- 作成日 : 2025年3月7日
年商1,000万超えの個人事業主は法人化するべき?メリットや節税効果を解説
年商が1,000万円を超えた個人事業主は、法人化することによって所得税・住民税の負担を抑えられる可能性があります。ただし、経費の負担が多い業種や一時的な収入増加という場合、デメリットが生じてしまうため、慎重に検討することが大切です。
本記事では、年商1,000万円を超えた場合に法人化することによるメリットと、気をつけたい点を中心に詳しく解説していきます。
目次
個人事業主は年商1,000万を超えたら法人化するべき?
個人事業主として年商1,000万円を超えた方は、法人化するかどうかについて一度考えてみましょう。個人事業主には所得税が課せられ、所得額に応じて適用税率が段階的に上昇する「累進課税制度」が採用されています。一方、法人には一定の税率が適用される法人税が課せられます。そのため、所得額が上がれば上がるほど、所得税より法人税のほうが税負担は少なくなるでしょう。もし、経費などの負担が少なく、かつ一定の利益が残るのであれば、節税の観点からは法人化を検討すべきと言えます。
年商1,000万を超過しても法人化しないほうがよいケース
「年商1,000万円」は、法人化を判断する際の目安の一つにすることがありますが、この金額を超えたというだけで法人化する必要はありません。年商1,000万円でも、経費が多い、または年商1,000万円が一時的なものである場合、法人化をすぐしないほうが賢明です。ここでは、その理由について詳しく見ていきましょう。
経費が多い
売上に対して経費の割合が比較的大きく、例えば、経費が売上の80%を占めるような業種では、法人化するメリットを得られません。例えば、年商1,000万円に対して経費が800万円だった個人事業主の場合、所得税率でも大きな負担となりません。むしろ法人化することによって伴う経理コストや社会保険料の負担のほうが増える可能性があります。売上高(ここでは年商)の数字だけで法人化することを避けましょう。
年商が1,000万超えた要因が一時的
特定のプロジェクトに取り組んだなど、一時的な需要増加により年商が1,000万円を超えたときも、即座に法人化を検討する必要はありません。フリーランスのコンサルタントが大型のプロジェクトを1件受注したケース、建設業者が災害復旧工事を請け負ったケースなどが、その例として挙げられます。
年商1,000万円を超えた状態を、今後も継続できる見込みがあるかどうかが判断ポイントです。現在の契約は期間が定められており、終了すると年商が大きく下がる場合には法人化が適していません。年をまたいで契約が続いても売上高が1社に大きく偏っており、それも近いうちに契約が終了する可能性が高い場合は要注意です。
一度法人化すると、「今年は売上が少ないから個人事業主に戻ろう」などと自由に個人と法人の行き来することができません。法人化することに伴い、各種ランニングコスト(社会保険料や法人住民税、登記に伴う登録免許税など)が発生することを十分理解し、持続的な成長が見込める場合にのみ法人化を検討すべきでしょう。
年商1,000万超えの個人事業主が法人化した場合の節税効果
年商1,000万円超において、所得税の課税と法人税の課税でどのような差が生じるのか、以下のシミュレーション結果を見ていただければと思います。
※ごく単純化したシミュレーションであることに注意。
- <個人事業主の場合>
所得2,000万円(=1億円-8,000万円)だとすると、「税率40%」と279.6万円の控除が適用される。
所得税 = 2,000万円×40%-279.6万円
= 520.4万円
<法人の場合>
所得2,000万円(=1億円-8,000万円)だとすると、年800万円超の部分には「税率23.2%」、年800万円以下の部分には「税率15%」が適用される。
法人税 = 800万円×15%+1,200万円×23.2%
= 120万円+278.4万円
= 398.4万円
※資本金1億円以下の普通法人とする。
同じ年間売上でも所得税と法人税とで100万円以上の節税効果が得られており、売上高が増し、かつ経費の割合が高くても節税効果が得られます。
※事業主体の税負担のみならず、代表者個人の税負担まで考慮するときは、役員報酬に対する所得税についても考える必要がある
- <個人事業主の場合>
所得100万円(=1,200万円-1,100万円)の場合、「税率5%」が適用される。
所得税 = 100万円×5%
= 5万円
<法人の場合>
所得100万円(=1,200万円-1,100万円)の場合、「税率15%」が適用される。
法人税 = 100万円×15%
= 15万円
※資本金1億円以下の普通法人とする
この場合、年商は1,000万円を超えていますが、経費もかさむことから所得は100万円です。そうなると所得税の税率が少なくなるため、法人化をしても節税効果は得られません。
なお、詳しい法人税と所得税の計算や税率については、国税庁のサイトに掲載されています。正確な数値を知りたい場合は、参考にしてください。
参考:国税庁|No.5759 法人税の税率、国税庁|No.2260 所得税の税率
節税効果以外に個人事業主が法人化するメリット
法人化のメリットは節税効果だけにとどまりません。ここでは、今後のビジネスの発展や経営の安定性という観点でメリットについて解説します。
信用度が向上する
法人化することにより、取引先や金融機関からの信用を得やすくなります。法人の場合、登記制度で確認することが可能です。株式会社であれば貸借対照表の公告義務があるなど、経営の透明性も確保されているためです。
法人である点で常に良い評価をしてもらえるわけではありませんが、個人事業主と比べると大きな案件の獲得や大規模な資金調達がスムーズに進む傾向にあります。
責任範囲が限定される
株式会社や合同会社として法人格を得ることで、代表者個人の負う責任範囲を出資額に限定することができます。債務の返済が困難になっても代表者が失うのは出資分のみであり、会社財産に加えて個人の財産を失うことにはなりません。
個人事業主の場合、事業主体が代表者個人であるため、事業のためにした借入でも事業用財産以外を使って弁済しないといけません。責任範囲に制限がなく、負債が大きいときは破産にまで追い込まれるリスクがあります。
なお、法人でも融資の際に代表者保証の契約を交わしていたときは別です。経営者個人が会社の連帯保証人になっている場合、残債務の支払い請求を個人的に受けることとなります。
経費計上できる範囲が広がる
法人も個人も、経費計上できるのは事業のための支出に限られますが、法人化すると経費計上できる範囲が少し広がります。
例えば、「役員報酬」は個人事業主にはない概念です。個人事業主の場合、事業のためのお金と生活費などプライベートなお金を分けて課税することができません。全てにおいて所得税が課されます。一方、法人の場合は法人の利益から代表者の役員報酬を差し引いて所得を計算します。代表者が生活費のために取得する役員報酬は経費として計上できるのです。
決算日を自由に設定できる
個人事業主は毎年1月1日~12月31日までで所得税の処理を行います。これに対し法人では年度を自由に定めることができ、12月以外の月を決算月として選択できます。そのため極端に忙しくなる時期がある場合、そのシーズンを避けて決算業務を行うよう決算日を定めると業務の負担を分散することが可能です。
このように、決算日の設定に関しては法人のほうが自由度は高く法人化するメリットが得られると言えるでしょう。
事業を拡大しやすい
法人化することによって事業活動の選択肢が広がります。特に株式会社の場合、資金調達が可能となり、上場できれば大規模な資金調達も目指せるでしょう。株式を使って円滑に事業承継の手続きを進めることも可能であり、事業譲渡なども進めやすくなることからM&Aの対象に入れてもらいやすくなります。優秀な人材を獲得するうえでも法人化は効果的であり、さまざまな観点から事業の幅を拡大しやすいと言えるでしょう。
所得額に着目して法人化を検討しよう
年商1,000万円を超えてくると、法人化する節税効果が大きくなる可能性があります。ただし、経費が多く発生する場合は、法人化することが必ずしも適切な選択肢とは言えません。
法人化を検討するうえで重要なのは、年商を表す売上高ではなく、あくまでも課税対象となる所得です。所得税や法人税の課税対象となる所得額を踏まえ、節税効果を比較しましょう。
なお、法人には法人税のほか、法人住民税や法人事業税などの負担が発生します。節税効果を正しく判断するためには、法人全体の税負担をシミュレーションすることが必要です。税理士にも相談しながら法人化するかしないか慎重に考えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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