- 作成日 : 2025年9月16日
弁護士が法律事務所を開業するには?独立しても食えないと言われる理由やリアルな年収も解説
弁護士として独立し、自らの法律事務所を開業することは、多くの法曹関係者が目指すキャリアの一つの形です。しかし、その道には独立しても食えない、現実は悲惨だといった不安を煽る声も少なくありません。
この記事では、独立開業を目指す弁護士の皆様が抱える不安を解消し、成功への確かな一歩を踏み出すための具体的な手引きを解説します。
目次
弁護士は独立しても食えないと言われる背景
弁護士は独立しても食えないという言葉は、主に弁護士人口の増加による競争激化が原因です。特に都市部では、専門分野を確立できていない場合、価格競争に巻き込まれやすくなります。
また、アソシエイト時代には意識しなかった事務所の固定費、例えば家賃、人件費、広告宣伝費などが重くのしかかることも要因の一つです。受任件数が安定するまでの間、運転資金が枯渇し、厳しい状況に陥るケースが見られます。
弁護士が法律事務所を開設するためのステップ
具体的な開業準備について、コンセプト設計から資金計画、各種手続きまで、5つのステップに分けて解説します。
1. コンセプトと事業計画の策定
最初に、どのような法律事務所にしたいかというコンセプトを明確にします。例えば、地域密着で気軽に相談できる事務所や、IT分野に特化した専門事務所など、具体的な姿を思い描くことが、他事務所との差別化につながります。
コンセプトが決まったら、ターゲット顧客、提供サービス、収支計画などを盛り込んだ事業計画書を作成します。事業計画書は、金融機関からの融資を受ける際にも必要です。
2. 資金調達
日本で弁護士が法人を設立する場合、登記や専門家報酬を含めて、自宅開業なら概ね50万円、事務所を借りる場合は100〜300万円程度が目安です。
- 初期費用
事務所の保証金、内装費、PC・複合機などのOA機器購入費、ウェブサイト制作費、広告宣伝費など - 運転資金
開業後、収入が安定するまでの半年から1年分の事務所経費と生活費
自己資金で不足する場合は、日本政策金融公庫の創業融資や、自治体の制度融資などを活用する方法があります。精度の高い事業計画書があれば、融資を受けやすくなります。
3. 物件選びとオフィス環境の整備
事務所の場所は、営業戦略上、非常に重要な要素です。ターゲット顧客がアクセスしやすいか、裁判所からの距離はどうかなどを考慮して選びます。
また、依頼者が安心して相談できるプライバシーに配慮した内装も大切です。相談室と執務スペースを分ける、防音対策を施すなどの工夫が求められます。快適なオフィス環境は、業務効率だけでなく、顧客からの信頼にも繋がります。
4. 弁護士会・税務署への届出
弁護士が独立する際には、いくつかの手続きが必要です。
- 弁護士会への届出
弁護士が新たに法律事務所を設けるときは、直ちに所属弁護士会および日本弁護士連合会へ届け出しなければなりません(弁護士法第21条)。事務所形態や所在地の取り扱いについては弁護士会ごとの細目ルールがあるため、所属弁護士会に確認してください。 - 税務署への開業届
事業を開始したことを税務署に申告するため、個人事業の開業・廃業等届出書、通称、開業届を提出します。開業から1ヶ月以内が原則です。 - 青色申告承認申請
開業届と同時に提出することで、最大65万円の特別控除など税制上の優遇措置を受けられます。節税の第一歩として必須の手続きです。 - 税務・労務関係の届出
会社員を辞めて個人事業主になる場合、勤務先の健康保険・厚生年金(被用者保険)から外れるため、原則として市区町村の窓口で国民健康保険への加入と国民年金(第1号被保険者)への切替手続きを行います。
事務員などを雇う場合は、雇用保険・労災保険(労働保険)や給与に関する源泉徴収などの労務・税務手続きを行う必要があります。社労士や税理士に相談するのは有効です。
5. 集客戦略の立案・実行
どんなに優れた弁護士でも、その存在を知ってもらえなければ依頼にはつながりません。開業初期は、特にマーケティングが重要です。
自身の専門分野の顧客層に的確に情報を届けることを意識し、費用対効果を見ながら複数の方法を試していくことが成功につながります。
弁護士が法律事務所を開業した場合の年収モデル
開業初年度の年収は、売上から経費を差し引いた所得額で500万〜800万円程度が一つの目安です。これはアソシエイト時代の給与より下がる可能性も十分にあります。
しかし、経営が軌道に乗れば、2年目、3年目と収入は増加していく傾向にあります。重要なのは、初年度から高望みをせず、着実に顧客を増やし、事務所の基盤を固めることです。
年収1000万円超を目指すための戦略
弁護士の開業で年収1000万円の壁を超えるには、明確な収益計画が必要です。
- 安定収益の確保
顧問契約を複数獲得し、毎月安定した収益源を確保する。 - 高単価案件の獲得
高い専門性をアピールし、高単価な案件を受任できる体制を構築する。 - コスト管理の徹底
後述する経費削減を意識し、利益率を高める。
売上を増やすことと、経費を最適化すること、この両輪を回すことで、目標達成が見えてきます。
経費削減のポイント
開業当初は、過剰な設備投資を避けるのが賢明です。固定費を可能な限り低く抑えることで、損益分岐点が下がり、精神的にも経営的にも余裕が生まれます。
- オフィス費用
都心の一等地を避け、レンタルオフィスや自宅開業からスタートする。 - 人件費
当面は一人で運営し、必要に応じて外部サービスやITツールを活用する。 - 事務効率化
クラウド会計ソフトや事件管理システムを導入し、事務作業を効率化する。
弁護士の法律事務所開業を成功させましょう
法律事務所の開業は、決して簡単な道のりではありません。しかし、弁護士の独立は食えない、あるいは悲惨だといった言葉は、準備不足や戦略の欠如から生まれる結果論に過ぎません。
自らの強みを冷静に分析し、明確なコンセプトと事業計画を立て、着実に準備を進めることで、リスクは大幅に低減できます。アソシエイト時代に培った経験と知識は、独立後に必ず活きてきます。
開業届を提出した瞬間から、あなたは一人の経営者です。この記事で紹介した弁護士のための事務所開設・運営の手引きを参考に、あなただけの法律事務所を築き上げてください。その挑戦は、多くの人を助け、社会に貢献する価値ある一歩となるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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