• 更新日 : 2025年11月25日

整体院開業の許認可とは?資格や届出、施術範囲の注意点を解説

整体院の開業に、特定の許認可や国家資格は法律上は原則不要です。実務の中心は、事業開始から1か月以内の税務署への「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」で、比較的スムーズに事業を始められます。節税面を重視する場合は、「青色申告承認申請」を同時に進めるとよいでしょう。

一方で、整体は医業ではないものの医業類似行為に該当し得るため、提供するサービス内容によって手続きが変わります。とくに、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師などの国家資格に基づく施術を行う場合は、施術所開設届を保健所へ提出する必要があります。

この記事では、整体院の開業に必要な届出や関連資格との違い、失敗を避けるための注意点まで、事業主が直面する課題にそって具体的に解説します。

整体院の開業に許認可や資格は必要?

整体院を開業するにあたり、法律で定められた許認可や国家資格は原則として不要です。

整体が医業類似行為ではなく、リラクゼーションや身体のバランス調整を目的とした民間サービスと位置づけられているためです。国家資格が必要な医療行為とは明確に区別されており、誰でも技術を習得すれば整体師として開業できます。

一方で、病名の診断・治療などの医療行為は医師のみが行えるため、整体で「治療」「治す」等の断定表現や医療行為に当たる行為はできません。

整体師は民間資格

「整体師」は国家資格名ではありません。スクールや民間団体の認定で名乗れるため、資格がなくても整体院の開業は可能です。ただし、安全で再現性のある施術と信頼獲得のためには、体系的な教育の受講や関連資格の取得が実務上は有効です。

ここで注意したいのは、あん摩・マッサージ・指圧、はり・きゅう、柔道整復は各国家資格の独占業務であり、これらの名称や行為は有資格者のみが行えます。

整体として開業するだけなら保健所届出は通常不要ですが、国家資格(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師)に基づく施術所を開設する場合は、管轄保健所へ開設後10日以内の届出が必要です。

整体院と整骨院・マッサージ院との許認可の違いとは?

整体院は基本的に税務署への届出で開業できますが、整骨院(接骨院)やあん摩マッサージ指圧院は、国家資格の取得と保健所への施術所開設届が前提です。

これらは法律で定められた独占業務(医業類似行為のうち資格業務)に当たり、無資格で行うことも、名称を名乗ることもできません。提供するサービス内容によって、必要な資格・届出が根本的に異なる点をまず押さえましょう。

資格・届出・業務範囲の比較

整体院と整骨院・あん摩マッサージ指圧院では、根拠法や資格、行える施術の範囲は大きく異なります。自身の提供したいサービスがどの範囲にあたるのかを、以下の表で明確に確認しましょう。

項目整体院整骨院・接骨院あん摩マッサージ指圧院
法的立場民間サービス(国家資格不要)

※医療行為・医業類似行為の一部を行うことは不可

柔道整復師法に基づく国家資格者による施術所(医業類似行為)あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(通称「あはき法」)に基づく国家資格者による施術所
必要な資格不要(民間資格が一般的)柔道整復師あん摩マッサージ指圧師
主な業務範囲身体のゆがみや筋緊張を整える施術、リラクゼーションなど骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷など、ケガの回復を目的とした手技施術あん摩・マッサージ・指圧による血流改善、筋肉疲労の緩和など
開業時の主な届出先税務署保健所、税務署保健所、税務署
所管官庁なし(税務署のみ)厚生労働省/都道府県(保健所)厚生労働省/都道府県(保健所)

参照:あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律|e-Gov法令検索
参照:柔道整復師法|e-Gov法令検索

整体院の開業に必要な届出の手続きは?

個人事業主として整体院を始めるときは、まず税務署への開業届を提出します。加えて、青色申告を使う場合や、従業員を雇う場合、社会・労働保険に関する手続きが続きます。実務で迷いやすいのは提出期限なので、一次情報に基づく期日を併記して順に整理します。

STEP1:個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)の提出

事業を開始した事実を税務署に知らせるための書類です。この届出を提出することで、正式に個人事業主として認められます。

  • 提出先:納税地を所轄する税務署
  • 提出期限:事業開始から 1 か月以内
  • 入手方法:国税庁のウェブサイトからダウンロードするか、税務署の窓口で入手できます。

参照:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

STEP2:所得税の青色申告承認申請書の提出

青色申告は、最大65万円の特別控除を受けられるなど、税制上の優遇措置がある確定申告の方法です。この特典を受けるためには、事前に申請書を提出しておく必要があります。開業届と同時に提出することが推奨されます。

  • 提出先:納税地を所轄する税務署
  • 提出期限:原則として、青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで。新規開業の場合は、事業開始日から2か月以内
  • メリット
    • 青色申告特別控除(最大65万円)
    • 家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与)
    • 赤字を3年間繰り越せる(純損失の繰越控除)

参照:A1-8 所得税の青色申告承認申請手続|国税庁

STEP3:給与支払事務所等の開設届出書の提出

従業員を雇用して給与を支払う場合には、この届出が必要です。給与から源泉徴収した所得税を国に納める義務が生じるために提出します。

  • 提出先:納税地を所轄する税務署
  • 提出期限:給与支払事務所を設置した日から1か月以内

届出と併せて、納期の特例(年2回納付)を希望する場合は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」も提出しておくと便利です。

STEP4:労働保険・社会保険の手続き

整体院を個人事業として運営し、従業員を1人でも雇用する場合は、労働者を守るための保険制度である「労働保険(労災保険・雇用保険)」への加入が義務となります。労働保険は、業種を問わず雇用した時点で必ず加入が必要です。

一方で、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、個人事業主の場合、業種ごとに強制適用・適用除外の区分があります。

整体院は、医療類似行為を行うサービス業(自由業)に該当するため、社会保険の強制適用外業種です。したがって、個人事業の整体院では、従業員を常時5人以上雇用しても、社会保険への加入義務は原則ありません。

ただし、法人化(株式会社・合同会社等)した場合は、業種を問わず社会保険への加入が義務になります。

  • 提出先
    • 労働保険:労働基準監督署、ハローワーク
  • 手続き:必要な書類を準備し、各機関に提出します。

整体院として開業する場合でも保健所への届出が必要になるケースとは?

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師といった国家資格を持つ人が施術所(治療院)を開設する場合には、管轄の保健所へ「施術所開設届」を提出することが法律で義務付けられています。

整体師として開業する場合でも、これらの国家資格をあわせ持ち、資格に基づく施術(マッサージや鍼灸、ケガの治療など)を提供する場合は、保健所への届出が必須となります。

施術所開設届

施術所開設届は、施術所が開設されたことを保健所に知らせるためのものです。施設の構造設備が衛生上、安全上の基準を満たしているかなどを確認する目的があります。

  • 対象者:あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の国家資格保有者
  • 提出先:施術所の所在地を管轄する保健所
  • 提出期限:開設後10日以内
  • 主な必要書類:
    • 施術所開設届出書
    • 施術者の資格免許証の写し
    • 施術所の平面図・見取図
    • 法人の場合は定款や登記事項証明書など

必要書類は自治体によって異なる場合があるため、事前に管轄の保健所に確認しましょう。

整体院の開業で失敗しないための注意点は?

整体院の開業で失敗しないための注意点は、提供するサービスが医療行為にあたらないよう業務範囲を明確にし、法律を順守した広告表現を心がけることが特に大切です。

法律上の規制や顧客とのトラブルに関するリスクもあります。ここでは、安定した経営を続けるために特に注意すべき点を解説します。

医療行為と明確に区別する

整体師は医師ではないため、病名の診断・治療・投薬等の医療行為は一切不可です(医師法17条)。説明や広告では「〇〇病が治る」「ヘルニアを治療する」など、医療行為や効果を断定する表現は避けましょう。

整体・カイロプラクティック等は、法的資格制度のない手技による医業類似行為として扱われ、危険手技の禁止・適切受診の遅延防止・誇大広告の抑止が行政から示されています。

広告表現に関する規制を理解する

ウェブサイトやチラシなどで集客する際の広告表現には、いくつかの法律が関わってきます。意図せず法律違反とならないよう、以下の点に注意が必要です。

薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)

薬機法は、医薬品・医療機器等に関する虚偽・誇大広告を禁止しています(第66条)。整体の施術や物販で、医薬品的な効能をうたう表現(例:「飲むだけで治る」「腰痛が治る」)は不適切です。

景品表示法

景品表示法も、科学的根拠に乏しい「必ず痩せる」「一度で痛みが消える」等の優良誤認・有利誤認となる表示を禁止しています。ウェブ・チラシ・SNS・看板など媒体を問わず留意が必要です。

あはき法・柔道整復師法

あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう・柔道整復は、それぞれの国家資格者の業務独占です。無資格者がこれらの業務を想起させる標榜・広告を行うと、法令違反・行政指導の対象になり得ます。

たとえば「整骨」「接骨」「マッサージ(治療目的)」といった表現は、国家資格に基づく業務を想起させるため、使用を避けることが望ましいでしょう。

一方で、整体としてリラクゼーション目的で営業する場合は、「もみほぐし」「ボディケア」「リラクゼーション」など、医療や治療行為と誤認されない名称・説明を用いるのが安全です。

自宅が賃貸やマンションの場合は利用目的を確認する

整体院を自宅やマンションの一部で開業する場合は、まず物件の利用目的や規約上の制限を必ず確認しましょう。賃貸物件では、賃貸借契約に定められた用途制限(例:住居専用・事業利用可否)を確認し、事業利用が禁止されていないかをチェックします。
分譲マンションの場合も、管理規約で「住居専用」や「営業行為の禁止」などの条項が設けられていることが多く、違反すると管理組合から是正を求められるケースがあります。

また、看板やサインの設置についても注意が必要です。建物の管理規約だけでなく、各自治体の屋外広告物条例に基づき、設置場所・大きさ・形状・表示内容などが許可や届出の対象となる場合があります。

開業前に、建物管理者および自治体の担当窓口へ可否と手続き内容を確認しておくと、安全かつトラブルを防ぐことができます。

損害賠償責任保険への加入

どれだけ注意していても、施術中にお客様にケガをさせてしまうリスクはゼロではありません。万が一の事故に備え、整体師向けの損害賠償責任保険に加入しておくことを強く推奨します。保険に加入しておくことで、安心して施術に集中でき、お客様からの信頼にもつながります。

整体院の開業で活用できる助成金や補助金は?

整体院を開業する際、国の補助金・助成金、自治体の創業支援、政府系金融機関の創業融資を組み合わせて資金計画を立てるのが一般的です。制度は公募要領や時期で要件が変わるため、一次情報で最新の条件を確認しましょう。

主な助成金・補助金・融資制度

整体院の開業資金の調達や、事業を軌道に乗せるための販路開拓には、国や自治体の支援制度が役立ちます。例えば、チラシ作成やウェブサイト制作費を補助する「小規模事業者持続化補助金」や、従業員の雇用を支える「キャリアアップ助成金」、そして低金利で融資を受けられる日本政策金融公庫の制度など、目的に応じて様々な選択肢があります。

  • 小規模事業者持続化補助金:
    商工会・商工会議所の支援を受けながら販路開拓などに取り組む費用の一部を補助する制度です。チラシ作成やウェブサイト制作、看板設置などの費用が対象になります。
  • キャリアアップ助成金:
    パートタイマーや有期契約労働者など、非正規雇用の労働者のキャリアアップを促進する取り組みを行った事業主に対して助成されます。従業員を雇用する際に活用を検討できます。
  • 日本政策金融公庫の創業融資:
    新たに事業を始める人や事業開始後間もない人を対象とした融資制度です。「新規開業・スタートアップ支援資金」を無担保・無保証人で利用できる場合もあり、多くの創業者に活用されています。

これらの制度は公募期間や要件が定められているため、中小企業庁の「ミラサポplus」や、各自治体のウェブサイトで最新の情報を確認しましょう。

参照:ミラサポplus|中小企業庁
参照:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

整体院の許認可は不要でも、正しい届出と業務範囲の理解が大切

整体院の開業にあたって特別な許認可は求められませんが、個人事業主として事業を営むための税務署への「開業届」の提出は必須です。もし、あん摩マッサージ指圧などの国家資格に基づく施術を提供するのであれば、保健所への「施術所開設届」も必要になります。

また、提供できるサービスはあくまでリラクゼーションの範囲内であり、医療行為は行えないという点を常に意識しなければなりません。関連法規を順守した広告宣伝と、お客様との万一のトラブルに備える保険への加入が、整体院の健全な運営を支えます。


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