- 更新日 : 2025年9月16日
iDeCoの節税効果は?税制メリットと活用法を解説
老後資金の準備と節税の両立を目指すなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)は有効な制度です。掛金の全額が所得控除になり、運用益も非課税、受取時にも税優遇があるなど、3段階で節税メリットが得られます。会社員・自営業者を問わず、収入状況や拠出額に応じて毎年数万円〜数十万円の税負担軽減が見込まれ、将来に備えながら現在の可処分所得を増やす効果も期待できます。
本記事ではiDeCoの節税効果を最大限に活用するための仕組みやポイント、注意点を解説します。
目次
iDeCoの節税効果とは
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せして老後資金を準備するための私的年金制度で、拠出時・運用時・受取時の3段階で税制優遇を受けられる点が大きな特徴です。ここでは、それぞれの節税効果について解説します。
掛金の全額が所得控除になる
iDeCoに拠出した掛金はすべて「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、その年の所得から全額差し引かれます。たとえば、課税所得が300万円(年収目安 約400万~500万円)で所得税率10%・住民税率10%が適用される独身の会社員が、毎月1万円(年間12万円)を拠出する場合、年間で約2万4,000円の税負担が軽減されます。
掛金額が増えれば節税額も比例して増加し、課税所得の高い人ほど税率も高いため、効果は大きくなります。
運用益が非課税で再投資できる
iDeCoでは掛金を投資信託や定期預金などで運用します。通常の金融商品であれば、運用益に対して約20.315%の税金がかかりますが、iDeCoでは運用中に得た利息や値上がり益が非課税で再投資されます。10万円の利益が出た場合、通常なら約2万円の税金がかかるところ、iDeCoではこれがゼロになり、その分資産の成長が加速します。非課税での長期運用は、複利効果を最大限に活かす手段となります。
受取時にも控除が適用される
iDeCoの資産は原則60歳以降に受け取りますが、その際にも税制優遇があります。一時金として受け取る場合は退職所得扱いとなり、加入期間に応じた退職所得控除が適用されます。30年拠出していれば、最大で1,500万円まで非課税となります。年金形式での受取では、公的年金等控除が使え、一定額まで非課税で受け取ることができます。このように、iDeCoは掛金の拠出から運用、受取まで税優遇を享受できる制度です。
iDeCoでの節税がおすすめなケース
iDeCoは老後資金の準備と節税を両立できる制度ですが、効果が大きくなるのは特定の条件に当てはまる方です。ここでは、iDeCoによる節税効果が実感しやすいおすすめの活用ケースを紹介します。
課税所得が高い会社員や自営業者
iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となるため、課税所得が多い人ほど節税効果は大きくなります。たとえば年収600万円以上の会社員や、利益が安定してきた自営業者であれば、拠出額に応じて年間数万円以上の税金が軽減される可能性があります。
長期運用できる20代〜40代の加入者
iDeCoは60歳まで引き出しができない分、長期運用を前提とした制度です。そのため、若いうちから加入すれば、非課税の運用益が積み上がりやすく、複利効果も相まって資産形成が有利になります。加えて、拠出期間が長いほど受取時の退職所得控除枠も拡大します。
iDeCoでどれくらい節税できる?節税効果の例
iDeCoは拠出額全額が所得控除となるため、年収や掛金によって節税額が大きく異なります。ここでは、会社員と自営業者に分けて、iDeCoの節税効果を具体的にシミュレーションし、加えて今後の制度改正による影響も紹介します。
会社員の場合
会社員の場合、勤務先の企業年金制度の有無によってiDeCoの掛金上限が変わります。企業年金がない人は、月額2万3,000円(年間27万6,000円)まで拠出できます。たとえば年収500万円の会社員が月額2万3,000円(年間27万6,000円)を拠出した場合、独身で他の控除がないケースでは約5万5,200円(所得税20%・住民税10%の課税所得層で計算すると約8万2,800円)の税負担が軽減されると試算されます。このように、軽減額は個人の課税所得によって5万~8万円程度と幅が出ます。
税率は課税所得や控除の状況により異なりますが、iDeCoに拠出することで年末調整や確定申告を通じて確実に節税が実現します。
また、2024年12月の制度改正により、企業年金がある会社員でも月額2万円までの掛金拠出が可能になり、より多くの人が節税効果を享受できるようになりました。
自営業者(第1号被保険者)の場合
自営業やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者は、月額6万8,000円(年間81万6,000円)までiDeCoに拠出可能です。この上限額を満額拠出し、所得税率20%・住民税10%の合計30%が適用されている場合、年間で約24万円の税金が軽減されることになります。所得が高い人では、控除額がさらに大きくなるため、30万円を超える節税も珍しくありません。
また、自営業者はiDeCoに加えて小規模企業共済や経営セーフティ共済といった制度も併用できるため、老後資金対策と節税対策を同時に進めることが可能です。
節税効果を最大化するための制度改正
近年、iDeCoの制度は大きく拡充されており、節税効果をより高める改正が続いています。2022年に加入可能年齢が65歳未満に引き上げられ、2025年4月1日からはさらに70歳未満にまで拡大されました。また、2025年4月からは掛金上限額の仕組みが変更され、企業年金加入者もiDeCoを併用しやすくなるなど、拠出限度額が実質的に引き上げられました。
さらに2025年以降、掛金の上限額が大幅に引き上げられる方針が発表されています。自営業者は月額7万5,000円(年間90万円)へ、会社員についても最大で月額6万2,000円程度まで引き上げられる予定で、拠出可能額が現行制度の2倍近くに増加します。これにより、節税額も比例して大きくなり、iDeCoの活用価値は今後さらに高まる見込みです。
iDeCoの節税効果をさらに高める他制度の併用
iDeCoは所得控除・運用益非課税・受取時の優遇という3つの節税効果を持つ制度ですが、それ単体での活用にとどまらず、他の税制優遇制度と組み合わせることで、より高い節税と老後資産形成の効果を得られます。ここでは、iDeCoと併用することで効果が高まる代表的な制度について解説します。
小規模企業共済との併用
自営業者や小規模企業の経営者には、「小規模企業共済」の活用も大変有効です。これは中小企業基盤整備機構が運営する、退職金の積立制度で、毎月1,000円から7万円まで掛金を設定でき、その全額が所得控除の対象になります。つまり、iDeCoと同様に、掛金を支払うことでその年の所得を圧縮し、所得税・住民税の負担を軽くすることができます。
小規模企業共済は、途中で掛金の増減が可能で、事業廃止時や法人化した際などに共済金(退職金)として一括受取が可能です。受け取り時は退職所得として扱われ、税制優遇も受けられます。さらに、加入者が金融機関から低金利で融資を受けられるなど、資金繰り支援の機能も備えています。
iDeCoとの併用も可能で、たとえばiDeCoで年間81.6万円、小規模企業共済で年間84万円を拠出すれば、合計165万6,000円の所得控除が受けられます。この額がそのまま課税所得から差し引かれ、所得税率20%の人なら年間33万円以上の節税効果となります。余裕資金のある方であれば、両制度を併用することで、老後資金を二重に確保しながら、現役時代の税負担を大幅に抑えることができるでしょう。
非課税運用枠NISAとの併用
少額投資非課税制度(NISA)もまた、個人の資産形成をサポートする税制優遇制度です。NISAは投資により得られる配当金や売却益が非課税となる点でiDeCoと共通していますが、最大の違いは掛金に対する所得控除がないことです。iDeCoは拠出額がそのまま所得控除され、節税効果が即座に表れますが、NISAにはそのような効果はありません。
その代わり、NISAはいつでも資金を引き出せるという柔軟性があり、流動性の確保に優れています。iDeCoは60歳まで引き出しができず、途中解約も原則不可という厳格な制度設計ですが、NISAであれば教育資金やマイホーム購入といった中期的なライフイベントにも対応できます。
こうした違いを理解したうえで、両制度を併用すれば、短期・中期・長期の資産運用をバランスよく設計できます。たとえば、老後資金のメインはiDeCoで積み立て、生活予備費や教育資金などはNISAで運用する、といった併用設計が効果的です。
2024年から始まった新NISA制度では、年間360万円(つみたて枠120万円+成長投資枠240万円)までの非課税投資が可能となり、生涯非課税枠も1,800万円に拡大されました。NISAの拡充により、より多くの資金を非課税で運用できるチャンスが広がっており、iDeCoとNISAのダブル活用で、節税と資産形成の両立がより強固なものになります。
iDeCoで節税する際の注意点
iDeCoは老後資金を積み立てながら税制上の優遇が受けられる制度ですが、すべての人にとって万能というわけではありません。加入前に理解しておくべきデメリットや注意点を押さえておくことで、制度を無理なく有効に活用できます。
資金が60歳まで引き出せない
iDeCoの最大の特徴でもあり注意点となるのが、「原則60歳まで引き出せない」ことです。老後資金形成を目的とした制度のため、途中解約や資金の引き出しは基本的に認められていません。万が一、急な医療費や子どもの進学費用が必要になっても、iDeCo口座の資金には手をつけられません。
このように長期にわたって資金がロックされる点は、大きな流動性リスクとなります。日常生活や予期せぬ出費に備えるためにも、iDeCoへの拠出は生活資金とは切り離し、余裕資金の範囲で無理なく行う必要があります。
元本割れリスク
iDeCoの資産は、定期預金や保険商品、投資信託などで運用されます。元本保証型の商品もありますが、リターンは限定的です。運用効率を上げるためにはリスクを取って株式型の投資信託を活用する必要がありますが、価格変動によっては元本割れするリスクもあります。
運用の成果は自分の判断に委ねられており、投資初心者にとっては不安要素となるかもしれません。選んだ商品のリスク水準を把握し、自身のライフステージやリスク許容度に応じてポートフォリオを設計しましょう。また、長期投資を前提にしていても定期的な見直しは欠かせません。
手数料負担と加入手続きに手間がかかる
iDeCoでは加入時および運用中に各種手数料が発生します。初回には国民年金基金連合会への登録手数料が2,829円、さらに国民年金基金連合会や信託銀行に支払う手数料(合計で月額171円)が必ずかかります。これに加え、金融機関によっては独自の「運営管理手数料」が上乗せされます。
給付時にも手数料が発生するため、掛金が少ないと手数料の割合が高くなり、運用益が相殺される恐れもあります。
また、制度利用の際には年末調整や確定申告での申告手続きが必要な場合があります。2024年12月からは、会社員の手続きは簡略化され、企業側の証明書提出が原則不要になるなどの改善は進んでいますが、依然として一定の管理負担は残るといえるでしょう。
人によっては節税メリットが小さい場合もある
iDeCoの節税効果は、拠出者の課税所得額によって左右されます。所得税や住民税をそもそも多く納めていない人、たとえば専業主婦や収入の少ないパートタイマーの場合、掛金を拠出しても控除による節税効果は限定的です。課税所得がゼロに近い場合、所得控除の恩恵をほとんど受けられないケースもあります。
また、加入年齢が遅く、運用期間が短い場合にも、節税と運用の両面でのメリットが縮小します。たとえば50代後半から加入した場合、運用期間が短いため運用益非課税の恩恵を受けにくくなりますし、拠出した資金が十分に成長する前に受取時期を迎えてしまうこともあります。
さらに、将来的に多額の退職金や企業年金を受け取る見込みがある人は、iDeCoの受取時に課税対象額が退職所得控除や年金控除の枠を超え、かえって課税される可能性もあります。
iDeCoの節税効果を最大限に引き出そう
iDeCoは、掛金の全額が所得控除になり、運用益も非課税、受け取り時にも控除が適用されるという三重の税制優遇が魅力の制度です。掛金上限の拡大や加入年齢の引き上げといった制度改正が続いており、今後はより多くの人が恩恵を受けやすくなっています。ただし、60歳まで引き出せない制約や手数料、運用リスクといった注意点もあるため、自分のライフスタイルや資金計画に合った活用が大切です。他の制度との併用も視野に入れつつ、長期的な視点でiDeCoを上手に活用していきましょう。
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