- 更新日 : 2025年8月18日
経営破綻とは?倒産との違いや原因、必要な手続き、予防策をわかりやすく解説!
何らかの理由により事業活動が停止し、会社の経営が立ち行かなくなった状態を「経営破綻」と呼びます。帝国データバンクによると、2024年の倒産件数は9,901件であり、その前年を16.5%上回っていました。倒産の一歩手前である「経営破綻」はこの数を大きく上回るものと予想されますが、そもそも経営破綻とは何でしょうか。経営破綻は「倒産」「民事再生」「破産」と何が違うのでしょうか。
本記事では経営破綻の基本的な情報について、経営破綻に陥った事例や経営破綻に陥らないための予防策などとともに解説します。
目次
経営破綻とは?
経営破綻(けいえいはたん)は、何らかの理由により事業活動が停止し、会社の経営が立ち行かなくなった状態、つまり「倒産」(とうさん)の一歩手前の状態を表す言葉です。一般的には「銀行取引停止処分を受ける」「内整理を行う」「会社更生手続開始を申請する」「民事再生手続開始を申請する」「破産手続開始を申請する」「特別清算開始を申請する」のいずれかの状態に陥った場合等に経営破綻とされます。
なお、経営破綻は英語では「Business failure」や「Corporate failure」などの用語を使いますが、一般に「Bankruptcy(破産)」もよく使われます。
経営破綻と倒産の違いは?
経営破綻は、債務超過や資金繰り悪化で支払不能に陥り、企業が財政的に行き詰まった状態を指します。一方、倒産はその破綻を受けて法的・私的に整理手続きを行う具体的な企業の消滅を表します。したがって、倒産は経営破綻の一つの段階と言えます。
正式な法律用語ではない「倒産」という用語は、1952年から東京商工リサーチが開始した「全国統計動向」の集計に端を発しており、以降、他の会社やマスコミ等でも使われるようになったといわれています。
経営破綻と破産の違いは?
「破産」(はさん)とは会社が債務超過や支払不能に陥った時に、裁判所が会社の財産を処分してすべての債権者に配当して公平な清算を図り、かつ債務者の経済的再生を図ることを目的とする法的手続きのことです。破産手続開始の申請は債権者、債務者のどちらでもでき、債務者による破産申立を「自己破産」と呼びます。
個人の破産の場合はその個人の生活は継続しますが、法人の場合には法人が消滅することによって債務が消滅します。
経営破綻の原因は?
会社が経営破綻する原因はさまざまですが、ほとんどのケースにおいて買掛金などの支払いや借入金の返済ができなくなり、事業活動の停止を余儀なくされます。
また、仕入代金や給与を支払えなくなり、オペレーションが継続できなくなるケースもあります。いずれもキャッシュの枯渇が原因ですが、何がキャッシュの枯渇をもたらすのでしょうか。
経営戦略の失敗
第一に考えられるのは、広い意味での経営戦略の失敗です。中小企業は大企業と比べて経営のリソースが乏しく、最初からハンディキャップを負っています。ヒト・モノ・カネ・情報のいずれもが乏しい状態で、適切かつ的確な経営戦略の策定と実行が求められますが、常に正しい判断を下すことは極めて困難です。経営戦略のちょっとした失敗が、企業のゴーイングコンサーンにとっての脅威となります。例えば、ある製品開発の失敗が会社を経営破綻に追い込むこともあるのです。
過剰借入の問題
最近注目を浴びているのが、過剰借入の問題です。特に新型コロナウイルスのパンデミックで影響を受けた中小企業の多くが無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を利用していますが、その多くは営業収支が赤字の状態で借入をしていました。つまり、本来は営業を継続できない企業が借入によって生き延びているのです。そのような企業の多くは過剰借入の状態にあり、返済不能の「デフォルトリスク」を抱えています。
資金繰り管理の破綻
資金繰り管理の失敗も、経営破綻の原因の一つです。企業は資金繰りが均衡している限り、経営を継続することができます。極端にいえば、たとえ営業収支が赤字であっても手元に十分なキャッシュがあれば、経営を続けられるのです。逆に、手元に十分なキャッシュがない、または資金繰りが均衡していない状態では、経営を継続することができません。帳簿上の営業収支が黒字でも、売掛金を回収できなくて経営破綻する「黒字倒産」は、その代表例です。
外部環境の変化による連鎖倒産
連鎖倒産は、関係のある「別の企業の倒産」が引き金となり、その企業と取引関係にある取引先や関連会社が次々と倒産する現象を指します。このように、内部環境だけでなく外部環境によって倒産を余儀なくされるケースもあります。
例えば、大口の取引先が倒産した場合、売掛金の回収不能や商品の供給停止等が発生し、資金繰りが急速に悪化することで、他の企業も連鎖的に経営破綻に追い込まれることがあります。特に中小企業や特定の取引先への依存度が高い企業は、連鎖倒産のリスクが高いと言えます。
経営破綻の前兆はある?
経営破綻の前兆として考えられるもののうち、客観的にわかるものを見てみましょう。
- 赤字決算が続く
- 退職者の増加
- 給与等の遅延・減額
何期にもわたる継続的な赤字は、会社の資金が枯渇し経営が悪化している明確なサインとなります。利益が出ない状態が続くと、金融機関の融資審査も厳しくなり、資金繰りが困難になるという悪循環に陥ります。
自社の経営状態をよく把握している役員や経理担当者が辞めていく場合、内部で深刻な問題が発生している可能性が高いと言えます。将来性に不安を感じた人材の流出は、経営破綻の前兆と言えます。
従業員への給与や賞与の支払いが遅れたり減額されたりするのは、会社の資金繰りの悪化が考えられます。給与の遅延や減額は、従業員の士気低下や離職にもつながり、経営悪化を加速させる要因の一つです。
経営破綻するとどうなる?
会社が経営破綻した場合、周辺の関係者(ステークホルダー)に深刻な影響が及びます。以下、4つの視点から具体的な影響を見ていきましょう。
会社への影響
経営破綻(倒産)によって会社の法人格は消滅し、その法人のすべての資産が処分されます。事業活動は完全に停止し、契約関係もすべて終了します。会社が保有していた不動産、設備、在庫などの資産は売却、換金され、売掛金や債権も回収されて債務の弁済に充てられます。
破産手続きが終わると、会社の法人格は法的に消滅し、支払いきれなかった債務もすべて消滅します。会社としては完全に債務から解放されますが、企業としての存在も完全に終了します。
経営者(代表者)への影響
会社の経営者個人は、原則として会社の債務については責任を負いません。しかし、経営者個人として法人の連帯保証人になっている場合は個人的な責任を負います。
法人と個人は別人格として扱われ、会社が破産しても経営者個人への直接的な影響はないのが基本です。現実では中小企業では経営者が会社の借入金の連帯保証人となっているケースが多く、この場合は会社の債務を個人で返済する義務が発生します。
そのため、結果的には経営者個人も同時に自己破産せざるを得ないケースも多くあります。
従業員への影響
従業員は最終的には全員解雇となります。解雇時には、未払給与や退職金の支払いが問題となります。未払給与については、破産手続き開始前3ヶ月間分は財団債権として最優先で支払われ、それ以前の未払給与は優先的破産債権として他の債権より優先的に扱われます。
ただし、会社に資産が残っていない場合は、未払賃金立替払制度の利用が可能で、未払給与の最大80%が支払われます。(後日、立替分は事業主に求償されます。)従業員は失業保険の受給手続きを行い、社会保険の資格喪失手続きも必要となります。
取引先への影響
取引先は売掛金の回収ができなくなります。これにより、連鎖倒産のリスクが高まります。
破産した会社に対する債権は、破産手続きの中で処理されますが、多くの場合、債権額の一部しか回収できません。
したがって、取引先の資金繰りは急速に悪化し、連鎖倒産に陥る可能性も出てきます。
また、代替の供給先を急いで見つける必要があり、事業運営に大きな影響を与えます。
経営破綻後に必要な手続きの種類は?
経営破綻した場合、企業はどのような手続きを行う必要があるのでしょうか。経営破綻後の手続きには、債権者または債務者が裁判所に対して法的手続きを申請し、裁判所の監督の下で法律に則って再建や清算手続きを行う「法的整理」と、法的整理によらず債権者と債務者との協議により処理を図る「私的整理」があります。
法的整理とは
法的整理とは、企業や個人が経営破綻後に「裁判所の監督下で」法的手続きに従い、債務を整理・再建または清算する制度です。
法的整理の主な手続きには「民事再生」「会社更生」「破産」「特別清算」の4つがあり、法律に基づいて透明かつ公平に進められます。それぞれの内容については後述します。
法的整理には、事業を継続しながら債務を圧縮・返済猶予を行う「再生型」と、資産を換価して債権者へ分配し法人格を消滅させる「清算型」があります。
法的整理では、手続きが公になるため企業イメージの低下等も伴います。
私的整理とは
私的整理とは、裁判所を介さず、「債権者と債務者との自主的な協議・合意」に基づいて債務整理を行う手続きです。主に金融機関などの主要債権者との間で債務免除や返済猶予を交渉し、迅速かつ柔軟に対応できる点が特徴です。法的整理と異なり、手続きの内容や対象債権者の範囲は当事者間で自由に設定できます。
なお、私的整理は、企業の事業価値や経営者の個人資産が保護されやすい一方、債権者全員の合意が必要なため交渉が難航する場合があります。
経営破綻後に必要な法的整理の方法は?
ここでは、先述した4つの「法的整理」の方法について説明します。
民事再生
民事再生は、民事再生法に基づく法的手続きです。裁判所の監督下において債務者自らが再生計画を策定し、債権者の同意を得て、債務者の事業または経済生活の再生を図る手続きです。通常、民事再生は会社の経営陣が交代せずに会社の再生を図ります。
民事再生では、再生計画案の認可について、債権者集会で出席した議決権者の過半数かつ議決権総額の2分の1以上の同意が必要(民事再生法)であるため、一般的な中小企業にとってはハードルが高いとされています。実際に、民事再生の多くが大企業の経営破綻処理スキームとして使われています。
参考:民事再生法 (第172条の3ご参照)| e-Gov 、倒産手続について|裁判所
会社更生
会社更生は、会社更生法に基づく法的手続きです。適用対象は株式会社に限定され、更生計画策定などにより管財人が更生計画を遂行して、事業の維持更生を図ります。手続きが複雑で、かつ厳格な法的拘束力を持ち、費用負担も大きいことから、比較的規模の大きい企業向きとされています。民事再生では経営陣が交代せずに会社の再生を図りますが、会社更生では経営陣が原則として退陣し、裁判所が選任した更生管財人が経営権および会社の財産を一括して管理することになります。
参考: 会社更生手続きについて| 裁判所、会社更生法|e-Gov 法令検索
破産
破産とは会社が債務超過や支払不能に陥った時に、裁判所が会社の財産を処分してすべての債権者に配当して公平な清算を図ることを目的とする法的手続きのことです。会社に財産が残っている場合はそれらをすべて換価(お金に換える)し、債権者に対して平等に配当を行い、最終的に会社の法人格が消滅します。法人の破産には免責という概念はなく、法人格が消滅することによって債務が消滅します。
参考:倒産手続|裁判所
特別清算
特別清算は、会社の清算に著しい支障のある場合や、債務超過の疑いがある場合に、債権者や清算人等の申し立てにより開始される手続きです。破産と同様に裁判所を利用する法的手続きですが、破産のように厳格な手続きが必要なく、比較的簡易に会社の清算を行える手続きとされています。特別清算には、協定型と和解型があり、どちらが適しているかは専門家などの判断を仰ぐこととなります。特別清算は会社法を根拠にして行う手続きであり、対象となる会社は株式会社に限られます。
経営破綻に陥った最近の企業事例は?
冒頭で経営破綻の増加について書きましたが、私たちにとって身近な企業も経営破綻に陥りました。ここでは、経営破綻に陥った企業事例として2つのケースを紹介します。
グループ会社の影響を受けたS社
S社は、2025年7月に東京地裁より破産手続き開始決定を受けました。同社はビジネス関連書籍出版社で、パソコン関連図書分野で高いシェアを持っていました。2021年に子会社を通じてF社を買収し事業拡大を図りましたが、2023年に買収した事業では取引先との未払いトラブルが発生しました。
同社が連帯保証を行っていたことから資金繰りが悪化し、グループ会社のF社も破産に追い込まれました。
この事例は、連鎖倒産の一つと位置づけることができます。
輸入で不良在庫を抱えたM社
M社は、タイ料理関連の輸入商社です。ここ数年、日本ではタイ料理で使われるココナッツミルクがマニアの間でブームになっていますが、そのブームに乗じたM社はそれまで輸入していたココナッツミルクよりも上級の製品を輸入することを決めました。
事前の市場調査などをせずに、M社社長の鶴の一声で輸入を決めたわけですが、輸入したものの販売が伸びず、M社は大量の不良在庫を抱える結果となりました。
大量の在庫を持つと倉庫の家賃などの固定費がかかるだけでなく、その仕入代金の支払いも必要です。ほとんど売れないココナッツミルクは死蔵在庫となり、M社の資金繰りを一気に悪化させ、その結果M社は破産に追い込まれました。
経営破綻に陥らないための予防策は?
経営破綻を望む経営者はいないでしょう。経営を継続し、拡大・繁栄させる。そのような思いで経営している人がほとんどでしょう。
しかし、実際にはすべての経営者が成功するわけではありません。残念なことに、一定数の経営者は経営破綻の憂き目にあうのです。経営破綻に陥らないための予防策は、あるのでしょうか。
資金繰り管理を徹底する
経営破綻に陥らないための第一の予防策は、資金繰り管理を徹底することです。経営破綻の原因のほとんどは、資金繰りの破綻です。資金繰りが均衡せず、キャッシュの持ち出しが続いてキャッシュが払底し、経営を継続できなくなるのです。手元にキャッシュがあれば、たとえ営業収支が赤字であっても経営を継続することができます。できるだけローコストオペレーションに徹し、キャッシュフローがマイナスにならないようにしなければなりません。
経営計画を常に見直す
経営破綻に陥らないための第二の予防策は、経営計画を常に見直すことです。多くの中小企業においてヒト・モノ・カネ・情報のすべてが不足していると書きましたが、リソースが乏しい中小企業が経営戦略策定でミスを犯すと致命傷になります。顧客と対話しながら自社の製品やサービスに対する市場・顧客ニーズのバリデーション(事業性確認)を常に行い、随時軌道修正を施しつつ、経営計画を常に見直すようにしましょう。
ダム式経営を実践する
経営破綻に陥らないための第三の予防策は、ダム式経営を実践することです。ダム式経営は松下幸之助氏が発案・提唱した経営手法で、ダムが水を蓄えるように、会社の経営も好況時に資金や人材、技術などの余力を蓄積し、不況や困難な時期にはその蓄えを活用して経営の安定を図るという考え方に基づくものです。水不足に備えてダムに水を貯めておくように、ダム式経営を実践し、キャッシュを蓄積しておけば、経営破綻のリスクを大幅に抑えられるでしょう。
経営破綻のリスクを常に意識して健全な経営を
経営破綻の基本的な情報について、経営破綻に陥った事例や経営破綻に陥らないための予防策などとともに解説しました。会社もある意味では生き物であり、経営破綻するリスクは常に存在します。今後も、経営破綻する会社は出てくるでしょう。他社の経営破綻の事例などを研究し、経営破綻のリスクを常に意識して健全な経営を行うことを心がけてください。経営破綻のリスクを意識することが、経営破綻を回避するための最初のステップです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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