• 更新日 : 2025年10月21日

住民税は法人化でいつから払う?個人事業主との違いや計算方法

法人化(法人成り)すると住民税は、個人と法人で仕組みが大きく異なり、赤字でも支払い義務が生じるなどの注意点があります。しかし、役員報酬の設定を最適化すれば、個人事業主のときより税負担を軽減できるメリットもあります。

この記事では、法人化によって住民税がいつからどう変わるのか、個人事業税の納税や節税効果を高める方法まで、わかりやすく解説します。法人化で損をしないための知識を身につけましょう。

法人化で個人の住民税の支払いはどう変わる?

法人化した場合、法人住民税は設立したその日から課税対象期間に含まれますが、実際に最初の支払いが発生するのは、設立第1期の決算日から2ヶ月以内です。

初年度は、前年の個人事業主としての所得に対する住民税の支払いも続くため、支払いが重なる点に注意が必要です。

また、法人化に伴い住民税の支払い方法が、自分で納付書を使って納める「普通徴収」から、会社が給与から天引きして納める「特別徴収」に変わるのが一般的です。ただし、会社や役員の状況によっては普通徴収を選択できる場合もあります。

個人事業主と法人の税金の違い

個人事業主と法人の住民税の違いとして、個人事業主が納める「住民税」に対し、法人は「法人住民税」を納める点が挙げられます。同様に、事業の利益にかかる中心的な税金も、個人事業主は「所得税」、法人は「法人税」となり、それぞれ仕組みが異なります。国税と地方税をあわせた全体像は、以下のとおりです。

個人事業主法人
国税
  • 所得税
  • 消費税(課税事業者のみ)
  • 法人税
  • 消費税
地方税
  • 住民税
  • 個人事業税
  • 法人住民税(都府県民税・市町村民税)
  • 法人事業税
  • 地方消費税(消費税に含まれる)

住民税はいつの所得にかかる?

住民税は、前年の1月1日から12月31日までの所得に対して課税される仕組みです。この制度を「前年所得課税」といいます。

たとえば、2025年9月末で個人事業主をやめて10月1日に法人化した場合、2025年1月1日から9月30日までの個人事業主としての所得に対して住民税が課税されます。この住民税の納税通知書が、翌年の2026年6月頃に届き、そこから支払いが始まることになります。

法人化1年目は住民税の支払いが重なる?

法人化の初年度とその翌年は、住民税の支払いが一時的に重なる時期があるため注意が必要です。 

例として、2025年10月1日に法人化した場合の、翌年2026年の税金の流れで具体的に見てみましょう。

  • 2026年6月~:個人事業主の住民税を納付
    • 2025年1月~9月の個人事業主だった期間の所得に対して課税された住民税を納付します。
  • 2026年11月頃:法人住民税を納付
    • 法人の第1期(2025年10月~2026年9月)の決算後に、法人の利益に対して課税された法人住民税を納付します。

このように、2026年は「個人事業主としての住民税」と「法人としての住民税」の両方を支払う年になるため、あらかじめ資金計画に盛り込んでおくことが大切です。

支払い方法は「普通徴収」から「特別徴収」へ

法人を設立して自分に役員報酬を支払う場合、住民税の支払い方法は「特別徴収」に切り替えるのが原則です。

徴収方法概要納付する人納付回数
普通徴収市区町村から送られてくる納付書で自分で納付する方法個人事業主年4回
特別徴収会社が毎月の役員報酬(給与)から天引きして納付する方法会社(法人)年12回

特別徴収へ切り替えるには、各従業員(役員を含む)の居住地の市区町村に「特別徴収への切替申請書」等を提出します。前職から特別徴収だった場合は「給与所得者異動届出書」も併せて提出します。

法人住民税の仕組み

法人住民税は、法人が事業所を置く都道府県と市区町村に納める地方税です。計算は、法人税額をもとに算出する「法人税割」と、資本金等の額や従業員数に応じて赤字でも必ず課税される「均等割」の2つを合計して行います。

法人住民税の目的と内訳(都道府県民税・市町村民税)

法人住民税は、法人がその地域に事務所などを置いて事業を行うことで受けている、ゴミの収集や道路交通の整備、警察・消防といったさまざまな行政サービスの財源を支える役割を持っています。

法人住民税は、以下の2つを合算したものです。

  • 都道府県民税:事業所がある都道府県に納める税金
  • 市町村民税:事業所がある市区町村に納める税金

東京23区に事業所がある法人の場合は、特別区制度によりこれらをまとめて「法人都民税」として都税事務所に納めます。

参考:法人住民税|総務省

法人税・法人事業税との違いは?

法人が納める法人税、法人住民税、法人事業税の3つの税金は、それぞれ課税主体や目的が異なります。

税金の種類課税主体目的・性質経費計上
法人税国(国税)会社の利益(所得)に対して課税されるできない
法人住民税地方自治体地域社会の行政サービス費用を分担できない
法人事業税地方自治体事業活動で利用する公共サービスの費用を分担できる

とくに、法人事業税は経費(損金)として計上できる点が、他の2つの税金との大きな違いです。

出典:法人事業税|総務省

法人住民税の計算方法

法人住民税の税額は、①法人税額に応じて課税される「法人税割」と、②資本金等の額と従業員数に応じて定額が課税される「均等割」の2つを合計して決まります。

それぞれの計算方法を順番に見ていきましょう。

法人税額に応じて課税される「法人税割」

法人税割は、国に納める法人税の額を基準に計算される部分です。利益が出て法人税を納める会社のみが対象となります。

課税標準となる法人税額 × 税率 = 法人住民税法人税割

税率は、基準となる「標準税率」と、上限である「制限税率」が国によって定められており、各自治体はこの範囲内で税率を設定します。

標準税率 (2019年10月1日以降)制限税率
都道府県民税1.0%2.0%
市町村民税6.0%8.4%

たとえば、法人税額が100万円の場合、標準税率で計算すると法人税割は7万円(100万円×(1.0%+6.0%))となります。

出典:法人住民税・法人事業税|総務省

「均等割」

均等割は、会社の利益(所得)に関係なく、資本金等の額や従業員数に応じて課される定額の税金です。たとえ決算が赤字であっても納税義務があります。

■ 均等割の税額例(自治体によって異なる場合もあります)

出典:法人都民税について|東京都主税局

法人を設立した場合、利益が出ていなくても最低でも年間約7万円の税負担が発生することを理解しておく必要があります。

法人住民税が免除されるケース

法人住民税は、課税所得が赤字になった事業年度は、「均等割」の部分は免除されませんが、利益に応じて算出される「法人税割」はゼロになります。法人税額が0円になるため、それに連動する法人税割も0円になるという仕組みです。

法人化で税金は安くなる?

法人化で税金が安くなるかどうかは、役員報酬の金額設定と社会保険料の負担とのバランス次第です。役員報酬には「給与所得控除」が適用されることから、個人事業主時代と比べると所得税・住民税の負担は軽減される傾向にあります。ただし、その分社会保険料が増えるため、結果として手取りが減るケースもあります。

法人化を検討する際には、税金だけでなく社会保険料まで含めたトータルのシミュレーションが重要になります。

最後の個人事業税はどう処理するのが正解?

法人成りした年の個人事業税は、法人の経費にはできません。個人事業主としての最後の確定申告で、個人事業税の見込控除を利用し「必要経費」として計上するのが正しく、これにより個人事業主としての所得税・住民税を節税できます。

個人事業の最後の確定申告で、翌年に支払う税額を見積もって経費計上(個人事業税の見込控除)することで、その分だけ個人の所得が減り、結果的に所得税や住民税の負担を軽減することにつながります。

法人化後の住民税に関する手続きと納付方法

法人化後は、税務署や自治体への「法人設立届出書」の提出と、住民税を給与天引きするための「特別徴収」への切り替え手続きが必要です。法人住民税の納付は、原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に行います。

会社設立後に必要な届出

会社を設立したら、税務署、都道府県、市区町村のそれぞれに「法人設立届出書」などを提出します。これにより、各行政機関が法人の存在を把握し、法人住民税の課税対象として認識します。

住民税の納付時期と期限

法人住民税の納付期限は、原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内です。 たとえば、3月31日決算の法人の場合、申告と納付の期限は5月31日となります。基本的には年1回の申告・納付ですが、法人の規模によっては中間申告が必要になる場合もあります。

住民税の納付方法(窓口・eLTAX)

納付方法は、自治体によって定められています。主な方法は以下のとおりです。

  • 各自治体や金融機関の窓口で納付:都道府県税事務所や市区町村役場の窓口、指定金融機関で直接納付します。
  • eLTAXを利用して電子納付:地方税ポータルシステムの「eLTAX(エルタックス)」を利用すれば、自宅やオフィスのPCからインターネットバンキングなどを通じて電子的に納付でき、便利です。

出典:eLTAX 地方税ポータルシステム

法人化における住民税の注意点

法人特有の住民税の「均等割」や、他の税金・社会保険料が最終的な住民税額にどう影響するかは、つまずきやすいポイントです。

① 赤字でも発生する「法人住民税の均等割」

個人事業主の住民税は所得がなければ課税されませんが、その感覚でいると失敗します。法人は利益がゼロ、つまり赤字であっても、毎年最低約7万円の「法人住民税の均等割」を支払う義務があります。これを忘れていると、決算後に予期せぬ納税通知が届き、資金繰りを圧迫することがあります。

② 最後の個人事業税の処理ミス

法人化しても、個人事業主としての最後の年の所得には個人事業税がかかります。これを経費に計上し忘れると、個人事業主としての所得が過大に算定され、住民税や所得税が余計に高くなる恐れがあります。正しくは、個人事業の最後の必要経費として申告し、課税所得を圧縮しておくことが大切です。

③ 役員報酬と社会保険料のバランス

役員報酬をいくらに設定するかは、ご自身の所得税や住民税の額に直結します。税金だけを考えて役員報酬を高く設定すると、社会保険料の負担が増えます。社会保険料は所得控除の対象となるため課税所得は下がりますが、それ以上に支払額そのものが増えると、結果的に手取りが減り、住民税を含めた税負担の重さを感じやすくなります。役員報酬は、税金と社会保険料のバランスを見て慎重に決めることが重要です。

法人化後の住民税は最初の決算日から2ヶ月以内に納付する

法人化後の住民税は、設立第1期の事業年度が終了した日(決算日)の翌日から2ヶ月以内に最初の納付を行います。設立日から納税義務は発生しますが、実際の支払いは決算後になるのがポイントです。また、これとは別に前年の個人事業主時代の所得に対する住民税の支払いも続くため、初年度は支払いが重なります。

個人事業主との最も大きな違いは、法人の住民税は利益が赤字でも最低約7万円の「均等割」がかかる点です。ご自身の住民税の支払い方法も、原則として給与から天引きされる「特別徴収」に切り替わります。

法人住民税の納付は、自治体の窓口や金融機関のほか、eLTAXを利用した電子納付が一般的です。これらの違いを理解し、適切な手続きと資金計画を行いましょう。


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