- 作成日 : 2025年8月19日
新規事業に活用できる補助金は?メリット・申請方法・注意点を解説
新規事業の立ち上げには、中小企業、個人事業主、どちらにおいても初期投資や運転資金など多くの資金が必要となります。返済不要で活用できる補助金は、創業期の資金調達の選択肢として有効で、事業の実現可能性を高めるだけでなく、経営計画の見直しや社会的信用の獲得にもつながります。
本記事では、補助金の基礎知識から申請方法、活用する際の注意点までを解説します。
目次
補助金とは
補助金とは、国や自治体などの公的機関が、起業や新たなビジネスの立ち上げを支援する目的で提供する、返済不要の資金支援制度です。ここではまず、補助金の基本的な仕組みと助成金との違いについて整理しておきましょう。
新規事業補助金の仕組み
補助金は、政策目的に応じて国や地方自治体が公募し、申請された事業計画を審査して給付先を決定する制度です。申請があれば必ず受け取れるものではなく、競争的な「採択制」が導入されているのが一般的です。補助対象となるのは、事業にかかった費用の一部で、たとえば2/3や1/2の補助率で上限額が設定されています。さらに、補助金は原則として「後払い」である点に注意が必要です。交付が決定された後に、自己資金などで事業を実施し、完了後に報告と検査を経て支給されます。公募期間はおおむね1か月前後と短く、例年2月頃から6月頃までに集中して行われる傾向にあります。起業準備段階から、早めの情報収集とスケジュール管理が求められます。
助成金との違い
補助金と混同されやすいのが助成金ですが、両者は制度設計や目的に違いがあります。補助金は経済産業省や自治体が中心となり、事業成長や設備投資などの経済活動を後押しする目的があります。これに対して助成金は厚生労働省が所管することが多く、雇用環境の改善や人材育成など、社会的課題の解決に重きを置いています。助成金は、審査のある補助金とは異なり、所定の条件を満たせば原則として受給可能なケースが多く、形式要件の確認や審査を経て予算枠内で支給されます。(先着順ではない助成金も存在します。)
たとえばキャリアアップ助成金は、非正規社員を正社員に登用する場合に最大80万円の支給が認められています。目的や申請要件が異なるため、自社の経営状況や方針に応じた制度の使い分けが必要です。
新規事業向けの主な補助金
新規事業に利用できる補助金は多岐にわたり、目的や対象によって制度の内容は異なります。ここでは、創業初期の経営者が活用しやすいものを中心に解説します。
小規模事業者持続化補助金(創業型)
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や集客力強化に向けた取り組みを支援するための制度です。これまでの『一般型』に加え、2023年度から創業後3年以内の事業者を対象とする『創業型』が設けられています。補助率は経費の3分の2で、上限額は200万円、条件により最大250万円まで拡充されます。対象となるのは広告費や展示会出展費、設備導入費など多岐にわたり、創業初期の広報・販売活動を支える制度として有効です。申請にあたっては、事前に自治体等が実施する「特定創業支援事業」の受講が必要となるため、準備期間を十分に確保することが望まれます。創業後の軌道に乗せる取り組みを後押しする制度として実用的です。
参考:小規模事業者持続化補助金(創業型)について | 中小企業庁
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者のデジタル化を支援する制度で、ITツールやクラウドサービスの導入費用を一部補助するものです。対象経費には会計ソフト、顧客管理システム、在庫管理ツールなどが含まれ、補助率は原則50%ですが、特別枠の適用により最大で4/5まで拡充される場合もあります。補助上限は類型によって異なりますが、最大450万円のものもあり、複数のITツールを組み合わせた複雑な導入計画にも対応可能です。インボイス制度対応やサイバーセキュリティ対策を目的とした特別枠も、2025年度以前から設けられています。
申請には「GビズID」の取得が必須であり、認定されたIT導入支援事業者を通じて手続きを行います。業務効率化と経費削減を図りつつ、公的支援も得られる点で、デジタル活用を考える創業者にとって有益な補助制度です。
参考:中小企業庁担当者に聞く「IT導入補助金2025」|中小企業庁
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、革新的な技術開発や新製品の製造、新サービス導入に取り組む中小企業を支援する制度です。従来型の生産設備の更新から、DXやGX(グリーン・トランスフォーメーション)など先進分野の投資にも活用できます。補助率は通常1/2、小規模事業者や特定の加点項目を満たす企業では2/3が適用され、補助上限額は最大4,000万円と大規模です。
賃上げや地域貢献、事業再編といった付加的な取り組みを行うことで補助額の上乗せも可能となっています。申請の際には詳細な事業計画書と将来的な効果(売上増、雇用創出など)の見込みを示す必要があります。採択率は過去の公募回では30~50%程度で推移しており競争性は高いですが、設備投資を伴う新規事業において強力な財政支援となります。
その他の新規事業関連の主な補助金
上記のほかにも、複数の新規事業向け補助制度が用意されています。たとえば、「事業再構築補助金」は、ポストコロナ時代の事業転換や新市場進出を目的に、最大数千万円規模の補助が行われる制度です。本制度は継続的な支援が行われており、2025年以降も実施が見込まれています。
ほかにも、後継者による新たな取り組みを支援する「事業承継・M&A補助金」や、各都道府県や市区町村が独自に実施する創業支援補助金もあります。たとえば東京都では「創業助成事業」により、創業初期経費の2/3、最大400万円までの助成が受けられる制度が整備されています。
参考:事業再構築補助金とは | 中小企業庁、事業承継・M&A補助金|事業承継・M&A補助金事務局、創業助成事業 |TOKYO創業ステーション
新規事業向けの補助金を活用するメリット
補助金の活用は資金面の支援だけでなく、事業の成長を加速させるための効果をもたらします。ここでは、創業期の企業にとってのメリットを解説します。
財務負担を軽減できる
補助金の最大の特徴は、返済義務がない点です。創業初期は売上が不安定で資金繰りも厳しいため、設備投資や広告費などの初期コストを自己資金や借入金だけでまかなうのは大きな負担となります。補助金を活用すれば、必要な経費の一部を公的資金でカバーできるため、借入依存度を下げ、将来的な財務リスクを抑えることが可能になります。返済不要であることは、資金繰りの余裕を生み、事業成長に集中するための環境づくりに貢献します。
計画精度が高まる
補助金の申請には、詳細な事業計画書の提出が求められます。この過程は、自社の強みや市場ニーズ、事業目的などを客観的に整理し、将来像をより具体的に描く機会となります。利益構造や投資回収の見通しなどを数値で示すことで、計画の現実性が問われるため、曖昧な点や見落としが浮き彫りになります。結果として、採択の可否に関わらず、ブラッシュアップされた事業計画は今後の経営判断の指針として機能し、他の資金調達にも応用できます。
信用力が向上する
補助金の採択実績は、公的機関からの評価を受けた証しとして企業の信用力向上に直結します。創業間もない企業にとっては、第三者の信頼を得る上で有効な実績となり、銀行など金融機関との融資交渉においても事業計画の評価を高めます。
加えて、補助金を通じて支援機関や行政担当者、他の事業者とのつながりが生まれることで、人的ネットワークの構築にもつながります。このように、補助金の活用は資金調達だけでなく、企業の社会的信頼を築けるという意味でも価値を持っています。
新規事業向けの補助金を申請する流れ
新規事業について補助金を受け取るには、制度内容の理解に加えて、事前準備から申請、事業完了後の報告までの一連の流れを把握しておくことが不可欠です。詳細は個々の補助金サイトで確認する必要がありますが、ここでは補助金申請の一般的なステップを3段階に分けて解説します。
ステップ1:情報収集と計画策定
申請準備はまず、補助金に関する正確な情報収集から始まります。補助金ごとに対象事業や補助対象経費、要件が異なるため、自社の事業計画に適した制度を選ぶことが重要です。中小企業庁や事務局の公式サイト、J-Net21、商工会議所などを活用すれば、最新の公募要領や申請条件を確認できます。
補助金の概要を理解したら、次は事業計画書の策定に移ります。補助金申請では、この計画書の内容が審査の中心となるため、論理性と現実性を持たせることが求められます。計画書には、事業の背景や目的、実施方法、資金の使途、成果の見込みなどを盛り込みます。「なぜ補助金が必要か」「補助金を活用してどのような成果が見込まれるか」を、定量的な目標も交えて明記すると良いでしょう。特に新規事業の場合、ビジネスモデルの見直しや戦略整理にもつながる有意義なプロセスになります。
参考:J-Net21|中小企業基盤整備機構、融資制度・補助金|日本商工会議所
ステップ2:申請書類の作成と提出
事業計画書が固まったら、次に申請に必要な書類を整えます。多くの補助金では、事業計画書のほかに、法人登記簿謄本、会社概要、直近の決算書類(損益計算書・貸借対照表)、見積書、資金繰り表などが求められます。はじめての申請者にとっては煩雑に感じられることもありますが、公募要領の提出様式に沿って1つずつ丁寧に準備を進めましょう。
書類作成では、誤字脱字や金額の整合性、計画書との内容の一貫性に注意します。専門用語を多用せず、第三者にもわかりやすく伝える工夫も大切です。完成した書類は、商工会議所や金融機関、士業などの支援機関に事前に確認してもらうことで、内容の精度向上や不備の防止につながります。
提出方法は紙媒体による郵送は減少し、近年はオンライン申請が主流になりつつあります。経済産業省系の補助金では「jGrants(ジェイグランツ)」という電子申請システムが導入されており、GビズIDの取得が必須です。IDの取得には数日~数週間かかる場合があるため、できるだけ早めに登録を済ませておくと安心です。申請期限間際はシステムの混雑も予想されるため、余裕を持ったスケジュールで提出を進めましょう。
ステップ3:採択後の事業実施・報告
申請後は、事務局による審査を経て、採択結果が通知されます。無事採択された場合、「交付決定通知書」が届き、そこから正式な補助事業の開始が可能になります。なお、交付決定前に支出した経費は原則として補助対象外になるため、通知を受け取るまでは発注・契約・支払を控えることが原則です。
事業実施中は、事前に提出した計画通りに進行させるとともに、経費支出の証憑書類(領収書、請求書、納品書など)や、取引記録、作業記録などをきちんと保管しておく必要があります。不明点があれば事務局に随時問い合わせ、誤解のない運用を心がけましょう。
事業が完了したら、「実績報告書」を提出します。この報告書では、実際に行った内容、使用した経費、事業の成果などを報告します。事務局による検査・確認を経て、問題がなければ確定した金額が補助金として振り込まれます。これが補助金交付の最終段階となります。
ただし制度の多くは、補助金交付後も一定期間の経過観察(フォローアップ)が行われることがあります。売上や賃上げといった成果目標の達成状況の報告が求められます。虚偽申請や事業計画からの著しい乖離など、特定の状況においては、補助金の一部または全額の返還を求められることがあり、一部の補助金においては目標値未達による補助金返還もあり得ます。採択後も適切な記録管理と報告を継続し、信頼ある運用を心がけましょう。
新規事業向けの補助金を利用する際の注意点
補助金は新規事業を力強く後押しする制度ですが、活用にあたってはあらかじめ注意しておくべき点もありますので解説します。
自己資金を確保する
補助金は後払いが基本であり、交付決定後に事業を進め、事後報告を経てはじめて給付されます。補助率が2/3である場合でも、一旦は全額を自己資金やつなぎ資金で立て替える必要があります。300万円のプロジェクトであれば、補助金として200万円が戻るとしても、初期段階では300万円を用意しなければなりません。そのため、補助金ありきで計画を立てるのではなく、自己資金や創業融資なども視野に入れて現実的な資金調達を設計する必要があります。また、補助対象外の経費(たとえば交際費や汎用備品など)はすべて自己負担となるため、公募要領で経費の範囲を事前に確認し、計画に反映させておくことが求められます。
採択リスクを認識する
補助金は申請すれば必ず受け取れる制度ではありません。人気の高い「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」などでは、採択率が30%〜50%程度と競争率が高い状況です。不採択となった場合でも事業自体は継続できるよう、補助金に依存しない資金計画を立てておくことが現実的です。また、一度不採択となっても、次回以降の公募で再チャレンジする道はあります。改善点を反映した上で、より完成度の高い計画を提出することで採択の可能性を高められます。さらに、採択された後も、事業を中止したり報告義務を怠ったりすれば、補助金の返還や交付取り消しとなる可能性があります。
補助金を活用して新規事業のスタートを強化しよう
新規事業補助金は、返済不要の公的支援として創業期の経営を大きく後押しする力を持っています。適切な制度を選び、計画的に活用すれば、資金面だけでなく経営戦略や信用力の強化にもつながります。一方で、申請準備や採択後の管理には一定の手間と責任が伴います。だからこそ、早めの情報収集と着実な準備が成功のポイントです。補助金制度を上手に取り入れ、事業の安定したスタートと持続的な成長を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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