- 作成日 : 2025年11月13日
持株会は節税になる?給与天引きの仕組みや従業員が知るべきリスク・メリットを解説
従業員持株会は、自社株を給与天引きで購入・積立できる制度として、多くの企業で導入されており、資産形成を目的に加入する従業員も増えています。
本記事では、持株会の基本や給与天引きの仕組み、発生する税金の種類やNISA・iDeCoとの違いなどを従業員の視点から整理します。
目次
持株会の仕組みは?給与から天引きされる?
従業員持株会とは、従業員が自社株式を少額ずつ継続的に購入・保有できる制度です。給与からの天引きによって自動的に積立投資が行われ、資産形成を効率よく進められる仕組みになっています。ここでは、給与天引きの流れや奨励金、株式の保有形態について解説します。
給与から天引きされる掛金で株式を購入する
持株会では、従業員が自ら設定した掛金が毎月の給与から自動的に差し引かれ、その資金で会社の株式が定期的に購入されます。天引きの対象となるのは、税引き後の手取り給与です。つまり、所得税や住民税が差し引かれた後の給与から拠出されるため、積立自体には節税効果はありません。
持株会への加入は任意であり、加入や脱退は自由です。ただし、給与天引きという形で実施するには、会社と労働者代表との間で労使協定を締結する必要があります。この仕組みにより、従業員は自ら株式を売買する手間をかけることなく、資産形成を習慣化しやすくなっています。
奨励金の支給により実質的な投資効果が高まる
多くの企業では、持株会の掛金に対して一定の奨励金を支給しています。これはいわゆる「マッチング拠出」にあたるもので、従業員の拠出額に応じて、企業が上乗せ資金を提供する形です。一般的には、1,000円の拠出に対して100円程度、つまり10%相当の奨励金が支給されるケースが多く見られます。
この奨励金も給与と同様に課税対象となりますが、税引後でも拠出額以上の株式が購入できるため、実質的には投資効率が高まる仕組みです。金利の低い現代において、拠出と同時に10%の利回りが得られるのは魅力であり、持株会の加入を後押しする要因のひとつになっています。
株式は持株会名義で保有される
従業員が拠出した資金で購入された株式は、個人名義ではなく、原則として「持株会名義」で保有されます。具体的には、持株会の代表者(理事長など)の名義で管理されており、各従業員の持分は持株会内部で記録される形式です。
このため、配当金や株主優待は直接従業員に届くのではなく、持株会を通して分配や再投資が行われます。特に配当金は、現金で支給されず持株会の購入資金として再投資されるケースも多く、複利効果による資産増加が期待できます。
また、株主優待については名義の関係で従業員が個人株主としての資格を持たず、対象外となる場合もあります。こうした管理形態の違いも、持株会を利用する際に理解しておくべきポイントです。
持株会に節税効果はある?
持株会は従業員の資産形成を支援する制度として多くの企業で導入されていますが、「節税」という観点では誤解されることもあります。ここでは、給与天引きによる拠出金の取り扱いや、配当金・売却益の課税、確定申告を通じた節税可能性について整理します。
拠出金自体には節税効果はない
持株会の掛金は、あくまで税引き後の手取り給与から天引きされるものであり、所得控除の対象にはなりません。そのため、拠出すること自体で所得税や住民税が軽減されることはありません。これは企業型確定拠出年金(企業型DC)などのように、掛金が非課税扱いとなる制度とは異なる点です。
また、会社から支給される奨励金についても「給与所得」として課税対象であり、毎月の給与に合算されて源泉徴収が行われます。つまり、持株会制度そのものには直接的な節税の仕組みは存在しないというのが基本的な理解です。
配当控除や損益通算により間接的な節税は可能
持株会で購入した株式から得られる配当金や売却益には、原則として20.315%(所得税・住民税を含む)の税金がかかります。ただし、確定申告を通じて節税につなげられるケースも存在します。
たとえば、配当金については総合課税を選択し、所得に応じて「配当控除」を適用すれば、課税負担が軽くなる可能性があります。これは主に所得税率の低い人に有利な仕組みです。
また、売却損が出た場合には、同年中の他の株式取引と「損益通算」することで課税所得を減らすことができ、さらに翌年以降3年間にわたる「損失の繰越控除」によって将来の税負担を減らすことも可能です。これらは証券税制上の仕組みですが、上場株式であれば、持株会で取得した株式にも適用されます。
持株会で発生する税金の種類は?
持株会に関連して発生する税金は、大きく3つに分類されます。それぞれ「奨励金」「配当金」「売却益(譲渡益)」であり、いずれも従業員個人が課税対象となります。
奨励金は給与所得として課税される
持株会で会社から支給される奨励金は、福利厚生の一環であるものの「給与所得」として扱われます。これは、現金給与と同様に課税対象となるため、所得税および住民税がかかります。奨励金は通常の給与と合算され、会社側で源泉徴収が行われます。
毎月の拠出額に対して10%の奨励金が支給される場合、その奨励金分も給与と同じ税率で課税され、従業員が個別に確定申告する必要はありません。年1回などのまとめ払いであっても賞与と同様の処理となり、税務上の取扱いに変わりはありません。したがって、奨励金には節税効果はなく、実質的に給与が増える扱いである点を理解しておくことが重要です。
配当金は配当所得として源泉徴収される
持株会を通じて保有している自社株から配当が支払われた場合、その配当金は「配当所得」として課税されます。配当金には所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%(未上場株式は20.42%)が源泉徴収され、残額が従業員の手元に分配される形です。
なお、多くの持株会では配当金を現金で支給せず、そのまま株式購入資金に再投資する「再投資型」が採用されています。これにより配当は間接的に資産として蓄積されますが、税金はしっかり差し引かれているため、課税を免れるわけではありません。
また、確定申告を行えば「総合課税」によって配当控除が受けられる可能性もあり、所得が低めの人にとっては税負担を軽減できる余地があります。一方で、所得が高い人は源泉分離課税のままの方が有利な場合もあり、選択には慎重さが求められます。
売却益(譲渡益)は譲渡所得として課税される
持株会で積み立てた株式を売却して利益が発生した場合、その利益は「譲渡所得」として課税されます。税率は配当金と同じく20.315%です。譲渡益は「売却額から取得費や売買手数料などを差し引いた金額」で計算されます。
株式の売却益に対しても、通常は証券会社などで源泉徴収されるため、特定口座(源泉徴収あり)で取引していれば確定申告は不要です。ただし、源泉徴収なし口座や一般口座を使っている場合は、確定申告が必要になります。
さらに、上場株式の売却によって損失が出た場合は「損益通算」や「損失の繰越控除」により節税が可能です。他の上場株式の譲渡益や配当所得と相殺することで、結果的に課税額を減らすことができ、翌年以降3年間にわたり損失の繰越も適用できます。これにより、将来的な税負担を抑える対策としても活用が可能です。
従業員から見た持株会のメリットは?
従業員持株会は、給与からの天引きで自社株式を積立購入できる制度であり、資産形成を促す仕組みとして多くの企業で導入されています。ここでは主なメリットを解説します。
奨励金が受け取れることで投資効率が高まる
最大のメリットのひとつが、会社から支給される奨励金の存在です。多くの企業では、従業員が拠出する掛金に対して5〜10%程度の奨励金を支給しています。例えば、毎月1万円を拠出した場合、会社からさらに1,000円が上乗せされ、合計1万1,000円分の株式を購入できるという計算になります。
この奨励金は給与所得として課税されるものの、税引き後でも実質的に投資元本が増えるため、一般的な金融商品と比べて非常に高い初期利回りが得られる構造となっています。特に低リスク・低金利の環境では、この上乗せ効果は持株会制度を選ぶ動機として大きな魅力です。
配当金や売却益によるリターンが期待できる
持株会で購入した自社株は、当然ながら配当金や売却益の対象にもなります。企業の業績が良好であれば、株価上昇によるキャピタルゲイン(値上がり益)や安定した配当収入が見込めます。また、未上場企業においては、将来的に上場を果たした際に大きな売却益を得られる可能性もあります。
このように、会社の成長がそのまま従業員自身の資産増加につながる点は、持株会特有のメリットです。業績への当事者意識が高まり、日々の業務へのモチベーション向上にも結びつくことが期待されます。
給与天引きで強制的に資産形成が進む
持株会は給与から自動的に掛金が差し引かれるため、意識しなくても継続的な積立投資が可能になります。投資タイミングを見計らう必要がなく、株価の変動に惑わされずに淡々と積立が行われるため、ドルコスト平均法の効果も得られやすいです。
また、一般的に株式は100株単位でしか購入できないことが多いですが、持株会では1,000円単位などの少額から投資が可能な仕組みが整っているため、初心者や若手社員でも始めやすいのが特徴です。手間や知識が少なくても資産形成に取り組める点で、非常に実用的な制度と言えます。
従業員から見た持株会のデメリットは?
従業員持株会にはメリットだけでなくデメリットも存在するため、制度の特徴を理解したうえで判断することが重要です。ここでは、従業員側から見た主な注意点を解説します。
自社依存リスクが高まる懸念がある
最大のデメリットといえるのが「会社依存の集中投資リスク」です。持株会を通じて自社株に投資するということは、給与所得と投資対象が同じ企業に偏ることを意味します。万が一、会社の業績が悪化すれば、収入減と資産価値の下落が同時に起こるという二重のダメージを受ける可能性があります。
このような集中リスクを避けるためには、持株会への拠出額を資産全体の一部に抑え、その他の金融商品(投資信託、iDeCo、NISAなど)との併用による分散投資を行うことが求められます。
株式の換金性が低く、売却に時間がかかる
持株会で保有している株式を現金化する際には、通常の証券口座と異なり、持株会を通じた手続きが必要となります。事務局を経由して証券口座に株式を移管し、その後売却を行う流れになるため、実際に資金化するまでには数週間かかる場合があります。
また、会社によっては決算期前後にインサイダー取引防止の観点から売却を制限する「売却制限期間」が設けられていることもあり、急な売却が難しい場面も存在します。こうした換金性の低さは、急な出費や資金ニーズに対応しづらい要因となります。
株主優待が受け取れないことがある
もう一つの見落としがちなデメリットとして、「株主優待の不適用」が挙げられます。持株会で購入した株式は、原則として持株会名義(通常は理事長名義)で管理されており、個人株主とはみなされません。そのため、企業によっては株主優待の対象外とされる場合があります。
優待内容に魅力を感じて投資を行うタイプの個人投資家にとっては、優待が受け取れないという点は制度上の制限と感じられるかもしれません。
持株会とNISA・iDeCoとの違い、併用メリットは?
持株会・NISA・iDeCoはいずれも資産形成を目的とした制度ですが、特徴や税制上の扱いは大きく異なります。ここでは、制度の違いと併用による効果を整理します。
税制上の優遇があるのはNISAとiDeCo
持株会は自社株を購入する福利厚生制度であり、給与天引きによって積立が行われますが、税引き後の給与から拠出されるため税制上の優遇はありません。
一方で、NISAとiDeCoは政府が資産形成を促す目的で設けた「税制優遇制度」です。NISAでは株式や投資信託の運用益・配当が非課税になり、iDeCoでは掛金が全額所得控除の対象となるため、節税効果が高くなります。
ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、長期運用を前提とした老後資金作りに向いています。持株会は短期の資金需要にも対応しやすい点で柔軟性がある制度です。
参考:NISA特設ウェブサイト|金融庁 iDeCo公式サイト
投資先とリスク分散の考え方が異なる
持株会の投資先は自社株に限定され、会社の業績や株価に資産が大きく左右されます。奨励金によって投資効率は高まるものの、自社に資産が集中するためリスク分散には不向きです。
一方、NISAやiDeCoでは国内外の株式・債券・不動産投資信託(REIT)などに幅広く分散投資できます。特にインデックスファンドを用いた長期積立投資を行うことで、市場全体の成長を取り込む安定的なリターンが期待できます。
つまり、持株会は「勤め先への信頼投資」、NISAやiDeCoは「市場全体への分散投資」という性質の違いがあり、リスクヘッジの観点からは併用が理想的といえます。
制度を組み合わせることで資産形成のバランスが整う
3つの制度を併用することで、目的別に役割を分担できます。たとえば、持株会は奨励金による即時的な利回り確保を目的に、NISAは中長期的な資産運用を、iDeCoは老後資金の確保と節税を担うように設定します。
これにより、短期・中期・長期の資金をバランスよく運用でき、税制メリットを最大限に活かしつつリスクを分散できます。
持株会の奨励金で得られる確実な上乗せと、NISA・iDeCoの非課税枠を併用する戦略は、会社員にとって効率的な資産形成手段といえるでしょう。
資産形成の選択肢として持株会を見直そう
持株会は、給与天引きによる自社株の積立購入ができる制度として、手間をかけずに資産形成を進めたい従業員にとって有効な選択肢です。奨励金による実質的な利回りの向上や、強制貯蓄効果といったメリットがありますが、一方で税制上の優遇はなく、集中投資によるリスクや換金性の低さにも注意が必要です。NISAやiDeCoなどの他の制度との違いや併用効果を理解し、自分に合った活用方法を選ぶことで、よりバランスの取れた資産形成が実現できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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