• 更新日 : 2025年10月21日

ゲーム実況は法人化できる?メリット・デメリットや許可の要否を解説

ゲーム実況やeスポーツ活動での収益が増え、「そろそろ法人化を考えた方がいいのかも」と悩んでいませんか。法人化は、ゲームストリーマーやYouTuberにとって節税面で大きなメリットがある一方、会社設立の手間やゲーム実況特有の著作権、配信ガイドラインの遵守など、知っておくべき点も多くあります。

この記事では、法人化(法人成り)を検討すべきタイミングから、メリット・デメリット、具体的な会社設立手続き、そして最も気になるゲーム会社の許諾や規約について、網羅的にわかりやすく解説します。

ゲーム実況は法人化できる?

ゲーム実況や動画配信業を事業目的として法人化(会社設立)することは可能です。ただし、個人事業主として活動を続ける選択肢もあり、両者には税金、経費、社会的信用などの面で大きな違いがあります。自身の活動規模や将来の展望に合わせて、最適な形態を選択することが重要です。

そもそも法人化(会社設立)とは

法人化とは、個人とは法律上別人格である「法人」を設立し、その法人を通じて事業を行うことを指します。株式会社や合同会社といった形態が一般的で、法人化すると、事業に関する契約や収益、資産の管理はすべて法人の名義で行われます。YouTuberや配信者としてのあなたは、その法人から役員報酬(給与)を受け取る形になります。これにより、個人の所得と事業の所得を明確に分離することができ、税務上のメリットが生まれます。

個人事業主と法人の違いを比較

ゲーム実況での収益が上がってきた方が最初に直面するのが、「個人事業主」と「法人」のどちらで活動するかという選択です。それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが有利かは収益規模や事業計画によって異なります。

項目個人事業主法人(株式会社など)
税金所得税(累進課税:5%~45%)法人税(原則として税率は一定)
設立手続き税務署に開業届を提出するだけ定款認証や登記申請が必要で、費用と時間がかかる
経費の範囲事業に関連する費用経費にできる範囲が広い(役員報酬、退職金など)
社会的信用個人としての信用法人としての高い社会的信用(融資や契約で有利)
赤字の繰越青色申告で3年間10年間
社会保険国民健康保険・国民年金厚生年金・健康保険への加入が義務
事務負担比較的簡易複雑(決算申告、社会保険手続きなど)

ゲーム実況・動画配信の収益は「事業所得」

YouTubeの広告収益やスーパーチャット(スパチャ)、メンバーシップ、企業案件(タイアップ)など、ゲーム実況を通じて継続的に得られる収入は、税法上「事業所得」または「雑所得」に分類されます。本業として相当の時間を費し、継続的に収益を上げている場合は事業所得として扱われ、確定申告が必要です。この事業の主体を個人から法人へ移すことが「法人化」となります。

ゲーム実況を法人化するメリット・デメリット

法人化には、税負担を軽減できる可能性がある一方で、コストや事務的な負担が増えるといった側面もあります。メリットとデメリットの両方を正しく理解し、総合的に判断することが不可欠です。

法人化のメリット:節税、信用の向上、事業の拡大

ゲーム実況を法人化する最大のメリットは節税効果ですが、それ以外にもゲーム実況やeスポーツといった活動の幅を広げる上で有利に働く点が多くあります。

所得税より法人税の方が低くなるケースがある

年間の所得(売上から経費を差し引いた利益)が一定額(一般的に800万円~900万円)を超えると、個人に課される累進課税の所得税率よりも法人税率の方が低くなるため、納税額を抑えられる可能性があります。

経費にできる範囲が広がる

自分への給与(役員報酬)や退職金、法人契約の生命保険料、社宅家賃の一部などを法人の経費として計上できます。これにより所得を法人と個人に分散でき、全体の税負担を抑えることが可能です。

社会的信用度の向上

「株式会社」という法人格は、個人事業主よりも高い社会的信用を得やすくなります。これにより、金融機関からの融資が受けやすくなるだけでなく、企業からの大型スポンサー案件やタイアップの契約交渉もスムーズに進む可能性があります。

ゲーム会社や関連企業との連携

法人格を持つことで、ゲーム会社やeスポーツ関連企業から公式なパートナーとして認知されやすくなります。新作ゲームの先行プレイ依頼や、公式イベントへの招待など、個人では得られにくいビジネスチャンスにつながることもメリットです。

チーム運営や資産管理の円滑化

編集者や他の配信者とチームを組む際、給与の支払いや経費精算を法人の下で一元管理できます。また、高額な配信機材やスタジオなどを個人の資産ではなく会社の資産として所有・管理できるため、公私の区別が明確になります。

法人化のデメリット:コスト、事務負担、ガイドライン確認の厳格化

ゲーム実況を法人化するためのデメリットとして、設立と維持にかかる金銭的・時間的コストに加え、ゲーム実況者ならではの注意すべき点も存在します。

設立・維持コストの発生

株式会社の設立費用の目安は、定款認証(資本金帯によって3~5万円、要件により軽減有)・定款印紙(電子は0円/紙は4万円)・登録免許税(資本金×0.7%、下限15万円)等の合計で概ね20~25万円超です。

また、事業が赤字でも法人住民税(均等割)を納める義務があります。例えば資本金1,000万円以下・従業員50人以下の場合は年間約7万円の均等割が発生します。実額の金額は自治体・資本金・従業員数によって異なるため、所在地の税額表で確認してください。

社会保険への加入義務と事務負担

法人を設立すると、たとえ社長一人でも社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務付けられます。保険料負担が増えるだけでなく、会計処理や税務申告も個人事業主より格段に複雑になり、多くの場合、税理士との顧問契約が必要になります。

配信ガイドラインの確認がより厳格になる可能性

多くのゲーム会社が公開している配信ガイドラインは、「個人」「非営利」前提で、法人・事業者は適用対象外または個別許諾とする例が少なくありません。法人主体での配信は事前に各社ガイドラインの法人条項や問い合わせ先を確認してください。
ゲーム配信についての許諾確認のプロセスが個人よりも複雑になる可能性があります。

プライバシーのリスク(本名バレ)

法人登記をすると、代表取締役の氏名(本名)が会社の登記情報として一般に公開されます 。これは誰でも閲覧可能なため、「YouTuberの法人化で本名がバレる」というのは事実です。住所は近年の非表示措置により市区町村までの表示等となる運用が選べる場合があります。

法人化するとゲーム会社の許諾は必要になる?

個人・法人を問わず、最も重要なのは各ゲーム会社が定める「配信ガイドライン」を遵守することです。ただし、一部のガイドラインでは法人利用について別途の定めがあるため注意が必要です。

ゲーム実況と著作権の基本

そもそも、ゲームの映像や音楽はゲーム会社が権利を持つ著作物です。ガイドラインが整備される以前は、ゲーム実況は著作権侵害と隣合わせのグレーな存在でした。現在公開されている配信ガイドラインは、この著作物を一定の条件下で利用することをメーカー側がファンコミュニティの活動として許諾する、という位置づけになります。ガイドラインを守ることが、トラブルなく活動を続けるための大前提です。

法人格がガイドラインに与える影響

多くの配信ガイドラインは、「個人」が「非営利目的」で利用することを想定して作成されています。法人が配信の主体となる場合、その活動が「営利目的」と見なされるかどうかが一つの論点になります。YouTubeのパートナープログラムによる広告収益化などは、多くのガイドラインで「非営利目的」の範囲内として許容されていますが、法人としての活動がガイドラインの想定する「個人」の範囲を超えるかどうかは、規約を慎重に読み解く必要があります。

別途問い合わせが必要なケース

一部のゲーム会社は、法人や事業者の利用について個別の対応を求めています。例えば、フロム・ソフトウェアのガイドラインでは、事務所と契約しているVTuberや、法人、個人事業主、プロダクション契約者は、別途問い合わせが必要であると明記されています。自身の活動がこれに該当する場合は、配信前に必ず著作権を管理する会社に確認をとるべきでしょう。

ゲーム実況の法人化で守るべき配信ガイドライン

トラブルを避け、安心して活動を続けるためには、配信ガイドラインの確認が不可欠です。ガイドラインは、会社全体で統一されている場合と、特定の人気タイトルごとに定められている場合があります。ここでは、主要なゲーム会社の事例を紹介します。

ゲーム会社のガイドライン事例

多くの大手ゲーム会社は、自社が権利を持つゲーム全体に適用されるガイドラインを公開しています。

任天堂

「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」シリーズで知られる任天堂は、ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドラインを公開しています。このガイドラインは個人による投稿を対象としており、法人等の団体による投稿や、所属団体の業務として行う投稿は原則としてガイドラインの対象外です。

参考:ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン|任天堂

カプコン

「ストリートファイター」や「モンスターハンター」シリーズを手がけるカプコンのガイドラインは、プロダクションなどに所属していない個人のみを対象としています。そのため、法人格を持つ配信者や、法人と契約している個人は、このガイドラインの対象外となるため、個別の確認が必要です。ガイドライン内では、ゲーム内のムービーシーンのみを抜き出した投稿や、自身でプレイしていない動画の投稿などが禁止されています。

参考:カプコン動画ガイドライン(個人向け)|カプコン

フロム・ソフトウェア

「エルデンリング」や「SEKIRO」など世界的ヒット作を持つフロム・ソフトウェアのガイドラインも「個人」の利用者を対象としています。法人、個人事業主、または事務所やプロダクションと契約している配信者は、別途問い合わせが必要であると明確に記載されています。法人化を検討している配信者は、必ず個別に確認を取りましょう。

参考:動画・画像の投稿に関するガイドライン|フロム・ソフトウェア

バンダイナムコエンターテインメント

e-スポーツも盛んなバンダイナムコエンターテインメントでは、ガイドラインに個人の利用者が非営利目的で指定のプラットフォームへ投稿することを許諾しています。法人が主体となる活動は、このポリシーの適用範囲外です。

参考:バンダイナムコエンターテインメントゲーム実況ポリシー|バンダイナムコエンターテイメント

ゲームタイトル単位のガイドライン事例

会社によっては、特定の人気タイトルごとに個別のガイドラインを定めている場合があります。

スクウェア・エニックス

スクウェア・エニックスでは、「ファイナルファンタジーXIV」や「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S」など、タイトルごとに非常に詳細な著作物利用条件を定めています。

いずれも、商用・営利目的に利用することは禁止されています。

参考:ファイナルファンタジーXIV 著作物利用条件|SQUQRE ENIX
参考:ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S」動画・生配信・画像投稿に関するガイドライン||SQUQRE ENIX

コナミ

コナミでは、「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!」について、動画投稿ガイドラインを守っていれば、「動画投稿し放題!」、「収益化もOK!」と明記しています。

ガイドラインでは営利目的の利用は禁止としつつ、YouTubeなど指定の動画配信サイトを用いた収益化は営利目的としないそうです。

参考:「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」動画投稿ガイドライン|KONAMI

見落としがちな注意点

配信ガイドラインは一見似ていても、細部には大きな違いがあります。「他社がOKだったから大丈夫だろう」という思い込みは禁物です。特に以下の点は見落としやすいため、注意深く確認しましょう。

  • ネタバレに関する規定:
    ストーリーの重要な部分やエンディングの配信を禁止、または「ネタバレ注意」の表示を義務付けている場合があります。
  • 収益化の範囲:
    YouTube広告などのシステム収益化は許可されていても、スーパーチャットやメンバーシップなどの視聴者から直接金銭を受け取る機能(投げ銭)は禁止しているケースがあります。
  • プラットフォームの限定:
    許可されている配信プラットフォームが指定されている場合、それ以外での配信は規約違反となります。必ず確認しましょう。

ゲーム実況の法人化を検討すべきタイミングは?

「いつ法人化するか(法人成りというかたちで個人事業主から移行するか)」は、収益の規模や事業計画を基に判断します。タイミングを間違えると、かえって損をしてしまう可能性もあります。

所得の目安は年間800万円以上

一般的に、年間の所得(売上から経費を引いた利益)が800万円~900万円を超えると、個人事業主に課される所得税・住民税・事業税の合計税率が、法人の実効税率を上回り始めます。このラインが、節税メリットを考慮して法人化を検討する一つの大きな目安となります。

消費税の納税義務が発生したとき

前々年の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。新たに法人を設立すると、資本金の額などの条件を満たせば、設立から最大2年間は消費税の納税が免除される特例があります。この免税メリットを享受するために、課税事業者になるタイミングで法人化するケースも多く見られます。

チーム化や事業拡大を考えるとき

自分一人だけでなく、編集者や他の配信者とチームを組んで活動する場合や、専用の配信スタジオを借りる、高額な機材に投資するなど、事業として本格的に拡大していく計画があるなら、法人化が適しています。法人格を持つことで、契約や資金管理がスムーズになり、事業運営がしやすくなります。

ゲーム実況の法人化(会社設立)手続きはどう進める?

会社の設立手続きは専門的で複雑に思えるかもしれませんが、流れを理解すれば、専門家(司法書士や行政書士など)に依頼してスムーズに進めることが可能です。

会社設立の基本フローと必要書類

株式会社の設立は、一般的に以下の流れで進みます。

  1. 基本事項の決定:会社名(商号)、事業目的、本店所在地、資本金額、役員構成などを決めます。
  2. 定款の作成・認証:会社のルールブックである「定款」を作成し、公証役場で認証を受けます。
  3. 資本金の払込み:発起人(設立者)個人の銀行口座に資本金を振り込みます。
  4. 登記申請:法務局に会社設立の登記申請を行います。この申請日が会社の設立日となります。 登記申請には、登記申請書、定款、役員の就任承諾書、印鑑証明書、払込証明書など多くの書類が必要です。

事業目的の書き方のポイントと記載例

定款に記載する「事業目的」は、その会社が何を行うかを法的に示す重要な項目です。将来行う可能性のある事業もあらかじめ含めておくと、後々の変更手続きが不要になります。ゲーム実況者が法人化する場合は、以下のような目的が考えられます。

  • インターネットを利用した動画コンテンツの企画、制作、配信及び販売
  • インターネットライブ配信サービスを利用したコンテンツの配信
  • eスポーツに関するイベントの企画、制作、運営
  • タレント、インフルエンサーのマネジメント及びプロモート業務
  • キャラクターグッズの企画、デザイン、制作及び販売

YouTubeアカウントと収益の法人への移行手続き

収益の源泉であるYouTube(Google AdSense)アカウントを個人から法人へ移行する手続きも重要です。現在、AdSenseではアカウント名義の直接的な変更は認められていないため、一度個人のアカウントを解約し、新たに法人の情報でアカウントを再申請するという手順を踏む必要があります。この切り替え期間中は収益が一時的に停止する可能性があるため、計画的に進める必要があります。

ゲーム実況の法人化は配信ガイドラインを遵守しよう

ゲーム実況の法人化は、収益が一定規模を超えた配信者にとって、節税や事業拡大の面で非常に有効な選択肢です。しかし、会社設立の手間や維持コスト、社会保険の負担、そして何よりゲーム実況の根幹である「配信ガイドライン」の遵守が不可欠であることを忘れてはなりません。

特に法人格での活動が規約にどう影響するかは慎重な確認が求められます。本記事の内容をふまえ、ご自身の状況を税理士などの専門家に相談し、計画的に準備を進めることが成功の鍵となるでしょう。


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