• 作成日 : 2025年5月15日

スポーツ選手の法人化は必要?メリット・デメリットや税金対策を解説

収入が一定額を超えたスポーツ選手は、法人化したほうが節税できます。また、法人化により社会的信用が高まるため、スポンサー獲得などのメリットもあるでしょう。

本記事では、個人事業主と法人の違いやスポーツ選手が法人化するメリットやデメリット、法人化のタイミングや成功するポイント、向かないケースなどを解説します。

目次

スポーツ選手の法人化(会社設立)は必要?

スポーツ選手が収入を得る手段はさまざまで、事務所等に所属し、給料をもらっている場合は給与所得者になります。一方で、個人事業主として報酬を受けとっているケースもあり、球団と契約を結んで報酬を受け取っているプロ野球選手が代表的です。

このようにスポーツ選手が個人事業主として受け取った報酬は事業所得となり、確定申告が必要です。確定申告では、収入から必要経費を差し引いて課税所得を計算します。高額な収入のあるスポーツ選手は税金も高額になるため、節税対策が課題になるでしょう。

節税対策として効果的なのが法人化であり、収入が一定額を超えるスポーツ選手は法人化しているケースが少なくありません。

スポーツ選手の個人事業と法人の違い

スポーツ選手の個人事業主と法人の違いは、一般的なものと変わりありません。

個人事業主と法人の違いは、以下のとおりです。

項目個人事業主法人
事業開始手続き開業届を税務署に提出法人登記の申請
事業開始にかかる費用なし株式会社:約21万円

合同会社:約10万円

資本金不要必要
税金所得税(累進課税)法人税(比例課税)
社会保険の加入義務なし(従業員5人未満の場合)あり
経費の範囲法人と比べると経費になる範囲が狭い個人事業主よりも認められる範囲が広い
会計処理確定申告法人決算・申告
事業維持の費用なし赤字でも7万円の法人税がかかる
赤字の繰越3年(青色申告の場合)10年
社会的信用度法人と比較すると低い高い

個人事業主は開業届を提出するのみで費用はかからず、簡単に設立できますが、法人の設立には手間とコストがかかります。税金の課税方式が異なり、収入が一定額を超えると法人の方が節税できる仕組みです。

経費が認められる範囲も法人のほうが広く、節税効果が高まります。

スポーツ選手が法人化するメリット

スポーツ選手が法人化することで、以下のようなメリットがあります。

  • 節税効果が期待できる
  • 事業展開がしやすくなる
  • スポンサー獲得がしやすい

法人化のメリットを詳しくみていきましょう。

節税効果が期待できる

個人事業主の税金は累進課税のため、収入が一定額を超えると法人税のほうが税率は低くなります。

具体的には、個人事業主の課税所得が900万円を超えると税率は33%(控除額153万6,000円)となります。800万円を超えた法人(資本金1億円以下)が23.20%であるため、経費や控除額によっては税額が超える可能性があるでしょう。

収入が高くなればなるほど節税効果も高まり、法人化するメリットは大きいといえます。

参考:国税庁 所得税の税率
参考:国税庁 法人税の税率

事業展開がしやすくなる

スポーツ選手は法人化により、事業展開がしやすくなるのもメリットです。会社設立時に法人の事業目的として「グッズ販売」「コーチ・指導」など、選手活動以外の内容を追加しておくことで、法人として幅広い事業活動ができます。

事業で得た収入の受取先を法人にして、自身は役員として役員報酬を受け取るようにすれば、報酬を経費計上できます。節税効果も高まるでしょう。

スポンサー獲得がしやすい

法人化により、社会的信用が高まるのもメリットです。スポンサー契約やイベント出演などのチャンスが増え、活動の幅が広がります。

信頼度が高まることで取引先も獲得しやすく、事業をスムーズに進められるでしょう。

法人は、現役引退後もそのまま存続できます。継続的な運営によりビジネスのスキルも身につき、引退後にスポーツ以外のビジネスを展開するために役立つでしょう。

スポーツ選手が法人化するデメリット

スポーツ選手の法人化には、以下のようなデメリットもあります。

  • 法人設立・維持にコストがかかる
  • 赤字でも法人税がかかる
  • 社会保険の負担が増える
  • 税務・会計処理が複雑になる

主に、コストや手間が増えるといった点が挙げられます。

詳しくみていきましょう。

法人設立・維持にコストがかかる

法人化に際して、コストがかかる点がデメリットです。設立時は、最低でも株式会社の場合は約21万円、合同会社で約10万円の費用がかかります。

また、法人化により事務所や店舗を借りる場合、敷金や礼金、仲介手数料などの費用も必要です。さらに会社設立後も、家賃・光熱費・通信費・人件費といった維持費用が発生します。

赤字でも法人税がかかる

事業が赤字になった場合、個人事業主であれば所得税や住民税の負担はありませんが、法人の場合は、法人住民税が発生します。

法人住民税の均等割は、所得ではなく法人の規模によって納税額が決まるため、事業が赤字でも必ず納付しなければなりません。地域によって税率は異なりますが、東京都の場合は最低でも7万円の法人住民税が課税されます。

社会保険の負担が増える

個人事業主は社会保険の加入義務はありませんが、法人化すると従業員の有無にかかわらず社会保険への加入が必須になります。従業員を雇用する場合、保険料は折半して負担しなければなりません。

将来的には国民健康保険や国民年金よりも手厚い補償を受けられますが、法人化により毎月の負担は増えるということを把握しておきましょう。

税務・会計処理が複雑になる

法人化により法人税申告書や決算書などの作成が義務付けられ、税務や会計処理が複雑になります。手続きや事務作業といった手間が増え、経理の知識も必要です。

スポーツ選手が自分の本業を行いながら、これらの作業を1人でこなすことは難しいといえるでしょう。税理士や公認会計士へ依頼するか、経理担当の人材を確保するなどの検討が必要です。

スポーツ選手の法人化のベストなタイミング

スポーツ選手が法人化するベストなタイミングは、収入が上がって安定しているとき、スポーツ以外の収入が増えてきたときなどが挙げられます。

ここでは、法人化するのに適したタイミングを解説します。

年間売上が1,000万円以上で安定している

年間売上が1,000万円を超えると、所得税の税率が法人税の税率を上回る課税所得900万円のラインに近くなります。個人事業主のほうが税率は高くなる可能性があるため、年間売上が1,000万円以上になり、安定しているときは法人化を検討しましょう。

また、年間売上が1,000万円を超えた個人事業主は、翌々年には消費税の課税事業者となり、消費税納税の義務が発生します。

ただし、法人化すると、法人成りをしてから最長2年間は消費税が免除されます。つまり、消費税の課税事業者となるタイミングが「法人化してから翌々年」になります。そのため、法人化により消費税の納付義務が2年間免除されることもメリットです。

スポンサー収入や副収入が増えたとき

本業の収入が1,000万円を超えなくても、CM出演料やスポンサー契約など、スポーツ以外の収入が増えてきた場合は法人化のタイミングです。

競技以外の業務は法人の事業として法人を受取人とし、役員として役員報酬を受け取れば、収入の増減を調整できます。法人が受け取る収入を会社に残すことで、安定した収入を確保できるでしょう。

マネジメントや従業員が必要なとき

スポーツ選手以外の仕事でマネジメントや従業員が必要なときや、すでに事務作業などを家族に依頼している場合などは、法人化に適したタイミングです。

法人化により家族にも役員報酬を支給すれば、所得税の分散効果により、経営者1人にまとめて支払うよりも所得税の税率を下げることができます。

また、従業員として働く配偶者や子どもに支払った給与は経費にでき、所得限度内であれば経営者の所得税の計算で、配偶者・配偶者特別・扶養控除の適用が可能です。

他の事業展開を考えている

選手活動だけでなく、他の事業展開を考えているときも、法人化のタイミングです。法人化することで社会的信用度が高まり、取引先を見つけやすくなります。大きな取引を獲得するチャンスも高まるでしょう。

また、事業展開に必要な資金の融資を受けたいときも、法人のほうが金融機関から信頼を得やすいため、審査に通りやすくなります。

スポーツ選手の法人化の流れや費用の目安

スポーツ選手の法人化には、どのような会社形態が適しているのでしょうか?

ここでは、適した会社形態や法人化のステップ、費用の目安を解説します。

スポーツ選手の法人化に適した会社の形態

法人化の会社形態には、以下の4つがあります。

  • 株式会社
  • 合同会社
  • 合資会社
  • 合名会社

株式会社は出資者(株主)から資金を調達し、これをもとに経営を行う会社です。

合同会社、合資会社、合名会社は、いずれも出資者と経営者が同一の会社形態で、持分会社とも呼ばれます。

このうち、合同会社は出資者全員が有限責任を負う会社です。

合資会社は、事業を手掛ける「無限責任社員」と出資を行う「有限責任社員」から構成される会社を指します。合名会社は、出資者全員が「無限責任社員」のみという会社形態です。

このうち、スポーツ選手に向いている会社形態というものは特にありません。どれを選ぶかを決めるポイントは出資者が負う責任の範囲で、一般的には株式会社が選ばれています。

法人化の基本ステップ

スポーツ選手の法人化は、一般的な法人の設立と変わりません。

手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 会社の基本事項を決定する
  2. 定款を作成・認証する
  3. 資本金を払い込む
  4. 登記申請書類を作成する
  5. 会社設立登記を行う

会社設立の流れや必要書類は、以下の記事で詳しく説明しています。

法人化の費用の目安

法人化には、以下のような費用がかかります。

  • 収入印紙代:4万円(電子定款は不要)
  • 定款の認証手数料:1万5,000円~5万円
  • 謄本の発行手数料:約2,000円(株式会社)
  • 登録免許税:15万円〜(株式会社)
  • 実印の作成代:約3,000円

このほか、印鑑証明書や登記事項証明書(登記簿謄本)の登記手数料がかかります。

これらの費用は、スポーツ選手が法人化する場合でも特別な違いはありません。

スポーツ選手の法人化を成功させるポイント

スポーツ選手の法人化を成功させるためには、法人化のデメリットな部分を回避する対策が必要です。

ここでは、法人化を成功させるポイントを解説します。

会計ソフトを活用し、経理負担を減らす

法人化のデメリットは、経理が複雑化して負担になるという点が挙げられます。経理の負担を軽減するには、会計ソフトの導入がおすすめです。会計ソフトを使えば、会計業務を自動化して業務を効率化できます。

会計ソフトには取引の伝票入力や自動仕訳機能、決算書の作成機能などがあるため、経理業務の負担を大幅に軽減できるでしょう。

融資・助成金の情報も合わせて収集する

会社設立で費用がかかるというデメリットの対策には、融資や助成金・補助金の利用を検討するとよいでしょう。

創業時に審査が通りやすい融資として、日本政策金融公庫の創業融資が挙げられます。無担保・無保証人で金利が低く、長期返済も可能です。

会計ソフトなど業務効率化に役立つITシステムの導入には、IT補助金を活用できます。中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化に向けた ITツールの導入を支援する補助金です。申請時期や手順には決まりがあるため、事前に確認しておきましょう。

参考:日本政策金融公庫 創業融資のご案内 
参考:サービス等生産性向上IT導入支援事業 IT導入補助金2025 

役員報酬は慎重に決める

法人化では、経営者に支給した役員報酬を経費に計上でき、節税ができます。ただし、報酬の決定にはルールがあるため、注意が必要です。

経費計上できる役員報酬には、以下のルールが定められています。

  • 会社設立後、3ヶ月以内に決定する
  • 役員報酬の金額は毎月同額にする
  • 賞与を支給する場合は届出をする

これらのルールに反する役員報酬は、経費に計上できません。

廃業時のコストを事前に把握しておく

法人化には手間とコストがかかりますが、廃業はさらに手続きが複雑で費用もかかることを把握しておきましょう。

個人事業主の場合は税務署へ廃業届を提出するだけで廃業手続きが完了しますが、法人の場合は解散登記や清算手続きが必要になります。

手続きを税理士や司法書士などに依頼する場合はその報酬が必要になり、手続きには数ヶ月〜1年程度の時間がかかるケースもあります。この間に、会計処理や税務申告の手続きも必要です。

税理士への依頼や相談も検討する

法人化では経理が複雑になるため、税理士への依頼や相談が必要になることもあるでしょう。コストはかかりますが、経営者は本業に集中できます。専門家に経理業務を依頼することで、正確な税務・会計処理を実現できるでしょう。節税に関する相談もできます。

税理士にはそれぞれ得意分野があるため、スポーツ選手の経理業務に適した税理士を探すには、紹介サービスの利用もおすすめです。

スポーツ選手の法人化が向かないケース

スポーツ選手は収入が安定していなかったり、会計や税務処理に対応できなかったりする場合、法人化には向いていません。

ここでは、法人化に向いていないケースについて解説します。

収入が安定していない

収入が安定しない場合は、法人化には向いていません。法人化した以降は法人の維持費もかかるため、収入が安定しないと事業運営が難しくなる可能性があります。事業を続けられなくなって廃業する場合も、手間やコストがかかります。

一時的に収入が多くなってもすぐに法人化するのではなく、将来的にも安定して収入が得られる見通しがついてから判断するとよいでしょう。

会社設立や維持費が負担になりそう

会社設立には費用がかかり、設立後の維持費も必要です。資金不足で負担になるときは、法人化には向いていないでしょう。融資に頼るとしても、必ず融資の審査に通るとは限りません。

また、法人化してすぐに社会的信用度が上がるわけではなく、当初は現金取引が多くなることもあるでしょう。運転資金が少ないと、事業運営が苦しくなることも考えられます。

会計や税務管理が苦手で、専門家に頼れない

法人化すると会計や税務が複雑になり、決算報告書や法人税申告書などの書類作成も必要です。会計や税務管理が苦手な場合は、自分で対応するのは難しいでしょう。

専門家への依頼が必要になりますが、報酬を支払う余裕がない場合は、法人化してもうまく運営できない可能性が高く、法人化は様子をみたほうがよいでしょう。

スポーツ選手の法人化に役立つひな形・テンプレート

マネーフォワード クラウドでは、スポーツ選手の法人化(会社設立)に役立つひな形やテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできますので、自社に合わせてカスタマイズしながらご活用ください。

収入が多いスポーツ選手は法人化を検討しよう

スポーツ選手が安定的に高い収入を得ているときは、法人化を検討してみるとよいでしょう。法人化により節税ができるほか、社会的信用が上がり、事業展開もしやすくなるといったメリットがあります。

ただし、法人化には設立費用や維持費用がかかり、会計や税務処理の負担が大きくなることも把握しておきましょう。収入が安定し、他の事業展開を考えているときなどが法人化のタイミングといえます。


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