- 更新日 : 2025年11月25日
【テンプレ付】取締役の法人登記はいつ必要?役員変更の必要書類を解説
取締役の変更が生じたら、2週間以内に法人の役員変更登記が必要です。この手続きは会社法で定められた義務であり、怠ると過料が科されるため、迅速な対応が求められます。しかし、場合によっては株主総会の開催や多数の必要書類の準備など、手続きが複雑で時間がかかることも少なくありません。
この記事では、取締役の法人登記が必要になる具体的なケースから、申請手続きの流れ、ケース別の必要書類、そして登記を忘れた場合のリスクまで、企業の担当者が直面する課題を解決するために網羅的に解説します。
目次
取締役の法人登記はどのような場合に必要?
取締役の就任、重任、退任、代表取締役の住所変更など、登記事項に変動があったケースで役員変更の登記が必要です。登記は会社の重要情報を公示し、取引の安全を確保する会社法上の義務です。変更が生じた日から2週間以内に申請しましょう。
住所変更の登記が必要なのは代表取締役等に限られます。代表権のない取締役の住所は登記事項ではないため、住所変更登記は不要です。
登記が必要となる主なケース
具体的には、以下のような場合に登記申請が必要になります。
- 新任・追加:
新たな取締役が就任したとき。 - 退任(任期満了、辞任、解任、死亡等):
取締役が任期満了で退任、自己意思(辞任)による退任、あるいは株主総会の決議で解任により退任、死亡したとき。 - 重任:
任期満了後も、同じ取締役が引き続きその役職を務める(再任される)とき。任期ごとに登記が必要です。 - 代表取締役の変更:
代表取締役が交代したとき。会社の代表者が変わるため、特に重要な登記です。 - 氏名・住所の変更:
結婚や引っ越しにより、代表取締役の氏名や住所が変わったとき。代表取締役個人の変更も登記事項に含まれます。
これらのいずれかに該当した場合、変更が生じた日から2週間以内に管轄の法務局へ登記申請を行う必要があります。なお、2024年10月以降は申出により登記事項証明書等の住所表示を市区町村までに非表示化できますが、住所自体の登記・変更登記の義務は残ります。
参照:役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です|法務局
取締役の登記手続きはどのように進める?
役員変更の登記は、変更の効力が生じた日から2週間以内に申請します。スケジュールと書類の事前準備が重要です。
STEP1:株主総会での決議
役員変更登記の最初のステップは、会社の機関設計(取締役会の有無)に応じて、取締役や代表取締役の選任・解任等に関する正式な意思決定を行うことです。 登記の根拠となるこの決議は、後に添付書類として提出する「議事録」や「互選書」に反映されます。
取締役の選任・解任
通常、取締役の選任や解任は株主総会の決議によって行います。決議の内容は「株主総会議事録」にまとめ、登記申請時に添付します。このとき、株主総会の決議に基づく登記(例:新任・重任・解任など)を行う場合には、株主リストの添付も必要です(株主総会決議を要する登記に限る)。
代表取締役の変更
代表取締役の選定方法は、会社の機関設計によって異なります。
- 取締役会設置会社の場合:
代表取締役は取締役会の決議で選定します。登記申請時には、その内容を証する取締役会議事録を添付します。 - 取締役会非設置会社の場合:
代表取締役は、取締役全員の互選などによって選定します。この場合は、選定の事実を証する互選書や定款の写し(選定方法が定款に定められている場合)を添付します。
辞任・任期満了など議決を伴わないケース
取締役が自ら辞任する場合や任期満了により退任する場合など、株主総会や取締役会の決議を要しないケースでは、当該事実を証明する辞任届や任期満了を証する書面を添付します。これらの添付書面の要否は、法務局が公開している各登記様式の注記に従って準備します。
STEP2:必要書類の収集・作成
変更内容に応じて、登記申請に必要な書類を収集・作成します。詳細は次の章で詳しく解説します。
STEP3:登記申請書の作成
登記申請書は、法務局の記載例・様式に従って作成します。
- 記載内容:会社の商号、本店所在地、登記すべき事項(「役員に関する事項」「年月日取締役A野B男就任」など)、登録免許税の金額、添付書類の一覧などを記載します。
申請方法によって、登録免許税の納付方法が異なります。
- 書面申請の場合:
申請書に登録免許税相当額の収入印紙を貼付して納付します。印紙は必ず申請書原本に直接貼付します。消印はしません。 - オンライン申請の場合:
収入印紙は使用せず、電子納付(インターネットバンキングやATM等)で支払います。 法務省の「登記・供託オンライン申請システム(申請用総合ソフト/かんたん登記申請)」を利用し、申請データを送信します。電子署名にはマイナンバーカードや商業登記電子証明書が利用可能です。
参照:【記載例】株式会社(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)|法務局
STEP4:法務局への申請
作成した申請書と添付書類一式を、会社の本店所在地を管轄する法務局へ提出します。申請方法には以下の3つがあります。
- 窓口申請:法務局の窓口へ直接持参する方法。
- 郵送申請:書類一式を封筒に入れ、書留郵便で送付する方法。
- オンライン申請:専用のソフトとマイナンバーカードなどを利用して、インターネット経由で申請する方法。
STEP5:登記完了の確認
法務局での審査が完了すると、登記が完了します。申請から完了までの期間は、法務局の混雑状況にもよりますが、おおむね1週間から2週間程度です。登記が完了したら、登記事項証明書を取得し、変更内容が正しく反映されているかを確認しましょう。
取締役の変更登記に必要な書類は?
「変更登記申請書」に加えて、変更の発生経緯を証する書面(株主総会議事録・取締役会議事録・互選書・辞任届等)を添付します。会社の機関設計(取締役会の有無)や、新任・重任・退任・代表者交代などケースにより必要書類が変わるため、法務局の記載例・注記に沿って漏れなく準備しましょう。
主な必要な書類
主な必要書類は以下の通りです。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| ① 変更登記申請書 | 登記の事由・登記すべき事項・登録免許税・添付書類等を記載します。 |
| ② 決議・事実を証する書面(該当する場合) | 株主総会議事録/取締役会議事録/互選書などです。 |
| ③ 株主リスト(該当する場合) | 株主総会決議を要する登記では株主リストの添付が必要です。 |
【ケース別】追加で必要となる書類
上記の共通書類に加えて、変更内容に応じて以下の書類が必要になります。
1. 新たな取締役が就任する場合(新任・追加)
| 追加で必要な書類 | 補足説明 |
|---|---|
| 就任承諾書 | 新たに就任する取締役が、その役職に就くことを承諾したことを証明する書類です。なお、添付する議事録の内容によっては就任承諾書の添付を省略できます。 |
| 印鑑証明書 | 上記の就任承諾書に押印した印鑑が、本人の実印であることを証明するために添付します。 |
| 本人確認書類 | 就任承諾書や印鑑証明書の記載内容に不一致や不備がある場合など、登記官から補足資料の提出を求められるケースに限り提出します。 |
2. 取締役が任期満了後も続ける場合(重任)
| 追加で必要な書類 | 補足説明 |
|---|---|
| 重任承諾書 | 重任する取締役が、その役職に就くことを承諾したことを証明する書類です。なお、添付する議事録の内容によっては就任承諾書の添付を省略できます。 |
| 定款 | 原則添付不要です。任期条項の確認が必要な特殊事例等で登記官が求めるときに提出します。 |
3. 取締役が役職から退く場合(退任)
| 追加で必要な書類 | 補足説明 |
|---|---|
| 辞任届(辞任の場合) | 取締役が自らの意思で辞任した場合に、その意思を証明するために添付します。 |
| 戸籍謄本など(死亡の場合) | 死亡による退任の場合は、その事実を証明する書面(例:戸籍謄本など)が必要です。 |
4. 代表取締役が交代する場合
上記のいずれかのケースに加えて、以下の書類も必要です。
| 追加で必要な書類 | 補足説明 |
|---|---|
| (新代表者の)印鑑証明書 | 新たな代表取締役個人の印鑑証明書です。 |
| 印鑑届書 | 会社の新しい代表印(実印)を法務局に登録するための書類です。 |
取締役の登記申請の期限と費用はどのくらい?
登記申請は、役員変更の事実が生じた日(効力発生日)の「翌日」から起算して2週間以内に行います。費用は登録免許税が1万円(資本金1億円以下)または3万円(1億円超)です。申請方法により納付方法が異なるため、下記を確認しましょう。
申請期限は「2週間以内」
会社法第915条第1項により、役員変更の登記は変更が生じたときから2週間以内が期限です。期間計算は民法の原則に従い、効力発生日の翌日から数えます(初日不算入)。例えば、4月1日に株主総会決議で新任取締役の選任が効力発生した場合、4月2日を1日目として起算し、4月15日が満了日(末日が休日なら翌日満了)となります。
登録免許税は1万円または3万円
登記申請時には、登録免許税という税金を国に納付します。役員変更登記の登録免許税額は、会社の資本金の額によって異なります。
- 資本金が1億円以下の会社:1万円
- 資本金が1億円を超える会社:3万円
法務局窓口または郵送で登記申請を行う場合は、登録免許税納付用台紙に収入印紙を貼付して登録免許税を納付します。また、オンラインを行う場合は、電子納付によって登録免許税を納付します。
司法書士に依頼する場合の費用
これらの手続きを司法書士に依頼することも可能です。その場合、登録免許税とは別に、司法書士への報酬が発生します。報酬額は変更登記の内容や事務所によって異なりますが、一般的には3万円から5万円程度が相場とされています。
もし取締役の登記を忘れたらどうなる?
登記申請を怠ると、代表者個人が100万円以下の過料に処される可能性があります。「登記懈怠(とうきけたい)」と呼ばれるこの状態は、法律違反にあたります。すぐに罰則が適用されるわけではありませんが、リスクを避けるためにも期限内の申請が不可欠です。
過料(かりょう)のリスク
会社法第976条では、登記を怠った会社の代表者に対し、100万円以下の過料を科すことが定められています。この過料は会社の経費として処理できず、代表取締役個人の負担となります。どのくらいの期間、登記を怠ると過料が科されるかという明確な基準はありません。
参照:会社法 第九百七十六条 過料に処すべき行為|e-GOV
休眠会社のみなし解散
長期間にわたって登記変更をせずにいると、株式会社は「休眠会社」とみなされることがあります。具体的には、最後の登記から12年を経過した株式会社が対象で、この場合、まず 法務省(法務大臣)による官報公告がなされ、続いて管轄の登記所から対象会社に通知書が発送されます。
公告日から2か月以内に、以下のいずれかを行わなければ、当該日付をもって「解散したものとみなす」登記(みなし解散)が登記官の職権で行われます。
- 登記すべき事項(例:役員変更・所在地変更など)の申請
- 「まだ事業を廃止していない」旨の届出
通知書が届いていない場合であっても、条件に該当すれば同様です。
みなし解散の登記がされた後でも、株式会社であれば、3年以内に株主総会の特別決議を行い、継続登記を申請すれば会社を存続させることが可能です。ただし、繰り返しになりますが、役員変更などの登記を怠っている間も過料の対象となる可能性があります。
取締役の法人登記が不要なケースはある?
登記簿に記載されない「執行役員」「部長」「本部長」などの社内ポストは、会社法上の役員等ではないため、変更があっても登記は不要です。登記が必要なのは、会社法・商業登記の枠組みで「役員等」と位置付けられ、登記事項証明書の「役員に関する事項」に記載される者に限られます。
執行役員と取締役の違い
「取締役」と「執行役員」は名称が似ていますが、法的な位置づけが異なります。
- 取締役:
会社の意思決定・監督を担う法定の役員。選任は株主総会決議で、登記が必要です。 - 執行役員:
社内制度上の呼称。法律上の役員ではないため登記は不要です。
登記義務の有無を確認する方法
自社の役職について登記が必要かどうかを判断するには、会社の定款や登記事項証明書を確認しましょう。
- 定款:会社の根本規則であり、役員の任期や員数などが定められています。
- 登記事項証明書:現在登記されている役員の氏名などが記載されています。
ここに記載されている役員に変更があった場合は、登記が必要です。逆に、ここに記載のない役職(部長、事業本部長なども含む)の交代は、登記の対象外となります。
取締役の法人登記変更後の他の手続きは?
法務局での登記が完了しても、それで全ての手続きが終わるわけではありません。特に代表取締役が変更になった場合は、さまざまな行政機関や金融機関への届出が必要です。
登記完了後に取得した新しい「登記事項証明書」を使って、以下の手続きを進めましょう。
行政機関への届出
代表取締役の変更があった場合、主に以下の行政機関への届出が必要となります。
| 届出先 | 主な手続き |
|---|---|
| 税務署 | 法人税や消費税に関する「異動届出書」の提出(速やかに)。 |
| 都道府県・市区町村 | 法人住民税・事業税に関する「異動届出書」の提出(自治体による)。 |
| 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届の提出。 |
| 労働基準監督署・ハローワーク | 労働保険については「名称、所在地等変更届」の提出、雇用保険については「雇用保険 事業主事業所各種変更届」の提出。 |
金融機関での手続き
法人口座を持つすべての金融機関で、代表者変更に伴う口座名義・届出印・取引権限などの更新手続きが必要です。
- 代表的な必要書類:
最新の登記事項証明書、会社の代表者印の印鑑証明書、新代表者の本人確認資料など
具体的な書類・期限・取扱いは各金融機関の定めによるため、事前に要件を確認してください。
許認可・契約関係の変更
事業を行う上で必要な許認可(建設業許可、古物商許可など)を受けている場合は、管轄の行政庁への役員変更届が別途必要になることがあります。
また、オフィスの賃貸借契約やリース契約、取引先との基本契約など、契約条項に従って名義・代表者・連絡先の変更手続きを行います。多くの場合、登記事項証明書の写しの提出が求められます。
取締役の法人登記の変更は2週間以内の手続きが必須
取締役の法人登記は、会社の重要な変更を社会に示すための法的な手続きであり、変更が生じた日から2週間以内という期限が定められています。この手続きには、必要書類の準備、登記申請書の作成と、多くの工程が含まれます。
もし申請を怠ると、代表者個人が過料の対象となるだけでなく、会社の信用にも関わる可能性があります。役員変更が決まった際は、この記事を参考に、迅速かつ正確に法人登記の手続きを進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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