• 更新日 : 2025年11月25日

創業融資で車は購入できる?自動車ローンとの違いや審査のポイントを解説

創業融資を利用して事業用の車を購入することは可能です。ただし、融資を受けるには「なぜ事業にその車が必要なのか」を事業計画書で明確に説明し、融資担当者を納得させなければなりません。

この記事では、創業融資で車を購入するための具体的な方法、金融機関のカーローンとの違い、そしてすでに自動車ローンがある場合の対処法について、わかりやすく解説します。

創業融資で事業用の車は購入できる?

事業用の車は、創業融資を利用して購入できます。融資の資金使途は大きく「設備資金」と「運転資金」に分かれますが、事業で利用する車両は店舗や機械などと同様に「設備資金」に該当するため、融資の対象となります。

設備資金とは、事業を長期的に運営するために必要な設備を導入するための資金です。具体的には、事務所や店舗の敷金・保証金、内外装工事費、機械装置、パソコン、そして事業用車両などが含まれます。

日本政策金融公庫をはじめとする金融機関は、これらの設備が事業の収益に直接つながるものと判断すれば、融資対象として認めます。したがって、運送業のトラック、建設業の作業車、訪問サービスの営業車など、事業遂行に不可欠な車両であれば、購入費用を創業融資でまかなうことは十分に可能です。

参照:よくあるご質問 事業を営む方 個人・小規模企業の方|日本政策金融公庫

車の購入に使える創業融資制度とは?

創業時に事業用の車を購入する場合、主に日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」が利用されます。これは、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした、比較的低金利で利用しやすい制度です。

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」

この制度は、創業者を支援するために設けられており、事業に必要な資金を幅広くサポートします。以前は自己資金の要件がありましたが、2024年4月以降は撤廃され、より利用しやすくなりました。

項目内容
対象者新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)
資金使途事業を始めるため、または事業開始後に必要となる設備資金および運転資金
返済期間設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)
特徴低金利で、担保や保証人については相談に応じて柔軟に対応

車の購入費用は「設備資金」として、この制度の対象となります。融資限度額は高めに設定されていますが、事業規模や計画に見合った現実的な金額で申請することが重要です。

参照:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

自治体の制度融資も選択肢に

自治体が、金融機関や信用保証協会と連携して提供する「制度融資」も選択肢の一つです。自治体が利子の一部を負担(利子補給)したり、信用保証料を補助したりすることで、創業者を支援する目的があります。そのため、日本政策金融公庫の融資よりも有利な条件で借り入れができる場合もあります。

制度の名称や内容は自治体によって異なりますが、多くの自治体で創業者向けの融資制度が設けられています。ここでは、いくつかの主要都市の例を紹介します。

自治体名制度名称(例)主な特徴
東京都東京都中小企業制度融資『創業』融資限度額は3,500万円、信用保証料の2分の1を都が補助
横浜市創業おうえん資金融資限度額3,500万円、固定金利:2.3%以内。
横浜市が保証料率0.1%を助成
大阪府開業・スタートアップ応援資金融資限度額3,500万円、金利1.4%。
開業前・開業後5年未満が対象
福岡市新規創業資金融資限度額3,500万円。融資利率1.30%。
保証料率0%・担保不要もある

※上記の表はあくまで一例です。融資限度額や補助の内容、申込要件などの詳細は年度によって変更されることがあります。(2025年10月現在の情報です。)

参照:東京都中小企業制度融資『創業』|東京都創業NET
参照:創業おうえん資金|横浜市
参照:開業・スタートアップ応援資金(地域支援ネットワーク型)|大阪商工会議所
参照:中小企業融資制度|福岡県

創業融資と自動車ローンの違いは?

事業用の車を購入する資金調達方法として、創業融資のほかに自動車ローン(カーローン)も考えられます。両者は金利や審査の対象などが異なるため、それぞれの特徴を理解し、自身の状況に合わせて選択することが大切です。

創業融資は事業全体への投資であるのに対し、自動車ローンは車両購入に特化した融資制度です。

項目創業融資自動車ローン
資金使途事業資金全般(設備資金・運転資金)車両購入のみ
金利創業支援の趣旨から優遇(利率引下げ等)がある場合あり金融機関等により異なる(創業融資より高めの場合も)
主な審査対象事業計画の実現性、自己資金、経験・スキル、将来収支、信用情報等申込者の信用情報・収入安定性、返済能力(事業実績や勤続年数を確認される場合も)
審査~実行の目安概ね数週間程度(書類・面談・稟議の進捗による)最短当日~数日の例あり(ディーラー系等)。金融機関等により異なる
同時調達車両費+運転資金を一体で調達しやすい原則車両費のみ(運転資金は別枠手当が必要)
創業融資のメリット
  • 金利優遇が受けやすい:
    創業者支援の公的目的から、利率引下げなどの優遇が設けられている場合があります。
  • 運転資金も同時に調達できる:
    車の購入費用だけでなく、事業開始当初に必要な広告宣伝費や仕入費などの運転資金もまとめて借り入れできるため、資金繰りに余裕が生まれます。
  • 創業前から申し込み可能:
    事業計画の将来性で判断されるため、事業実績のない創業前や創業直後でも利用できます。
自動車ローンのメリット
  • 審査が早い:
    ディーラーローンなどでは即日で結果が出ることがあり、急いで車が必要な場合には便利です。

創業初期は、車両=設備資金、保険料・燃料・税金=運転資金として一体で資金繰り設計できる創業融資の利点が大きいケースが多い一方、「納車を最短で」等の要件が強い場合は自動車ローンを併用検討する選択肢もあります。

既存の自動車ローンがあると創業融資は受けられない?

すでに個人の自動車ローンを組んでいても、創業融資を申し込むことは可能です。ただし、審査に影響しますので、正直に申告し、返済能力があることを示すことが重要です。

審査への影響

金融機関は融資審査の際に、信用情報機関に照会をかけ、申込者のすべての借入状況を把握します。そのため、自動車ローンの存在を隠すことはできません。既存のローンがある場合、審査では以下の点が考慮されます。

  • 総返済負担率の妥当性:
    既存ローンと新たな創業融資の返済額を合わせても、事業のキャッシュフロー(営業利益減価償却)で十分に返済可能かを確認します。住宅ローン審査のような「返済比率の数値基準(例:35%)」はありませんが、無理のない資金繰り計画が示されることが前提です。
  • 過去の返済履歴:
    延滞・代位弁済などの記録があると減点要素になります。
  • 資金使途と事業整合性:
    車両が事業運営にどのように必要か、その費用をどの資金区分(設備資金・運転資金)で申請するかの整合性が重要です。

法人と個人事業主での扱いの違い

  • 個人事業主の場合:
    事業と家計の資金が一体と見なされるため、個人の自動車ローンも審査対象に含まれます。例えば、日本政策金融公庫の場合、創業計画書の「お借入の状況」欄には、車・住宅・カードなどすべての借入を記入する必要があります。
  • 法人の場合:
    自動車ローンが法人名義でない限り、直接的に法人の負債とは見なされません。
    ただし、創業期の法人は代表者保証が必要な場合もあり、代表者個人の借入状況は審査で参照されます。代表者が個人でローンを組んでいても、返済遅延がなく、法人としての返済余力が確保されていれば、創業融資の実行に支障はないでしょう。

正直な申告と返済計画の重要性

創業計画書や面談時には、既存のローンを正確に申告し、その上で「既存の自動車ローンはありますが、事業計画上の利益から十分に返済可能です」と、根拠を伴った数値計画で説明しましょう。

たとえば以下のような情報を添えると効果的です。

  • 売上・利益見通しと月次キャッシュフロー
  • 既存ローンの残高・返済期間・月額返済額
  • 創業融資での返済見込額とのバランス
  • 車両の用途(営業・配送・現場訪問など)と事業貢献度

誠実かつ具体的な説明は、融資担当者からの信頼につながります。

創業融資の審査で重視されるポイントは?

創業融資の審査では、事業計画書の説得力が最も重視されます。特に車を購入する場合、「なぜその車が必要で、どのように事業の収益に貢献するのか」を具体的かつ客観的に示すことが求められます。自己資金や事業経験も評価の対象です。

1. 自己資金

融資を受ける際は、自己資金が多いほど融資の評価が高まる傾向があります。計画的に資金を準備してきた姿勢は、事業への熱意や計画性の証明となり、金融機関からの信頼を得やすくなります。創業資金総額の3分の1程度を目安に準備しておくと、審査で有利に働くことが多いでしょう。

2. 経験やスキル

これから始める事業に関連する業務経験や、保有している資格・スキルも審査で評価されるポイントです。例えば、運送業を始める方が大型免許を持ち、長年のドライバー経験があれば、事業の成功確率が高いと判断されやすくなります。自身の経歴を効果的にアピールしましょう。

3. 事業計画書の説得力

融資担当者は、事業の将来性を判断するために事業計画書を精査します。車両購入に関しては、以下の3点を明確に説明しましょう。

  • 事業内容と車の関連性:
    どのような事業で、車をどのように活用するのかを具体的に記述します。(例:内装工事業で、工具や資材を現場へ運搬するために積載量の大きいバンが必要)
  • 車種選定の妥当性:
    なぜその車種を選んだのか、事業規模や用途に対して適切である理由を説明します。(例:高価な高級車ではなく、燃費が良く荷物も積める国産の商用バンを選定)
  • 収支計画との整合性:
    車両の購入費用(見積書を添付)や、ガソリン代・保険料・税金などの維持費を収支計画に正確に盛り込み、返済の実現可能性を示します。

創業融資での車の購入に関するよくある質問

創業融資で車の購入を検討する際によくある質問とその回答をまとめました。

Q1. すでに個人の自動車ローンがありますが、融資は受けられますか?

はい、申し込みは可能です。ただし、既存の自動車ローンも個人の債務として審査対象になります。創業融資では、金融機関が信用情報機関(CIC/全銀個人信用情報センター/JICC)を照会し、すべての借入状況を把握します。

既存ローンの返済が延滞なく行われており、新たな融資を加えても事業のキャッシュフロー(営業利益+減価償却)で無理なく返済できると判断されれば、融資が認められる可能性は十分にあります。

「返済負担率」のような定量基準は設けられていませんが、事業収益から見た返済余力と資金繰り計画の整合性が審査の要です。心配な場合は、日本政策金融公庫の担当者や税理士・中小企業診断士に事前相談しておくと安心です。

Q2. 中古車でも融資の対象になりますか?

はい、中古車も融資の対象となります。ただし、なぜ中古車を選ぶのか、その価格が妥当であるかを説明できるように、複数の販売店から取得した見積書を添付すると説得力が増します。車両の状態や年式、走行距離なども考慮され、事業用として長期的に使用できるかどうかが判断材料の一つになります。

Q3. 車両保険(任意保険)の費用も融資対象ですか?

はい、初年度に必要な保険料・税金・燃料費などの諸経費は、「運転資金」として融資対象に含めることが可能です。

ただし、2年目以降の継続的な費用(保険更新・車検・税金)は、事業収支の運転費として自己資金または事業収益から賄う前提になります。事業計画を作成する際は、車両の購入費(=設備資金)に加え、初年度の保険料・自動車税・燃料費等の諸経費(=運転資金)を月次キャッシュフロー表に反映しておくと、審査での信頼性が高まります。

創業融資で事業用の車を購入することはできる

この記事で解説したとおり、創業融資を利用して事業用の車を購入することは十分に可能です。特に日本政策金融公庫の創業融資は、金利が低く、運転資金も同時に調達できるため、創業者にとって有利な選択肢といえるでしょう。

重要なのは、その車が事業の成功にいかに不可欠であるかを、客観的な事実と具体的な数字を盛り込んだ事業計画書を通じて明確に伝えることです。既存のローンがある場合でも、誠実に申告し、しっかりとした返済計画を示しましょう。

もし計画書の作成や手続きに不安があれば、税理士や中小企業診断士といった専門家の力を借りることも有効です。適切な資金調達を実現し、事業のスタートダッシュを成功させましょう。


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