- 更新日 : 2025年8月19日
クリニック経営を成功に導くポイントは?患者数の低迷など、よくある悩みを解決!
医師や医療分野での起業に興味がある方の中には、クリニック経営に挑戦したい方も多いでしょう。医院を開業・経営するためには、黒字化のために患者数を増やしたり、看護師やスタッフをマネジメントしたりする必要があり、医療以外のさまざまな知識やスキルが必要です。今回は、クリニック経営の悩みや経営課題を解決するポイントを解説します。
目次
クリニックの経営でよくある悩み
「地域医療に貢献したい」「1人でも多くの方の健康を守りたい」と考えている方には、クリニック経営がおすすめです。
しかし、クリニックの数は年々増加しており、生き残るのは容易ではありません。クリニック経営は決して簡単ではないことを理解したうえで、開業準備を進める必要があります。
ここでは、クリニック経営にあたってよくある悩みについて見ていきましょう。
患者数の低迷
クリニック経営において多くの方が抱える悩みは、患者を集められるか、でしょう。
開業しても、集患できなければ当然売上にはつながりません。開業のためには家賃や設備費用など、多額の初期費用がかかります。収益を上げられるようになるまで時間がかかる場合も多いため、開業前から集患に向けた施策を講じることが必要です。
新規の患者を集めるだけでなく、リピートしてもらうことも欠かせません。再診率が低ければ、やがて経営は不安定になるおそれがあります。
医師やスタッフの採用・定着
人事マネジメントも、クリニック経営の成否をわける重要なポイントです。
クリニックの経営を軌道に乗せるためには、優秀な人材の確保は欠かせません。医師やスタッフを採用するためにはまず、求職者にとって魅力のある求人内容でなければなりません。給与や就業時間、年間休日などアピールすべきポイントはいくつかありますが、採用にあたっては魅力ある条件提示が求められます。
また、せっかく採用したスタッフも、定着しなければ人材確保の取り組みが無駄になってしまいます。採用後の新人研修の実施や人間関係のケアなど、採用後はスムーズに働けるように就業をサポートする体制づくりを準備しておくことも欠かせません。
会計・税務や行政対応の複雑さ
クリニック経営では患者を治療するだけでなく、経営者として会計や財務、税務、行政対応なども行わなければなりません。会計処理や税務処理を通じて、クリニックが事業として正常に利益を生み出せているか等を正確に把握する必要があります。
しかし、会計や税務の処理は専門的知識が必要であり、経営者自身での処理は難しいことがあります。そこで、会計や税務に関しては外部の税理士に業務委託をするケースが一般的です。
また、クリニックを開業し経営していくにあたって、所轄の保健所や厚生局に各種届出や手続きを行う必要があります。これら届出にも専門的知識が必要になるため、一般的には行政書士に業務委託することになります。
資金繰りの悪化、赤字のリスク
クリニック経営に限らず、資金繰りに関する悩みは経営者にとってつきものです。
クリニック経営では機械設備にかかる費用、集客における広告宣伝費、水道光熱費、人件費、スタッフの給与・福利厚生費など、さまざまなコストが発生します。
資金繰りを考える際は、開業してから事業が軌道に乗るまでは時間がかかる点を考慮しなければなりません。開業後、事業を継続していけるだけの十分な収益を確保できるまで一定の期間がかかります。初期費用だけでなく、収益を確保できるまでの一定期間の運転資金を確保したうえで事業を始めないと、資金繰りが悪化して倒産してしまうリスクがあります。
また、さらなる売上アップのために、提供するサービスの拡充や店舗数の増加など、事業拡大が可能かどうかについても検討が必要です。
経営者としての重圧や孤独感
医療の技術やノウハウがあるからといって、経営者として成功するとは限りません。経営では戦略の策定やマーケティング、営業、広報、マネジメント、会計・財務管理、資金繰り管理など、さまざまな事項に関する知識が求められます。経営者が担当する業務の幅も広く、自分が経営者としてやっていけるか、不安に思う方も多いでしょう。
医療業務に追われてリソースが足りなくなると、経営が疎かになってしまいます。逆に、経営に注力しすぎると、肝心の医療業務の品質が低下し、患者の満足度が低下してしまうため、注意が必要です。医療業務や経営業務をサポートしてくれるスタッフがいれば別ですが、ご自身で全ての業務をこなそうとした場合、重圧や孤独感を感じるかもしれません。
経営者の負担を軽減するため、人材を採用して業務の分担を進めたり、適宜アウトソーシングを取り入れたりすることにより、多忙な中でも経営が回るよう工夫しましょう。
クリニック経営を成功に導く事業計画のポイント
ここでは、クリニック経営を成功に導く事業計画のポイントを見ていきましょう。
マネーフォワード クラウドでは、クリニックで使える事業計画書テンプレートをご用意しています。無料でダウンロードいただけるので、ぜひカスタマイズしてご活用ください。
コンセプト設計
クリニックに限らず、新たに事業を立ち上げる際には、その事業が目指すコンセプトを決定する必要があります。「幅広い専門分野がある」「スピーディな診療が可能」「お年寄りや子供にも優しい」など、クリニックのセールスポイントはさまざまです。自身の長所を生かした「コンセプト設計」をするのがよいでしょう。
コンセプトを明確にすることにより、患者に対してクリニックが目指す診療方針が伝わるので、集患にもつながります。
診療圏の調査
高い診療スキルやコンセプトを持っていても、患者の少ない地域で開業したのでは事業の継続は難しくなります。開業する際には、自身のクリニックが患者を受け入れようと想定する範囲である「診療圏」を調査する必要があります。経営を維持できるだけの十分な集患ができるか、他のクリニックと診療圏が重複していないかなどをあらかじめ調査しておきましょう。
事業計画と資金調達
クリニックを経営していくうえで欠かせないのが、運転資金や設備資金といった事業資金です。事業資金を調達する方法には、自己資金で賄うほかに、外部の金融機関等から融資を受ける方法がありますが、開業時の融資で必要になるのが「事業計画」です。「事業計画」はクリニックが将来的にどのように成長していくかを主に財務面で可視化した資料です。
金融機関が融資審査をする際には、この事業計画をベースに判断を行いますので、事業が今後、安定して成長し続けていくことをアピールできる計画作りが求められます。
集患できる内装・設備
集患と並んで重視したいのが、診察室や待合室の内装や診療機器などの設備の充実です。通院する方にとって、質の高い診療行為の提供はもちろん、居心地のよいクリニックの雰囲気なども継続して通う際の判断材料になりやすいです。
患者の口コミは、集患の大きな要因になるため、集患につながるような設備投資を積極的に行うことも、事業を成功させるポイントになります。
クリニック経営を成功に導く運営上のポイント
ここでは、クリニック経営を成功に導く6つのポイントについて解説します。
経営理念を策定し、スタッフに共有する
クリニック経営を成功させるためには、経営理念を策定し、スタッフにも共有することが大切です。
経営理念は、クリニックを経営する目的やビジョン、信念のことです。経営理念を明確化し、常に意識して行動しましょう。経営に行き詰まったり悩んだりした際にも、経営理念があれば、理念に従って適切な行動を選択できます。
さらに、スタッフ全員に共有することで、足並みを揃えられるのもポイントです。スタッフが患者への対応について判断に迷った際も、理念に基づいて判断し、対応できます。患者に対して適切なサービスを提供できるようになり、理想のクリニックを実現できるでしょう。
患者の口コミやリピート率を重視する
安定的にクリニック経営をするためには、患者を集める「集患」が必要です。そのため、コストカットや事業の収益性を重視するだけではなく、患者の満足度を上げる「患者ファースト」を考えながら行動することも大切になります。
クリニック経営に成功するためには、患者にとってどのようなサービスが必要なのか、どのようなサービスを提供すれば満足してもらえるのか、などを常に考えて、クリニック経営に活かしましょう。患者ファーストの姿勢を貫くことで、多くの患者から支持されるようになり、長期的に見ると売上アップにつながります。
スタッフが働きやすい組織づくりをする
患者だけでなく、協力してくれるスタッフのことも重視することが大切です。
スタッフが働きやすい組織づくりをすると、スタッフのモチベーションやエンゲージメントが向上して、人材定着につながります。
労働時間が長かったり、スタッフ間のコミュニケーションがうまくいっていなかったりすると、スタッフが職場環境に不満を抱いて離職してしまう可能性が高いです。せっかく確保した人材がやめてしまうと、業務が回らなくなり、これまで教育にかけたコストも無駄になってしまいます。
新たな人材がすぐに採用できるとは限りません。求人や教育にさらにコストがかかります。定期的にクリニックが抱える課題を洗い出し、スタッフが快適に働ける職場づくりを目指すことが重要です。
地域に根ざして活動する
クリニックの患者は、基本的には近隣住民です。多くの患者から選ばれるクリニックにするためには、地域に根ざして活動する必要があります。
自院が地域で求められている役割を自覚し、経営の参考にしましょう。
サービスを強化し、患者の役に立つクリニックにするためには、薬局や近隣の病院など、地域内での連携も欠かせません。
Webマーケティングで集患を最大化する
多くの患者を集めるためには、積極的な情報発信が求められます。
最近では、ネットでクリニックの情報を集め、来院する患者が多いです。ネットやSNSを活用して情報を発信し、クリニックの認知度を高める取り組みに力を入れましょう。
クリニックの様子や対応している疾患、医師のプロフィールなどをわかりやすくまとめたホームページを作成したり、診察情報を定期的に発信するためのSNSアカウントを開設したりするのが効果的です。
医療DXでさらなる業務効率化を図る
クリニック経営では、業務効率化と生産性の向上がポイントです。
スタッフが手作業で行っている業務の中には、システムで効率化できるものも多いでしょう。Web問診システムや電子カルテ、オンライン予約サービスなどを活用することで、業務を大幅に効率化できます。無駄なコストの削減と利益率向上にもつながるでしょう。今まで事務作業にかかっていたリソースを、コア業務に集中させることも可能です。
ITシステムを活用した効率化は、患者にとっても予約が容易になることや、待ち時間が短縮されるなど、多くのメリットがあります。業務を見直し、効率化できる部分はないか模索することが大切です。
クリニック経営を成功に導く収益改善のポイント
ここでは、クリニック経営を財務面で成功に導くためのポイントについて解説します。
新規患者とリピート患者を増やす
クリニックの収益を上げるためにはまず、新規患者を増やすことが第一歩です。事業開始時に設定した診療圏をターゲットに、チラシや看板、HPやSNS等を利用して開業した旨をアナウンスしていきます。新規患者を獲得することで、口コミにより新規患者のすそ野が広がる可能性もあるため、開業直後の宣伝活動は積極的に行いましょう。
新規患者の獲得と並んで重要なのが、リピート患者の確保です。通院した際、クリニックに良い印象を持ってもらえれば、患者がリピートしてくれる可能性が高くなります。リピート患者の増加は安定した収益の確保につながります。充実した診療サービスの提供や先に解説した居心地のよい内装や設備など、リピートにつながるようなアピールを積極的に行うことも大切です。
患者の単価をアップする
同じ患者数でも、診療行為の内容によって収益は変わります。患者に対してより多くの診療行為を行えば診療単価がアップし、収益を上げることができます。ただし、診療行為を増やすと診療にかかるコストも増加するため、注意が必要です。
また、患者に対して診療行為に付随した物販を行うことも患者の単価をアップさせる方法の1つです。ただし、クリニックで物販を行う際には、医療法や薬機法などの法規制を遵守する必要があるため、取り扱う商品には注意しましょう。
クリニック経営で医療法人を設立するメリット・デメリット
クリニック経営の際は、医療法人を設立するという選択肢があります。医療法人化には、以下のようにメリットとデメリットがあります。
<メリット>
- 資金調達面で有利になる
- 税務上のメリットもある
<デメリット>
- 法人設立には時間も手間もかかる
- 解散することも難しい
メリットとデメリットを比較検討したうえで、医療法人化するか否かを決めましょう。
メリット1. 資金調達面で有利になる
医療法人を設立することで、個人事業としてクリニックを経営する場合よりも、社会的信用度が高まります。その結果、資金調達で有利になりやすいのがメリットです。
資金調達の際、個人事業の場合は、経営者だけでなく保証人を立てる必要があります。一方、医療法人であれば、主体を医療法人、保証人を経営者にできるため、実質経営者だけで資金調達できるのもメリットです。
メリット2.税務上のメリットもある
医療法人を設立することで、医療法人から役員報酬が支払われます。個人事業の場合、報酬は経費として認められません。医療法人であれば、所得を給与として受け取れるため、給与所得控除が受けられるようになります。節税につながるのがポイントです。
また、将来クリニックを承継する場合、個人事業であれば多くの相続税がかかります。一方、医療法人であれば、法人の内部留保には相続税がかからないため、相続税負担を軽減できます。
デメリット1.法人設立には時間も手間もかかる
医療法人の設立にはさまざまなメリットがある一方、設立のために時間や手間がかかるのが難点です。
設立手続きに手間がかかるだけではありません。設立後も、医療法人については、毎年決算終了後3ヶ月以内に、都道府県知事に事業報告書を提出する必要があります。普段の業務に加え、報告書の作成やその後の複雑な運営管理に、時間や手間がかかってしまう点は見逃せません。
業務負担を軽減するために、司法書士や税理士、行政書士などに依頼することも可能です。しかし、依頼には費用がかかる点には注意しましょう。
デメリット2.解散することも難しい
医療法人には、事業の永続性が求められるため、簡単には解散できません。
医療法人は地域医療の担い手とみなされており、地域医療の永続性確保は医療法人制度の目的の1つです。そのため、後継者の育成に努め、安易な解散は避けなければなりません。
解散したい場合は、保健所への届出に加えて、別途医療法人の解散手続きが必要です。解散事由によっては、都道府県知事の認可を得る必要があります。
クリニック経営について学べる本
クリニック経営について学びたい方に向けた書籍をいくつかご紹介します。
- 岸部宏一他『クリニック開業を思い立ったら最初に読む本』
クリニックを新規開業する際に必要な手続きや、事業計画書の作成、コンセプト設計、医院の建築設計、設備導入など、開業に関するノウハウに特化した書籍です。
- 田浦俊栄他『コンサルが教えてくれない 医師の開業5つの落とし穴』
開業資金や運転資金、設備資金など、クリニック経営の資金繰りについて、医業に特化した税理士が解説している書籍です。クリニック経営に本当に必要な資金の使い方を学ぶことができます。
- 小暮裕之『クリニック経営のための最高の人材育ーーチームを成長させるリーダーの考え方』
クリニック経営に必要な医師や看護師といったスタッフの採用・育成についてまとめた書籍です。クリニックを成長させるためには人材の確保と育成は必要不可欠ですが、本書では人材育成についてそのノウハウを紹介しています。
参考:クリニック経営のための最高の人材育成ーー チームを成長させるリーダーの考え方
クリニック経営でよくある疑問
クリニックを経営する過程で、よくある疑問をまとめました。
医師以外でもクリニック経営はできる?
医師の資格がなくても、「医療法人」や「一般社団法人」、「MS法人」を設立して経営者になることは可能です。
クリニック経営に必須の資格はある?
「医療法人」や「一般社団法人」「MS法人」であれば、クリニックを経営するにあたって必要な資格はありません。個人開業医の場合、経営者が「医師免許」を持っている必要があります。
効率的なクリニック経営を続けていくために
クリニック経営に成功するためには、医療技術だけではなく、経営者としての能力が求められます。患者とスタッフのことを常に考えて行動し、患者から選ばれ、スタッフにとって働きやすいクリニックづくりを進めましょう。
クリニック経営で経営者がやるべきことは多岐にわたります。業務効率化を進めたり、外部の専門家の力も借りたりしながら、地域のニーズに応えられるクリニックを実現することが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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