• 作成日 : 2025年11月25日

零細経営とは?中小企業との違いや支援制度、成功のコツを解説

零細経営とは、一般に中小企業基本法の「小規模企業者」がイメージとして最も近く、製造業・建設業・運輸業等は常時使用する従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は5人以下の小規模な事業運営を指します。迅速な意思決定が強みですが資金繰りや人材確保が課題となりがちです。

そのため、国や自治体は小規模事業者持続化補助金などの支援制度を用意し、事業の継続と成長を後押ししています。

日々の業務のなかで資金調達や人手不足といった、零細企業ならではの悩みに直面している経営者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、零細経営の特徴から中小企業との違い、具体的な課題、活用できる支援制度までをわかりやすく解説します。

目次

零細企業とは?

零細企業(れいさいきぎょう)とは、資本金が少なく、きわめて小規模な企業を指す言葉です。法律に「零細企業」という明確な定義語はありませんが、現場では中小企業基本法における「小規模企業者」の規模感(製造業・建設業・運輸業等は常時使用従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は5人以下)を指すことが多いです。

参照:中小企業基本法 | e-Gov法令検索

一般的な従業員数による規模の目安

零細かどうかを判断する実務上の基準として、小規模企業者の従業員数が用いられます。

業種常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業、その他20人以下
卸売業、小売業、サービス業5人以下

個人事業主が従業員を雇う場合との違い

個人事業主が従業員を雇って事業規模が同程度になったとしても、「零細企業」とは呼びません。両者の違いは「法人格」があるかないかによります。

  • 零細企業:株式会社や合同会社といった法人格を持つ会社です。法律上、経営者個人とは別の存在として扱われます。
  • 個人事業主法人を設立せず、個人として事業を営む形態です。事業の責任はすべて事業主個人が負います。

したがって、たとえサービス業で従業員を3人雇っている個人事業主がいたとしても、その事業形態は「個人事業主」であり、法人である「零細企業」とは区別されます。

中小企業との違い

中小企業は、零細企業(小規模企業者)を含む、より大きな枠組みです。中小企業基本法では、業種ごとに資本金の額と従業員数で中小企業の基準が定められています。零細企業は、その中小企業のなかでも特に規模が小さい事業者を指す区分です。つまり、すべての零細企業は中小企業に含まれますが、すべての中小企業が零細企業であるわけではありません。

参照:中小企業・小規模事業者の定義|中小企業庁

零細経営ならではの強み(メリット)は何か?

零細経営は、その小規模さゆえに、大企業にはない強みを持っています。経営資源が限られている一方で、それを補って余りあるメリットを活かすことで、市場での競争力を確保できます。

素早い意思決定で市場の変化に対応できる

経営者と従業員の距離が近く、組織の階層が少ないため、経営判断や方針転換を素早く行えます。市場の小さな変化や顧客の新たなニーズを敏感に察知し、即座に商品やサービスに反映させることが可能です。この機敏さは、大企業が社内調整に時間を要する間に、新たなビジネスチャンスを獲得するうえで有利に働くでしょう。

柔軟な運営で顧客と密な関係を築ける

官僚的な手続きや複雑な承認プロセスがなく、新しい戦略や商品を迅速に導入できます。また、事業展開が特定の地域に根ざしているケースが多く、顧客一人ひとりとの関係を密に築きやすいのも特徴です。顧客からの直接のフィードバックが、サービスの改善や新たなビジネスチャンスにつながることも少なくありません。

大手が狙わないニッチ市場で強みを発揮しやすい

大企業が参入しにくい専門性の高い分野や、小規模な市場(ニッチ市場)で独自の強みを発揮しやすい傾向にあります。独自の技術や長年培ってきたノウハウを活かし、特定の顧客層に深く刺さるサービスを提供することで、安定した収益基盤を築くことが可能です。特定の分野で「第一人者」としての地位を確立できれば、価格競争に陥ることなく、高い専門性を求める顧客から選ばれる存在になれます。

零細経営が抱えやすい弱み(デメリット)と課題は?

多くの強みを持つ一方で、零細経営は規模が小さいことに起因する特有の課題や弱みを抱えています。これらの課題を事前に認識し、対策を講じることが事業継続の鍵です。

資金繰りが難しく資金調達の選択肢が限られる

キャッシュフローの管理が難しく、運転資金の確保が常に課題となります。自己資金に限りがあるうえ、金融機関からの融資や外部からの投資を受けにくい傾向があり、資金調達の選択肢が限られがちです。そのため、事業拡大に向けた設備投資や、不測の事態に備えるための内部留保を十分に確保することが難しくなる傾向があります。

人材の確保や育成が課題になりやすい

事業規模に見合った人材の確保が難しく、特に専門的なスキルを持つ優秀な人材を集めるのは容易ではありません。また、採用後も体系的な教育・研修制度が整っていない場合が多く、従業員のスキルアップが個人の努力に依存しがちです。結果として、業務が特定の従業員のスキルに依存する「属人化」が進みやすく、その人材が離職した際のリスクも大きくなります。

後継者が見つからず事業承継が進みにくい

経営者の高齢化が進む一方で、適切な後継者が見つからないという問題は深刻です。経営が経営者個人の能力や人脈に大きく依存している場合、後継者不足が事業の存続を危うくするケースが少なくありません。長年培った技術や顧客との信頼関係といった、目に見えない資産の引き継ぎが難航し、結果的に廃業を選択せざるを得ない場合もあります。

福利厚生の充実やデジタル化で後れを取りがち

大企業に比べて、十分な福利厚生を提供できないことがあります。これが人材確保をさらに難しくする要因にもなります。また、専門知識や導入費用の問題から、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まず、業務効率化や生産性向上で後れを取ってしまうケースもみられます。これらの遅れは、生産性の低下に直結するだけでなく、魅力的な労働環境を求める若い世代の人材から敬遠される要因にもなり得ます。

零細経営で活用できる支援制度とは?

国や地方自治体は、零細企業が抱える資金繰り、販路開拓、生産性向上、人材確保といった多様な課題に対応するため、原則として返済不要の「補助金」や「助成金」を用意しています。自社の課題に合った制度を積極的に活用することで、事業の継続と成長につながるでしょう。

多くの制度は事前申請・交付決定後に事業着手、後払い(精算払い)が原則で、公募回数・予算・要件は年度で変動します。最新情報は必ず公式サイトで確認してください。

小規模事業者持続化補助金:販路開拓や事業の持続化

販路開拓や生産性向上に取り組む小規模事業者を対象とした補助金です。店舗の改装、ウェブサイトの作成、新たな広告の出稿など、事業の持続的な発展に向けた取り組みにかかる経費の一部が補助されます。商工会や商工会議所のサポートを受けながら申請できるため、初めて補助金を活用する事業者にも利用しやすい制度です。

ただし、補助率・上限額・対象経費・特例要件などは年度ごとに変更があるため、最新の公募要領を必ず確認してください。

参照:小規模事業者持続化補助金について|中小企業庁

IT導入補助金:DXや業務効率化

DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務効率化を目的として、会計ソフト・受発注システム・勤怠管理システムなどのITツールを導入する際、その導入費用の一部を補助する制度です。

制度名称は「IT導入補助金」で、対象となるのは、あらかじめ登録されたIT導入支援事業者が提供するツール・サービス とその導入関連役務です。

複数の申請枠が設定されており、たとえば「インボイス制度対応枠」や「セキュリティ対策推進枠」なども含まれています。申請要件、補助率、補助上限額、対象経費などは回次・年度によって異なるため、最新の公募要領を確認することが重要です。

参照:IT導入補助金2025|中小企業庁

ものづくり補助金:新製品開発や生産性向上

革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの改善といった生産性向上に必要な設備投資などを支援する補助金です。「ものづくり」という名称ですが、製造業だけでなく、商業やサービス業も対象となります。

最新の公募要領に定められた基本要件(付加価値額の成長、賃金改善、最低賃金水準の引上げ等)を満たす必要があり、補助上限・補助率・対象経費・申請手続きも回次・年度により異なる場合があります。

参照:ものづくり補助金総合サイト|中小企業庁

業務改善助成金:生産性向上と賃金引上げ

事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、生産性向上のための設備投資(POSレジシステムの導入、在庫管理システムの導入など)を行った場合に、その設備投資費用の一部を助成する制度です。生産性向上と従業員の賃金アップを同時に目指す場合に活用できます。引き上げる賃金額や従業員数に応じて助成の上限額が変わる仕組みです。

実際の対象経費の 具体的範囲・条件(ITツール・ソフトウェア・設備・コンサル等) は公募要領で毎年度詳細が定められています。

参照:業務改善助成金|厚生労働省

両立支援等助成金:従業員の育休・介護休業取得の支援

従業員の仕事と家庭の両立を支援する事業主に対して支給される助成金です。例えば「育児休業等支援コース」では、従業員が育児休業を取得した際に、代替要員を新たに確保し、休業していた従業員を原職に復帰させた場合に助成金が支給されます。

その他、男性従業員の育児休業取得を促進するコースや、介護離職を防止するための支援コースなどもあります。

コースごとに「要件」「助成金額」「対象となる取組の内容」が異なり、交付決定前の取組着手禁止・申請要件の順守が必須となっています。

参照:子ども・子育て 両立支援等助成金|厚生労働省

キャリアアップ助成金:従業員の雇用や労働環境改善

パートタイマーや契約社員、派遣労働者といった非正規雇用の労働者のキャリアアップ(正社員化、処遇改善など)を促進する取り組みを行った事業主に対して助成されます。対象となるのは、正社員への転換や賃金アップ、教育訓練の実施、資格の取得支援などの取り組みです。「正社員化コース」や「賃金規定等改定コース」など複数のコースがあり、人材の定着を図り、安定した労働力を確保するのに役立ちます。

支給対象となる「事業主」は、 雇用保険適用事業所であること、かつ キャリアアップ計画を所轄労働局長に提出し、認定を受けていること等の要件があります。

参照:キャリアアップ助成金|厚生労働省

人材開発支援助成金:従業員のスキルアップ支援

従業員のスキルアップのために、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための訓練などを計画に沿って実施した場合に、その訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などが助成される制度です。従業員の能力開発を支援することで、企業全体の生産性向上につなげることを目的としています。デジタル人材の育成や定額制の研修サービス(サブスクリプション型)の利用も対象となるなど、多様な訓練に対応しています。

申請には、事業主が職業能力開発推進者を選任し、訓練実施計画を労働局に届け出るなどの要件があります。

参照:人材開発支援助成金|厚生労働省

各自治体の独自の支援制度

都道府県や市区町村などの地方自治体が、地域経済の活性化や創業支援を目的として、独自の助成金・補助金・低利融資制度を設けているケースがあります。

例えば「創業助成金」「起業支援補助金」、専門家派遣のサポート、信用保証料や利子の補助を含む制度融資など、その内容は自治体ごとに多岐にわたります。

申請を検討する際には、必ず事業所所在地の自治体や管轄商工会・商工会議所の公式サイトで、「制度名・申請要件・補助上限額・申請期間・他制度との併用可否」などを最新の公募要領に基づいて確認しましょう。

零細経営を成功に導くためのポイントは?

零細経営が持つ強みを最大限に活かし、弱みを克服するためには、戦略的な視点が欠かせません。ここでは、限られた経営資源で成果を出すための実践的なポイントを解説します。

強みを最大限に活かす戦略を立てる

自社の強みが何であるかを正確に把握し、その強みが最も活きる市場で戦うことが大切です。例えば、特定の技術力に自信があるなら、その技術を求めるニッチな顧客層にターゲットを絞り込みましょう。価格競争に巻き込まれるのではなく、「あなたから買いたい」と言われる独自の価値を提供することで、小規模でも高い収益性を実現できます。

デジタルツールを積極的に活用する

人手不足や業務効率の課題は、デジタルツールを活用することで大きく改善できます。会計ソフトを導入すれば経理業務が簡素化され、コミュニケーションツールを使えば情報共有がスムーズになります。クラウドサービスなどを活用すれば、低コストで大企業並みの業務環境を整えることも可能です。デジタル化は、弱みを補い、競争力を高めるための投資ととらえましょう。

外部の専門家やネットワークを活用する

自社にない知見は、外部リソースで迅速に補いましょう。税理士・社会保険労務士・中小企業診断士に加えて、認定経営革新等支援機関や商工会・商工会議所の伴走支援を活用すると、補助金申請や金融機関説明、原価・採算改善の精度が高まります。

地域の勉強会・同業ネットワークに参加し、成功事例の学習と共同仕入・共同受注などの協業機会を探ることも、新たな売上と効率化につながります。

公的支援制度をフル活用して資金問題を乗り越える

資金繰りは零細企業の常に課題です。自己資金・融資だけでなく、返済不要の補助金・助成金を戦略的に活用しましょう。たとえば小規模事業者持続化補助金は販路開拓、IT導入補助金はデジタル化に有効です。

いずれも審査採択制で、最新の公募要領(対象者・対象経費・上限・補助率・締切・併用可否)を確認のうえ、事業計画の整合性・見積根拠・スケジュール管理を整えることがカギです。商工会・商工会議所や認定支援機関の支援を受けると、採択可能性と実行性が高まります。

働きがいのある職場で人材を確保・定着させる

大企業と同じレベルの給与や福利厚生を提供するのは難しくても、零細企業ならではの魅力で人材を惹きつけることは可能です。例えば、風通しの良い職場環境、幅広い業務に携われる裁量権の大きさ、経営者と近い距離で働けることなどは、大企業にはない大きな魅力です。

従業員のスキルアップのための研修参加を支援したり、柔軟な働き方を認めたりするなど、働きがいを感じられる環境を整えることが、人材の確保と定着につながり、ひいては企業の成長を支える力となるでしょう。

農業における零細経営の実態と支援策は?

日本の農業は、その多くが家族経営の小規模(零細)形態で、経営者の高齢化や後継者不足、自然災害・価格変動による収入の不安定さといった課題を抱えています。これに対し、国や自治体は就農前~経営拡大~収入安定まで段階に応じた支援策を整備しています。

主な制度は以下のとおりです。

  • 就農準備資金/経営開始資金(農業次世代人材投資事業)
    49歳以下を主対象に、就農前の研修段階(準備資金)や経営開始直後(経営開始資金)に月額交付で生活・経営立上げを支援しています。申請・相談窓口は自治体や普及センター等です。
  • 青年等就農資金
    新たに農業経営を始める若年層等に対し、長期・無利子で必要資金を貸し付ける融資制度です。申請様式作成前に都道府県(普及指導センター)・市町村・日本政策金融公庫等に必ず相談することが推奨されています。
  • スーパーL資金(日本政策金融公庫・農林水産事業)
    認定農業者の経営改善や規模拡大等を低利・長期で支える総合的な資金です。施設・機械等の更新・導入にも広く対応します。
  • 農地バンク(農地中間管理機構)
    都道府県知事が指定する公的機関が、所有者から借受けし担い手へ貸付し、農地の集積・集約化を進めます。地域によって「農地バンク」「機構」「公社」などの名称で案内されています。
  • 収入保険/農業共済(NOSAI)
    価格下落・天候不順・災害等による収入減少リスクを幅広くカバーします。収入保険は原則青色申告1年以上が加入要件で、補償限度は実績に応じて決まります。加入可否や補償内容は最新パンフで確認してください。

これらの制度の横断的な概要や最新情報は、農林水産省「農業経営支援策活用カタログ2025」に整理されています。個別制度の詳細・申請手続きは、各ページ記載の問い合わせ先や自治体窓口で必ず最新の要項をご確認ください。

参照:農業経営支援策活用カタログ2025|農林水産省

零細経営の特性を理解し、強みを活かした事業運営を

零細経営は、従業員数が少なく小規模な事業形態を指し、法律上の明確な定義はありませんが、迅速な意思決定やニッチ市場での強みといったメリットがあります。一方で、資金繰りや人材確保、事業承継といった共通の課題も抱えています。

これらの課題を乗り越えるためには、小規模事業者持続化補助金やIT導入補助金といった国や自治体の支援制度を効果的に活用しましょう。自社の置かれた状況と特性を正確に理解し、強みを伸ばし弱みを補う戦略的な経営を心がけることで、持続的な成長を実現できるでしょう。


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