- 作成日 : 2025年8月19日
自分で会社設立するには?費用・流れ・必要書類を解説
起業を考えたとき、「会社設立は自分でできるのか」と不安に思う方も多いかもしれません。株式会社や合同会社の設立は、専門家に頼らず自分の手で行うことが可能です。定款の作成、資本金の払い込み、登記申請、各種届出など、必要なステップを理解し、しっかり準備すればスムーズに進められます。
この記事では、自分で会社設立を進めるために必要な知識や流れ、費用、注意点を解説します。
目次
会社設立は自分だけでできる
起業を検討する際、「会社設立を自分で進められるのか」「専門家に依頼しないと難しいのでは」と不安に感じる方も少なくありませんが、設立手続きは個人でも完結可能です。
会社設立の手続きは、株式会社・合同会社いずれの形態であっても、司法書士や行政書士などの専門家に依頼せずに、自分自身で行えます。定款の作成、資本金の払い込み、法務局への登記申請など、各ステップには一定のルールがありますが、法務省や公証人役場、税務署などの公式情報を参照しながら進めれば、個人でも問題なく対応できます。
会社設立を自分で行うメリット
会社設立の手続きを専門家に依頼せず、自分自身で進める起業家が増えています。背景には、コストや学びの面で得られる多くの利点があります。ここでは、自力で会社設立を行うメリットについて解説します。
費用を大きく節約できる
最大のメリットは、設立にかかるコストを抑えられる点です。専門家に依頼すると、司法書士や行政書士への報酬として、株式会社設立で約7万〜15万円、合同会社設立で約4万〜9万円程度の費用が発生するのが一般的ですが、自分で行えばこれらの費用を節約できます。たとえば電子定款を利用することで、紙定款に必要な4万円の印紙代も不要となり、さらに出費を減らすことが可能です。合同会社であれば、登録免許税も株式会社より低額で、合計して6万円前後から設立できます。
会社設立に必要な知識が身につく
自分で手続きを進めることで、定款の構成、登記の流れ、資本金の取り扱いなど、会社運営の基礎知識を自然と習得できます。これは今後の経営判断や行政対応に役立つ貴重な学びとなります。専門家任せでは見過ごしがちな細かいルールや注意点も、自ら経験することで理解が深まり、会社運営への意識が高まります。
設立スケジュールを自分で管理できる
自力で進めることで、設立のペースやタイミングを自分でコントロールできます。専門家とのやり取りによる待ち時間がなく、書類の準備から提出までを自分の都合に合わせて進行できるため、スピーディーに設立を完了させたい方にとっても利点があります。事前に必要事項を整理し、準備を円滑に進めれば、最短で1週間程度で設立を終えることも可能です。一般的には2〜3週間程度かかることが多いとみておきましょう。
会社設立を自分で行うデメリット・注意点
自分で会社設立を進めることはコスト面などで魅力的ですが、一方で見落としがちなリスクや負担も存在します。ここでは、自力で会社設立を行う際に直面しやすいデメリットや注意点について解説します。
手続きに時間と労力がかかる
会社設立には、定款の作成、資本金の払い込み、登記申請、各種届出など、多くのステップがあります。それぞれの手続きは細かなルールに従って行う必要があり、不慣れな方にとっては一つひとつの作業に想像以上の時間と労力がかかります。専門家であれば短時間で済む作業も、自分で行うと数日かかることもあり、設立準備と並行して本業の準備を進める起業家にとっては大きな負担となる場合があります。
書類不備による手戻りのリスク
登記申請書や定款などの書類は、法律に基づいた正確な記載が求められます。不備があれば法務局から補正を求められ、再提出や再作成が必要になるため、設立日が遅れる原因になります。また、定款作成上のミスや認証漏れは、会社設立後の運営にも影響を及ぼす可能性があるため、慎重な確認が欠かせません。
法律・制度の理解不足に注意する
会社法や商業登記制度に関する基本的な知識が不十分だと、誤った判断や手続きにつながりかねません。たとえば、電子定款の仕組みや社会保険の加入義務など、制度面で誤解しやすいポイントもあります。オンラインサービスや公式情報を活用しながら、制度を正しく理解する姿勢が必要です。誤った手続きは後々のトラブルにつながることもあるため、慎重な対応が求められます。
会社設立を自分で行うために必要な知識・スキル
会社設立は専門家に任せずとも、必要な知識とスキルがあれば自分で完結できます。ただし、書類の作成や各種手続きは法的なルールに基づいて行う必要があり、内容を十分に理解せずに進めると手戻りやトラブルにつながる可能性があります。ここでは、会社設立を自分で進めるために備えておきたい基本的な知識とスキルについて解説します。
会社形態に関する基本知識
最初に必要なのは、株式会社や合同会社などの設立可能な会社形態に関する理解です。会社形態によって、必要な手続きや費用、組織構成、法的義務が異なります。たとえば株式会社では定款の公証人認証が必要ですが、合同会社では不要です。また、株式会社は取締役の任期や公告義務などがある一方、合同会社は比較的柔軟な運営が可能です。自分の事業に合った形態を選ぶには、設立時だけではなく、運用時におけるこれらの違いを理解しておく必要があります。
設立手続きの流れと関連制度の理解
会社設立の手順には、商号や本店所在地の決定、定款の作成、資本金の払い込み、登記申請など、いくつもの工程があります。それぞれの段階で求められるルールや必要書類を把握しておくことが不可欠です。たとえば定款には法律で定められた絶対的記載事項があり、これを満たさなければ無効となるおそれがあります。また、登記申請のタイミングや提出方法(紙・電子)の違い、電子定款を利用する際の要件なども、事前に確認しておく必要があります。
電子申請や電子定款に関する基本操作
近年の会社設立は、電子定款やオンライン登記申請などデジタル手続きの活用が主流になりつつあります。これらを使いこなすためには、ある程度のPCスキルや電子証明書(マイナンバーカードなど)の扱い方、ファイルの変換・署名・送信といった基本操作を理解しておく必要があります。電子定款の作成では、PDFへの電子署名や公証人役場とのデータ送信などのステップが必要であり、慣れていないと戸惑う場面があるかもしれません。
申請書類の作成能力
法務局へ提出する登記申請書や、定款、就任承諾書、資本金払込証明書などの各種書類は、すべて形式や記載内容が定められています。記載漏れや記述ミスがあると、法務局から補正を求められることがあります。そのため、各種書類の様式を確認し、正確に記入する能力が求められます。近年はオンライン上で申請書類を自動生成してくれる支援サービスも充実しており、これらを活用することで作業の負担を軽減することもできます。
税務・労務関連の基礎知識
会社設立後には、税務署や年金事務所、税事務所、労働基準監督署・ハローワークへの届出が必要です。法人設立届出書や青色申告承認申請書などの提出期限を守るとともに、法人税や消費税の仕組み、社会保険・労働保険の加入義務なども理解しておくと安心です。代表者一人の会社であっても社会保険への加入義務が発生するケースがあるため、制度の基本的な仕組みを把握しておくことは非常に重要です。
自分で会社設立する場合にかかる費用
会社設立を自分で行う場合、費用を抑えられる点が大きな魅力ですが、手続きごとに一定の法定費用や実費が発生します。ここでは、株式会社と合同会社の設立費用の違い、電子定款の活用による節約効果、そして専門家に依頼した場合との比較を解説します。
会社設立にかかる法定費用
自分で会社を設立する際に必要な主な費用は、「定款作成・認証費用」「登録免許税」「印鑑作成費」「謄本取得費用」などです。会社形態によって金額が大きく異なります。
株式会社を設立する場合、定款認証が義務づけられているため、以下が発生します。
- 公証人の手数料
資本金の額 100万円未満:3万円、100万円以上300万円未満:4万円、その他の場合:5万円 (ただし、例外あり) - 定款の謄本交付費用(約2,000円)
- 紙定款の場合は収入印紙代(4万円)
ただし、電子定款を作成すれば印紙代の4万円は不要になります。
一方、合同会社では定款認証が不要のため、上記費用の多くがかかりません。
登録免許税は、株式会社の場合「資本金の0.7%(最低15万円)」、合同会社の場合「資本金の0.7%(最低6万円)」となります。さらに、会社実印の作成費(約3,000円〜)、登記簿謄本や印鑑証明書取得費(数百円〜)なども必要です。
電子定款を利用した場合の最低設立費用は、株式会社で約20万円、合同会社で約6〜7万円程度が目安です。
専門家に依頼した場合の費用
司法書士や行政書士などの専門家に会社設立を依頼した場合、上記の法定費用に加えて「報酬(代行手数料)」が発生します。報酬額は依頼する内容や地域によって異なりますが、一般的に5万円〜15万円程度が相場です。
たとえば、株式会社の設立を専門家に依頼した場合は、以下の通りです。
- 法定費用:約20万円
- 代行手数料:約5万円〜10万円
合計で25万円以上かかることが一般的です。
ただし、行政書士は登記手続の代理提出はできないため、最終的には司法書士にも依頼しなければならないケースもあります。
税理士事務所などでは「顧問契約を結ぶことを条件に会社設立費用を無料」とするキャンペーンを実施しているケースもあります。この場合、設立時の費用は抑えられますが、顧問契約料が継続的に発生するため、短期的な視点では費用を抑えられても、長期間の総費用でみると他の選択肢と比較して割高になる可能性もあります。
電子定款の活用による節約効果
自分で会社設立を行う場合、費用を抑える鍵となるのが「電子定款」です。紙定款の場合、4万円の収入印紙代がかかりますが、PDF形式で作成し電子署名を付与する「電子定款」であればこの費用が不要になります。
ただし、電子定款を作成するには、マイナンバーカードなどの電子証明書、ICカードリーダー、専用ソフトなどの準備が必要となるため、ある程度のPCスキルと環境が求められます。これらの設定に不安がある場合は、電子定款の作成部分だけ専門家に依頼する方法もあり、1万円〜2万円程度の報酬で済むケースもあります。
株式会社と合同会社の違い・会社形態の選び方
会社設立の第一歩は、どの会社形態を選ぶかを決めることです。現在、設立可能な形態は株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4種類ですが、多くの起業家が選ぶのは株式会社か合同会社です。ここではその2つの特徴を比較し、自分に合った会社形態をどう選ぶかを解説します。
株式会社は信用力・資金調達に強みがある
株式会社は株式を発行して出資を募る仕組みを持つため、資金調達力に優れた会社形態です。株主と経営者が分かれているため、大規模な組織運営にも適しており、社会的な信用も高いのが特徴です。多くの大企業が株式会社であることからもわかるように、名刺に「株式会社」とあるだけで信頼感を得やすく、取引先や金融機関にも安心感を与える効果があります。また、出資者は出資額以上の責任を負わない有限責任の仕組みのため、投資を受けやすいという利点もあります。一方で、設立時の定款認証費用や登録免許税などにより最低でも20万円程度の初期費用がかかる上、決算公告の義務などランニングコストも発生します。
合同会社は低コストで柔軟な経営が可能
合同会社は2006年の会社法改正で導入された比較的新しい会社形態で、設立手続きが簡単で費用も抑えられる点が魅力です。定款認証が不要で、登録免許税も安いため、設立費用は6〜10万円程度に収まります。また、出資者=経営者という構造上、意思決定が速く、出資比率にとらわれず定款に記載することにより、利益配分も自由に設定できるため、少人数経営に適しています。さらに、役員の任期管理や決算公告の義務もないため、維持コストも低く抑えられます。ただし、信用力や対外的な印象という面では株式会社に劣ることがあり、規模の大きな取引先との関係構築にはやや不利となる場面もあります。
どちらを選ぶべきか
将来的に株式上場や大規模な資金調達を目指すのであれば、株式会社の方が適しています。一方、少人数で始める小規模ビジネスや、まずは費用を抑えて事業を始めたいという場合には合同会社が合理的です。なお、合同会社でスタートして後から株式会社へ変更することも可能なため、段階的な事業成長を想定して選択するのもよいでしょう。自社の事業規模、将来像、資金面などを総合的に判断し、最適な会社形態を選ぶことが大切です。
自分で会社設立する手続きの流れ(株式会社の場合)
会社設立を自分で進める場合、いくつかのステップを順を追って進める必要があります。株式会社を設立する場合を例に、どのような流れで手続きを行うかを確認しておきましょう。合同会社の場合は、定款認証が不要など、一部簡略化される点があります。
STEP1:会社の基本事項を決める
最初に行うのは、会社の設計図ともいえる基本事項の決定です。基本事項を明確にしておくと、次のステップである定款の作成や登記書類の作成が円滑に進みます。
項目 | 内容の説明 |
---|---|
商号(社名) | 会社の正式な名称。株式会社の場合は「株式会社」を含める。既存の会社と同一・類似名に注意。 |
本店所在地 | 会社の主たる事務所の住所。自宅でも可能。賃貸物件の場合は契約上の使用制限を確認。 |
事業目的 | 会社が営む予定の事業内容。現在の業務だけでなく、将来的に行う可能性のある事業も記載。 |
資本金 | 出資する金額。1円から設立可能だが、信用面を考慮して設定。銀行振込で証明が必要。 |
発起人 | 設立時に出資を行う者。1人でも複数でも可能。氏名・住所を明確に。 |
役員構成 | 代表取締役、取締役、監査役など。株式会社では最低1名の取締役が必要。 |
設立日(登記予定日) | 法務局に登記申請を行う日。事前準備を逆算してスケジュールを調整。 |
会計年度(決算期) | 決算の基準日。通常は3月末や12月末など、区切りの良い日が選ばれる。 |
STEP2:法人実印の作成と届出(法人印の準備)
会社の設立手続きにおいて、会社実印の作成と届出は早めに準備しておきたい工程の一つです。
会社実印は法人を代表する印鑑
会社実印とは、法人としての意思決定を示す正式な印鑑で、法務局に届け出ることで登記簿に登録されます。印鑑は、株式会社・合同会社どちらでも作成が必要で、登記申請時に印鑑届出書とともに提出するのが一般的です。個人の実印を転用することも可能ですが、会社としての使用頻度が高いため、法人専用の実印を新たに作成するのが実務上は望ましいとされています。印材はチタンや柘(つげ)などから選び、サイズや形状も法人印に適したものを選びます。
オンライン申請では印鑑届出が任意に
2021年の制度改正により、会社設立の登記申請をオンラインで行う場合、会社実印の届出は任意となりました。つまり、電子申請では印鑑届出書を提出しなくても会社設立登記が可能となっています。さらに、代表者個人の印鑑証明書も電子署名を用いることで省略できるため、手続きの簡素化が進んでいます。
実務では実印の作成が推奨される
実際の会社運営において、会社実印は銀行口座開設、融資の契約、取引先との契約書など、さまざまな場面で求められる重要なアイテムです。オンラインで印鑑届出を省略する場合でも、実印自体は設立時に作成しておく方が安心です。また、同時に銀行印(銀行への届出用)や角印(請求書・見積書等に使用)も準備しておくと、設立後の業務がスムーズに進められます。印鑑は会社の信頼性や運営効率に関わるため、計画的に整えておきましょう。
STEP3:定款の作成
定款とは会社の基本構造や運営ルールを定める「会社の憲法」であり、設立時に必ず作成する必要があります。株式会社を設立する場合は、公証人による定款認証も必要です。ここでは、定款の基本内容と電子定款のメリットについて解説します。
定款に記載すべき事項と認証の手続き
定款には、会社の目的、商号、本店所在地、出資額、発起人の氏名と住所といった「絶対的記載事項」が法律で定められており、これらが欠けると定款自体が無効になります。株式会社ではさらに、発行可能株式総数なども加えて記載する必要があります。また、取締役の任期や株主総会の運営方法など、設立後の会社運営に関するルールも自由に定められます。「絶対的記載事項」の他には「相対的記載事項(記載した場合には優先される事項)」「任意的記載事項(記載した場合、より会社のルールを明確にできる事項)」があり、必要に応じて記載します。
定款の作成が完了したら、株式会社の場合は公証人役場で定款の認証を受けます。これは定款に法的効力を持たせるために必要な手続きで、公証人が内容を確認した上で「認証済み」として返却されます。認証には発起人の身分証明書、印鑑、手数料などが必要です。なお、合同会社の場合は、この認証手続きは不要です。
電子定款で印紙代を節約できる
定款には紙で作成する方法と電子定款の2つがあります。紙で定款を作成した場合、印紙税法により4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款であればこの印紙代は不要になります。電子定款はPDF形式で作成し、発起人全員の電子署名を付与した上で、公証人にオンラインで提出します。
電子定款を作成するには、各発起人がマイナンバーカードの電子証明書を用意し、ICカードリーダーを用いて電子署名を行う必要があります。こうした環境が整っていれば自力でも対応可能ですが、操作に不安がある場合は、定款作成のみを専門家に依頼することもできます。依頼料はかかりますが、印紙代4万円が不要になるため、結果的に費用を抑えられるケースもあります。
STEP4:定款の認証を受ける
このステップは株式会社を設立する場合にのみ必要です。合同会社では定款認証は不要なため、該当者は読み飛ばして問題ありません。定款の認証とは、公証人役場で作成済みの定款を確認してもらい、公的効力を与える手続きです。
公証人役場で定款の認証を受ける
電子定款であっても、定款認証は必ず公証人役場で行います。事前に予約し、代表発起人が公証人役場へ出向き、必要書類とともに提出します。内容に問題がなければ、電子ファイルまたは紙で「認証済み定款」が交付され、この時点で定款が正式に有効なものとなります。
費用は、公証人の定款認証手数料としては下記表のとおりです。さらに定款の謄本交付費用として約2,000円がかかります。紙定款の場合は、これに収入印紙代4万円が加わるため、電子定款を選ぶことで大きな節約につながります。なお、資本金が少額の場合は、手数料が1万5千円程度に減額される場合もあります。電子定款と組み合わせることで、合理的に手続きを進めることが可能です。
資本金等の額 | 認証手数料 | 備考 |
---|---|---|
100万円未満 | 30,000円 | 但し特定要件の場合は15,000円 |
100万円以上300万円未満 | 40,000円 | - |
300万円以上 | 50,000円 | - |
参考:9-4 定款認証(総論Q3ご参照) | 日本公証人連合会
STEP5:資本金の払い込み
定款の作成と認証が完了したら、次に行うのが資本金の払い込みです。
発起人の個人口座で払い込みを行う
設立直後は会社名義の銀行口座がまだ存在しないため、資本金は発起人の個人口座を利用して払い込みます。たとえば代表発起人の口座に、他の発起人からの出資金をまとめて振り込み、その入金記録を通帳に残す形で処理を行います。すでに必要な金額が口座に入っている場合でも、一度引き出してから改めて預け入れることで、明確な「払い込み」の証拠とするのが一般的です。
払い込みが完了したら、通帳の該当部分をコピーし、後の登記申請時に「資本金の払込証明書」として使用します。発起人が複数いる場合には、それぞれの振込記録や通帳写しを取りまとめて証明書類とします。
資本金の額は慎重に設定する
会社法上、資本金は1円以上であれば自由に設定できますが、極端に少額だと信用を得にくくなる恐れがあります。金融機関からの融資や取引先との契約時に「資本金=信頼性」の判断材料となることもあるため、事業の実態に見合った金額を検討することが大切です。
また、資本金が大きくなると登録免許税の負担も増える点に注意が必要です。登録免許税は資本金の0.7%(最低額あり)で計算され、一定金額を超えると費用が上昇します。節税と信用力のバランスを考慮しながら、適切な資本金額を設定することが大切です。
STEP6:登記申請書類の準備と法務局への登記申請
いよいよ会社設立の最終ステップである登記申請を行います。登記が完了した日が法的な設立日となるため、書類の準備と提出のタイミングは慎重に進める必要があります。以下で、申請方法と必要書類、注意点について解説します。
登記申請に必要となる主な書類と提出方法
登記は会社の本店所在地を管轄する法務局で行います。提出方法は窓口持参・郵送・オンラインのいずれかを選べます。
主な書類名 | 内容の説明 | 備考 |
---|---|---|
設立登記申請書 | 登記内容や添付書類、登録免許税額などを記載した申請用紙 | 法務局サイトで様式をダウンロード可能 |
定款(認証済み) | 会社の組織・目的などを定めた根本規則 | 紙の場合は原本、電子定款はメディア保存またはPDF |
取締役・代表取締役の就任承諾書 | 各役員が就任を承諾したことを証明する書類 | 株式会社の場合、代表取締役は必須 |
発起人の同意書(決定書等) | 設立事項(資本金額・役員構成など)について発起人全員が合意したことを示す書面 | 議事録形式または決定書形式 |
資本金の払込証明書 | 出資金の入金記録として通帳コピーと合わせて作成して提出 | 代表者の署名・押印を添付 |
代表取締役の印鑑証明書 | 代表者本人の市区町村発行の印鑑証明書 | 発行日から3ヶ月以内が有効 |
印鑑届出書(法人印の登録) | 会社実印を法務局に登録するための届出書 | オンライン申請では省略可能 |
登録免許税納付用台紙 | 登録免許税分の収入印紙を貼付した用紙 | 紙申請のみ。電子申請では電子納付 |
オンライン申請で手続きを効率化できる
法務省の「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと)」を使えば、登記は平日21時までの申請が可能です。電子定款やその他の書類のPDFに電子署名を付与し、必要なファイルを添付して提出します。事前の環境設定やソフトのインストールが必要ですが、一度整えれば便利です。
また、デジタル庁が2020年から開始した定款認証・設立登記手続きが可能な「法人設立ワンストップサービス」を利用すると、24時間利用でき、複数の行政機関への手続きを一括処理することが可能です。詳細は後述します。
登記申請が受理されると、数日から1〜2週間程度で登記が完了します。完了後は登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や会社実印の印鑑証明書を取得し、各種事業手続きに備えましょう。登記が完了すれば、会社設立は正式に完了します。
参考:登記・供託オンライン申請システム|法務省、法人設立ワンストップサービス|デジタル庁
会社設立後に必要な各種届出・手続き
会社の設立登記が完了しても、それで手続きが終わるわけではありません。登記後は、税務署や年金事務所、労働基準監督署などへの各種届出が必要になりますここでは、設立直後に忘れずに行いたい主な届出と手続きについて解説します。
税務関係の届出
設立後、まず行うべきは税務署への「法人設立届出書」の提出です。提出期限は原則として設立から2か月以内で、これに加えて「青色申告承認申請書」(設立から3か月以内)も忘れずに提出することで、各種節税メリットが受けられます。また、消費税課税事業者になる場合には、消費税関連の届出も必要です。さらに、都道府県税事務所や市区町村への法人設立届出も求められるため、各自治体の提出先を確認し、早めに手続きを済ませましょう。
社会保険関係の届出
会社は、従業員が社長1人であっても健康保険・厚生年金保険への加入義務があります。設立日から5日以内を目安に所轄の年金事務所で新規適用の手続きを行い、加入者となる代表者や従業員の手続きを進めてください。この点は見落とされやすいものの、法人である限り原則的に加入が必須となるため注意が必要です。
労働保険関係の届出
従業員を雇用する場合、労災保険と雇用保険への加入手続きも必要です。労災保険は1人でも雇った時点で義務が発生し、労働基準監督署で成立届を提出します。雇用保険については、週20時間以上勤務など条件に該当する従業員が対象で、ハローワークでの手続きが求められます。
業種によっては別途許認可も必要
事業の種類によっては、営業許可や登録、免許などの法的許認可が必要です。たとえば飲食店なら保健所の営業許可、建設業なら建設業許可などが該当します。こうした許認可は事前準備や申請に時間がかかる場合もあるため、早い段階で行政書士などの専門家に相談しておくと安心です。設立後のスムーズな事業開始に向けて、必要な手続きを確実に押さえておきましょう。
オンラインで完結できる「法人設立ワンストップサービス」とは
これまで会社設立時には、法務局での登記に加え、税務署・都道府県税事務所・年金事務所・ハローワークなど、複数の役所に個別に届出を行う必要がありました。しかし、2020年にデジタル庁が提供を開始した「法人設立ワンストップサービス」により、これらの手続きがオンラインで一括して行えるようになっています。
設立手続きを一括でオンライン処理
「法人設立ワンストップサービス」は、マイナンバーカードを活用してマイナポータル経由で各種設立関連の手続きを一元化するサービスです。定款認証や登記申請はもちろん、国税・地方税の届出、健康保険・厚生年金、労災保険・雇用保険の手続きまでも含め、主要な行政手続きの多くを24時間365日オンラインで完結できます。役所ごとに異なる窓口に足を運ぶ手間が省けるため、時間や労力を大幅に削減できるのが大きな魅力です。
オンライン申請では会社実印の届出が任意になり、代表者の印鑑証明書も電子署名で代替できるため、準備書類の負担も軽減されます。
利用には事前準備が必要
オンライン申請にはマイナンバーカード(電子証明書付き)、ICカードリーダー、法務省の提供する専用ソフト「申請用総合ソフト」のインストールといった初期設定が必要です。しかし、一度環境を整えてしまえば、自宅にいながら会社設立の全手続きが完了する利便性は高く、今後さらに活用が進むと考えられます。自力での会社設立を検討している方は、この制度を積極的に利用する価値があるでしょう。
参考:ソフトウェアのダウンロード | 登記・供託オンライン申請システム|法務省
費用・流れ・注意点を押さえて自分の力で会社を設立しよう
会社設立は、司法書士や行政書士に依頼しなくても、自分自身で完結させられます。定款作成や登記申請、資本金の払い込み、税務・社会保険の届出など、各ステップを正しく踏めば、当初は専門知識がなくても対応可能です。電子定款やオンライン申請を活用すれば、時間や労力も大幅に削減できます。一方で、制度理解や書類ミスへの注意も必要です。最近では「法人設立ワンストップサービス」により、定款認証から税務・社会保険まで一括で手続きができる時代になりました。事前準備と情報収集を丁寧に行い、自分の手で会社を設立してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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