• 更新日 : 2025年11月25日

経営監査とは?内部監査との違い、進め方、関連資格をわかりやすく解説

経営監査とは、会社の経営活動全体が目標達成に向けて有効かつ効率的に行われているかを、客観的な立場で評価し、改善のための助言まで行う活動です。単に誤りを指摘するのではなく、業務プロセスの改善やリスク管理・ガバナンスの強化を通じて、企業の成長を後押しします。会社の「健康診断」にたとえるとイメージしやすいでしょう。

この記事では、経営監査の基本的な意味や目的、内部監査との違い、そして具体的な監査の進め方を7つのステップで詳しく解説します。

経営監査とは?

経営監査とは、企業の経営目標の達成を支援するため、経営活動全般(戦略・組織運営・業務プロセス等)を対象に、その妥当性や効率性を客観的に評価し、改善点を助言する一連の活動を指します。

一方、会計監査財務諸表監査)は、監査人が監査証拠に基づき、財務諸表が会計基準に従って重要な点において適正に表示されているかを判断し、意見表明することで信頼性を付与する保証業務です。

つまり、経営監査は「企業経営をより良くするための改善支援」、会計監査は「財務情報の正確性を保証するための検証」といえるでしょう。

経営監査の実施体制とタイミングは?

経営監査は、社内の内部監査部門が計画的に実施する場合もあれば、特定課題に応じて外部の専門家が関与する場合もあります。監査の目的や会社の状況により、最適な担い手・時期・対象範囲が変わるためです。

監査の担い手は、主に次の2つのパターンがあります。

  • 社内の担当者(内部監査部門・経営企画室など)
    事業理解とアクセスの良さが強み
  • 外部の専門家(コンサルタント、公認会計士など)
    独立性や専門性を踏まえ、改革・専門テーマで有効

実施するタイミングも様々です。

一つは、年間の計画に沿って定期的に行う「定時監査」です。これは会社の定期健康診断のように、組織全体の健康状態を継続的にチェックする目的で行われます。

もう一つは、特定の課題が見つかったときや、新しい事業を始める前などに行う「臨時監査」です。こちらは、気になる部分を詳しく調べるための精密検査のようなイメージです。

監査で調べる対象範囲も、その時々の目的に合わせて変わります。

特定の部署や工場、子会社といった組織単位で見ることもあれば、「仕入れから支払いまでの流れ」や「顧客情報の管理体制」のように、複数の部署にまたがるテーマを対象とすることもあります。

経営監査の主な目的は?

経営監査の主な目的は、「業務プロセスの改善」「潜在リスクの発見・対策」「経営目標達成のサポート」の3つです。 いずれも、ガバナンス・リスク・コントロール(GRC)の有効性を評価・改善し、組織目標の達成を支援するという狙いがあります。

業務プロセスの改善と生産性向上

日々の業務に潜む「ムダ・ムリ・ムラ」を可視化し、統制の設計/運用の妥当性やプロセスのボトルネックを検証し、承認階層の適正化、重複作業の解消、KPI/内部統制の再設計など実行可能な改善策を助言します。

例えば、「この承認プロセスは時間がかかりすぎている」「A部署とB部署で同じような作業を二重に行っている」といった課題を洗い出し、具体的な改善策を示して生産性の向上を目指します。

経営上のリスク発見と対策

事業活動には、財務、コンプライアンス、情報セキュリティなど様々なリスクが伴います。経営監査では、潜在リスクの早期発見と、リスク管理体制(ポリシー、統制、モニタリング)の有効性評価を実施します。リスクベース計画に基づき重要リスクから優先的に監査し、是正・強化策を示すことで経営の安定化に貢献します。

経営目標の達成をサポート

企業が掲げた戦略・計画が実現可能か(有効性)、進捗管理が効率的か(効率性)、資源配分が経済的か(経済性)を多角的に検証します。目標と現状のギャップ、原因、是正策を提示し、目標達成確度を高める助言まで行います。

経営監査と内部監査、何が違う?

両者は重なる部分が多いものの、経営監査は“経営そのものをより良くする”ための戦略寄りのアプローチが強いのに対し、内部監査はIIA定義に基づく“保証+助言”の枠組みで、ガバナンス・リスク・コントロール(GRC)の有効性を体系的に評価・改善する機能です。

両者の違いを以下の表にまとめました。

比較項目経営監査内部監査
主たる視点将来志向で経営の有効性・効率性を高める改善提案が中心保証+助言でGRCの有効性を評価・改善(将来志向も含む)
主たる目的経営活動の改善、企業価値の向上リスク・統制・ガバナンスの有効性の向上を通じた目標達成支援
監査の範囲戦略・組織運営・業務プロセスなど経営全般企業全体のGRC視点で、プロセス/機能/テーマ横断にリスクベースで設定
性格コンサルティング色が強い(改善・提言重視)保証報告を核に、必要に応じ助言も実施
体制・位置づけ内部監査部門や経営企画、外部専門家がテーマ別に実施取締役会/監査役等との直接報告・連携が望ましい体制

経営監査の重要な「3つのE」とは?

経営監査を行う際、評価の拠り所となる重要な判断基準があります。それが「3E」と呼ばれる、経済性・効率性・有効性という3つの視点です。経営監査では、この3つの視点から、経営活動を多角的に分析します。

経済性(Economy)の視点

投入した資源(ヒト・モノ・カネ)に無駄はなかったか、コストは最小限に抑えられていたかという視点です。「費用対効果」ともいえます。

経済性(Economy)の視点における具体例
  • 同じ品質の部品を、より安く調達できる仕入先はなかったか。
  • 事務所の賃料や光熱費は、事業規模に対して妥当な水準か。

効率性(Efficiency)の視点

投入した資源に対して、どれだけ大きな成果(アウトプット)を生み出せたかという視点です。「生産性」の考え方に近いでしょう。

効率性(Efficiency)の視点における具体例
  • 手作業で行っているデータ入力をシステム化し、同じ時間で3倍の処理ができないか。
  • 会議の時間を半分にしても、同じ質の意思決定ができないか。

有効性(Effectiveness)の視点

その活動が、本来の目的や目標の達成にどれだけ貢献したかという視点です。たとえ経済的・効率的であっても、目的からずれていては意味がありません。

有効性(Effectiveness)の視点における具体例
  • 多額の広告費をかけたキャンペーンは、本当に売上増加につながったのか。
  • 実施した社員研修は、従業員のスキルアップという目的を達成できたか。

経営監査の具体的な進め方7ステップ

経営監査は、一般的に「計画→調査→報告→改善確認」という流れで進められます。ここでは、その流れを7つのステップに分けて具体的に解説します。

STEP1:監査計画の策定

まず、監査の全体像を設計します。ここでは、監査の目的、対象とする部門やテーマ、監査を実施する期間、担当者などを具体的に定めた「監査計画書」を作成します。経営陣の意向もふまえ、「今回は特に営業部門の生産性に焦点を当てる」といったように、監査の重点項目を明確にすることが大切です。

STEP2:予備調査

本格的な調査に入る前に、監査対象部門の関連資料(組織図、業務マニュアル、過去のデータなど)を取り寄せ、読み込みます。また、部門の責任者への簡単なヒアリングを行い、業務の概要や現状の課題などを大まかに把握します。この段階で、本調査で何を重点的に調べるべきかの仮説を立てます。

STEP3:本調査

予備調査で立てた仮説を検証するため、現場での詳細な調査を行います。関係者へのヒアリング、業務プロセスの観察、データの分析、アンケートの実施など、様々な手法を用いて客観的な証拠(監査証拠)を収集します。監査で最も時間と労力がかかる、中心的なプロセスです。

STEP4:監査調書の作成

本調査で収集した情報や証拠、分析結果などを記録した「監査調書」を作成します。これは、後の監査報告書の根拠となる重要な内部文書です。監査人が「どのような手続きで」「何を発見し」「どのような結論に至ったか」を、第三者が見てもわかるように整理・記録します。

STEP5:監査報告書の作成

監査調書をもとに、監査の結果をまとめた「監査報告書」を作成します。報告書には、監査の概要、発見した問題点、その原因分析、そして具体的な改善提案などを記載します。問題点を指摘するだけでなく、「誰が」「いつまでに」「何をすべきか」がわかるような、具体的で実行可能な改善案を提示することが求められます。

STEP6:報告と意見交換

作成した監査報告書を、経営陣や監査対象部門の責任者に提出し、報告会を実施します。ここでは、一方的に結果を伝えるだけでなく、監査対象部門からの意見も聞き、事実誤認がないかを確認します。監査結果に対する共通の理解を形成し、改善に向けた協力を得るための重要なステップです。

STEP7:改善勧告とフォローアップ

報告会での意見交換をふまえ、最終的な改善勧告を正式に行います。そして、監査はここで終わりではありません。勧告した内容がその後きちんと実行されているか、改善の効果は出ているかを一定期間後に確認する「フォローアップ」を行います。改善が実行されるまで責任を持つことが、経営監査の価値を確かなものにします。

中小企業が経営監査を導入する際のポイント

「経営監査は大企業のもの」というイメージがあるかもしれませんが、経営資源が限られる中小企業にこそ、そのメリットは大きいといえます。

完璧な体制を整えようとせず、まずは「スモールスタート」を意識することが成功の鍵です。例えば、「経費精算プロセスの効率化」「在庫管理の最適化」など、テーマを一つに絞って試行的に監査を行ってみるのがよいでしょう。

社内に適任者がいない場合は、テーマ別の専門家(内部監査/CIA、IT・セキュリティ/CISA等)に依頼するのも有効な手段です。

何よりも、経営トップが、改善目標・優先順位・是正期限を明文化し、定例レビューで進捗を促すことが不可欠です。特に情報セキュリティやデータ活用は、取引先管理やレピュテーションに直結するため、中小企業向けガイドライン等に沿って最低限の統制を速やかに整えると効果的です。

経営監査に関連する資格やスキルは?

経営監査の業務を遂行するうえで、法律で定められた国家資格の必須要件はありません。ただし、監査には高度な専門性が求められます。会計、法律、IT、リスク管理といった幅広い知識に加え、経営層や各部門と円滑に連携するコミュニケーション力、課題の本質を捉える分析力、そしてデータ分析の素養が不可欠です。

公認内部監査人(CIA)

CIA(Certified Internal Auditor)はIIA(内部監査人協会)が認定する、内部監査領域で最も広く認知された国際資格です。内部監査の基礎から実務、ビジネス知識までを体系的に問う3部構成で、2025年からシラバスが更新されます。経営監査を担ううえで、ガバナンス・リスク・コントロールに関する基礎力の証明として有効です。

参照:CIA(公認内部監査人)とは|一般社団法人日本内部監査協会 

関連資格とスキル

CIA以外にも、以下のような資格が経営監査業務に役立ちます。

  • 公認会計士(CPA)
    会計・監査の国家資格。財務報告や内部統制の知見を経営監査にも横展開できます。
  • 公認情報システム監査人(CISA)
    ITシステムの監査とコントロールに関する専門資格で、ITガバナンスやサイバーセキュリティ監査で強みを発揮します。

また、資格だけでなく、論理的思考力やデータ分析能力といったスキルも同様に大切です。

例えば、データ分析能力は、膨大な取引データの中から異常なパターンを発見し、リスクの兆候を早期に捉えるために役立ちます。改善提案を的確に伝えるプレゼンテーション能力も、監査の結果を活かすためには必要です。

経営監査を会社の成長エンジンにするために

経営監査は、企業の経営活動を客観的に見つめ直し、改善のきっかけを与える有効な仕組みです。内部監査はIIAの定義どおり、独立・客観的な「保証+助言」活動として、ガバナンス・リスク・コントロール(GRC)の有効性を高め、組織目標の達成を支援します。経営監査はその中でも、業務改善やリスク管理を経営視点でドライブし、企業価値の向上に結びつけるアプローチです。

ここまでご紹介した進め方や必要スキルを、自社の状況に合わせてリスクベースで適用すれば、課題を可視化し、継続的な改善サイクルを回すことができます。日本の実務では、内部監査部門が取締役会・監査役等へ適切に直接報告できる体制が望まれるため、ガバナンス面の整備と併せて進めると効果が高まります。

会社の健康状態を定期的にチェックし、より良い未来を築くために、経営監査の導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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