- 更新日 : 2024年4月30日
会社設立時の資金調達方法とメリット・デメリットを解説
起業する際には、資金が必要です。自己資金で賄えない場合は、外部から資金調達を行う必要があります。この記事では、出資や融資、補助金など、設立時に使える資金調達方法の概要とそれぞれのメリット・デメリットを解説しています。また、創業時に使える補助金・助成金や融資制度、融資を受ける準備や流れも紹介しているため、ぜひご覧ください。
目次
自己資本と他人資本とは
会社が資金調達をする方法は、金融機関からの借入や公的援助、投資家からの出資や新株の発行など、さまざまです。
資金調達方法は、大きくデットファイナンスとエクイティファイナンスの2種類に分けられます。
参考:デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスの違いについて教えてください。|J-Net21
会社設立時に使える資金調達の方法
会社設立時には、以下のような方法を使って資金調達を実行できます。
- 投資家やベンチャーキャピタルからの出資
- 公的機関や金融機関からの借入・融資
- 国や自治体が行う補助金・助成金制度の利用
- クラウドファンディングの利用
特に返済が不要な補助金・助成金制度の利用がおすすめです。また、クラウドファンディングは、近年注目を集めている新しい資金調達方法です。
ここでは、主となる資金調達方法について、それぞれの特徴を解説します。
出資
出資とは、出資者から投資してもらう方法です。具体的には、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資が挙げられます。
ベンチャーキャピタルは、あるベンチャー企業に出資し、成長後にM&Aで売却・あるいは上場などのエグジットを行った際に利益を得る会社のことです。ベンチャーキャピタルは、確実にキャピタルゲインを得るため、将来性のあるベンチャー企業のみに出資を行います。そのため、出資を受ける際の審査は厳しいのが特徴です。
エンジェル投資家は、起業する前や起業直後の会社に投資を行う個人投資家のことです。ベンチャーキャピタルと同様、エグジットの際にキャピタルゲインを得ることを目的に出資を行います。事業への思いや事業計画などについてエンジェル投資家からの賛同が得られれば、過去の実績がなくて金融機関や公的機関などから資金調達が行えない場合でも、出資を受けられる可能性があるのは特徴です。
借入・融資
借入・融資とは、デットファイナンスの1つであり、金融機関や公的機関などから資金を調達することです。期限つきで借入を行い、期日までに元本と利息を返済します。具体的には、銀行や政府系金融機関、地方公共団体からの融資などが挙げられます。調達先の選択肢が多く、資金調達しやすいのが特徴です。一方、金利がかかる点や、金融機関によっては審査が厳しく、希望額を調達できないリスクがある点に注意しましょう。
補助金・助成金の利用
国や地方自治体などが実施する補助金や助成金の利用も資金調達の1つです。審査に通ることで利用でき、原則返済は不要である点が特徴です。
補助金と助成金は財源が異なります。補助金の財源は税金、助成金の税金は雇用保険料です。そのため、受給できるハードルの高さにも違いがあります。補助金には審査が必要で、申請数が多い補助金については倍率も高いです。一方、助成金は、申請すれば受給できるケースが多く、比較的ハードルが低い資金調達方法と言えます。
クラウドファンディングの利用
クラウドファンディングは、近年注目されている資金調達方法です。インターネット上でプロジェクトの概要や事業計画を公表し、共感してくれる人々から資金を集めます。クラウドファンディングにはさまざまなパターンがありますが、代表的なのは購入型と寄付型です。
購入型では、支援者はお金を支援した対価として、商品やサービスの利用権といったリターンを受け取る方式です。一方、寄付型では金銭的なリターンではなく、支援者はお金を寄付することになります。そのため、寄付型は、被災地の支援といった社会貢献性が高いプロジェクトで多く用いられている方式です。このほか、融資型や株式投資型、ファンド型などの種類があります。
各資金調達方法のメリット・デメリット
上記で紹介した資金調達方法には、それぞれメリット・デメリットがあります。資金調達方法によっては、審査が厳しく希望どおりの金額を調達できない場合や、金利が高く資金繰りを悪化させる場合があるため、注意しましょう。
出資を募るメリット・デメリット
ベンチャーキャピタルからの出資を募るメリットは、無担保で多額の資金を調達できる点です。また、上場やM&Aなどのエグジットに向けてさまざまな経営支援を受けられるため、短期間で事業を成長させられる可能性も十分にあります。
ただし、エグジットを検討していない経営者には適していません。また、ベンチャーキャピタルが経営に関与するため、経営の自由度が低下する点はデメリットです。また、ベンチャーキャピタルが経営に深く関与することで意思決定の自由度が下がるほか、事業の成長性が低いと判断された場合には、M&Aによる早期の資金回収が行われる可能性もあります。
一方、エンジェル投資家からの出資は、返済義務がない資金を調達できることが大きな特徴です。加えて、投資家個人が持つ経営経験や人脈を活用できるため、ベンチャーキャピタルと同様に短期間で事業を成長させる可能性があります。意思決定が早いため、資金調達までのスピードが速い点も魅力です。さらに、過去の実績がなくても事業の将来性や経営者の熱意に期待して出資を受けられる場合もあり、起業初期には心強い存在となります。
ただし、調達できる資金規模はベンチャーキャピタルに比べて小さく、また出資を受ければ経営に対する関与が生じるため、自由度がある程度制約される点はデメリットといえます。
借入・融資のメリット・デメリット
金融機関や公的機関からの借入・融資のメリットは、きちんと返済すれば経営に介入されない点や、利息を損金に計上できるため、正しく会計処理すれば節税につながる点です。
一方、デメリットとしては、借入金が負債になるため自己資本比率が下がる点や、元本と利息を月々返済する必要があり、資金繰りに注意が必要である点が挙げられます。また、金融機関によっては審査が厳しく、資金調達を実施できないケースも多いです。
補助金・助成金のメリット・デメリット
国や地方自治体が運用する補助金や助成金制度を利用するメリットは、返済が不要なため、資金繰りを圧迫しないことです。また、特に助成金の場合は、受給要件さえ満たせば利用できる可能性が高く、比較的ハードルが低い資金調達方法と言えます。
一方、対象となる物品の購入や行動を行った後に支給されるため、申請から資金調達まで一定のタイムラグがある点に注意が必要です。そのため、創業時にすぐ資金が必要な場合にはあまり向いていません。また、倍率が高い補助金は、申請しても受給できない可能性があります。
クラウドファンディングのメリット・デメリット
クラウドファンディングのメリットは、金融機関や公的機関からの資金調達が難しいプロジェクトであっても、共感者がいれば資金調達が可能である点です。また、現在ではさまざまなクラウドファウンディング専用のプラットフォームが存在しており、気軽に始められます。
デメリットは、目標金額に達成せず資金調達できない場合がある点です。特に、目標金額に達しないとプロジェクトが成立しないAll-or-Nothing型の場合、期間内に目標に達しないと資金調達が不可能に終わってしまいます。
会社設立時に使える助成金・補助金一覧
ここでは、会社設立時に使える以下の助成金と補助金を一覧で解説します。
- 地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)
- キャリアアップ助成金
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
補助金については、具体的な補助率・金額も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。なお、実施の有無や要件などは年度によって異なるため、必ず最新情報をチェックしましょう。
【助成金】地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)
地域中小企業応援ファンドは、中小機構や地方自治体、金融機関などが出資して設立したファンドであり、中小企業者や創業者を対象に助成を行う機関です。具体的には、以下の2つがあります。
- 地域中小企業応援ファンド
- 農商工連携型地域中小企業応援ファンド
ファンドではありますが、地域中小企業応援ファンドから調達した金額には返済義務がありません。そのため、助成金と言えます。ファンドによって対象者や支援分野、上限額などは異なるため、詳しくは公式サイトを参考にしてください。
参考:地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)|中小機構
【助成金】キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するための助成金です。社員の労働意欲や能力向上、事業の生産性アップを目的とし、非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善などの取り組みを実施した事業主を対象としています。
助成内容により、以下の7つのコースが用意されています。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
受給のためには、労働局・ハローワークの援助のもとキャリアアップ計画を作成し、認定されることが必要です。
【補助金】ものづくり補助金
ものづくり補助金の正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上支援補助金」です。
中小企業や小規模事業者が、製造業だけでなく商業・サービス業においても、サービスや試作品の開発、生産プロセスの改善などを行うための設備投資を支援する補助金制度です。
「一般型」と「グローバル展開型」があり、一般型にはさらに4つの枠が設けられています。それぞれ補助上限額・補助率が異なり、従業員規模などの基準によっても変わります。以下の表を参考にしてください。
ものづくり補助金では、補助対象となる経費が厳密に定められています。交付決定以降に発注を行い、補助実施期間内に支払いを完了したものに限り対象となるため、利用の際は注意が必要です。
【補助金】IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が生産性向上やDX推進を目的としてITツールを導入する際に、経費の一部を補助する制度です。
ソフトウェア購入・クラウド利用・導入支援・活用支援などに幅広く活用でき、最低賃金水準の事業者向けに補助率を強化する仕組みも整備されています。
会社設立時などに利用しやすい主な申請枠は以下の通りです。
種類 | A類型(通常枠) | B類型(通常枠) | インボイス枠(デジタル化基盤導入類型) | セキュリティ対策推進枠 | 複数社連携IT導入枠 |
---|---|---|---|---|---|
補助上限額 | 5万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 | 50万円以下/50万円超~350万円以下 | ~150万円 | ~3,000万円(枠全体) |
補助率 | 原則1/2以内 ※最低賃金水準で2/3以内 | 原則1/2以内(最低賃金水準で2/3以内) | 中小3/4・小規模4/5以内(50万円以下) 2/3以内(50万円超~350万円) | 中小1/2以内・小規模2/3以内 | 基盤導入:中小1/2~3/4・小規模4/5以内 その他経費(分析・専門家):2/3以内 |
補助対象 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費・導入後活用支援 | 同上 | アプリ(会計・受発注・決済など)、クラウド利用料、導入関連費、ハードウェア | セキュリティ対策ソフト、監視システム等 | ソフトウェア・ハードウェア・消費動向分析ツール・専門家費・事務費等 |
参考:IT導入補助金2025
【補助金】小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が販路開拓や業務効率化などに取り組む際に発生する費用の一部を補助する制度です。
経営計画の策定を基本に、公募類型が整理・拡充されており、通常枠のほか、創業型・共同・協業型など複数の枠が用意されています。
類型 | 補助上限額 | 補助率 | 補助対象 |
---|---|---|---|
通常枠(一般型) | 最大200万円(基本50万円 + 特例込み) | 原則2/3(赤字+賃上げ特例で3/4) | 広報・EC・設備・展示・旅費など |
創業型 | 最大250万円(基本200万円 + 特例) | 同上 | 同上 |
共同・協業型 | 最大5,000万円 | 2/3または定額 | 複数事業者による共同販路開拓等 |
災害支援枠 | 最大200万円(直接)、100万円(間接) | 2/3(特例時は定額) | 災害関連費用等 |
ビジネスコミュニティ型 | 約200万円 | 定額制 | 地域活動支援等 |
会社設立時に使える創業融資制度
ここでは、会社設立時に使える創業融資制度として、新規開業・スタートアップ支援資金を紹介します。
新規開業・スタートアップ支援資金は、日本政策金融公庫が提供する、創業者を対象にした融資制度です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、事業開始または事業開始後に必要となる設備資金および運転資金に活用できます。
また、以下のいずれかに該当する方は、より有利な条件でご利用いただけます。
- 女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニアで創業する方
- 廃業歴等があり、創業に再チャレンジする方
- 中小会計を適用して創業する方
融資には返済義務があるため、利用する際は資金繰りに注意することが必要です。自己資金に関する要件はありませんが、できるだけ準備しておくことをおすすめします。
※日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、令和6年3月31日で取扱いを終了しています。
融資を受けるために準備が必要なもの
最後に、融資を受けるために準備する必要がある書類と、手続きを紹介します。融資は、補助金や助成金と異なり、返済義務があります。そのため、融資を利用する際は資金繰りに注意してください。
また、審査に通過するためには、創業計画書や資金繰り計画書などの書類を用意し、ビジネスモデルの安定性や事業の魅力をアピールする必要があります。融資を受ける際は、念入りに準備しましょう。
融資に向けて準備が必要なもの
金融機関から融資を受けるためには、以下のような書類が必要です。
特に、創業計画書は入念に作成しましょう。「その事業は問題なく利益を得られるのか」をアピールできないと、融資は受けられません。具体的に取引先が決まっていればかなり有利なアピールポイントになるため、創業前から営業をかけておくことも重要です。
また、資金繰り計画書は、3年分ほど用意しましょう。
融資を受けるための手続き
融資を受けるためには、以下のようなステップを踏みます。
- 申込
- 必要書類の作成・提出
- 融資担当者との面談
- 審査
- 融資実行
面談では、自己資金の額や資金の使い道、返済計画などが質問されます。事業プランについても質問されるため、事業計画書をもとにわかりやすく説明できるよう準備することが必要です。
審査には2週間〜1ヶ月程度要することが多いです。そのため、申し込んでから融資が実行されるまで、ある程度の時間がかかります。余裕を持って準備を進めましょう。
融資や補助金制度などを活用し、会社設立時の資金調達に活かす
今回は、会社設立時に使える資金調達方法を紹介し、なかでも設立時に使える補助金・助成金制度や、融資制度について解説しました。
設立時は、出資や融資・クラウドファンディングなどさまざまな手段で資金を調達できます。特に、補助金・助成金制度は返済不要で利用できるため、おすすめの手段です。各手段のメリット・デメリットを勘案し、ニーズに沿った資金調達方法を選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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