• 作成日 : 2025年10月24日

年金の追納でどれだけ節税できる?メリット・計算方法・注意点を解説

未納や免除となっていた国民年金保険料をあとから納める「追納」は、老後の年金受給額を増やせるだけでなく、支払額がそのまま所得控除の対象となるため、節税効果も期待できます。

本記事では、年金の追納の仕組みや節税額の目安、注意点などを解説します。

年金の追納とは?

未納や免除された国民年金保険料を、あとから支払うことができる制度が「年金の追納」です。老後の年金受給額を増やしたい人や、節税を目的とする人にとっては活用する価値がある制度です。ここでは、追納制度の仕組みや目的について解説します。

追納とは、過去に納めていなかった国民年金保険料をあとから支払うこと

国民年金の追納とは、学生納付特例や保険料免除などで保険料を納めていなかった期間について、あとからその分の保険料を支払うことを指します。この制度は、老後に受け取る年金額を増やしたい人や、将来の年金受給資格期間を満たすために利用されます。通常、保険料を納めなかった月については、そのままにしておくと将来の年金額が減ってしまうため、過去の分を取り戻す手段として追納制度が設けられています。

追納できるのは過去10年以内の免除・猶予分のみ

追納が可能なのは、過去10年以内に保険料の免除や学生納付特例などの適用を受けた期間に限られます。ただし、未納期間については追納の対象とはならず、あくまで制度的に「猶予された」ことが条件です。また、追納には期限があるため、年数が経過するほど対象外となる月が出てきます。さらに、追納する場合は当時の保険料額に一定の加算額(いわゆる利息)が上乗せされることがあるため、支払うタイミングも重要です。

参考:国民年金保険料の追納制度|日本年金機構

年金の追納は節税になる?

国民年金の追納には、将来の年金受給額を増やすという目的に加えて、所得税や住民税の節税につながるというメリットがあります。税制上、追納した保険料は社会保険料控除として全額が所得から差し引かれるため、課税所得が減り、税金の軽減効果が得られます。

社会保険料控除で追納額は全額控除される

追納した国民年金保険料は、支払った年の「社会保険料控除」として所得から全額を差し引くことができます。これは税法上の正式な制度であり、控除額に上限は設定されていません。たとえ過去にさかのぼって何年分もの保険料を一括で支払ったとしても、その年に支払った全額を控除対象として申告できます。

たとえば、5年分の追納額が30万円だった場合、その30万円すべてをその年の所得から控除できます。これにより課税対象となる所得が30万円減少することになり、その分の税額が軽くなります。この制度は、収入の多寡にかかわらず平等に適用される点でも優れた特徴を持っています。

所得税と住民税の両方に効果がある

追納によって軽減される税金は、所得税だけでなく住民税にも及びます。まず所得税については、課税所得に応じた税率(5%~45%)が適用されており、追納によって課税所得が減少すれば、それに対応して所得税の額も減少します。たとえば課税所得が300万円で税率10%の人が30万円の追納を行った場合、単純計算で3万円の所得税が軽減されます。

一方、個人住民税(所得割)の標準税率は多くの自治体で合計10%(市6%・県4%)です。先の例と同じく30万円の追納を行えば、住民税の負担も約3万円軽くなります。結果として、所得税と住民税を合わせて約6万円の税負担が軽くなる計算です。追納額の合計に対して20%程度が節税として還元されるため、負担した金額に対する実質的な負担は少なくなります。

節税と将来の年金増額の両方をかなえる制度

年金の追納は、未納分を補うための制度というだけではなく、賢く使うことで将来の資産形成と現在の節税の両立を可能にする手段です。支払った保険料は将来の年金受取額に反映され、老後の生活基盤を強化する役割を果たします。加えて、社会保険料控除という制度を通じて、現在の税負担も軽くなり、家計全体において有利な効果が期待できます。

そのため、余裕があるときに計画的に追納を行うことは、単なる義務の履行ではなく、長期的な視点から見た賢明な経済的判断と言えるでしょう。自営業者やフリーランスなど、自ら社会保険料を管理する立場にある方にとっては、有効な節税戦略の一環として活用する価値があります。

年金の追納が可能か確認する方法は?

国民年金保険料の追納を検討するにあたって、まず自分が追納の対象になっているかを確認することが必要です。追納は誰でも自由に行えるわけではなく、条件を満たした期間に限って可能とされています。

日本年金機構からの通知書を確認する

追納は申込みが必要で、承認後に通知書と追納用納付書が送付されます。学生納付特例や保険料免除を受けた人には、追納可能な期間が近づくと通知が届くことが多く、これに従って追納を行うことが可能です。ただし、通知が来ない場合でも対象となっている可能性があるため、自ら確認することが大切です。

「ねんきんネット」で追納対象期間を確認する

インターネット上の「ねんきんネット」(日本年金機構が提供する個人向け年金情報サービス)を活用すれば、自分の年金記録や追納可能な期間を正確に把握することができます。ねんきんネットでは、過去の納付履歴や免除・猶予の記録、そして追納対象となる月ごとの保険料額や加算金の有無などが確認できます。登録は無料で、基礎年金番号がわかれば申請できます。

年金事務所に直接問い合わせる

ねんきんネットの利用が難しい場合や、より詳しく相談したい場合は、最寄りの年金事務所に直接問い合わせるのも有効です。本人確認書類を持参すれば、その場で追納可能な期間や金額、加算金などの説明を受けることができます。また、追納に必要な納付書も発行してもらえるため、すぐに手続きに進むことが可能です。

年金を追納するといくら税金が安くなる?

国民年金の追納は、支払った金額がその年の社会保険料控除として所得から全額差し引かれるため、課税所得が減り、所得税と住民税の双方が軽減されます。節税額は「追納額」と「自分の税率」によって決まるため、シンプルな計算式で目安を出すことができます。

節税額の基本計算式

節税額の目安は、以下の式で求められます。

追納額 ×(所得税率+住民税率)=軽減される税金の額

住民税率は多くの自治体で一律10%程度なので、所得税率が10%の人の場合は合計約20%、所得税率が20%の人なら合計約30%が節税額となる計算です。

計算のポイント

所得税は累進課税で、課税所得が増えるほど税率が上がるため、同じ追納額でも高所得者ほど節税額が大きくなります。一方で、所得が低くもともと税金がかからない人は控除しても還付が発生しない場合があります。住民税は一律10%前後のため、所得税がかからない場合でも住民税の負担軽減には一定の効果が期待できます。こうした特徴を踏まえ、自分の課税所得と税率を確認し、どの程度の節税効果があるかシミュレーションすると計画が立てやすくなります。

シミュレーション①:年収300万円モデル

モデル条件
  • 年収:300万円(給与所得者、独身、扶養なし)
  • 給与所得控除:標準的に98万円と想定(年収300万円の場合)
  • 合計所得金額:300万 − 98万 = 202万円
  • 基礎控除88万円(2025年以降の新制度に基づく、住民税は43万円、以下同じ)
  • 課税所得(控除前):202万 − 88万 = 114万円
  • 所得税率:5%(課税所得195万円以下)
  • 住民税率:10%(一律)
  • 年金追納額:2年分合計40万円(20万円×2年)
計算結果
  • 社会保険料控除:40万円
  • 修正後の課税所得:114万円 − 40万円 = 74万円
  • 所得税軽減額:40万円 × 5% = 2万円
  • 住民税軽減額:40万円 × 10% = 4万円
  • 合計節税額:6万円
  • 実質負担:40万円 − 6万円 = 34万円

税制改正により基礎控除は従来の一律48万円から、所得に応じて58~95万円の段階制へ変更され、課税所得が大きく圧縮されることになります。それでも年収300万円の水準では所得税・住民税はしっかり課されるため、年金追納による節税効果(15%相当)はそのまま有効です。収入が比較的低めでも、追納額に対して6万円の税軽減は大きなメリットといえるでしょう。

シミュレーション②:年収500万円モデル

モデル条件
  • 年収:500万円(給与所得者、独身、扶養なし)
  • 給与所得控除:144万円と想定(年収500万円の場合)
  • 合計所得金額:500万 − 144万 = 356万円
  • 基礎控除:68万円(2025年以降の新制度に基づく)
  • 課税所得(控除前):356万 − 68万 = 288万円
  • 所得税率:10%(課税所得330万円以下)
  • 住民税率:10%(一律)
  • 年金追納額:2年分合計40万円
計算結果
  • 社会保険料控除:40万円
  • 修正後の課税所得:288万円 − 40万円 = 248万円
  • 所得税軽減額:40万円 × 10% = 4万円
  • 住民税軽減額:40万円 × 10% = 4万円
  • 合計節税額:8万円
  • 実質負担:40万円 − 8万円 = 32万円

所得が高くなるにつれて、控除の限界効用が大きくなる傾向があり、追納による節税効果も増大します。税制改正後は基礎控除の額が広がることにより、課税所得の圧縮効果も増し、より多くの節税が見込めます。この水準では、追納額の約20%(8万円)分の税金が軽減されるため、実質負担は32万円にとどまり、節税効果は高いといえます。

年金追納分の控除を受ける方法は?

年金保険料の追納をしても、申告をしなければ税金は戻りません。節税効果を得るには、年末調整または確定申告で、追納分を「社会保険料控除」としてきちんと申告する必要があります。

年末調整で控除を受けるケース

会社員などの給与所得者は、勤務先で年末調整を行う際に控除申告ができます。日本年金機構から11月ごろに送付される「国民年金保険料控除証明書」を受け取ったら、「給与所得者の保険料控除申告書」に追納額を記入し、証明書を添えて提出します。これにより会社が所得税を再計算し、払いすぎた分が還付されます。

注意点として、追納分は給与からの天引きではないため、自ら申告しないと控除が反映されません。証明書が届いたら内容を確認し、年末調整の書類に必ず記入するようにしましょう。証明書を紛失した場合は再発行も可能です。また、10月〜12月に追納した分が証明書に含まれていない場合、領収書でも代用可能です。

確定申告で控除を受けるケース

自営業者や、年末調整で申告漏れがあった人は、確定申告で控除申請を行います。追納額を確定申告書の「社会保険料控除」欄に記入し、控除証明書または領収書を添付して提出します。これにより所得税が再計算され、還付されるとともに、住民税にも反映されます。

たとえ年末調整で申告を忘れても、翌年の確定申告で控除は受けられます。そのため、証明書がある場合は確実に申告し、節税の機会を逃さないようにしましょう。

年金追納で節税する際の注意点は?

国民年金の追納は、将来の年金額を増やすと同時に所得控除を通じて税負担を軽減する効果が期待できます。しかし節税効果を得るためには、制度上の制限や所得の状況、手続きの正確さなどに注意しなければなりません。以下では、年金追納で節税を目的とする際に見落としやすいポイントを整理します。

所得が低すぎると節税効果が得られない

追納額が全額控除対象であっても、そもそも所得税や住民税が発生しない水準であれば、節税効果は生まれません。2025年12月施行の税制改正では、基礎控除の拡大により所得税の非課税ラインが上がり、年収150万円前後の低所得者は、課税所得がゼロに近くなる可能性があります。

たとえば独身で年収が130万円程度の場合、給与所得控除や基礎控除、社会保険料控除などを合算すると、課税所得がゼロになることもあります。このような場合、追納しても所得税の還付は発生しません。住民税は別計算のため軽減される可能性がありますが、所得税と合わせたメリットが限定的になる点に注意が必要です。

控除を受けるためには申告手続きが必要

年金を追納しただけでは、節税効果は自動的に適用されません。節税を実現するためには、必ず年末調整や確定申告を通じて社会保険料控除として申告する必要があります。

追納後、日本年金機構から「国民年金保険料控除証明書」が発行されます。これを用いて、会社員であれば年末調整の際に控除申告書へ記入・提出を行い、自営業者や申告漏れのある人は確定申告で所定欄に記入して申告します。控除証明書を提出し忘れた場合、せっかくの控除が適用されず、節税の機会を逃してしまいます。

追納には期限と加算金がある

国民年金保険料の追納は、対象となる期間から原則10年以内に限られています。また、免除や猶予を受けた期間については、追納のタイミングによっては「加算金」(利息に相当)が上乗せされる仕組みとなっています。

加算金は、免除を受けた年から3年を超えて追納を行う場合に生じ、一定割合の利息相当額が加算されるケースもあります。つまり、追納額がそのまま節税に直結するわけではなく、後から納めるほど負担が増える可能性があるため、早めの対応が推奨されます。

将来の安心と節税の一石二鳥をかなえる年金追納

未納・猶予分の国民年金を追納することは、将来受け取る年金額を増やせるだけでなく、社会保険料控除によって現在の税金負担も減らせる有効な節税対策です。追納した年金保険料は全額が所得控除になるため、高所得の方ほど大きな減税メリットが得られ、低所得の方でも住民税軽減など一定の恩恵があります。大切なのは適切に申告手続きを行うことで、追納のメリットを確実に享受することです。将来の老後資金を充実させつつ現在の税負担を軽減できる年金追納制度を上手に活用し、賢く節税につなげましょう。


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