- 作成日 : 2025年9月9日
合同会社のペーパーカンパニーを設立するには?目的から設立手順、注意点まで解説
ペーパーカンパニーの設立を考えるとき、その方法として合同会社(LLC)が注目されています。
この記事では、なぜ合同会社が選ばれるのか、ペーパーカンパニーとして合同会社を設立する具体的な手順、合法的な活用メリット、そして避けるべきリスクや注意点を解説します。
目次
そもそもペーパーカンパニーとは
ペーパーカンパニーとは、法人登記はされているものの、事業活動の実態がほとんどない会社を指す呼び方です。法律上の正式な用語ではなく、書類上のみ存在する会社という意味合いで使われます。
法人として登記されている以上、法律上は通常の会社と変わりありません。しかし、事務所や従業員がおらず、事業活動の形跡が外部から確認できない状態の法人を一般的にペーパーカンパニーと呼びます。事業活動を停止している休眠会社も、広い意味ではこれに含まれることがあります。
ペーパーカンパニーの設立は違法?
ペーパーカンパニーの設立や所有自体は違法ではありませんが、租税回避や金融犯罪に利用される場合は法令違反となります。
例えば、マネーロンダリング、脱税、詐欺といった犯罪目的で利用すれば違法な存在となります。一方で、節税、資産管理、プライバシー保護などの正当な目的であれば、合法的な活用と見なされます。近年、金融機関などは犯罪防止の観点から法人の実態確認を強化しており、口座開設の審査は厳格化しています。そのため、合法的な目的であっても、事業計画などを明確に説明できる準備が必要です。
ペーパーカンパニーの設立形態に合同会社が選ばれる理由
ペーパーカンパニーを設立する際、株式会社ではなく合同会社(LLC)が選ばれやすいのには、明確な理由があります。
理由1. 設立費用が安く、手続きが比較的簡単
株式会社に比べて、合同会社は設立時の登録免許税や定款認証費用が不要なため、初期費用を抑えられます。
項目 | 合同会社(LLC) | 株式会社 |
---|---|---|
定款に貼る収入印紙代 | 0円(電子定款の場合) | 0円(電子定款の場合) |
定款認証手数料 | 不要 | 3万円〜5万円 |
登録免許税 | 最低6万円 | 最低15万円 |
合計 | 最低6万円 | 最低20万円 |
設立手続き自体も比較的シンプルで、手軽に法人格を取得できる点が大きなメリットです。
理由2. 役員の任期がなく、維持コストを抑えやすい
合同会社には、株式会社と違って役員の任期という概念がありません。
株式会社の場合、役員の任期は最長10年で、任期が満了するたびに役員変更の登記手続きが必要になり、登録免許税(1万円)も発生します。事業活動を行わないペーパーカンパニーにとって、こうした定期的に発生する手間やコストは避けたいものです。
合同会社であれば、役員が同じ限り変更登記が不要なため、管理コストや手続きを忘れるリスクをなくせます。低コストで法人を維持したい場合に適した形態です。
理由3. 利益配分の自由度が高い
合同会社は、出資した金額の比率に関わらず、定款で定めることで利益を自由に配分できる点が特徴です。
株式会社では、原則として保有する株式数、つまり出資比率に応じて利益が配当されます。しかし合同会社では、例えば出資額は少なくても、事業に重要なスキルやノウハウを提供した特定の社員(役員)に多くの利益を分配することが可能です。この仕組みは、資産管理会社を設立して親族を社員にする場合など、所得を分散させて節税効果を戦略的に高めたいときに役立ちます。
ペーパーカンパニーとして合同会社を運営するメリット
ペーパーカンパニーは、その目的が合法的であれば、節税や資産管理において有効な手段となります。
節税対策
個人事業主や高所得者が法人を設立することで、税負担を軽くできる場合があります。
個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進課税(最高45%)ですが、法人税の実効税率は約30%前後です。そのため、個人の所得が一定額を超えると、法人を設立して役員報酬として受け取る方が全体の税額を抑えられます。また、法人名義にすることで、個人では経費にしにくい家賃や通信費の一部を経費として計上できる範囲が広がり、課税対象となる所得を圧縮する効果も期待できます。
資産管理や相続対策
個人が所有する不動産や有価証券を法人名義にすることで、管理や承継をスムーズにする目的で活用されます。
個人が亡くなると、その人の銀行口座や不動産は遺産分割が終わるまで凍結されてしまいますが、法人名義の資産は凍結されません。これにより、資産の管理主体を個人から法人へ一本化でき、相続発生時のリスクを避けられます。あらかじめ後継者を会社の社員(役員)にしておくことで、会社の経営権、ひいては資産の管理権を円滑に引き継ぐことが可能になります。
ペーパーカンパニーとして合同会社を運営するデメリット
メリットがある一方で、ペーパーカンパニーの運営には特有のリスクやデメリットも存在します。
銀行口座の開設が難しい場合がある
現在、ペーパーカンパニーが直面する最大の壁は、法人口座の開設です。金融機関は犯罪収益の防止対策を強化しており、事業実態が不明確な法人の口座開設には非常に慎重で、審査で断られるケースも少なくありません。審査では、事業内容の具体性や本店所在地の状況、ウェブサイトの有無などが総合的に判断されます。対策として、具体的な事業計画を準備して説明できるようにしておくことや、資本金を100万円以上にするなど会社の信用度を高める工夫が考えられます。
税務調査の対象になりやすい
事業実態が乏しい会社は、税務署から「租税回避が目的ではないか」と疑われやすく、税務調査の対象に選ばれやすい傾向があります。特に、個人と法人の間で不自然な資金の移動があったり、経費の計上が不適切だったりすると、調査で厳しく指摘されるリスクが高まります。税務調査では、事業を行う意思の有無や経費の関連性が精査されます。もし個人的な支出を経費にしていた場合、経費の否認や重加算税といった重いペナルティが課される可能性があるため、日頃から適切な会計処理と資料保管が重要です。
維持コスト(法人住民税など)が必ず発生する
たとえ売上や利益がゼロであっても、法人である以上、最低限の維持コストがかかります。事業活動を行わず赤字決算であっても、法人住民税の「均等割」として、最低でも年間約7万円の税金を納める義務があります。この均等割は、法人が自治体から受ける行政サービスへの対価として課される税金です。この他に、税理士に決算申告を依頼すればその費用もかかります。これらの維持コストを上回るメリットが見込めるかどうかを、設立前に慎重に検討する必要があります。
ペーパーカンパニーとして合同会社を設立する手順
合同会社の設立は、必要書類を準備し、法務局へ申請することで完了します。ここでは、設立の具体的なステップを解説します。
1. 会社の基本事項を決定する
まず、設立する会社の骨格となる基本情報を決めます。商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金の額、社員(役員)構成、事業年度といった基本事項を決定します。
- 商号
会社の名前です。同一住所に同じ商号の会社は登記できません。頭か末尾には必ず合同会社を入れます。 - 事業目的
どのような事業を行う会社なのかを定めます。将来的に行う可能性のある事業も記載しておくと、後々の変更手続きが不要になります。ただし、事業実態がない場合でも、あまりに実態とかけ離れた目的を並べると、銀行口座開設などで不利になる可能性があります。 - 本店所在地
会社の住所です。自宅や賃貸物件でも可能ですが、プライバシー保護や信用の観点から、バーチャルオフィス(住所貸しサービス)を利用するケースも多いです。 - 資本金
1円から設立可能ですが、実務上は10万円〜数百万円程度に設定されるケースが多いとされています。 - 社員構成
合同会社の社員は出資者を指し、その中で経営を担うのは業務執行社員に限られます。誰がいくら出資するのかを決定します。
2. 定款の作成
次に、会社のルールブックである「定款」を作成します。合同会社の定款は、株式会社と異なり公証役場での認証は不要です。定款には、商号や事業目的といった必ず記載すべき事項のほか、利益の配分方法など会社の運営ルールを任意で盛り込めます。設立費用を抑えるため、紙の定款ではなく、収入印紙(4万円)が不要になるPDF形式の「電子定款」で作成するのが一般的です。
3. 資本金の払い込み
定款を作成したら、定めた資本金を払い込みます。この時点ではまだ法人口座はないため、出資者の中から代表者を一人決め、その人の個人銀行口座に各出資者が自分の出資額を振り込む形で払い込みます。全員の振り込みが完了したら、その口座の通帳のコピー(表紙、支店名・口座番号が記載されたページ、振込履歴が記載されたページ)を用意します。このコピーが、資本金が正しく払い込まれたことを証明する「払込証明書」の添付書類となります。
4. 登記申請書類の作成と法務局への提出
必要書類一式を揃え、本店所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。提出日が会社の設立日となります。設立登記申請書、定款、代表社員の印鑑証明書、払込証明書など、必要な書類を作成し、法務局に提出します。
主な必要書類は以下の通りです。
- 合同会社設立登記申請書
- 定款
- 代表社員の印鑑証明書
- 払込証明書
- 印鑑届書(会社の実印を登録するため)
これらの書類を法務局の窓口に持参するか、郵送、またはオンラインで申請します。申請後、1週間から10日ほどで登記が完了し、会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や印鑑カードが取得できるようになります。
5. 設立後に必要な手続き
登記が完了しても、手続きは終わりではありません。速やかに以下の届出を行いましょう。
これらの手続きを怠ると、税金の優遇措置が受けられなくなったり、罰則の対象になったりする可能性があるため、注意が必要です。
ペーパーカンパニーとして合同会社を設立すべきか十分検討しましょう
ペーパーカンパニーとして合同会社を設立すること自体は比較的簡単ですが、その真価は運営方法にかかっています。最も重要なのは、節税や資産管理といった正当な設立目的を持ち、それを第三者に説明できるように準備しておくことです。また、設立費用は安くても、法人住民税均等割などの維持コストが必ず発生することも忘れてはなりません。銀行口座開設の難易度や税務調査のリスクといったデメリットも事前に理解し、対策を講じる必要があります。本記事を参考に、ご自身の目的にとって法人化が本当に必要か、慎重に判断してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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