• 作成日 : 2025年10月24日

証券担保ローンで節税するには?個人と法人の活用法を解説

証券担保ローンは、保有する株式を売却せずに資金を確保できる柔軟な金融手段です。節税という観点から注目されており、譲渡益課税を繰り延べることで、実質的な税負担を抑えつつ資産を維持できます。

この記事では、証券担保ローンの仕組みや節税への活用法を、法人・個人それぞれの立場から解説します。

証券担保ローンとは?

株式や債券などの有価証券を売却せずに担保として差し入れることで、現金を借りられるのが「証券担保ローン」です。手元の証券を維持したまま資金調達できるため、資産を崩さず流動性を高めたい場面で有効です。以下では、仕組みと特徴について見ていきます。

有価証券を担保に資金を借りる仕組み

証券担保ローンは、保有する株式や債券を担保に、証券会社や銀行から融資を受ける仕組みです。売却を伴わないため、株式を保有したまま資金を得ることができます。使い道は原則自由で、生活費・教育費・事業資金・不動産取得など幅広く対応可能です。売却したくない「塩漬け株」や「自社株」を保有する経営者や富裕層が、株式を維持したまま現金化する手段として活用しています。

担保評価と金利・サービスの特徴

一般的に、担保にできる証券の時価の60〜80%を上限に借入が可能です。大手証券会社(野村證券、大和証券、SMBC日興証券、SBI証券など)が類似のサービスを提供しており、利率は年2〜4%前後と比較的低めに設定されています。担保とする証券を保有し続けることで、配当金や株主優待も受け取れるという利点があります。

利用時のリスクと留意点

証券担保ローンはローンであるため、借入には利息の支払い義務が生じます。また、申込時には審査や契約が必要で、担保の価格が下落した場合には、追加担保の差し入れや繰上返済を求められるリスクもあります。いわゆる「追証」や「ロスカット」が発生する可能性もあるため、利用にあたっては相場変動リスクへの備えが求められます。

証券担保ローンで節税できる仕組みは?

証券担保ローンは、保有する株式を売却せずに資金を調達できるため、譲渡益課税を回避・繰り延べできる仕組みを持っています。さらに、配当金がある場合には借入利息を経費として控除でき、配当課税を軽減できる点でも節税効果があります。

譲渡益に対する課税を避けて税負担を抑えられる

株式を売却すると、利益に対して約20.315%の譲渡所得税が課税されます。しかし証券担保ローンで借り入れる場合、株を保有したまま現金を得られるため、含み益には課税されません。たとえば取得価格300万円の株が1,000万円に値上がりしている場合、売却すれば約142万円の税金が発生しますが、ローンで現金化すればこの税負担を回避できます。これにより、当面の資金ニーズに対応しつつ税金の発生を先送りできるのです。

配当課税を軽減する利息控除の効果

証券担保ローンを利用中でも株主である限り、配当金は引き続き受け取れます。ここで注目すべきは、所得税法上の要件(使途や申告方式など)を満たせば、ローンの支払利息配当所得の経費として控除できる点です。たとえば年間配当12万円、利息3万円であれば、課税対象は9万円に抑えられ、配当課税も軽減されます。この「利息控除」は配当額や借入額が大きい場合に有効で、確定申告を行えば実際の節税効果が得られます。

2つの仕組みで税負担を最小化

証券担保ローンによる節税の本質は、①譲渡益課税の繰り延べと、②配当課税の圧縮という2つの制度的仕組みにあります。株を売らずに現金化できる柔軟性と、税負担の最適化を両立させる手段として、個人・法人を問わず活用価値の高い制度です。

個人が証券担保ローンを利用した節税方法は?

証券担保ローンは、株式の含み益に課税されるのを避けながら現金を確保できるため、個人の資産運用において有効な節税手段となります。住宅資金や教育費など大きな支出が必要なタイミングでも、株を売らずに資金を得られるという利点があります。ここでは、個人がこの仕組みを使ってどのように税金対策を行えるのかを解説します。

(1) 譲渡益課税を避けて資産を保全

個人が保有する株式が大幅に値上がりしている場合、それを売却すれば20.315%の譲渡所得税が課税されます。たとえば300万円で購入した株が1,000万円に値上がりしていると、売却時には700万円の利益に対し約142万円もの税金が発生します。

一方で、証券担保ローンを使えば株を売却せずに現金を得られるため、この税金を支払う必要がありません。つまり、含み益を保ったまま資金調達が可能になり、当面の資金ニーズに対応しつつ、税負担を先延ばしにできます。

(2) ローン利息を活用した配当課税の軽減

証券担保ローンを活用しても、担保にした株式の配当金は引き続き受け取れます。さらに、借入金で新たに株式を購入し、その配当金を得た場合、ローンの利息を「必要経費」として控除できます。これは所得税法により認められており、たとえば年間配当が10万円、ローン利息が2万円であれば、課税対象の所得は8万円に抑えられ、所得税額を減らすことが可能です。このように、配当とローンを組み合わせた節税手法も、確定申告を通じて活用することができます。

(3) 新NISAとの使い分けと戦略的運用

2024年から新NISA制度がスタートし、一定の投資額までの利益や配当は非課税となりました。ただし、NISAには年間の非課税枠があるため、すでに大きな含み益を抱える資産には適用できません。そのため、NISAでカバーしきれない部分の税金対策として、証券担保ローンを活用する方法が注目されています。ローンによって資金を確保しながら、売却時期を後回しにすることで、課税タイミングを自分でコントロールできる点も大きな強みです。

利用時の注意点とリスク管理

節税効果がある一方で、証券担保ローンにはリスクも存在します。借入利率と投資リターンのバランスが取れていなければ、利息負担が節税効果を上回ってしまう恐れがあります。借入利率が年3%、株の期待成長率が年5%程度であれば有利ですが、相場が停滞すれば逆効果になることもあります。また、株価が下落した際には追証(追加担保)やロスカット(強制売却)が求められるリスクもあるため、借入額は慎重に設定し、返済計画も明確に立てておくことが重要です。

法人が証券担保ローンを活用した節税方法は?

法人にとって証券担保ローンは、含み益に対する課税を回避しつつ資金調達を行える手段として、税務上も財務上も一定のメリットがあります。長期保有株式を大量に抱える企業にとっては、譲渡益課税の繰り延べやローン利息の損金算入が可能となり、節税と資本効率向上の両面で効果を発揮します。

(1) 譲渡益の繰り延べで法人税負担を軽減

企業が保有する株式などを売却して資金化する場合、売却益に対して約20〜30%前後の法人税等が課されます。特に長期間保有して値上がりしていた株式を売却すると、多額の譲渡益が発生し、年度内の課税所得が急増してしまいます。一方で、証券担保ローンを利用すれば株式を売却せずに資金調達が可能となるため、課税のタイミングを後ろ倒しにできます。これにより、当期の法人税負担を抑えつつ、資金ニーズにも対応できるという柔軟な対応が可能になります。

(2) 利息の損金算入による実効的な節税

法人が証券担保ローンを活用するもう一つの利点は、支払利息を損金として計上できる点です。たとえば、企業が担保株式を基に1億円を年2%の利率で借り入れた場合、年間200万円の利息が発生します。この利息は経費として法人税計算時に控除されるため、実効税率が30%であれば約60万円の節税効果が見込まれます。株式を売却して同額の資金を得た場合は課税が直ちに発生するため、利息負担を加味してもローンのほうが税引後資金を多く確保できるケースもあります。

(3) 保有継続による配当控除の恩恵も享受可能

日本の法人税制では、他社株式から得る配当金について、一部を課税所得に算入しない「益金不算入制度(配当控除)」があります。持株比率に応じて、受取配当の50%〜100%が課税対象外となるため、企業が株式を保有し続けて配当を受けること自体に税制上の優遇があります。証券担保ローンで株式を担保に入れても保有権は維持されるため、配当収益も得られ続け、配当控除の恩恵もそのまま享受できます。このように、株式を売却して資金化する場合と比較して、今後の収益や節税の観点で見てもローン活用は有利な選択肢になり得ます。

財務への影響とガバナンス上の留意点

法人が証券担保ローンを利用する場合は、リスクや制度上の注意点も慎重に検討する必要があります。まず、担保とする株式の価格が下落した場合には、担保不足による追加担保の差し入れや早期返済を求められることがあります。特に企業が保有する株式は金額が大きいため、相場急変時には財務に与えるインパクトも大きく、リスク管理体制の整備が求められます。

証券担保ローン利用時の注意点は?

証券担保ローンは、株式などの資産を保持したまま資金を得られる柔軟な手段ですが、運用には慎重さが求められます。節税目的での利用にあたっては、経済情勢や税制の変化、株価の動向など多様な要素が絡むため、いくつかのリスクを事前に理解しておくことが重要です。

株価が下がると追加担保や強制売却のリスクが生じる

証券担保ローンでは、担保にした株式の価格が下落すると、追加の担保を求められたり、最悪の場合は強制的に売却される可能性があります。これを「追証」や「ロスカット」と呼び、発生すると譲渡益に対する課税が避けられなくなり、節税目的でのローン利用が逆効果になる恐れがあります。相場が急落した場合には、株を不利な価格で処分せざるを得ず、手元資金が想定より大幅に減ることもあります。こうした事態を防ぐためには、借入額を控えめに設定し、担保株の時価を日々確認する姿勢が必要です。

長期借入では利息コストが節税効果を上回ることがある

証券担保ローンはローンである以上、期間中は金利負担が生じます。短期間で返済する場合はさほど大きな影響はありませんが、長期間借り続けると利息総額が膨らみ、節税によって得られる金銭的メリットを帳消しにしてしまうこともあります。また、現在の低金利環境が将来変化すれば、変動金利型ローンでは支払利息が増える可能性もあります。節税を目的とするなら、借入期間は可能な限り短くし、繰上返済の余地を持たせることが望ましいでしょう。

株式の将来価値を見誤ると節税どころか損失につながる

証券担保ローンの節税効果は「株を売却せずに持ち続ける」ことにありますが、そもそもその株式の価値が将来も保たれるという前提が崩れた場合、大きな損失につながる可能性があります。業績悪化や市場全体の低迷によって株価が下がり続ければ、含み益は減り、節税の意義も薄れます。場合によっては「節税のために売却を遅らせた結果、売り時を逃した」という状況にもなりかねません。借入時には「この株を今後も保有する合理性があるか」を冷静に見極める必要があります。

税制や制度の変更で想定外の課税リスクが生じることもある

現在の制度では、含み益に課税されることはありませんが、将来的に税制が改正され、未実現の利益に対して課税される可能性も指摘されています。また、証券担保ローン自体の制度も、金融機関の判断や政策の変更により、融資率や金利条件が変更されることがあります。こうした不確実性を考慮し、利用者は定期的に税制改正や商品内容の最新情報を確認し、必要に応じて戦略を見直す柔軟さを持つことが求められます。

証券担保ローンで株を売却せずに税負担を抑えよう

証券担保ローンを活用すれば、株を売らずに現金を調達できるため、譲渡益課税を繰り延べながら資産を維持できます。配当金や株主優待もそのまま受け取れ、個人なら利息控除、法人なら損金算入といった追加の節税効果も見込めます。

株価の下落リスクや利息負担を踏まえ、無理のない範囲で慎重に運用しましょう。


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