要が高まっているのです。
創業時に社労士に依頼できる業務内容
創業時に社労士へ依頼できる業務内容の中心は「公的保険関連」及び「労務管理」「助成金の申請関連」です。詳しい内容を、以下の5つにまとめました。
- 公的保険の手続き代行
- 労務関連書類の作成代行
- 労務管理の整備支援
- 給与計算手続き
- 助成金の申請支援
それぞれ解説していきます。
1. 公的保険の手続き代行
創業支援における公的保険の手続きとは、主に社会保険と労働保険の加入手続きを指します。
創業にあたり役員報酬が発生する場合には、社会保険への加入が義務付けられます。さらに、従業員を雇用する際には、社会保険に加えて労働保険への加入も必要です。公的保険のプロフェッショナルである社労士は、これらの手続きを代行し、複雑で面倒な書類作成や申請手続きをスムーズに進めます。
会社設立にあたり社労士が申請代行する公的保険には、以下のような種類があります。
<社会保険>
手続き内容 | 内容 | 管轄 |
---|---|---|
健康保険 | 会社で働く従業員とその家族が、病気やケガをした際に医療費の一部を補助する公的な医療保険制度。従業員が1人以上の場合、加入が義務付けられている。 | 年金事務所もしくは健康保険組合 |
厚生年金保険 | 会社で働く従業員が加入する公的年金制度のひとつで、老後の年金や障害・遺族年金を保障する制度。法人において従業員が1人でもいる場合、加入義務が生じる。 |
<労働保険>
手続き内容 | 内容 | 所轄 |
---|---|---|
雇用保険 | 従業員が失業した際や、育児・介護休業を取得した際に、生活を支えるための給付を行う制度。従業員が1人以上いる事業主に加入が義務付けられている。 | ハローワーク |
労災保険 | 業務中や通勤中に発生した事故や病気に対して、治療費や休業補償を支給する制度。従業員が1人以上いる事業主に加入が義務付けられている。 | 労働基準監督署 |
2. 労務関連書類の作成代行
創業に伴い、従業員を雇用する際には、労務に関する届出書類や規程の整備が不可欠です。労働基準法(労基法)をはじめとする各種法令で、作成が必要な届出書類や用意すべき規程が定められているためです。
たとえば、労基法で求められる書類の代表例が「就業規則」です(労基法106条)。就業規則は従業員が常時10名以上となる場合に必須となる規程で、労働条件や社内ルールを明文化し、労務トラブルを未然に防ぐ重要な役割を持ちます。仮に10人未満の企業でも就業規則を作成しておけば、労務管理の透明性を高め、従業員の安心感を高めることにつながるでしょう。
労務関連書類は法要件に適合するよう作成しなければならず、高い専門知識が欠かせません。
社労士に依頼すれば、自社の業務形態に合った就業規則を作成できるだけでなく、労働基準監督署への届け出もスムーズに進められます。創業のタイミングで従業員を雇用する場合に必要な労務関連書類の例を、以下にご紹介します。
書類・帳簿名 | 内容 |
---|---|
労働条件通知書 | 会社が労働者を雇う際に、賃金や労働時間、業務内容などの労働条件を明示するための書類。使用者(雇用主)は労働者に対して、一定の労働条件を「書面または電子的手段」で通知する義務を負う(労基法第15条)。 |
労働者名簿 | 会社が作成し備え付けることを義務付けられている、従業員の基本情報(氏名・生年月日・雇い入れ年月日など)を記録した帳簿(労基法第107条)。 |
賃金台帳 | 企業が労働者に支払う賃金の詳細(労働日数、労働時間数、基本給など)を記録する帳簿(労基法第108条)。 |
出勤簿 | 従業員の出勤・退勤状況を記録する帳簿で、労働時間を適正に管理するため記録・保存が求められる(労基法第109条)。 |
参考:e-Gov 労働基準法第十五条
参考:e-Gov 労働基準法第百七条
参考:e-Gov 労働基準法第百八条
参考:e-Gov 労働基準法第百九条
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
3. 労務管理の整備支援
労務管理とは、従業員の労働にかかわる業務管理全般を意味します。労働条件や労働環境の整備を通じて、従業員が働きやすい職場環境を整えることが目的です。
創業時に社労士へ人事制度や賃金制度の設計を依頼すれば、公正かつ適切な労務管理の基盤を整備できます。労務管理の整備は、従業員のモチベーション向上や離職防止につながるだけでなく、労務トラブルのリスク軽減にもつながります。
創業時に適切な制度を整えれば組織運営がスムーズになり、長期的な企業成長の土台となるでしょう。以下に、労務管理の整備に必要な支援内容の例をご紹介します。
支援内容 | 具体例 |
---|---|
給与体系の構築 | 基本給や賞与、各種手当などを適切に組み合わせ、従業員のモチベーションを高める報酬体系を構築。 |
職務昇給・賞与のルール | 従業員の能力や貢献度を公正に評価し、適切な報酬やキャリアパスを提供する仕組みの構築。 |
職務評価基準の策定 | 等級制度や評価制度、教育制度などを設計し、従業員の能力開発やキャリア形成を支援。 |
4. 給与計算手続き
給与計算業務には、労働基準法や公的保険、税務などの専門知識や実務経験が欠かせません。給与計算手続きでは、従業員の勤怠データをもとに、基本給や残業代、各種手当などを計算し、社会保険料や所得税などを控除した支給額を算出します。加えて、給与明細の発行や給与台帳の作成も毎月必要な業務です。
社労士に給与計算を依頼するメリットは、法令遵守はもちろん、計算ミスや遅延を防ぎ、正確な給与支払いを実現できる点です。給与計算を誤れば従業員とのトラブルを招くリスクがあるため、専門知識を持つ社労士に任せるのが安心といえます。さらに、勤怠管理システムや給与計算ソフトの導入など、バックオフィスの整備に関するアドバイスも受けられます。
5. 助成金の申請支援
国や地方自治体が提供する助成金は、創業期の資金繰りに役立つ重要な資金調達手段です。
助成金は、主に雇用や労働環境に対する問題解決を目的としており、厚生労働省が管轄します。例を挙げると、従業員を雇用する場合に利用できる雇用関係の助成金や、人材育成に関する助成金などが存在します。
助成金の支給を受けるには、あらかじめ定められた要件を満たす必要があり、申請には専門知識や複雑な手続きが必要です。助成金に強い社労士ならば、顧客企業にマッチした助成金を提案し、受給の可能性が高まるようサポートできます。
助成金の情報は頻繁に更新されるため、常に最新の情報を把握している社労士の存在は、経営者にとって心強いサポート役となるでしょう。
社労士に創業支援を依頼するメリット
ここでは、起業時に社労士へ創業支援を依頼するメリットを3つ紹介します。
- 本来の業務に集中できる
- 専門家のアドバイスを受けられる
- アウトソーシングによって費用対効果を上げられる
以下で詳しくみていきましょう。
メリット1. 本来の業務に集中できる
社労士に創業支援を依頼するメリットのひとつは、経営者が本業に専念できる環境を手に入れられる点です。
創業準備から事業が軌道に乗るまでの大事な期間は、事業計画の策定や顧客獲得のための営業活動など、本来優先すべき業務へ集中したいでしょう。
煩雑な労務手続きや専門知識が必要な法対応に時間を取られれば、本来注力すべき業務に支障をきたすかもしれません。社労士へ依頼すれば、労務面を安心して任せられるため、経営者は売上アップや事業拡大に専念できます。
メリット2. 専門家のアドバイスを受けられる
社労士は労働基準法や社会保険制度に精通しており、企業の状況に応じた適切なアドバイスを提供します。また、人事労務に関する情報を常に収集・把握しているため、最新の法令や判例に基づいたアドバイスを提供可能です。
創業期は、労務管理に関するさまざまな問題が発生しやすい時期です。たとえば従業員の労働時間や賃金に関する問題、解雇に伴う労使間のトラブルなどが挙げられます。予期せず発生した労務問題に対し、社労士は専門的なアドバイスを提供しながら適切な解決へ導くでしょう。
労務の専門家である社労士へ常日頃からアドバイスできる環境があれば、経営基盤の安定化に大きく役立ちます。
メリット3. アウトソーシングによって費用対効果を上げられる
創業間もないリソースに乏しい企業ならば、社労士へ労務管理全般をアウトソーシングすることで費用対効果の向上が期待できます。労務管理を内製化する場合、人件費や教育コスト、システム費用がかかり、苦しい資金繰りを強いられる創業期の企業にとって大きな負担となるためです。
一方、自社が必要とする業務に絞って社労士へアウトソースできれば、固定費を抑えつつ質の高い労務管理サービスを受けられます。労務トラブルが発生した際にかかるコストを考えれば、社労士の支援を受けてリスクを最小限に抑えるほうが、結果的にコスト削減につながるでしょう。
創業時の限られたリソースを有効に活用するためにも、社労士の支援は有効な選択肢です。
創業支援を受けたら、継続して契約したほうがよい?
創業支援を受けたあと、社労士へ引き続き支援を依頼するか否かは、会社の状況や希望する支援内容によって判断が必要です。
労務面の内製化を目指すならば、新たな人材の採用や組織整備が欠かせません。一方で社労士と契約を継続すれば、法改正や労務トラブルが生じた場合でも、自社の状況を理解しやすいため迅速に対応してくれる可能性が高まります。ただし検討時には、会社の成長を考慮した、企業規模に適した社労士選びも必要になるでしょう。
なお、創業支援を受けたあと引き続き社労士へ業務支援を依頼するならば、「顧問契約」か「スポット契約」のいずれか選択可能です。両者それぞれで特徴が異なるため、以下を参考に自社の状況に適した契約形態を選択しましょう。
顧問契約 | スポット契約 |
---|---|
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創業支援を依頼する社労士の選び方
ここまで見てきたように、創業支援に強みを持つ社労士の存在は、経営者にとって心強い味方です。
本章では、創業支援を依頼する際の社労士の選び方について、4つのポイントをご紹介します。
- 経験と専門性の確認
- 提供サービスの範囲
- コミュニケーション能力と相性
- 料金体系の明確さ
以下で詳しくみていきましょう。
ポイント1. 経験と専門性の確認
まずは社労士としての経験年数や、これまでの創業支援実績の確認が不可欠です。社労士によって得意分野の異なる場合があるため、労務管理や公的保険関連、助成金サポートなど、依頼したい分野の専門性の高さも確認しておきましょう。
自社に近い業種・業界の支援実績があれば、特有の法令対応や労務管理など適切に対応してくれる可能性が高まります。
ポイント2. 提供サービスの範囲
社労士が提供するサービス内容は、多岐にわたります。労務人事規則や雇用契約書の作成、労働社会保険の更新手続き、助成金申請など、自社が求める支援内容を提供できるか確認しましょう。多くの社労士がホームページ上に提供サービスを掲載していますので、事前確認がオススメです。
税理士としてのサービスも提供している事務所であれば、税務や会計相談にもワンストップで対応でき、効率が高まります。
ポイント3. コミュニケーション能力と相性
社労士との円滑なコミュニケーションによる信頼関係構築は、経営安定化につながる重要な要素です。
気軽に相談できるか、説明がわかりやすいか、質問の意図を正しく汲み取っているかなど、問い合わせ時や初回相談時に相性を確認するのがよいでしょう。問題解決能力が高く、親身な姿勢をもつ社労士を選ぶことが大切です。
ポイント4. 料金体系の明確さ
料金体系が明確で、予算に合ったサービスを提供しているかあらかじめ確認しましょう。
契約前に見積もりを依頼し、追加費用の有無などを確認することで、後々のトラブルが防げます。また、複数の社労士から相見積もりを取れば、料金の妥当性を確認できてオススメです。
顧問契約のサービス提供範囲や、スポット契約における個別業務の料金メニューも確認しておくと安心でしょう。
社労士の創業支援を受ければ本業に専念できる
本記事では、社労士に創業支援を依頼するメリットや依頼できる業務内容、信頼性の高い社労士の選び方について解説しました。
社労士に創業支援を依頼すれば、労務管理や社会保険手続きの専門知識を通じて、スムーズな会社設立と強い組織の基盤づくりが可能です。創業時は会社をいち早く成長軌道に乗せるために、経営者が本業に全力集中することが何より重要といえます。
社労士は、経営者が本業に専念するために欠かせない、労務面における強力なパートナーです。創業時から自社に適した社労士のサポートを受ければ、事業成長のスピードアップにつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
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