• 更新日 : 2025年10月21日

税理士法人の設立登記はどうやる?必要書類や手続きの流れを解説

税理士法人の設立は、税理士法に基づく特有の要件を満たした上で、法務局へ法人登記を行うことで完了します。株式会社などの一般的な会社設立とは、社員の資格や手続きの順序が異なるため注意が必要です。この記事では、税理士法人の設立要件から、定款の作成、登記申請、そして設立後の届出までを、順を追ってわかりやすく解説します。

税理士法人の法人登記とは?株式会社との違い

税理士法人とは、税理士業務を行うことを目的として、税理士法に基づいて設立される特別な法人です。構成員が税理士に限定され、無限連帯責任を負う点などが、株主が有限責任の株式会社と根本的に異なります。

個人の税理士事務所と異なり、法人格を持つことで、社会的な信用を得やすくなったり、事業承継がスムーズになったりする利点があります。設立・運営は会社法の持分会社規律の準用も受けますが、基本は税理士法の特則に従います。

株式会社・合同会社との主な違い

税理士法人は、一般的な株式会社や合同会社とは、その根拠法や構成員、事業目的の範囲などが大きく異なります。

比較項目税理士法人株式会社合同会社
根拠法税理士法、会社法会社法会社法(持分会社)
事業目的税理士業務およびその関連業務に限定原則自由原則自由
構成員税理士資格を持つ「社員」のみ資格は問われず、出資者である「株主」資格は問われず、出資者である「社員」
責任社員(無限連帯責任)株主(有限責任)社員(全員有限責任)
機関・運営社員が業務執行・代表(準用規定)株主総会・取締役(取締役会は任意要件あり)社員が業務執行。内部自治が広く定款で柔軟に設計
意思決定原則として、社員の過半数の一致株主総会、取締役会原則は社員決定。多数決や全員同意など定款設計が可能

とくに、税理士法人の「社員」は、株式会社の「従業員」ではなく、出資者であり業務を行う経営者を指します。そして、その社員は税理士でなければならず、法人の業務上の債務に対しては、個人としても無限連帯責任を負うという点が大きな特徴です。

個人の税理士事務所から税理士法人化するメリット・デメリット

個人の税理士事務所の法人化には、役員報酬の活用による節税効果や社会的信用の向上といったメリットがあります。一方で、社会保険への加入義務や設立コストといったデメリットもあるため、両方を比較検討することが求められます。

税理士事務所から法人化するメリット

  • 社会的信用の向上:
    個人事務所に比べて、法人格を持つことで金融機関や取引先からの信用が高まり、大規模な契約や融資で有利になる場合があります。
  • 節税効果:
    経営者である社員に役員報酬や退職金を支払うことができ、所得税の負担を軽減できる可能性があります。また、条件を満たすことで消費税の免税事業者として取り扱われる期間が生じるなど、税務上のメリットが見込めます。
  • 事業承継の円滑化:
    社員を追加したり、後継者に社員の地位を承継させたりすることで、個人事務所よりもスムーズに事業を引き継ぐことができます。代表者が亡くなっても、法人は存続します。
  • 事業規模の拡大:
    複数の税理士が社員となることで、専門分野を分担し、より広範で質の高いサービスを提供できるようになります。支店(従たる事務所)の設置も可能です。

税理士事務所から法人化するデメリット

  • 設立コストの発生:
    税理士法人の設立には登録免許税はかかりませんが、定款認証手数料や公証役場での手続き費用、司法書士に依頼する場合の報酬など、一定の初期費用が必要です。
  • 社会保険への加入義務:
    健康保険や厚生年金といった社会保険への加入が義務付けられ、その保険料負担が発生します。
  • 事務負担の増加:
    会計処理や税務申告、社会保険の手続きなど、個人事務所時代よりも事務的な作業が増えるでしょう。

税理士法人の設立要件とは?

税理士法人を設立するには、原則2名以上の税理士が社員となることや、事務所の名称に「税理士法人」という文字を用いることなど、税理士法で定められた要件を満たす必要があります。また、社員が出資額に関わらず無限連帯責任を負う点が、株式会社などと大きく異なります。

社員の資格と人数に関する要件

税理士法人の根幹をなす「社員」には、法律で定められた厳格な要件があります。

  • 社員は税理士のみ:
    税理士法人の社員になれるのは、税理士資格を持つ個人の税理士に限られます。税理士でない人が出資のみを行うことはできません。
  • 社員は原則2名以上:
    税理士法人は、税理士が「共同して」業務を行うことを目的とするため、原則として2名以上の社員が必要です。
  • 社員の常駐義務:
    各事務所には、その事務所が属する税理士会の会員である社員が常駐しなくてはなりません。

出資と無限連帯責任の考え方

税理士法人の社員は、出資者であると同時に、法人の債務に対して個人としても無限連帯責任を負います。

税理士法人の社員になろうとする者は、金銭だけでなく、信用や労務といった形で出資をすることが認められています。ただし、出資額の大小にかかわらず、全社員が同等の責任を負います。

これは、会社の財産で返済しきれない債務がある場合、社員個人が連帯して、自身の財産をもって返済する義務があることを意味します。

  • 新しく加入した社員:法人加入前に発生していた債務についても責任を負う。
  • 退社した社員:退社前に生じた債務について、原則として退社後2年間は責任を負う。
  • 業務執行権や議決権:出資額の大小にかかわらず、原則として社員は頭数原則(一人一票)で対等な権利を持ちます。定款で別段の定めを置くことも可能です。

税理士法人特有の運営上のルール

税理士法人は、その公共性から、税理士法に基づき以下のような特有のルールが定められています。

  • 社員の競業避止義務:
    社員は、自己または第三者のために、法人の業務と競合する行為をしてはならず、他の税理士法人の社員になることも禁止されています。
  • 定款変更時の届出義務:
    定款の内容を変更したときは、遅滞なく、その旨を日本税理士会連合会(日税連)に届け出る必要があります。
  • 解散・清算・合併時の届出義務:
    法人が解散したり、清算が完了したり、他の法人と合併したりした場合も、その都度、日税連への届出が義務付けられています。
  • 裁判所の監督:
    税理士法人の解散および清算は、本店所在地を管轄する地方裁判所の監督の下で行われます。

設立登記の登録免許税について

税理士法人は、法律上「株式会社」よりも「合名会社」に近い組織形態として扱われます。そのため、登記手続きは会社法だけでなく「組合等登記令」に従って行われます。

  • 登録免許税は不要(0円)
    税理士法人の設立登記には、登録免許税が課されません。これは、合同会社(最低6万円)や株式会社(最低15万円)との大きな違いです。
  • その他コスト
    登録免許税は不要ですが、定款認証手数料や司法書士報酬など、初期費用は発生します。

税理士法人の定款に記載すべき事項

税理士法人の定款には、法律で定められた必ず記載すべき事項(絶対的記載事項)と、記載がなければ効力が生じない事項(相対的記載事項)を記載します。

絶対的記載事項

絶対的記載事項は、法律で義務付けられた必須の記載内容です。以下の6項目は必ず記載する必要があります。

  • 目的:税理士法人が行う業務を明確に記載します。税理士法第2条に定める「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」は必ず含める必要があります。また、他の法令で認められる範囲で、会計業務、記帳代行、成年後見業務など関連業務を記載することも可能です。
  • 名称:商号には、必ず「税理士法人」という文字を入れなくてはなりません。
  • 事務所の所在地:主たる事務所(本店)と、従たる事務所(支店)を置く場合はその所在地を記載します。
  • 社員の氏名及び住所:法人を構成する全社員の氏名と住所を記載します。
  • 社員の出資に関する事項:各社員が何を出資するのか(金銭、不動産、労務、信用など)、その評価額はいくらかを記載します。
  • 業務の執行に関する事項:税理士法人の業務執行権は、原則として全社員にありますが、定款で業務執行社員を限定することも可能です。そのため、全員が執行権を持つのか、一部社員に限定するのかを明確に記載する必要があります。

相対的記載事項

相対的記載事項は、記載がなくても定款自体は有効ですが、記載がなければその規定を適用できません。法律の原則と異なるルールを設定したい場合に記載します。

  • 利益の分配割合:原則として、利益分配は社員の頭数に応じて平等に分配されます。出資額や業務貢献度などに応じた特別な割合で分配したい場合は、定款に明記する必要があります。
  • 社員の脱退の理由:法律で定められた事由(死亡、除名など)以外に、独自の脱退理由(例:特定の年齢に達した時)を設けたい場合は、定款に定めます。
  • 法人の解散の理由:法律で定められた事由以外に、独自の解散理由を設けたい場合に定款に記載します。
  • その他:上記のほか、社員総会の定めや、法人の存続期間などを定める場合も、定款への記載が必要となります。

税理士法人の法人登記の手順

税理士法人の設立は、株式会社や合同会社とは異なり、日税連への事前手続きと事後届出が必要です。ここでは、設立準備から登記、登記後の届出まで、時系列に沿って手順を解説します。

STEP1:定款の作成と認証

まず、設立する税理士法人の基本ルールとなる定款を作成します。作成した定款は、株式会社と同様に、公証役場で認証を受ける必要があります。

定款には、目的、名称、事務所の所在地、社員の氏名及び住所、社員の出資に関する事項、業務の執行に関する事項などを記載します。この定款の内容は、後の登記申請の基礎となります。株式会社と同様に、電子定款を利用することで、収入印紙代を節約できます。

STEP2:税理士会で「社員資格証明書」の取得と出資金の払込み

定款の認証後、法務局へ登記申請を行うために、日本税理士会連合会(日税連)が発行する「税理士法人の社員資格証明書」が必要になります。

この証明書は、法人の社員となる者が税理士であることを公的に証明するものです。申請は、所属する単位税理士会(例:東京税理士会)の窓口に「税理士法人の社員資格証明申請書」などを提出して行います。申請後、数日から1週間程度で日税連から証明書が交付されます。

定款で定めた出資金は、登記前に各社員が払い込みます。払込み後は、その事実を証明する払込証明書を作成し、後の登記申請書類に添付します。

参照:税理士法人届出関係手続の流れについて|東京税理士会

STEP3:法務局への設立登記申請

日税連発行の「社員資格証明書」と、認証済みの定款などが揃ったら、主たる事務所の所在地を管轄する法務局へ、設立登記の申請を行います。この登記申請が受理された日が、法人の設立年月日となります。

主な添付書類
  • 登記申請書
  • 公証役場認証済みの定款
  • 社員資格証明書(日税連発行)
  • 出資金払込証明書
  • 社員の印鑑届書(任意提出)
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

STEP4:設立登記完了後の各種届出

法務局での登記完了後、2週間以内に、今度は所属する税理士会へ「税理士法人設立届出書」を提出します。登記前の届出ではなく、登記完了後の届出となる点が重要です。

これと同時に、税理士法人としての入会手続きや、社員個人の登録変更手続きなども行います。もちろん、税務署や都道府県税事務所などへの「法人設立届出書」の提出も必要です。

税理士法人の法人登記で必要な書類と費用

税理士法人の設立登記には、認証済みの定款や日本税理士会連合会の証明書といった、特有の書類が必要です。また、登録免許税は0円(非課税の実務取扱い)です。

登記申請の必要書類一覧

法務局へ提出する主な書類は以下のとおりです。

  • 登記申請書
  • 認証済みの定款
  • 社員資格証明書
  • 出資金払込証明書
  • 代表社員選任に関する書面
  • 法人の印鑑届出書
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

設立にかかる費用の内訳

  • 定款認証手数料
  • 定款謄本交付料
  • その他:司法書士への報酬(依頼する場合)など

法人設立後の社員変更登記はどうする?

税理士法人の設立後、社員が新たに参加したり退社したりした場合は、その事実が発生した日から2週間以内に変更登記を行わなくてはなりません。社員の構成は法人の根幹に関わるため、迅速な手続きが求められます。

社員の加入・退社に伴う変更登記

新たに社員が加わる場合や、既存の社員が退社する場合には、その事実が発生した日から2週間以内に、変更登記を申請しなくてはなりません。社員の加入には、原則として他の全社員の同意が必要です。

代表社員が1人または不在になった場合

社員が2名以上の法人で、代表社員が退社などにより不在となった場合は、新たな代表社員を定めて変更登記を行う必要があります。また、社員が1名になった場合も、その旨の変更登記が必要です。もし、その最後の1名の社員が死亡や税理士登録の抹消などで欠けた場合は、法人は解散することになります。

税理士法人の法人登記は税理士法と会社法の理解が重要

税理士法人の設立登記は、一般的な会社設立の手続きに加えて、税理士法で定められた特有の要件や手順を理解することが重要です。とくに、社員の資格や、登記前に日本税理士会連合会への届出が必要となる点は、大きな違いといえるでしょう。

この記事で解説した設立要件や手続きの流れをふまえ、必要な書類を準備し、計画的に設立を進めましょう。もし手続きが複雑で不安な場合は、登記の専門家である司法書士に相談することも有効な選択肢です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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