• 作成日 : 2025年5月1日

法人化に必要な資本金はいくら?決め方や平均額、増資について解説

個人事業主やフリーランスとして働いていて、これから法人化を検討している方もいるでしょう。法人化するには資本金が必要で、さまざまな要素を考慮して金額を決める必要があります。

本記事では資本金が経営に与える影響、資本金の決め方などを解説します。将来の法人化を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

法人化するために資本金はいくら必要?

資本金とは何か、法人化するにはいくら必要かを解説します。

資本金とは

資本金とは、事業を行うための元手であり、会社設立時に必要です。会社設立または増資によって出資者から払い込まれます。

資本金を用意する方法として、経営者自身が払い込むか、出資者、株主、投資家などが払い込むケースがあります。

創業初期において資本金は会社の体力であり、運転資金の基礎です。株式会社の貸借対照表では、資本金は純資産の部の株主資本に含まれます。

資本金は負債と異なり、返済する必要がない資金です。よって、資本金が多いほど財務の余力がある会社といえます。

資本金1円でも法人化は可能

資本金の設定に関して、以前は「株式会社は最低1,000万円、有限会社は最低300万円が必要」という最低額のルールがありました。しかし、2006年の法改正により、最低資本金制度がなくなり、資本金がいくらでも会社設立ができるようになりました。

よって、現在は資本金が1円でも起業が可能です。高額な資本金を準備できなくても法人を設立できるようになり、起業のハードルが下がったといえます。

ただし、資本金は会社の体力でもあるため、少ないほどいいというわけでもありません。いくらに設定するかは、複数の要素を考慮して決める必要があります。

資本金額が影響を与えるもの

資本金の金額は、銀行からの融資、取引先からの与信など、経営におけるさまざまな面に影響をもたらします。

融資額

一定規模のビジネスを展開する場合、自己資金だけでは足りず、金融機関から融資を受けるケースが多いです。融資を受ける際に、資本金額がどれだけあるかが重要性を増します。

一般的な目安として、金融機関から融資してもらえる額は、資本金額と同額から2倍までです。よって、資本金額が少なければ大きな融資を引き出せません。

融資によって創業直後から事業を加速させたい場合は、ある程度の資本金が必要であることは押さえておきましょう。

なお、資本金に充当する目的で融資を受けることは不可能です。資本金は出資したお金であり、融資とは性質が違うものであることに注意しましょう。

取引先からの与信

企業が初めて取引をする場合、相手側の与信調査を実施するケースがほとんどです。与信調査とは、取引先の財務状況や信用力を調査し、取引相手として問題がないか評価することを指します。

きちんと代金を支払ってくれる、あるいは商品を納めてくれるといった信用がなければ、企業は取引をしてもらえません。よって、ビジネスを推進するうえで与信状態に問題がないことを示す必要があります。

企業に信用力があるかないかを判断する1つの指標として、資本金の額が見られます。資本金の額が大きいほど、財務状況に余裕があることから、信用力があると判断される傾向です。

ビジネスで想定する取引先・仕入れ先の規模や資本金も調べて、資本金をいくらにするか検討するのもよいでしょう。

税金

資本金は、企業が納める税金にも関連してきます。資本金の影響を受ける税金は、以下のとおりです。

これらの税金については、資本金額を多くしすぎると負担が増すため、注意が必要です。

まず、資本金が1,000万円以上の場合は消費税の課税事業者となります。1,000万円未満の場合は免税されるため、消費税を納める必要はありません。

法人住民税については、資本金が多いほど均等割りの負担が多くなります。たとえば資本金が1,000万円以下・従業員が50人以下なら均等割りは7万円ですが、資本金が1,000万超~1億円以下で従業員が50人以下の場合、18万円に増えます。

許認可の要件

資本金は1円でも株式会社の設立はできますが、許認可の申請や取得をするには、一定額以上の資本金が必要なケースがあります。

資本金に関する定めのある許認可の例は、以下のとおりです。

  • 建設事業:500万円以上
  • 有料職業紹介事業:500万円以上
  • 人材派遣事業:1,000万円以上

建設事業や有料職業紹介事業、人材派遣事業を営む場合、資本金の額を上記の水準に設定しなくてはなりません。

法人化する場合の資本金額の決め方

自社の資本金の額をいくらにするべきか、考え方を複数紹介します。

3ヶ月から半年までの運転資金を基に決める

3ヶ月から半年の期間において、会社運営に必要な運転資金の額を資本金に設定する方法です。創業してしばらくは思ったように売上が上がらなかったとしても、数ヶ月は会社を維持できるだけの資本金があると安心です。

家賃・水道光熱費・仕入れ代金・通信費消耗品費・人件費など、会社の運営に必要な運転資金を計算して決めましょう。

取引先の規模や自社への信用を考慮して決める

資本金は会社の体力であり、信用力を示すものです。よって、取引先が一定規模である場合は、自社もそれなりの額の資本金を用意する必要があります。

たとえば、取引をするのは法人のみで個人事業主は対象外と決めているような企業は、取引先の規模を重視すると考えられ、取引先の選定において資本金の額を重視する可能性があります。

これに対し、個人との取引が多い場合は、資本金がそれほどなくても問題ないケースもあるでしょう。

許認可を得るための最低金額にする

事業を進める際に、行政機関から許認可を得ることが必須のケースがあります。許認可を取得するためには、資本金を一定の額以上に用意することを要求する場合があるため、事前に確認することが重要です。

一例をあげると、有料職業紹介事業の場合は500万円、一般労働者派遣事業の場合は2,000万円などです。これだけの資本金を要求する理由は、労働人材を安定的に提供すること、労働者への給与の支払いが滞らないようにすることと考えられます。

消費税の納税を回避できる金額にする

創業の初期の段階では、消費税の納税負担が重い場合もあるでしょう。会社設立をすると、消費税の免税を受けられるケースがあり、その条件は資本金が1,000万円以下であることです。

逆に、資本金が1,000万円を超えると、初年度であっても消費税の納税を求められてしまいます。さらに、法人住民税も高額になる可能性があるため、税負担を軽くしたい場合は資本金を1,000万円以下に設定しましょう。

他社のケースを参考にして金額を決める

他社が資本金をいくらに設定しているかを参考にするのもよいでしょう。日本では約80%の企業が資本金を300万〜3,000万円に設定しており、平均的な資本金の額は1,000万円程度と推測されます。

また、同業他社の資本金額を参考にする方法もあります。会社のホームページの「会社概要」などの欄に、資本金の額が掲載されているケースが多く見られますので、調べてみましょう。

融資を受けたいなら100万円以上にする

資本金の額は、会社の体力があるかを示す基準の1つです。金融機関から見て資本金が低いと、将来返済できなくなる可能性が高いと判断され、希望どおりの融資を引き出せなくなる恐れがあります。

融資を受けたい場合、信用力を示すには資本金は最低でも100万円に設定しましょう。融資以外に、新たな取引先を増やしたい場合も同様です。

実店舗のある銀行の法人口座を開設するなら100万円以上にする

実店舗のある大手の銀行で法人口座を開設したい場合、資本金は100万円以上にするのがおすすめです。実店舗を持つ大手銀行の審査は比較的厳しく、資本金が著しく少ないと口座開設を断られるケースも発生しています。

大手銀行の法人口座があると、会社の信用力を示す効果もあります。信用力を高めたいなら、100万円以上の資本金を用意しましょう。

法人化する場合の資本金額の平均

総務省・経済産業省が行った「令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計」という調査があります。この調査結果によると、多くの企業における資本金は「300万~500万円未満」、あるいは「1,000万~3,000万円未満」です。

小規模な企業の場合は400万円前後、比較的大きな企業の場合は2,000万円前後が、資本金額の平均といえます。

資本金は後から増額できる

資本金は増資によって、後で増額することが可能なため、必要な場合は手続きをしましょう。

増資に必要な手続き

増資の方法として、公募増資株主割当増資、第三者割当増資の3つがあります。まず公募増資とは、新たな株式を発行して、証券市場にて一般の投資家から出資を募集する方法です。

公募増資は広く出資を募ることができる点がメリットですが、発行される株式が多くなるため、1株当たりの株価や利益率が下がります。

公募増資をするには、以下のような手続きが必要です。

  1. 株主総会・取締役会などで増資に関する決議をする
  2. 有価証券届出書を作成して提出する
  3. 公募条件を決定・発表する
  4. 株主からの出資を受ける
  5. 登記変更の手続きをする

2つ目の方法の株主割当増資は、既存の株主に、出資金と引き換えに新しい株式を追加取得できる権利を与える方法です。株主の構成や保有の割合などを変えにくいのが利点ですが、株主が必ず応じるとは限らない点に注意が必要です。

株主割当増資をするには、以下のような手続きが必要となります。

  1. 募集株式の内容を決定する
  2. 募集株式と株主総会に関する通知を出す
  3. 株主が出資の申込をする
  4. 株主からの出資を受ける
  5. 登記変更の手続きを行う

3つ目の方法の第三者割当増資は、親会社など特定の第三者に対して新たな株式を発行する方法です。証券市場を通さないため株価を一定程度は自由に設定できるものの、株式の流通量が増えるため、株価や1株あたりの利益率が下がる可能性があります。

第三者割当増資をするには、以下のような手続きが必要です。

  1. 新株主募集の条件を決める
  2. 募集事項を決定し通知を出す
  3. 出資者から株式取得の申込を受ける
  4. 株式の割当に関する決議を行う
  5. 株主からの出資を受ける
  6. 登記変更の手続きを行う

増資にかかる登録免許税

増資には登記申請が必要です。なお、登記申請には登録免許税がかかる点に注意しましょう。具体的には「3万円」あるいは「増加した資本金の額の0.7%」のどちらか大きい方の金額がかかります。

増える資本金額が450万前後で、どちらが適用されるかが決まります。たとえば500万円なら0.7%である3万5,000円が適用され、400万円なら3万円です。

法人化する際には資本金をいくらにするか決めよう

資本金は事業を進めるための元手であり、法人化のために必要な資金です。会社設立において資本金の額に関するルールはなく、1円で法人化することも可能です。

ただし、資本金は会社の信用力を示すものでもあるため、金融機関の融資や取引先からの与信を考慮すると、一定の額以上に設定する必要があります。

総務省の調査結果や、同業他社のケースなどを参考に決める方法があります。資本金を自社にとって適正な額に設定して、事業をスムーズに展開していきましょう。


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