- 作成日 : 2025年3月7日
不動産を個人から法人の所有にするメリットは?方法や手続きの流れを解説
個人所有不動産を活用して収益を上げた場合、多額の所得税がかかることもあります。不動産を法人所有にすることによって節税したいと考える人もいるでしょう。
本記事では、不動産を個人から法人の所有にするメリットについて解説します。法人への名義変更を検討するタイミングをはじめ、法人へ移す方法や具体的な手続きも紹介します。
目次
個人所有の不動産は法人化できる?
個人が所有する不動産は、所定の手続きを踏んで法人に移せます。不動産を法人に移すことで、不動産を活用した賃貸アパートや賃貸ビルなどの不動産ビジネスを、個人経営から法人の事業に転換(法人化)します。
不動産の名義を個人から法人にできる
不動産ビジネスの法人化とは、不動産の名義を個人から法人に変更して事業を行うことです。不動産を法人に売却したり現物出資したりすることによって、不動産の名義を変えられます。
不動産名義を法人に変更する理由は、節税効果が期待できるなどさまざまなメリットがあるためです。本記事では、主なメリットや法人化する具体的な手続きの流れについて紹介しますので、不動産経営の参考にしてください。
個人所有の不動産を法人へ移すメリット
個人所有の不動産を法人へ移す主なメリットは、次の4つです。
- 節税効果がある
- 経費として計上できる幅が広がる
- 相続税の対策になる
- 金融機関からの信用向上につながる
各メリットについて解説します。
節税効果がある
不動産を法人化するメリットは、節税効果があることです。不動産を個人所有して大きな利益を上げた場合、所得税率が高くなります。
所得税率は累進課税で、4,000万円を超える所得に対しては45.0%の所得税がかかる仕組みです。一方、不動産を法人所有した場合にかかる法人税率は最大23.2%であるため、所得税より法人税のほうが安くなる可能性があります。
不動産ビジネスによる利益が少ないうちは個人所有のほうが税金は安く済みますが、利益が一定金額を超えると法人化したほうが節税できるでしょう。
経費として計上できる幅が広がる
2つめのメリットは、法人化したほうが経費として計上できる幅が広がることです。経費計上することによって、課税所得金額を抑えられます。
個人経営では経費計上できないが、法人なら経費にできる費用は以下の通りです。
法人化して家族を役員や従業員にすれば、役員報酬や給与の支給によって所得を分散できます。また、個人経営の場合、車の購入や維持にかかる費用は、個人使用分と不動産ビジネス使用分で按分しなければなりませんが、法人で購入すれば経費計上できます。
相続税の対策になる
3つめのメリットは、相続対策として活用できることが挙げられます。不動産の法人化によって個人所有の相続財産を減らし、相続税を抑えられる可能性があるためです。
経営者が保有する法人の株式は相続財産に含まれますが、生前に家族に株式を分配することや、非上場会社の事業承継に関わる税制上の優遇措置(法人版事業承継税制)を活用することによって、相続税を抑えられます。
金融機関からの信用向上につながる
メリットの4つ目は、金融機関からの信用力向上につながることです。信用力が高まれば、金融機関からの融資が受けやすくなります。
個人経営でも融資は受けられますし、法人でも経営状態が悪いと融資が受けられないこともありますが、一般的に個人より法人のほうが信用力は高いと評価されやすいでしょう。事業資金として多額の融資が必要なときは、法人のほうが有利なこともあります。
法人への名義変更を検討するとよいタイミング
法人への名義変更を検討するとよいタイミングは所得の内容などによって異なりますが、次が1つの目安です。
- (給与所得のある人)給与所得が900万円以上になったとき
- (不動産収入だけの人)不動産所得が330万円以上になったとき
(給与所得のある人)給与所得が900万円以上になったとき
給与所得が900万円以上になったら、法人への名義変更を検討してみましょう。法人化することで節税できる可能性があるためです。
所得税は総合課税されるため、給与所得が900万円以上ある場合、不動産所得に対する所得税率は33%以上になります。一般的な法人の法人税率は15.0%〜23.2%であるため、不動産所得に対する税金は、法人に名義変更したほうが安くなります。
【所得税率】
課税所得金額 | 所得税率 |
---|---|
1,000円~194万9,000円 | 5% |
195万円~329万9,000円 | 10% |
330万円~694万9,000円 | 20% |
695万円~899万9,000円 | 23% |
900万円~1,799万9,000円 | 33% |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% |
4,000万円~ | 45% |
【普通法人の法人税率】
法人の区分 | 所得税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下の法人 | 課税所得金額800万円以下の部分 | 15%または19% |
課税所得金額800万円超の部分 | 23.2% | |
上記以外の法人 | 23.2% |
(不動産収入だけの人)不動産所得が330万円以上になったとき
収入が不動産収入だけの場合、不動産所得が330万円以上になったときが検討のタイミングです。個人経営の場合、不動産所得が330万円以上になると所得税率が20%になります。住民税を約10%とすると、30%くらいの税金がかかることになります。
法人設立や不動産の名義変更にかかる手間や費用と法人化による節税メリットを比較して、法人への名義変更を検討してみましょう。
個人所有の不動産を法人へ移す方法1:法人への贈与
個人所有の不動産を法人へ移すには、法人に不動産を贈与するという方法があります。個人の資産を減らせるため、節税だけでなく相続対策としても効果的です。法人に贈与するときの事前準備や手続きの流れ、注意点について解説します。
必要な準備
既存の法人がない場合、新たに法人を設立しなければなりません。次に、不動産鑑定士に依頼して不動産の鑑定評価を行います。贈与にかかる税金の計算に必要な評価額を確定するためです。
また、節税対策や相続対策として本当に効果があるのか、税理士などに相談することをおすすめします。不動産の贈与によって発生する税金を考慮して、不動産の法人化が本当に節税になるのか専門家にきちんと確認したほうがいいでしょう。
手続きの流れ
法人に不動産を贈与する手続きの主な流れは、次の通りです。
- 法人で利益相反の承認決議を行う
- 個人と法人で不動産の贈与契約を締結する
- 不動産登記を行う
利益相反の承認決議とは、法人の取締役などが個人として法人と取引(利益相反取引)する場合、取締役会などでその取引を承認することです。決議後に贈与契約を締結し贈与・不動産登記を行います。
注意点
不動産を贈与した場合、贈与した個人にも贈与を受けた法人にも税金がかかります。
- 個人にかかる税金:譲渡所得税
- 法人にかかる税金:法人税
個人の贈与は、時価で法人に譲った(「みなし譲渡所得」あった)とみなされ譲渡所得税が課されます。一方、法人には「受贈益」が発生したものとして法人税がかかります。
個人所有の不動産を法人へ移す方法2:法人への売却
個人が所有する不動産を法人に売却して、土地や建物を法人に移すこともできます。法人は不動産を購入することになるため、その資金が必要です。法人に売却するときの事前準備や手続きの流れ、注意点について解説します。
必要な準備
法人の新設や土地・建物の評価額の確定、節税対策としての効果などの検証については、贈与の場合と同様に不動産を売却する前に済ませます。
贈与と大きく異なるのは、法人が不動産を購入するための資金を準備しなければならないことです。金融機関から借り入れたり、未払金計上して定期的に返済したりするなどして、不動産の購入資金を工面します。
手続きの流れ
法人に不動産を売却する手続きの主な流れは、次の通りです。
- 法人で利益相反の承認決議を行う
- 不動産の売買契約を締結し、法人が不動産代金を支払う
- 不動産登記を行う
基本的な流れは不動産を贈与するときと同じですが、贈与契約ではなく売買契約によって契約が成立し、法人による不動産代金の支払いと個人の不動産の引き渡しによって契約が履行されます。
注意点
極端に安い金額で不動産を売買すると、適正価格との差額が個人への贈与とみなされる可能性があるため注意しましょう。売却益として個人に譲渡所得税がかかったり、受贈益として法人に法人税がかかったりする可能性もあります。
個人所有の不動産を法人へ移す方法3:法人への現物出資
個人が法人に対し資本金の代わりに不動産を現物出資して、不動産を法人に移すこともできます。購入資金の準備が不要となりますが、不動産の鑑定評価が必要になるなど手間と費用がかかります。法人に現物出資するときの事前準備や手続きの流れ、注意点について解説します。
必要な準備
法人へ現物出資する準備として、法人の新設や土地・建物の評価額の確定(不動産鑑定士による「不動産鑑定評価」)、節税対策としての効果などの検証は、贈与などと同様です。
注意が必要なのは、現物出資する不動産の価格が500万円以上の場合、「現物出資財産の価額が相当である」ことを弁護士や公認会計士、税理士などに証明してもらう必要があることです。証明がない場合、裁判所が選任した検査役の調査が必要になり、大きな費用と時間がかかるため注意しましょう。
手続きの流れ
法人に不動産を現物出資する手続きの主な流れは、次の通りです。
- 定款に現物出資の内容(出資者や資産の内容など)を記載する
- 「調査報告書(出資した不動産価格などの調査内容)」と「財産引継書(不動産の移転内容など)」を作成する
- 不動産登記を行う
- 会社の登記内容を変更する
不動産の現物出資により法人の資本金が増えるため、定款への記載や登記内容の変更が必要です。「調査報告書」と「財産引継書」は、会社の登記内容を変更するときに法務局に提出します。
注意点
不動産を現物出資するときは、手間や費用がかかることに注意しましょう。不動産鑑定評価は不動産鑑定士に、現物出資財産の価額が相当である証明は弁護士や公認会計士、税理士に、登記内容の変更は司法書士に依頼しなければならないためです。
約款の変更や財産引継書の作成なども専門的な知識が必要になるため、費用はかかりますが専門家に依頼したほうがいいでしょう。
専門家に相談しながら適切な不動産経営方法を選択しましょう
個人所有の不動産を法人へ移すことには、節税対策や相続税対策として効果が見込めるなどのさまざまなメリットがあります。不動産を法人に移すには贈与や売却、現物出資などの方法がありますが、どの方法を選択するかによって節税効果などは異なります。
不動産の法人化による効果を予想するには税法など専門的な知識が必要となるため、専門家に相談しながら適切な不動産経営方法を選択しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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