- 作成日 : 2025年9月16日
不動産投資で節税するには?所得税・相続税・法人化した場合について解説
不動産投資は、家賃収入による安定的な資産形成だけでなく、所得税や相続税など複数の税目に対する節税効果も期待できる手法として注目されています。経費の適切な計上や減価償却によって課税所得を抑えることができ、さらに法人化や相続対策としての活用も可能です。
本記事では、不動産投資を活用した節税の仕組みとその方法について解説します。
目次
不動産投資による節税の仕組み
不動産投資は、収益を得る手段であると同時に、税金面でもメリットを享受できる資産運用方法です。家賃収入から経費や減価償却費を差し引いて課税所得を圧縮できるため、所得税・住民税の負担を軽減する効果があります。ここでは、不動産投資における節税の基本的な仕組みを解説します。
経費を計上して所得を圧縮する
不動産投資から得た家賃収入は「不動産所得」として所得税の課税対象になりますが、その際、必要経費を差し引いて所得を算出します。経費には、固定資産税、火災保険料、管理費、修繕費、広告費、ローン利息などが含まれます。(ただし、不動産所得が赤字になり給与所得などと損益通算する場合、土地取得にかかった分のローン利息は通算の対象外となります。)
これらの支出を正確に経費計上することで、課税所得を圧縮し、納税額を抑えることができます。給与所得しかない会社員にとっても、不動産投資によって支出の一部を経費として申告できる点は、節税面での大きな利点といえるでしょう。
減価償却を活用して帳簿上の利益を下げる
不動産の建物部分や設備には耐用年数が定められており、その費用を年数にわたって分割計上できるのが減価償却です。減価償却費は実際の支出を伴わず、帳簿上で費用として扱えるため、キャッシュフローが黒字でも帳簿上の所得は赤字にすることが可能です。この赤字によって所得税や住民税の課税対象が減り、節税効果が生まれます。新築よりも耐用年数が短い中古物件では、減価償却のスピードが速く、初期の節税効果が高まる傾向があります。
赤字を活用して損益通算を行う
不動産所得が赤字になった場合、他の黒字所得と相殺する「損益通算」が可能です。たとえば、賃貸経営で100万円の赤字が出た場合、その額を本業の給与所得から差し引けるため、結果として課税所得が減少し、所得税・住民税の軽減が見込めます。これは高所得者ほど効果が大きく、税率の高い給与所得に赤字をぶつけることで節税効果が最大化されます。ただし、別荘などの趣味的物件の損失や、土地取得ローンの利息は損益通算の対象外となるため、制度の条件をよく理解した上で適用する必要があります。
不動産投資で節税できる税金の種類
不動産投資による節税効果は、個人の所得税や住民税だけでなく、相続税などの資産承継に関わる税金にも広がります。ここでは、不動産投資が節税に与える影響を税目ごとに整理します。
所得税・住民税を軽減できる
不動産投資においてもっとも直接的に節税効果を発揮するのが、所得税および住民税です。所得税は累進課税制度のため、所得が高くなるほど税率が高くなり、最大45%が適用されます。住民税は全国一律で10%(都道府県民税・市町村民税の合算)です。そのため、課税所得が減ればこれらの高税率部分に働きかけることができ、大きな節税効果につながります。
不動産所得は、賃貸収入から経費や減価償却費を差し引いた金額で算出されます。たとえば、課税所得が900万円を超え所得税率33%が適用される人が、不動産投資で100万円の赤字を損益通算した場合、所得税33万円と住民税10万円、合計で約43万円の税負担が軽減される可能性があります。
また、青色申告を採用し、正規の帳簿付けを行えば、最大65万円(電子申告)の青色申告特別控除が適用されます。これにより、課税所得をさらに減らすことができ、実効的な節税につながります。
相続税対策になる
不動産投資は、相続税の節税手段としても注目されています。現金や預貯金は額面通りに評価される一方で、不動産は相続税評価額が実勢価格よりも低く算出される傾向があるため、相続時の課税対象を減らせるからです。
賃貸物件の場合、建物については「借家権割合」分(通常30%)が控除され、土地も「貸家建付地」として20%前後の減額が適用されます。加えて、「小規模宅地等の特例」が使えれば、事業用や賃貸用の土地について最大80%の評価減が可能です。
たとえば、固定資産税評価額1,000万円のアパートを賃貸中の場合、建物評価は700万円に下がります。同様に敷地も特例を活用すれば、大幅に圧縮できます。こうした仕組みにより、現金1億円を賃貸不動産に転換することで、相続税評価額を数千万円単位で下げることも現実的です。
ただし、不動産の取得・管理には資金負担が伴います。税金の軽減効果だけに注目するのではなく、物件の収益性や将来的な資産価値も含めて慎重に検討することが欠かせません。
不動産投資による節税がおすすめなケース
不動産投資による節税は、すべての人に等しく効果があるわけではありません。この節では、不動産投資による節税がおすすめとされるケースを紹介します。
高所得の会社員や個人事業主
課税所得が多い人ほど所得税率が高くなるため、赤字の不動産所得を他の所得と損益通算することにより、税額を大幅に抑えることができます。年収900万円を超える層は、節税による実質的な効果が高くなる傾向にあります。
相続財産が多い家庭
相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)を超えるような家庭では、不動産に組み替えることで評価額を抑える効果が見込まれます。現金よりも不動産として保有する方が、相続税の軽減につながる可能性が高まります。
将来的に法人化を視野に入れている人
マンションなどの規模の大きい不動産投資を始めた場合、個人よりも法人の方が節税しやすい環境になります。所得分散や経費計上の幅が広がるため、長期的に不動産を保有する予定の人におすすめです。
不動産投資の節税効果は個人と法人でどう違う?
不動産投資による節税効果は、収入を「個人」で得るか「法人」で得るかによって大きく異なります。ここでは個人と法人の違いを整理し、どのような場合に法人化を検討すべきかを明らかにします。
個人で不動産収入を得る場合
個人で不動産収入を得た場合、不動産所得は所得税および住民税の課税対象になります。所得税は累進課税で最高45%、住民税は一律10%です。そのため、高所得の個人にとっては最大55%近い税率が適用される可能性があります。
一方で、個人投資家ならではの節税方法もあります。不動産所得が赤字の場合、給与所得などと損益通算できることから、納税額の圧縮が可能です。また、事業的規模(原則10室以上)の賃貸であれば、青色申告により最大65万円の特別控除が受けられます。さらに、家族に管理業務を手伝ってもらい給与を支払えば、それも必要経費に算入でき、世帯全体での節税に寄与します。
ただし、赤字の繰越控除は最長3年間までで、長期の損失繰越には対応できません。収益が拡大するほど累進税率の影響を受けやすくなるため、利益が一定以上になると法人化を検討する人が増えます。
法人化する場合
法人で不動産投資を行う場合、法人税率は基本的に約23.2%、中小法人なら年800万円まで15%の軽減税率が適用されます。これにより、個人の高所得層に比べて税率が抑えられ、課税額を軽減しやすくなります。
また、法人では役員報酬を支給し、法人の経費として計上することが可能です。自分や家族に給与を分配することで、法人と個人の双方で課税所得を分散でき、結果として総合的な税負担を抑えられる仕組みが取れます。
法人では赤字(欠損金)を最長10年間繰り越して将来の黒字と相殺できる点も大きな利点です。初期費用や修繕で赤字が出ても、長期的な戦略が立てやすくなります。経費計上の幅も広がり、交際費、社用車費用、研修費なども適切に処理すれば損金として扱えます。
ただし、法人化には設立コストや運営費(税理士費用、法人住民税均等割など)が発生します。法人から個人に利益を移す際の二重課税(配当など)にも注意が必要です。節税効果とコストのバランスを見極め、必要に応じて税理士などの専門家と相談することが望ましいでしょう。
不動産投資で節税する際の注意点
不動産投資は節税の手段として有効ですが、税制の変化や投資リスクを正しく理解しておかないと、思わぬ損失につながることがあります。ここでは、不動産を活用した節税に関する税制動向と、投資判断における節税の位置づけについて整理します。
節税スキームへの規制強化に注意する
近年、不動産を活用した過度な節税手法に対して、税制改正による規制が進んでいます。代表例が海外中古不動産を使った損益通算スキームです。以前は、法定耐用年数を短く設定することで大きな減価償却費を計上し、国内所得と相殺することが可能でしたが、2021年以降、国外中古建物の減価償却損は他の所得と通算できなくなりました。
相続税対策としての不動産活用に関しては、税制改正に注意が必要です。特に、いわゆる「タワマン節税」への対策として、2024年1月1日以降の相続から、居住用マンションの相続税評価額の算定に新たなルールが適用されています。これにより、従来の評価額より高くなる可能性があるため、最新の制度を専門家に確認することが重要です。
節税目的で新しいスキームを利用する場合には、国税庁の見解や税制改正大綱を踏まえ、過度な節税とならないよう慎重な判断が求められます。
節税は投資判断の一要素と捉える
節税効果は確かに不動産投資の魅力ですが、それを目的に投資を行うと失敗するリスクがあります。収益性が低い物件を無理に取得し、毎年赤字経営を続ければ、たとえ税金が減っても手元資金が減り続ける可能性があります。
また、減価償却による節税は一時的なものであり、将来的に物件を売却すれば譲渡所得税が課される場合もあります。節税を重視しすぎるあまり、本来の収益性や将来の資金計画を見誤らないようにしましょう。
不動産投資で節税を成功させよう
不動産投資は、所得税・相続税・法人税などさまざまな税金を抑える手段として有効ですが、節税効果を得るためには制度の正確な理解と収益性を見極める視点が欠かせません。経費計上や損益通算、減価償却の仕組みを活用しながら、節税だけでなく投資全体のバランスを重視することが大切です。税制改正の動向にも注意を払い、必要に応じて専門家と連携しながら、将来を見据えた投資と節税の両立を図りましょう。
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