- 作成日 : 2025年9月16日
消費税節税のやり方は?個人事業主・副業・法人向けに解説
消費税は事業者にとって大きな負担となる税金ですが、制度を正しく理解し、状況に応じた対策を講じることで合法的に負担を軽減することが可能です。免税事業者の制度を活用したり、簡易課税制度を選択したりすることで、売上規模や事業内容に応じた節税効果が期待できます。また、法人化や副業による事業収入の管理方法次第では、消費税の納税額を抑える工夫も可能です。
本記事では、インボイス制度も踏まえ、消費税節税の基本から応用までを解説します。
目次
消費税の基礎知識
消費税の節税対策を考えるには、制度の基本構造と事業者の区分を理解することが出発点となります。ここでは、消費税の納税計算の仕組みと、「課税事業者」と「免税事業者」の違いについて解説します。
消費税の仕組みと事業者の負担
消費税は、事業者が商品やサービスの提供時に消費者から預かり、国に納める税金です。原則的な計算方法では、売上にかかる消費税から仕入や経費にかかった消費税を差し引き、残った分を納税します。この仕組みにより、実質的には自社が付加した価値分の消費税だけを負担する形になります。
ただし、売上が小規模な事業者には納税義務が免除される「免税制度」があり、一定の条件を満たせば消費税を国に納めずに済みます。これにより、売上時に預かった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いた差額分について、納税が免除されます。結果として資金繰りにプラスの効果が期待でき、これが合法的な節税策とされています。
課税事業者と免税事業者の違い
課税事業者になるか免税事業者になるかは、基準期間(個人は2年前、法人は前々事業年度)の課税売上高によって判断されます。1,000万円を超える場合は課税事業者として消費税を納付しなければならず、1,000万円以下なら免税事業者として扱われます。
ただし、2023年に導入されたインボイス制度では、売上が1,000万円以下でもインボイス発行事業者として登録すれば、課税事業者としての義務が発生します。また、新設法人は原則として設立から2年間は免税となりますが、資本金1,000万円以上の場合は課税事業者となります。また、資本金が1,000万円未満でも、「特定新規設立法人」(例:他の法人に50%超の株式を保有され、かつその法人の課税売上高が5億円を超える場合など)に該当する場合は、初年度から課税対象となります。
制度を踏まえたうえで、自身に合った節税方法を選択することが大切です。
免税事業者のメリットを活用した消費税の節税策
売上規模が小さい事業者にとって、免税事業者でいられることは大きな節税効果をもたらします。消費税の納税義務が免除されることで、売上に含まれる消費税分を実質的に利益として保持できるからです。ここでは、免税事業者としての立場を活用する節税方法と、それぞれの注意点について解説します。
売上高1,000万円以下の維持による節税
消費税法では、基準期間(個人事業主は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であれば、その年は消費税の納税義務が免除される免税事業者となります。たとえば、年商が900万円で推移している個人事業主の場合、消費税を預かっても納税する必要がなく、その分の利益を自社に残すことができます。10%の消費税であれば、実質的に90万円のキャッシュを手元に確保できることになり、資金繰りの面でも大きなメリットがあります。
しかし、売上が拡大して1,000万円を超えると、2年後には課税事業者となり消費税の納税が必要になります。当該年の特定期間(個人の場合はその年の前年1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間)における課税売上高と給与等支払額が共に1,000万円を超えた場合、その年から課税事業者となります。こうした制度上のルールを無視して意図的に売上を抑えようとすると、事業成長を妨げるリスクもあるため、免税事業者の立場はあくまで成長途中における一時的な節税措置と捉えるのが現実的です。
法人化(法人成り)による免税期間の延長
個人事業主として売上が伸びてくると、基準期間の売上高が1,000万円を超え、いずれは課税事業者になります。そこで、タイミングを見計らって個人事業を法人化(法人成り)することで、再び免税事業者となれる期間を確保する方法があります。これは、法人を新設した場合、原則として設立後の1期目と2期目は免税事業者となるという制度を利用するものです。
たとえば、個人事業の売上が950万円に近づいた時点で、資本金1,000万円未満の会社を設立して事業を承継すれば、法人設立後の2年間は消費税を納めずに済みます。この方法により、免税期間を実質的に「延長」することが可能です。一部では、「2年ごとに法人化して消費税を払わない」という節税戦略も紹介されており、小規模事業者にとっては一定の効果が期待されてきました。
ただし、2023年から導入されたインボイス制度の影響により、この法人成り節税にも制限が出ています。課税事業者である取引先が、仕入税額控除を確保するために「インボイス発行事業者」であることを条件とするケースが増えており、免税事業者のままだと取引を断られる可能性があります。つまり、法人として免税を維持できても、インボイスを発行できないことで営業面に支障をきたすリスクが高まっているのです。
このため、現在では法人化によって免税を延長する場合でも、単純に「2年間の納税回避」だけを目的にするのではなく、インボイス対応や取引先の意向も含めて総合的に判断する必要があります。
課税事業者ができる消費税の節税策
免税事業者の期間を終え、課税事業者となった場合でも、合法的に消費税の納税額を軽減できる方法は複数あります。ここでは、代表的な対策について解説します。
簡易課税制度の活用を検討する
課税売上高が5,000万円以下の事業者は、「簡易課税制度」を選択することが可能です。これは売上にかかる消費税額に、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて納税額を計算する方法で、仕入税額控除の計算が簡略化されるメリットがあります。
業種別には、卸売業90%、小売業80%、サービス業50%などが設定されており、実際の仕入が少ない業種にとっては、みなし仕入率を用いることで控除額が増え、納税額が軽減されることがあります。たとえば、サービス業のように人件費比率が高く、課税対象の仕入れが少ない場合には、原則課税よりも簡易課税の方が有利になる可能性が高いです。
ただし、設備投資を伴う年度などでは、実際に支払った消費税の方が多くなるケースもあり、原則課税の方が節税につながる場合もあります。簡易課税を選択するには事前の届出が必要で、一度選ぶと2年間は継続適用となる点にも注意が必要です。どちらが有利かは、事業内容と費用構造に応じたシミュレーションが欠かせません。
インボイス制度の2割特例を利用する
2023年10月に導入されたインボイス制度により、免税事業者から課税事業者へ移行した小規模事業者を対象に「2割特例」と呼ばれる軽減措置が設けられました。これは、課税売上に含まれる消費税の20%だけを納税すればよいという特例で、2026年9月30日までの3年間限定で適用されます。
この制度を使えば、実際の仕入控除を細かく計算する必要がなく、売上にかかる消費税額の2割のみを納付すればよいため、事務処理の簡略化と納税額の圧縮を両立できます。例えば、消費税納税額が50万円となるケースでも、2割特例を活用すれば10万円の納税で済みます。
2割特例は届出不要で、確定申告書に記載するだけで適用されます。インボイス制度の影響でやむを得ず課税事業者になったフリーランスや個人事業主にとっては、消費税負担を大きく軽減できる貴重な選択肢といえるでしょう。
仕入税額控除を最大限に生かす
課税事業者にとって、消費税の納税額を左右するのが「仕入税額控除」です。これは、事業活動の中で支払った消費税分を控除対象とする制度で、いかに多くの経費を控除対象として計上できるかが節税の鍵になります。
インボイス制度のもとでは、課税仕入として控除するには「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。取引先が免税事業者の場合、原則として仕入税額控除はできません。また、海外事業者との取引でも、インボイス発行がないため控除できないケースが多いですが、輸入取引やリバースチャージ方式が適用される取引など、一定の要件下では仕入税額控除が可能です。
したがって、経費の支出先はインボイス発行事業者であることを確認しながら選定する必要があります。
また、外注費の活用も有効な手段です。人件費は不課税であるため、従業員の給与には消費税がかかりませんが、外注や派遣費用には消費税が課されます。これを活用することで、仕入税額控除として消費税を控除することが可能になります。業務内容によっては社員を外注化することで納税額が減るケースもありますが、業務効率や管理コストとのバランスを考慮することが必要です。
さらに、高額な設備投資を予定している場合には、原則課税を選択することで支払った消費税分を控除し、場合によっては還付を受けることもできます。還付を受けるには原則課税方式である必要があるため、設備投資のタイミングにあわせて課税方法を見直すのが有効です。適切な時期に投資を行えば、消費税負担を大幅に軽減できるだけでなく、キャッシュフローの改善にもつながります。
会社員が副業や法人設立をした場合の消費税の節税策
会社員として勤務しているだけでは消費税の節税対象にはなりませんが、副業で個人事業を行っていたり、自ら法人を設立して事業活動を行っている場合には、消費税法上の「事業者」として節税の可能性が生まれます。ここでは、副業の個人事業主および法人経営者として活用できる節税策について解説します。
副業で個人事業をしている場合
副業で物販やコンサルティング、Web制作などの収入がある場合、その事業が「課税売上高1,000万円以下」であれば免税事業者として消費税の納税義務がありません。売上に含まれる消費税を国に納めずに済むため、実質的にその分を手元に残せます。
この免税措置は大きな節税効果がある一方、売上が増えれば2年後からは課税事業者になります。また、インボイス制度により、取引先からインボイス発行を求められるケースがあるため、たとえ売上が基準以下でも課税事業者として登録する必要が出てくる場合もあります。
課税事業者になった後は、「簡易課税制度」を検討するのも有効です。年間売上高5,000万円以下であれば選択可能で、業種ごとの「みなし仕入率」に基づいて納税額を簡易に計算できます。仕入や経費が少ない副業の場合、実額控除よりも簡易課税の方が有利になるケースもあります。
法人を設立している場合
会社員として働きながら、自分名義の法人を設立し、そこから収入を得ている場合、法人は消費税の課税事業者または免税事業者となります。資本金1,000万円未満で新設した法人であれば、原則として設立1期目と2期目は免税事業者となり、消費税の納税を免れます。
また、法人が課税事業者である場合、設備投資を行った際に支払った消費税分を仕入税額控除できるため、消費税の納税額を圧縮できます。さらに、タイミングを見計らって原則課税・簡易課税を使い分けることで、納税額をコントロールすることも可能です。
ただし、法人がインボイス発行事業者でない場合、取引先から敬遠される可能性があるため、消費税の節税と営業上の信用維持とのバランスを慎重に見極めましょう。
消費税節税の注意点と動向
消費税の節税策はさまざまありますが、それぞれにリスクや制約が伴います。特にインボイス制度の導入以降、免税事業者の立場には大きな変化が生じました。節税を考える際は、制度上の条件だけでなく、取引や事業全体への影響も踏まえた判断が求められます。
インボイス制度の影響が大きい
インボイス制度が始まってから、免税事業者が適格請求書を発行できないことにより、取引先から敬遠されるケースが増えています。BtoB取引では「インボイスを発行できない業者とは取引しない」という姿勢を示す企業も多く、売上が1,000万円以下であっても、課税事業者として登録することが求められる場合があります。このような場合には「2割特例」を活用して納税負担を軽減するなどの対応も検討が必要です。
節税効果を過信しない
節税のために売上を1,000万円以下に抑えることや法人化を急ぐことは、事業成長の足かせになることがあります。また、外注費を使って仕入控除を狙う手法も、コストや業務効率に悪影響を及ぼすことがあります。節税はあくまで経営判断の一部として、バランスを取りながら活用すべきです。
制度変更に備えておく
現時点(2025年)では消費税率は10%ですが、将来的に税率引き上げや免税制度の見直しが行われる可能性があります。インボイス制度の経過措置(80%→50%控除)も2029年までに段階的に縮小される予定です。税制の動向を継続的に確認し、制度変更に対応できる準備を怠らないことが大切です。税理士など専門家との連携も視野に入れておきましょう。
消費税の節税は制度理解と経営判断の両立が大切
消費税の節税には、免税事業者としての優遇、簡易課税制度の選択、インボイス制度の特例活用など、多様な方法があります。副業や法人化を活用することでさらに選択肢が広がりますが、各制度には制限やリスクも伴います。インボイス制度の影響は大きく、節税だけでなく取引先との信頼や事業成長とのバランスを取る判断が欠かせません。制度の正確な理解と長期的な視野を持った対応が、賢い節税と持続可能な経営につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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