- 作成日 : 2025年9月16日
不動産売却で節税するには?税金の仕組み・特例・法人化について解説
不動産を売却すると、売却益に応じて高額な税金が課される場合があります。所有期間や売却タイミング、申告内容によっては、予想以上の納税が発生することも少なくありません。しかし、税制上の特例や正しい経費計上、計画的な売却戦略を活用することで、税負担を大きく抑えることが可能です。
本記事では、不動産売却にかかる税金の仕組みから、活用できる節税方法、法人化による対策などを解説します。
目次
不動産売却でかかる税金とは
不動産を売却すると、譲渡益に対して多額の税金が課されることがあります。ここでは、不動産売却時にかかる税金の内容と、なぜ節税対策が重要となるのかについて解説します。
譲渡所得税の仕組みと計算方法
不動産を売却して利益が出た場合、その利益は「譲渡所得」として課税対象となります。譲渡所得とは、売却価格から不動産の取得費および売却時にかかった諸費用を差し引いた金額のことです。課税対象となる譲渡所得には、所得税・住民税が課され、さらに所得税額の2.1%に相当する復興特別所得税も加算されます。
この譲渡所得税は「分離課税」と呼ばれる方式で、給与所得や事業所得とは切り離して別枠で税率が定められています。そのため、譲渡によって一時的に高額な利益が出たとしても、通常の所得と合算して累進課税の高税率が適用されることはありません。
譲渡所得の算出においては、取得時の売買契約書や仲介手数料の領収証などを元に、正確な取得費を把握することが重要です。また、売却時の仲介手数料や測量費、登記費用なども「譲渡費用」として控除できます。
これらの費用を正確に計上することで、課税所得を圧縮し、結果として納税額の軽減につながります。
所有期間による税率の違い
譲渡所得に対する課税は、不動産の所有期間によって税率が大きく異なります。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」となり、5年以下であれば「短期譲渡所得」に分類されます。これにより適用される税率が変わり、短期の場合は税負担が著しく大きくなります。
長期譲渡所得の場合、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%(基準所得税×復興特別所得税率2.1%)を加えた合計約20.315の税率が適用されます。一方、短期譲渡所得の場合は、所得税30%・住民税9%・復興特別所得税0.63%で合計約39.63%となります。このように、短期売却ではおよそ2倍近い税率が課されるため、節税の観点からも所有期間を意識した売却計画が重要となります。
不動産売却で活用できる節税特例
不動産を売却する際には、状況に応じて税負担を大きく軽減できる特例が複数存在します。以下では、主な節税特例について、それぞれの概要と適用条件を解説します。
マイホーム売却時の3,000万円特別控除
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」は、不動産売却において広く知られている節税特例の一つです。この制度では、本人が居住していたマイホームを売却した際、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。たとえば、譲渡益が2,000万円であれば、全額が控除対象となり、所得税・住民税が一切かからなくなります。
この特例は、不動産の所有期間が5年以内でも適用可能であり、短期・長期の区分を問わず利用できる点が大きな特徴です。適用のためには、売却する物件が本人または家族の居住用であったこと、そして住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却する必要があります。たとえば転居後に空き家になった住宅でも、上記期間内に売却すれば控除が受けられます。
ただし、家族や親族などの特別関係者に対する売却では対象外となり、同一年中に一人一回までしか利用できない点に注意が必要です。また、後述する「軽減税率の特例」とは併用可能ですが、「買換えの特例」との併用はできないため、どちらを選ぶか事前に比較検討することが求められます。
10年以上所有した住宅の軽減税率の特例
マイホームを10年以上所有して売却する場合、「長期譲渡所得の軽減税率の特例」を活用できます。これは、通常の長期譲渡所得に対する税率(20.315%)をさらに低く抑えるための制度であり、譲渡所得のうち6,000万円以下の部分に対して、所得税10%、住民税4%の計14%が適用されます。これに所得税額の2.1%にあたる復興特別所得税(0.21%)が加わり、合計税率は14.21%となります。6,000万円を超える部分については、通常の長期譲渡税率が課されます。
この特例は、3,000万円特別控除と併用することができ、まず控除によって譲渡所得を圧縮したうえで、残額に対して軽減税率を適用することが可能です。適用条件としては、売却する不動産が自らの居住用であり、所有期間が10年以上であることが求められます(1月1日時点で判定)。ただし、「買換え特例」とは併用できないため、いずれか一方を選択する必要があります。
この特例は、譲渡所得の規模が比較的大きい場合や、マイホームを長期間保有していた方にとって有利です。適用条件に該当するかどうかを事前に確認し、有効に活用することが大きな節税につながります。
マイホーム買い換え時の課税繰延べ(買換え特例)
現在の自宅を売却して、新たな住まいに住み替える場合に使えるのが「特定の居住用財産の買換え特例」です。この制度では、旧居の売却価格より高い価格で新しい住居を取得すれば、売却による譲渡益に対する課税が一時的に繰り延べられます。なお、新居の価格が旧居の売却価格を下回る場合でも、その差額分のみが課税対象となり、譲渡益の一部は課税繰延べが可能です。譲渡益が1,000万円あるとしても、新居の取得価格が売却価格以上であれば、当該年には課税されず、新居を将来売却するまで課税が保留されます。
この特例は一時的に税負担を回避できる大きなメリットがありますが、将来的に新居を売却した際には、繰り延べていた譲渡益を含めて課税される点に注意が必要です。適用条件としては、旧居が居住用財産であること、新居が一定の要件を満たしていること、売却した年の前年から翌年末までの3年以内に新しい住居を取得することなどが挙げられます。
なお、この買換え特例を適用すると、3,000万円特別控除や損益通算など、他の特例との併用はできません。そのため、自身の譲渡益の額や将来の住まいの計画を踏まえた上で、「買換え特例」と「3,000万円控除+軽減税率」のいずれが有利かを検討することが大切です。
相続不動産を売却する場合の特例
相続によって取得した不動産を売却する際にも、いくつかの節税特例が用意されています。注目されているのが「相続空き家の3,000万円特別控除」です。これは、被相続人(亡くなった親など)が一人で暮らしていたマイホームを相続し、その後、一定の条件を満たして売却した場合に適用されます。最大で譲渡所得から3,000万円の控除が受けられ、大きな税負担の軽減につながります。
この制度は、昭和56年5月31日以前に建築された住宅であることや、売却前に耐震改修もしくは建物の取壊しを行っていること、そして2027年12月31日までに売却していることなどが要件となります。適用条件はやや複雑なため、制度内容をよく確認したうえで進める必要があります。
もう一つの有効な制度が「取得費加算の特例」です。これは、相続によって取得した不動産について相続税を支払っている場合、その相続税の一部を不動産の取得費に加算できるというものです。取得費が上がることで、売却益(譲渡所得)が減り、結果として税額が減少します。適用には、相続税の申告期限から3年以内に該当不動産を売却することが条件です。
譲渡所得を減らして節税するためのポイント
不動産売却による譲渡所得に対する税金は、事前の工夫や計算によって抑えることが可能です。ここでは、3つの節税ポイントについて解説します。
取得費・譲渡費用を正確に把握して課税所得を圧縮する
譲渡所得は、「売却価格-取得費-譲渡費用」で計算されます。そのため、取得費および譲渡費用を漏れなく正確に計上することが、節税の第一歩となります。取得費には、不動産の購入代金のほか、仲介手数料、登録免許税、不動産取得税などが含まれます。建物の購入代金等から所有期間に応じた減価償却相当額を差し引きます。
一方、譲渡費用には、売却時の仲介手数料、契約書の印紙代、測量費、建物取壊し費用、立退料などが該当します。
これらの費用をきちんと証明できれば、課税される譲渡所得を大きく減らすことが可能です。なお、取得時の資料を紛失してしまった場合でも、売却額の5%を取得費として扱える特例(概算取得費)がありますが、実際の取得費のほうが高い場合は、当然そちらを使う方が有利です。また、リフォームや増改築など資産価値向上のための支出も、一定条件下では取得費に加算可能です。経費関連の証憑類は日頃から整理・保存しておくと安心です。
売却のタイミングを調整して長期譲渡所得の適用を目指す
不動産の所有期間により、譲渡所得税の税率が大きく異なります。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得とみなされ、税率は約20.315%となります。一方、5年以下の場合は短期譲渡所得として約39.63%の税率が課されます。税率が倍近く違うため、売却時期を1年先送りするだけで大きな節税効果を得られる可能性があります。
たとえば2019年に購入した不動産は、2024年中に売却すると短期扱いですが、2025年1月1日以降に売却すれば長期扱いになります。売却を急がない場合には、所有期間を5年超にするためのタイミング調整を行うことで、実質的な税負担を抑えることができます。さらに、10年以上所有していれば軽減税率の特例も検討でき、より大きな節税につながる場合があります。
特例適用の条件を満たすための事前準備
3,000万円特別控除や軽減税率などの特例を活用するには、法令で定められた適用条件を満たしておく必要があります。対象となる不動産が居住用であることが前提であり、実際に住んでいた事実のほか、住民票の住所が一致していることなどが確認されます。転居後も、旧宅を空き家として売却する場合は、3年を経過する年の12月31日までに売却すれば特例が使えます。
また、売却直前に不動産を賃貸や事業に使ってしまうと、居住用の要件を満たさなくなることがあります。こうした事態を防ぐためにも、売却を検討し始めた段階から適用条件を確認し、計画的に準備を進めておくことが重要です。
不動産売却で法人化を検討すると節税になるケース
不動産売却による利益が大きい場合や、複数の物件を継続的に売買する予定がある場合には、法人を設立して不動産を所有・売却する「法人化」による節税が選択肢となります。個人とは異なる課税体系により、条件次第で税負担を抑えることが可能です。ここでは法人化のメリットと注意点を整理します。
法人化による節税メリット
法人が得た不動産売却益には法人税が課されます。法人税の実効税率は約30%ですが、中小法人では所得800万円以下の部分に15%前後の低税率が適用されるため、利益の規模によっては個人よりも有利になります。個人所得が高く累進課税により税率が上昇している場合、法人税の方が低く抑えられるケースがあります。
また、法人では経費にできる範囲が広く、不動産に関する管理費、交通費、保険料、役員報酬なども経費計上が可能です。これにより法人の課税所得を抑えることができ、実質的な税額の低減につながります。
さらに、法人名義で不動産を所有しておけば、相続時には株式として資産承継する形になり、個人で不動産を相続するよりも相続税評価額を抑えられる可能性もあります。法人化にはこうした相続対策の側面もあります。
法人化の注意点とデメリット
一方、法人には維持コストが発生します。たとえ赤字でも法人住民税の均等割として最低7万円程度が課され、加えて設立費用、会計業務、税務申告の外注費用なども必要です。一度きりの売却で節税を目的とする場合、コストが節税額を上回る可能性があります。
また、法人には3,000万円特別控除や軽減税率特例など、個人向けの特例が一切適用されません。たとえ長期保有のマイホームであっても、法人で売却すれば約30%の法人税がかかり、個人より不利になることもあります。
つまり、法人化が有効なのは短期売買や高額所得が見込まれる場合に限られます。安易な判断は避け、売却の目的や所得状況をもとに専門家と綿密に検討し、法人化の効果を見極めましょう。
不動産売却の節税対策は計画的に進めよう
不動産売却では、譲渡益に対する税負担が大きくなる一方、制度を正しく理解し、活用することで大きな節税効果が期待できます。所有期間や売却時期を調整したり、特例を的確に適用するだけでも税額は大きく変わります。さらに、状況によっては法人化も有効な選択肢となるでしょう。売却前には必ず税制の確認と専門家への相談を行い、最適な手続きを進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
建築事務所の定款の書き方!事業目的の記載例・テンプレート
建築事務所やデザイン業を営む会社を設立するには、定款の作成が不可欠です。定款は会社経営のルールをまとめたもので、商号や事業目的、本店の所在地といった重要事項を記載します。 この記事では、建築事務所やデザイン業における定款の概要および事業目的…
詳しくみる徳島県で会社設立する方必見!節約のコツや支援情報も
徳島県での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法…
詳しくみる営業代行会社の定款の書き方は?ひな形を基に事業目的の記載例を解説
定款とは会社を経営するうえでのルールを定めた文書のことです。営業代行会社を起業する際には、定款の作成が必須のため、定款についての正しい知識を身につけておく必要があります。 この記事では、営業代行会社の定款に記載すべき必須項目や書き方、記載例…
詳しくみる練馬区で会社設立する流れ・お得な方法!税理士の探し方も解説
練馬区での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法…
詳しくみる資本金1円で会社設立ができる?
理論上、現会社法では資本金が1円でも会社設立が可能です。実際、資本金1円での会社設立は現実的なのでしょうか。この記事では、資本金の概要や資本金1円で会社設立するメリット・デメリット、資本金以外に準備する必要がある会社設立の費用について解説し…
詳しくみる株式交換と株式移転の違いとは?グループ会社設立時は要チェック!
事業が大きくなってきたり、逆に縮小するために組織を再編する必要が発生することがあります。実際に、企業の吸収合併や、グループ会社の設立などは多く目にするニュースでもあります。 組織の再編には、株式譲渡、合併、事業譲渡、会社分割など様々な方法が…
詳しくみる