• 作成日 : 2025年3月4日

個人事業主の相続に必要な手続きは?事業承継や相続税対策も解説

個人事業主が亡くなって相続が発生した場合、事業を引き継ぐ相続人は、さまざまな手続きを進めていく必要があります。事業承継を円滑に進めるには、どのような届出をしなければならないのでしょうか。事業の相続で必要な手続きや相続の問題、相続税の軽減制度について解説します。

個人事業主の相続時に必要な届出

個人事業主が死亡した場合に、相続に関連して必要になる各種手続きを解説します。

死亡届

死亡届は、人が亡くなったことを役所に届け出る手続きです。個人事業主でなくても必要な手続きになります。死亡届の提出先は、個人事業を営んでいた故人の住所地、または届出をする人の住所地のいずれかの市役所や役場です。死亡届は、国内で亡くなった場合は、死亡の事実を知った日から7日以内が期限です。国外で亡くなった場合は、死亡の事実を知った日から3カ月以内になります。死亡届を提出するには、火葬を証明する火葬許可証が必要です。

廃業届

廃業届は、個人事業を営む個人の廃業を届け出る手続きです。届け出先は税務署で、開業届の様式と同じ「個人事業の開業・廃業等届出書」を利用して手続きを行います。廃業届の提出期限は、被相続人(亡くなった方)の死亡日から1カ月以内です。

事業廃止届

廃止届が所得税法に基づく手続きであるのに対して、「事業廃止届」は消費税法に基づく手続きです。個人事業を営む故人が、消費税の課税事業者を選択している場合に、管轄の税務署へ届出書を提出します。事業廃止届については、特に提出期限は明確に定められていませんが、事由発生後すみやかに届け出ることとされています。

給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出

個人事業を営む故人が、従業員を雇用して給料を払っている場合に必要な手続きです。管轄の税務署に、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」を提出します。開設・移転・廃止のいずれにも対応した様式で、開業時と同じ書類を使用して届け出ます。給与支払事務所の廃止の届出の提出期限は、廃止の日から1カ月です。

所得税関係の書類の提出

必要な各種届出について、概要・提出先・期限を解説してください。

被相続人である個人が青色申告をしていた場合は、管轄の税務署に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。提出期限は、翌年の3月15日までです。

また、事業を引き継ぐ相続人については、個人事業開業の届出が必要です。相続開始を知った日から1カ月以内に管轄の税務署に届出を行います。事業を引き継ぐ際に青色申告を選択する場合は、青色申告承認申請書の届出もあわせて行いましょう。青色申告承認申請書の提出期限は、被相続人が亡くなった日から4カ月以内、9月から10月の間に亡くなった場合は12月31日まで、11月から12月の間に亡くなった場合は翌年の2月15日までが提出期限です。

消費税関係の書類の提出

被相続人が消費税の課税事業者だった場合は、管轄の税務署にすみやかに「個人事業者の死亡届出書」を提出します。相続人が事業を引き継ぐ場合で、消費税の課税事業者になるときは、管轄の税務署にすみやかに「消費税課税事業者届出書」を提出します。前々年度の課税売上が1,000万円以下で免税事業者に変更したい場合は、相続が発生した年の12月31日までに「消費税事業者選択届出書」の提出が必要です。

準確定申告

準確定申告とは、本来の申告者である被相続人に代わって相続人が、被相続人が亡くなった年の確定申告をすることです。準確定申告は、すべての相続人で行う必要があり、相続開始を知った日の翌日から4カ月以内に申告しなければなりません。通常の確定申告の提出期限と異なる点に注意しましょう。

個人事業主が亡くなった場合、何を相続する?

個人事業主が亡くなった場合、被相続人である故人が有する財産が相続の対象になります。被相続人が私用で有する土地や建物、株式などの有価証券のほか、事業用の資産も相続の対象です。

事業用の資産もすべて相続の対象となるため、事業で有する土地や店舗のほか、機械類や商品、備品などは、遺産分割が確定するまですべての相続人の共有財産となります。また、相続の対象になるのはプラスの資産だけではありません。金融機関などから融資を受けている場合は、借入金などの債務も相続の対象になります。

亡くなった個人事業主の借金や債務が多い場合はどうする?

被相続人の財産を整理した結果、プラスの財産よりも、事業の借金のようなマイナスの財産の方が多くなってしまうことがあります。借金のような債務が多い場合は、相続放棄や限定承認の利用を検討するとよいでしょう。

相続放棄や限定承認を利用する

相続放棄は、相続自体を完全に放棄することをいいます。それぞれの相続人が単独で利用できる制度で、相続人の一人が相続放棄をした場合、残りの相続人で遺産分割をすることになります。相続放棄をすると、負の遺産である債務もプラスの遺産である資産もどちらも受け取れません。相続する財産のうちマイナスの財産が多い場合は、相続放棄を選択することで自己の財産からの補てんを免れます。

限定承認は、被相続人のマイナスの財産を清算した上で財産を引き継ぐ方法です。相続の対象となるプラスの財産の範囲でマイナスの財産を弁済すればよいため、マイナスの財産の規模がはっきりしない場面などで活用されます。ただし、限定承認は手続きにおいて複数の課題があります。まず、相続を知った日から3カ月以内に相続人全員の申し立てが必要です。また、手続きが複雑で時間がかかることから、実際には限定承認よりも相続放棄が選択される傾向にあります。

相続人が事業承継するために必要な手続き

相続人が事業を承継する際に必要な手続きは3つに分けられます。

まず、被相続人の廃業に関する手続きです。必要な届出でも紹介したように、「廃業届出書」や消費税の「事業廃止届出書」など、被相続人の事業を廃業する手続きが必要です。

次に、事業を引き継ぐ相続人は、開業に関する手続きが必要になります。必要な届出でもとりあげた開業届などの手続きが必要です。事業の引き継ぎについては、何の届出もなく自動的に引き継げるわけではないため、注意しましょう。被相続人の廃業と相続人の開業をセットで行う必要があります。

上記のほか、引き継いだ財産の名義の変更も行いましょう。例えば、土地の名義変更については、相続による取得を知った日から3年以内に手続きが必要です。

相続人が屋号を引き継ぐ方法

屋号とは、ビジネスで使用する名称のことです。個人事業主は、個人名のほかに、屋号を利用する場合があります。屋号の例としてわかりやすいのは、飲食店です。飲食店の看板に掲げられるお店の名前は屋号になります。

被相続人が屋号を看板として使用していた場合、相続人がそのまま屋号を利用するのは自然な流れです。屋号に関して、引き継ぎの際に特別な手続きを行う必要はありません。新規で開業する場合と同様、税務署に提出する開業届に、被相続人が使用していた屋号と同様の名称を記載するだけで、屋号の引き継ぎは完了します。

個人事業主の相続税を抑えるための対策

被相続人から事業を相続する場合に活用できる相続税の負担を抑える対策として、個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例について解説します。

個人版事業承継税制の利用

個人版事業承継税制とは、被相続人が青色申告を行なっており、かつ事業を相続する後継者が円滑化法の認定を受ける場合に利用できる制度です。特定事業用資産の取得につき、申告後も事業を継続して特定事業用資産を保有することを前提に、贈与税および相続税の全額の納税を猶予します。また、事業を引き継いだ後継者が死亡した場合などには、猶予されていた贈与税および相続税の納税が免除されます。

個人版事業承継税制の対象である特定事業用資産とは、以下のような資産をいいます。

  • 400㎡以内の宅地等
  • 床面積800㎡以内の建物
  • 宅地や建物以外で固定資産税の対象となる資産
  • 営業用の税率が適用される乗用車や軽自動車
  • 一定の貨物自動車
  • 特許権などの無形固定資産 など

いずれも、事業で使用されていた資産で、かつ青色申告の貸借対照表に計上されている資産であることが条件です。適用後は、3年ごとに一定の書類を添付して税務署に届出を行うことで、猶予を継続できます。

小規模宅地等の特例の利用

小規模宅地等の特例は、正式名称を相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例といいます。被相続人または生計を一にしていた親族の事業用の宅地や居住用の宅地において、一定の面積については相続税の課税価格に算入する金額を減額できる制度です。

小規模宅地等の特例は、居住用の宅地等、貸付事業用の宅地等、貸付事業を除く事業用の宅地等で、特定を適用できる宅地等の面積や減額される割合が異なります。

例えば、貸付事業以外の用途で使用されていた事業用の宅地等については、限度面積400㎡まで、80%の減額が受けられます。貸付事業用以外の事業用宅地等については、特定事業用宅地等に該当しなければ利用できないことに注意しましょう。特定事業用宅地等とは、事業承継要件と保有承継要件の両方を満たす宅地等です。相続人は、相続税の申告期限までに対象の財産を引き継ぎ、かつ申告期限までに宅地等を保有し、事業を営んでいることが適用の条件になります。

個人事業主の相続にはさまざまな手続きが必要

個人事業を営む個人が亡くなった場合、準確定申告や廃業届などのさまざまな手続きが必要になります。また、故人から事業を引き継ぐ場合は、相続人側も開業などに関する複数の手続きを行わなくてはなりません。提出期限が明確に定められている手続きもあるため、まずはどのような手続きが必要か確認して、計画的に手続きを進めていくようにしましょう。


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