• 作成日 : 2025年10月24日

エンジェル投資で節税するには?メリットや控除制度を解説

スタートアップ企業への出資を通じて、節税効果を得られる「エンジェル税制」が注目されています。高額所得者やキャピタルゲインを得ている投資家にとって、所得税や譲渡益課税の軽減が可能になるこの制度の適用を受けるには、出資者や投資先企業の条件を正確に理解しておく必要があります。

本記事では、エンジェル投資による節税の仕組みや控除の種類、税制改正による変更点などを解説します。

エンジェル投資で節税できる対象者・条件は?

エンジェル投資による節税制度は、個人が一定の要件を満たしたスタートアップ企業に対して出資することで、所得税や譲渡益課税の優遇を受けられる仕組みです。この節税メリットを活用できるのは、出資者と企業の双方が定められた条件を満たしている場合に限られます。以下では、投資家側と企業側に分けて見ていきます。

【出資者としての条件】個人かつ第三者性を持つ投資家

この制度の対象となるのは、基本的に「個人」であり、法人による出資は節税対象外です。また、未上場企業の「新株」を「現金」で取得することが前提であり、既存株式の譲渡による取得や、金銭以外の出資(現物出資など)は認められていません。

さらに、税制の趣旨が「第三者によるスタートアップ支援の促進」にあるため、投資家が創業者本人であったり、その近親者であったりする場合には適用対象となりません。同様に、自らの事業を承継させた会社への出資も除外されます。

出資後の持株比率にも制限があり、投資先が同族会社の場合、上位3位までの株主グループを順に加算し、その合計が50%を超える株主グループに投資家が属していると節税対象外となります。

これは、出資によって実質的に経営支配力を持つことを防ぐためです。以上から、節税メリットを受けられるのは、会社経営に直接関与せず、支配関係にも属さない「独立した第三者の個人投資家」であることが前提となります。

【投資先企業としての条件】設立年数と成長性を満たすスタートアップ

節税を受けるには、出資先の企業もまた、所定の条件を満たしていなければなりません。まず前提となるのが、企業が「未上場であり、設立から10年未満の中小企業」であることです。業種ごとに資本金や従業員数の上限も定められており、いわゆるベンチャー企業・スタートアップの定義に該当している必要があります。

加えて、優遇措置の種類によって設立年数の要件も異なります。優遇措置Aおよびプレシード・シード特例を受けるには設立5年未満、優遇措置Bであれば設立10年未満であることが条件です。

企業の成長性に関しても一定の基準が求められます。過去の事業年度での研究開発活動、売上高の成長率などが評価対象となり、成長意欲のある事業計画が存在していることが望まれます。また、外部資本の導入状況も条件に含まれており、少なくとも株主構成の1/6以上が第三者による出資で構成されている必要があります。なお、プレシード・シード特例ではこの比率が1/20以上に緩和されます。

さらに、投資先企業が風俗営業や金融業など特定業種に該当する場合や、大企業の子会社やグループ企業である場合は、エンジェル税制の対象とはなりません。これらの条件をすべて満たした上で、企業が経済産業局等からの確認書を取得している必要があります。

エンジェル税制の控除内容は?

エンジェル税制は、スタートアップ企業に対する出資を行った個人投資家に対し、所得税や譲渡益税の優遇措置を提供する制度です。出資のタイミングや投資先企業の成長段階によって適用される控除内容は異なり、大きく分けて「優遇措置A」「優遇措置B」「プレシード・シード特例」の三つが用意されています。

【優遇措置A】総所得からの控除による節税

優遇措置Aは、設立から5年未満のスタートアップ企業に対して出資した場合に適用されます。この制度では、投資額から2,000円を差し引いた金額を、その年の「総所得金額」から控除することができます。総所得とは、給与所得事業所得、不動産所得などの合算で、これを圧縮できるため、所得税および住民税の負担を軽減することが可能です。

控除の上限は、「総所得金額の40%」または「800万円」のいずれか低い方と定められており、特に所得が高い層にとっては節税メリットが大きくなります。たとえば、年収1,000万円の会社員が300万円をエンジェル投資に充てた場合、約298万円の所得控除が適用され、税率に応じた節税効果が発生します。

注意点として、この優遇措置を受けた場合、将来的に株式を売却した際には「取得費調整」が行われ、控除された分が譲渡益に加算されるため、課税が繰り延べになる性質があります。

【優遇措置B】株式譲渡益からの控除による節税

優遇措置Bは、設立から10年未満の企業に対する出資に適用される制度で、出資額をその年に発生した「株式譲渡益」から控除できるのが特徴です。たとえば、その年に上場株式などを売却して500万円の譲渡益がある場合、エンジェル投資で300万円を出資していれば、その300万円分が譲渡益から控除され、残りの200万円にのみ課税されます。

この制度の利点は、株式譲渡益の範囲内であれば控除額に明確な上限規定が設けられていない点です。譲渡益の範囲内であれば、出資額全額を控除できるため、高額なキャピタルゲインを得た年においては有効な節税手段となります。また、所得控除ではなく譲渡益に直接作用するため、年収の多寡に関係なく節税インパクトが期待できます。

ただし、この措置も将来的な売却時には取得価額の調整が必要となるため、節税効果はあくまでタイミングの繰り延べに近い性質を持ちます。

【プレシード・シード特例】将来の譲渡益が非課税に

プレシード・シード特例は、創業直後の企業(設立5年未満かつ一定の外部資本・成長性を備えたスタートアップ)への出資に対して、特に大きなインセンティブを与える制度です。この特例は、寄附金控除の特例に近い性質であり、総所得から控除する特性があります。

つまり、対象企業への出資により取得した株式を将来売却して多額の利益が出たとしても、条件を満たしていれば特例によりその利益の一部または一定額まで所得税や住民税がかからないという強力な節税効果が得られます。

ただし、非課税措置を受けるにはいくつかの条件があります。特に重要なのは、「出資した株式を取得翌年末まで保有すること」で、短期売却を行うと非課税ではなく、優遇措置Bと同様の課税繰延の対象になります。また、企業側も特例適用に必要な成長性や資本構成の要件(例:外部資本が総株主数の5%以上)を満たし、行政からの確認書の取得が必要です。

この特例は、スタートアップ投資で大きなリターンを狙う個人投資家にとって魅力的ですが、企業選定の目利きやリスク判断が一層重要になります。

控除メニューの戦略的に活用しよう

これらの3つの控除制度は、投資家が状況や目的に応じて選択することが可能です。同じ出資でも、たとえばその年に譲渡益がない場合には「優遇措置A」による所得控除を選ぶことで効果が最大化されます。一方、譲渡益が大きい年には「優遇措置B」や「特例」を使うことでキャピタルゲインへの課税を回避できます。

エンジェル投資による節税と他の節税制度の違いは?

エンジェル投資による節税は、所得控除や税還付とは異なる仕組みで、他の代表的な節税制度と比較することでその特徴が明確になります。

iDeCoとの違い:長期運用 vs. 即時控除

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、将来の年金受け取りを目的とした長期運用制度です。掛金は全額所得控除の対象ですが、原則60歳まで引き出せないという流動性の低さが特徴です。一方、エンジェル投資では出資した年にすぐ節税効果を得ることが可能であり、特に所得が高い年や譲渡益が出た年に有利です。ただし、投資先の企業が倒産すれば元本を失うリスクがある点が決定的な違いです。

参考:iDeCo公式サイト

ふるさと納税との違い:確実な還付 vs. リターン型節税

ふるさと納税は、寄附金に応じた税額控除と返礼品が受け取れる制度で、リスクがない代わりに節税効果は限られています。控除上限も住民税の一部に限られるため、節税インパクトは小さめです。これに対してエンジェル投資は、一定の条件下で数百万円単位の控除が可能であり、将来的な譲渡益非課税も狙えるハイリターン型の節税策です。ただし、投資先の選定には慎重さが求められます。

参考:よくわかる!ふるさと納税|総務省

小規模企業共済との違い:退職金準備 vs. 成長支援投資

小規模企業共済は、個人事業主や中小企業経営者向けの「退職金準備制度」として設計されています。掛金は全額所得控除され、元本保証に近い低リスク商品です。これに対し、エンジェル投資はスタートアップ支援という性格を持ち、投資の社会的意義も大きいですが、元本保証はなく流動性も不確定です。より高いリターンを求める個人投資家向けの制度といえるでしょう。

参考:小規模企業共済とは | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構

2025年の税制改正におけるエンジェル税制の変更点は?

2025年(令和7年度)の税制改正では、エンジェル税制の運用に関して複数の見直しが行われました。以下では、改正の主要ポイントを解説します。

再投資期間の延長

これまで、株式などを売却して譲渡益が生じた年に、その利益を非課税化または軽減する目的でエンジェル投資を行う場合、その年内に対象企業に出資する必要がありました。しかし、2025年の改正では、「再投資期間」が翌年末まで延長されました。

これにより、投資家は譲渡益が生じた年の翌年12月31日までに出資を行えば、その出資分を前年の譲渡益から控除できる「繰戻し控除(還付)」が可能になります。この制度変更により、出資判断に時間的余裕ができ、短期間で無理に投資先を探す必要がなくなりました。結果として、より慎重かつ戦略的な投資判断が可能になっています。

非課税措置における保有期間の明確化

プレシード・シード特例や起業特例では、一定の要件を満たせば、将来得られる株式の譲渡益を非課税とする優遇措置が設けられています。2025年の改正では、この非課税措置の「適正な活用」を確保するため、新たに保有期間の要件が追加されました。

具体的には、非課税措置を適用した株式については、取得した翌年の12月31日まで保有し続けることが求められます。もしその期間内に株式を譲渡した場合は、非課税ではなく、優遇措置Bと同様の「課税繰延扱い」に切り替わることになります。

ただし、IPO(株式上場)やM&A(買収・合併)などやむを得ない売却が発生した場合は例外となり、この保有期間制限の対象外とされています。

株式異動に関する通知義務の拡大

これまで、エンジェル税制の適用を受けた株式が譲渡や贈与された場合、企業側が税務署へ提出する「株式異動状況通知書」は、特定の要件(例:控除額が20億円を超えるなど)を満たす場合に限られていました。

2025年4月以降の改正では、この通知義務がすべての株式譲渡・贈与に対して拡大されました。つまり、適用額の大小に関係なく、企業は税務署に対して株式異動の事実を通知する義務を負うことになります。また、投資家には「株式異動状況明細書」が交付される必要があり、制度全体としての透明性が一段と強化されました。

このような改正により、エンジェル税制の信頼性が高まり、不正利用の抑制とともに、真にスタートアップ支援を目的とした投資が促進される制度設計となっています。

エンジェル投資を活用して賢く節税しよう

エンジェル税制は、スタートアップへの出資を通じて高い節税効果を得られる制度であり、所得控除・譲渡益控除・非課税措置といった優遇策が用意されています。ただし、投資家自身が「個人」であることや、投資先企業が設立年数・成長性・事業規模などの条件を満たしていることが適用の前提です。他の節税制度と特性を比較し、自身の収入・資産状況・投資戦略に応じて、賢く制度を選び、効果的に活用していきましょう。


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