- 更新日 : 2022年1月13日
法人成りのメリットとデメリット
起業するときは、はじめから法人を設立する場合と、まずは個人事業でスタートしてあとで法人を設立する場合があります。個人事業から法人を設立することを「法人成り」と呼びます。
個人事業でスタートして事業が軌道に乗ってくると、一度は法人成りを考えるのではないでしょうか。これから、株式会社の設立を前提に法人成りのメリットとデメリットをご紹介します。法人成りを考えるときの参考にしてください。
目次
法人成りのメリット
税制上有利になる
法人成りのメリットにはさまざまなものがありますが、税制上のメリットは見逃せません。
【経営者自身の所得税で給与所得控除が使える】
法人成りをして会社から給与を受け取るようにすれば、経営者自身の所得税で給与所得控除が使えます。給与所得控除は、55万円から195万円(2020年分以降)の範囲で所得から差し引くことができるので、節税につながります。
【経営者自身の所得税の税率が低くなる】
所得税は所得が高くなるにつれて税率が上がり、最高で45%になります。加えて10%の住民税がかかります。一方、法人税や事業税などを合わせた法人の実質的な税負担は、中小企業では30%台にとどまります。
一定以上の所得が見込まれる場合は、事業で得た収益から経営者自身に給与を支払って、残りを法人の所得にします。そうすることで、法人と経営者個人に所得が分散され、経営者自身の所得税の税率を低く抑えることができます。
どれぐらい所得があれば、または経営者の給与をいくらにすれば所得分散のメリットが受けられるかを知るためには、綿密なシミュレーションが必要です。法人成りの税務に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
【消費税が最大2年間免除される】
個人事業から法人成りをすると、消費税法の上では新しい事業者とみなされます。
新たに設立された法人については基準期間(原則としてその事業年度の前々事業年度)が存在しないため、設立1期目と2期目は原則として消費税の免税事業者となります。
ただし、基準期間が存在しなくても、特定期間(原則として前事業年度の上半期)における課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えた場合は、その課税期間から消費税の課税事業者になります。
免税のメリットを最大限に受けたい場合は、決算月を何月にするかを考慮しなければなりません。なお、消費税が免税されるのは資本金が1,000万円未満であることなど一定の要件があります。
賠償の範囲が限定できる
税制上のメリットと並ぶ法人成りのメリットは、損害の賠償の範囲が限定できる点です。
事業で大きな損失が出た場合、株式会社であれば、経営者が被る損害は会社に出資した金額の範囲にとどまります。
会社の資産と経営者の私的な財産は切り離されているため、経営者は出資した金額を失うことはあっても、私的な財産を使ってまで損害を補てんする必要はありません。(ただし、会社の借入金に対して経営者個人が保証人になっている場合は除きます。)
一方、個人事業であれば、経営者の私的な財産を処分してでも損失の補てんに充てなければなりません。損失が巨額であれば、自己破産に追い込まれるケースもあります。
対外的な信用が増す
個人事業と法人では、対外的な印象が違います。大企業では法人であることを取引の条件に定めるケースもあり、法人であることが取引上有利になることがあります。
法人成りのデメリット
法人の設立に手間と費用がかかる
個人事業を始めるときは、特に許認可が必要なければ、税務署と都道府県に個人事業の開業届を提出するだけで手続きが終わります。手数料は不要です。
法人を設立するときは、会社の基本的な規則である定款を定めて公証役場で認証を受け、法務局で法人設立の登記をしなければなりません。これらの手続きでは定款認証手数料や登録免許税などが必要になり、手続きを専門家に依頼すれば報酬もかかります。
株主総会・取締役会など運営に手間がかかる
株式会社では、年度ごとに株主総会を開催しなければなりません。このほか、取締役会を設置している場合は、定期的に取締役会も開催しなければなりません。
小規模な会社であれば、取締役会を設置しないこともできますが、株主総会を省略することはできません。
株主総会や取締役会を開催したときは議事録を取っておく必要があります。
社会保険への加入が義務付けられる
個人事業では、雇っている人が4人までであれば社会保険(厚生年金、健康保険)への加入義務はありません。一方、法人成りをすると、人数にかかわらず社会保険への加入が義務付けられます。
社会保険料を従業員と会社で半分ずつ負担するため人件費が上がるほか、手続き等の事務負担が増えてしまいます。
なお、労働保険は1人でも従業員を雇えば個人事業であっても加入しなければなりません。
赤字でも7万円の法人住民税がかかる
個人事業と法人では、下記の表のように税制が異なります。このような税制の違いから受けられるメリットもありますが、デメリットもあります。
法人住民税には均等割と呼ばれる部分があり、所得の有無にかかわらず年間7万円が課税されます。
個人と法人の税制の違い
個人事業 | 法人 |
---|---|
● 所得税 ● 住民税 ● 個人事業税(事業所得が290万円まで非課税) | ● 法人税 ● 法人住民税(年間最低7万円) ● 事業税 (このほか経営者自身に所得税と住民税が課税される) |
まとめ
事業が軌道に乗ってくると、税金対策や対外的な信用の面から、法人成りを選ぶケースがあります。ただし、事務処理や社会保険で相応の負担が必要になります。
法人成りをした方がよいかどうかの判断は、特に税務の面でケースバイケースとなります。メリットとデメリットをよく見極めて判断することが大切です。
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