• 作成日 : 2025年5月1日

法人化は何人からできる?法人化のメリットや公的保険の加入義務が発生する条件を解説

何人から法人化できるかは、取締役会を設置するかどうかによって異なります。取締役会を設置する場合は3人から、設置しない場合は1人から法人化が可能です。法人化と会社設立の違いや法人化するメリット、法人化後の社会保険・労働保険の加入義務について解説します。

法人化は何人からできる?

発起人1人いれば法人化は可能です。発起人とは、資本金の出資や設立手続きを行う人のことで、法人設立後は株主になります。

株式会社では取締役が1人以上必要です。そのため、発起人が取締役に就任する場合は、少なくとも1人の発起人(=取締役)がいれば法人化できます。

法人化と会社設立の違い

法人化と会社設立は、どちらも会社を設立することを意味する言葉です。しかし、法人化と表現するときは、すでに事業を開始している個人事業主が、法人として登録することを意味します。

つまり、仕事を一から始めるのではなく、個人事業主から法人に事業者としての形態のみ変更することを指すことが一般的です。法人成り(ほうじんなり)と呼ぶこともあります。

一方、会社設立は、事業をしていない状態で会社を創立し、法人として事業活動を始めることを指すことが一般的です。ただし、すでに会社を設立している方や個人事業主として事業を実施している方も、新しく法人を設立する際に「会社設立」と表現することがあるため、文脈で使い分けるようにしてください。

法人に取締役会を設置する場合は何人から?

取締役会では、以下の業務を実施します。

  • 業務執行の決定
  • 取締役の職務執行の監督
  • 代表取締役の選定、解職

なお、取締役会はすべての法人に設置を求められている組織ではありません。株数に関係なく譲渡制限なく自由に株式を譲渡できる「公開会社」については、取締役会の設置が義務付けられていますが、すべての株式において譲渡制限を定めている「非公開会社」は取締役会の設置は任意です。

取締役会の設置には3人以上の取締役が必要

取締役会とは、3人以上の取締役で構成される組織で、法人内のすべての取締役が構成員となります。そのため、法人に取締役会を設置する場合は、少なくとも3人の人がいないと法人を設立できません。

一方、定款ですべての株式について譲渡制限を定める「非公開会社」で、なおかつ取締役会を設置しないと規定している場合は、取締役は1人いれば法人化が可能です。ただし、1人の取締役で始まった法人であっても、取締役会の設置を規定したときや定款を変更して「公開会社」になったときは、取締役が3人以上必要になるため少なくとも3人以上の人が必要になります。

個人事業主が1人でも法人化するメリット

非公開会社で、なおかつ取締役会を設置しない場合なら、事業に携わる人が1人であっても法人化が可能です。個人事業主が法人化することで、次のようなメリットを享受できる可能性があります。

  • 社会的信用度が向上する
  • 節税効果がある
  • 決算月を任意で決定できる
  • 賠償範囲が制限される

なお、法人化には多大なメリットがありますが、必ずしもすべての場合において法人化がよいわけではありません。各自の状況や働き方などに当てはめ、法人化すべきか検討することが大切です。

社会的信用度が向上する

個人事業主は法人のように登記をせず、簡単に事業を開始できる分、社会的信用度が低くなりがちです。事業者によっては取引相手を法人に限っていることがあります。そのため、個人事業主としての運営を続けることで、事業の範囲を狭めてしまうことになりかねません。また、金融機関から融資を受けるときも、個人であるという事実により信用を獲得しにくくなり、審査に不利になるかもしれません。

一方、法人は手間や費用をかけて登記手続きを実施しているため、個人よりも社会的信用度が高いと考えられます。例えば、個人名だけが記載されている名刺よりも会社名や役職も記載されている名刺のほうが、受け取った相手を安心させる効果は高いでしょう。

また、取引先を開拓するときや金融機関から融資を受けるときも、法人であることが信用獲得につながる可能性があります。将来的に事業拡大を検討しているなら、社会的信用を得やすい法人として運営するほうがよいでしょう。

節税効果がある

個人事業主と比べ、法人は経費として計上できる支出の種類が多く、金額も多くなる傾向にあります。経費として計上できる金額が増えれば、課税対象額が減り、節税効果が得られ、手元に残る金額が増えるでしょう。

また、個人事業主の所得には所得税が課せられますが、法人所得には法人税が課せられます。所得税率は累進課税で最大45%ですが、法人税率は最大23.2%です。課税対象額が一定以上のときには法人税のほうが低い税率が適用され、節税できることがあります。

参考:国税庁 所得税の税率
参考:国税庁 法人税の税率

決算月を任意で決定できる

個人事業主は決算月を自由に決められません。毎年1月1日~12月31日に生じた所得について、翌年の2月16日~3月15日(開始日・終了日が土日祝日と重なるときは、期間が変わることもあります)に確定申告を実施し、所得税を納付します。

一方、法人なら決算月を任意で決定できます。決算や確定申告の時期が繁忙期と重ならないように調整すれば、業務負担の軽減も可能です。

賠償範囲が制限される

個人事業主は無限責任者です。そのため、事業により発生した債務について、個人事業主は上限なく責任を負わなくてはいけません。

一方、法人では出資額や出資割合に応じて有限責任を負います。原則として出資した金額以上の責任は問われないため、リスクを管理しやすいといえるでしょう。

法人化した場合の社会保険の加入義務は何人から?

メリットの多い法人化ですが、注意すべき点も多くあります。その中でも検討が必要な点として、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入義務が挙げられます。

法人は全事業所に健康保険と厚生年金保険の加入義務がある

フルタイムで働く従業員が1人でもいるときは、社会保険の加入義務が課せられます。社会保険料は労使折半のため、保険料を計算し、そのうちの半分を法人が負担しなくてはいけません。

なお、短時間労働者については、従業員51人(フルタイム人数+週労働時間がフルタイムの3/4以上の人数)以上なら、社会保険の加入対象となります。保険料を計算し、事業主が半額を負担します。

社会保険の加入手続きの流れ

社会保険の加入手続きは、以下の流れで進めていきます。

  1. 加入対象者の把握
  2. 対応方針の検討
  3. 社内通知
  4. 従業員に確認
  5. 書類の作成・届出

まずは従業員各自が加入対象者なのか確認しましょう。フルタイムで働く従業員に加え、週の所定労働時間が20時間以上かつ所定内賃金が月88,000円以上、雇用期間が2ヶ月を超える見込みがあり、学生ではない(休学中・夜間学生は対象)短時間労働者も対象者です。

加入対象者を把握した上で、社会保険の対応方針を検討し、社内に通知します。特に新しく社会保険の対象となった従業員には、社会保険料分の負担が増えることや社会保険によるメリットなどを知らせておきましょう。疑問があるときは個別に答え、制度適用までに解消しておくことが必要です。

社会保険の届出用紙は日本年金機構のホームページからダウンロードするか、管轄の年金事務所で受け取ります。また、オンラインでの書類申請も可能です。

法人化した場合の労働保険の加入義務は何人から?

従業員が加入できる公的保険は、健康保険と厚生年金保険の社会保険だけではありません。労働保険(労災保険、雇用保険)へも加入できます。

労災保険とは、労働者が業務や通勤を理由として負傷したときや病気にかかったとき、死亡したときに、労働者や遺族を保護するための保険です。雇用形態を問わずすべての労働者に適用されるため、パートやアルバイトの労働者を雇用するときも労災保険の加入が必要となります。

一方、雇用保険は、労働者が失業したときや労働を継続することが難しくなったとき、教育訓練を受けるときなどに適用される保険です。生活や雇用を安定させ、就職を促進させることを目的としています。

労働者を1人でも雇用したら労働保険の加入義務がある

労働者を1人でも雇用している場合は、労働保険の加入義務が課せられます。なお、労災保険は短時間労働者も含むすべての労働者が対象です。保険料は全額雇用主の負担です。

一方、雇用保険もフルタイムの労働者は対象となりますが、短時間労働者は対象とならないことがあります。保険料は雇用主と労働者が分担しますが、業種によって負担割合が異なります。

労働保険の加入手続きの流れ

労働保険への加入手続きは以下の流れで進めていきます。

  1. 対象者を確認する
  2. 労働基準監督署で届出用紙を受け取る
  3. 事業主が管轄の労働基準監督署もしくは公共職業安定所に届出を提出する

まずは対象者の確認です。労働保険は全労働者を対象としますが、短時間労働者の一部は雇用保険の対象とならないため注意が必要です。

対象者を明確にした後で、労働基準監督署で届出用紙を受け取ります。必要事項を記入し、管轄の労働基準監督署か公共職業安定所に提出すると、労働保険の加入手続きは完了です。

法人化が必要か見極めよう

1人からでも法人化は可能です。ただし、取締役会を設置する場合は、3人以上の取締役が必要となるため、3人以上の人数が必要です。

法人化するか迷ったときは、社会的信用や法人税額、従業員の社会保険料や労働保険料について考えてみることをおすすめします。法人化によるメリットが大きいと判断できる場合は、法人化を進めていきましょう。すべてのケースにおいて法人化がよいというわけではないため、各自の状況を分析し、適切に見極めることが重要です。


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