• 作成日 : 2025年10月24日

法人保険で節税できる?全額損金にできる条件やルールを解説

法人保険を活用すれば、一定の条件のもとで保険料を全額損金に算入でき、法人税の圧縮につなげることが可能です。しかし、2019年の税制改正により、従来の「節税保険」スキームは大幅に制限され、現在では適用範囲が厳しく限定されています。

本記事では、全額損金が認められる法人保険の種類や条件、制度改正の背景や活用上の注意点などを解説します。

法人保険の保険料は全額損金算入して節税できる?

法人保険の保険料を全額損金にして経費処理できるかどうかは、保険の種類や契約条件によって大きく異なります。かつては高額な返戻金を得られる法人保険でも節税目的で全額損金算入が可能でしたが、2019年の税制改正によってその仕組みは大幅に変更されました。ここでは、現在の制度下において保険料を全額損金処理できるのはどのような保険か、そしてどのような点に注意すべきかを解説します。

一部の法人保険では保険料を全額損金にできるが、対象は限られる

法人保険のうち全額損金算入できるものは限定的です。2019年7月に施行された国税庁の通達により、保険料の経費計上のルールが厳格化されました。問題視されたのは、解約返戻率が高く、節税目的で利用されていた「節税保険」です。これまで逓増定期保険や長期平準定期保険といった商品では、支払保険料を50%または100%経費として処理し、後に高額な解約返戻金を得るというスキームが利用されていました。

しかし、このような利用が「本来の保険目的を逸脱している」として、国税庁は課税ルールを大幅に見直しました。現在では、解約返戻率が高い保険商品に対しては支払時に全額損金処理することができず、一定の割合を資産計上し、保険期間の経過に応じて徐々に損金処理していく必要があります。これにより、契約初年度からの大幅な利益圧縮を狙った節税効果は事実上難しくなっています。

一方で、解約返戻率が低く、貯蓄性のない掛け捨て型の保険であれば、現在でも保険料を全額損金算入することが可能です。また、年間保険料が30万円以下であれば、例外的に返戻率が一定以下である場合に全額損金が認められる「30万円特例」も存在します。

参考:No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)|国税庁

法人保険による節税効果は「課税の繰延」に過ぎない

重要な点として、法人保険による損金算入が、企業の税負担を恒久的に軽減するものではないことを理解しておく必要があります。保険料を支払った年度に損金処理することで、その期の法人税を圧縮する効果はありますが、保険を解約して返戻金を受け取る段階では、その返戻金が益金(収益)として計上され、法人税が課されるからです。

つまり、法人保険による節税はあくまでも税金の支払い時期を先送りにする「課税の繰延」であり、税負担そのものを消し去るわけではありません。このことを理解せずに安易に契約すると、将来の資金計画にズレが生じたり、思わぬ課税リスクを抱える可能性があります。

2019年の税制改正による保険料の損金算入の変更点は?

2019年7月に国税庁が発表した保険税制の改正により、法人保険を活用した節税スキームは大きく見直されました。改正後は、保険料の全額を損金算入することができる条件が大幅に制限され、返戻率に応じた資産計上が求められるようになりました。ここでは、改正の内容と影響について解説します。

解約返戻率に応じて保険料の損金算入が制限されるようになった

2019年7月8日以降に契約された法人保険では、「最高解約返戻率」が50%を超える場合、保険料の全額を即時に損金算入することはできなくなりました。国税庁はこの改正により、返戻率の高さに応じた経費計上の制限ルールを導入しています。以下のように区分されます。

  • 返戻率50%以下の保険:保険料の全額が即時損金算入可能。
  • 返戻率50%超〜70%以下:保険料のうち60%を損金、残り40%は資産計上。
  • 返戻率70%超〜85%以下:40%損金、60%資産計上。
  • 返戻率85%超:当初10年間は10%損金(90%資産)、10年経過後は30%損金(70%資産)へ変更。

資産計上された部分は、契約期間の40%経過後まで据え置かれ、75%経過後に徐々に取り崩して損金化できるという流れになります。たとえば、保険期間が20年の契約で返戻率が80%ある場合、初めの8年間は支払保険料の40%しか損金にできず、残りの60%は資産として計上されます。そして16年目から資産を取り崩して、ようやく全額が費用として処理されることになります。

このように、返戻率が高いほど当初に損金算入できる額は限定されるため、従来のように契約初年度から保険料全額を経費として計上する短期的な節税は難しくなりました。

改正の目的は「繰延節税」の抑制

この改正は、法人保険を利用して意図的に課税を繰延べ、大幅な利益圧縮を図る節税スキームを防ぐ目的で導入されました。改正前は、高額な返戻金を活用し、保険契約から数年で解約することで返戻金を受け取り、税負担を回避する事例が多く見られました。国税庁はこのような取引を「保険の本質的な保障機能を逸脱したもの」と判断し、規制を強化するに至ったのです。

2019年以降の基本的な考え方は、「高い解約返戻率を持つ保険契約=長期的な資金準備」であり、節税はあくまでも税金のタイミングを調整する「繰延効果」に過ぎないと位置づけられました。これにより、法人保険の導入目的はあくまでも保障確保や退職金準備などとされ、節税効果は副次的なメリットと見なされるようになっています。

全額損金にできる法人保険の種類と条件は?

2025年現在、法人保険の保険料を全額損金算入できるケースは限られており、主に「掛け捨て型の純粋保障性保険」および「保険料が少額な契約」に該当するものです。ここでは、全損扱いが認められる法人保険の代表的な種類と、その条件について解説します。

掛け捨て型定期保険は全額損金が可能

解約返戻率が50%以下の掛け捨て型定期保険であれば、支払保険料はその期の全額を損金算入することが可能です。定期保険は一定期間内の死亡リスクに備えるシンプルな商品で、満期保険金や返戻金が基本的に発生しないため、貯蓄性がない保険と判断されます。このような商品は税務上も全額経費として処理でき、短期的な節税効果を狙わない保障目的の保険として扱われます。

逓増定期保険や長期平準定期保険といった返戻金付きの保険でも、設計次第では返戻率を50%以下に抑えることができれば、全額損金扱いとなる場合があります。ただし、その場合は将来の解約返戻金も小さくなるため、保険の目的と資金計画を踏まえて慎重に選ぶ必要があります。

福利厚生目的の第三分野保険も対象となる

法人が福利厚生を目的として契約する第三分野保険(医療保険・がん保険など)も、条件を満たせば保険料を全額損金にすることができます。特に、社員全体を対象とした団体契約であれば、福利厚生費として扱われ、支払保険料は当期の全額が経費として計上可能です。

ただし、役員のみを対象とした契約では、保険料は「経済的利益」としてみなされ、法人の損金にはできません。そのため、従業員を含めた広い範囲での加入が前提となります。また、短期払いの終身保険などで返戻金が発生する場合は、他の定期保険と同様に資産計上の対象となる点にも注意が必要です。

年間保険料が30万円以下であれば例外措置あり(30万円特例)

保険料が少額である場合には、「30万円特例」と呼ばれるルールによって、返戻率が一定以下でも全額損金算入が認められます。以下の2つの条件を満たす必要があります。

  1. 被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であること
  2. 最高解約返戻率が70%以下であること

この特例は、解約返戻金の少ない短期払契約における事務負担を軽減するために設けられたものです。定期保険と医療保険を併せて契約していても、その合算保険料が30万円を超えなければ全額損金処理が可能です。

養老保険など貯蓄型商品の節税利用はできる?

養老保険や個人年金保険などの貯蓄型法人保険では、保険料を全額損金算入することは原則として認められていません。これらの保険は死亡保障に加えて貯蓄性もあり、税務上は保険料の大部分が資産計上や給与課税の対象となります。節税目的で安易に利用すると、税務リスクを招く可能性があります。

原則として損金算入は一部に限られる

養老保険は、契約期間中の死亡保障と満期時の保険金支払いを兼ね備えた商品です。法人契約であっても、満期金の受取人が役員個人である場合には、保険料は給与とみなされ、法人の損金として処理できるのは一部にとどまります。福利厚生として契約した場合でも、損金算入は通常半分までとなり、残りは資産計上されます。

節税ではなく資産形成を目的にすべき

このような背景から、養老保険や個人年金保険を使って保険料の全額を損金にする節税策は、実務上も税務上も困難です。今後、法人税基本通達の改正によって取り扱いがさらに明文化される可能性もあり、節税目的での利用は控えるべきでしょう。これらの保険は、役員退職金の準備や資産形成といった目的で活用するのが望ましいです。

法人保険で節税を図る際の注意点は?

法人保険による節税策を検討する際は、保険料を損金にできるかどうかだけでなく、資金繰りや将来の税負担、税制変更のリスクにも目を向ける必要があります。制度上は節税効果があっても、思わぬ負担やリスクを招く可能性があるため、慎重な活用が求められます。

高額な保険料は資金繰りを圧迫する可能性がある

たとえ保険料を損金にできたとしても、保険に加入した時点で現金が社外へ流出することには変わりありません。高額な保険料を継続的に支払う契約では、手元資金が減少し、キャッシュフローを悪化させる可能性があります。業績が悪化した際に保険料の支払いが重荷となり、会社の資金繰りを圧迫するリスクも考慮しなければなりません。

保険による節税効果だけを目的に契約を進めた結果、企業の財務状況が不安定になると、本末転倒です。保障内容や資金計画とバランスの取れた設計を行うことが重要です。

節税効果は一時的であり、将来的に課税される

法人保険によって保険料を損金にできたとしても、その効果は一時的です。解約返戻金や保険金を受け取った際には、その金額が益金として計上され、法人税の課税対象となります。解約返戻金を役員退職金として支給すれば、法人側では損金にできますが、受け取る個人には退職所得課税が発生します。

つまり、税金を“繰り延べ”ているにすぎず、恒久的な節税ではないという点を理解しておく必要があります。

税制変更や通達改正のリスクにも注意

法人保険に関する税制や通達は今後も変更される可能性があります。過去には、特定の保険スキームの拡大により、国税庁が課税ルールを見直した例もあります。直近では2024年6月、生命保険会社に対して一部の契約形態への注意喚起が行われたと報じられており、特定の節税手法への監視は強まっています。

「これくらいは大丈夫」という安易な判断は避け、常に最新の税制に準拠したプラン設計・経理処理が必要です。不明点があれば、税理士や信頼できる保険代理店に相談し、自社の経営実態に合った適切な保険活用を心がけましょう。

節税以外の法人保険の活用法は?

法人保険は節税手段として注目されがちですが、節税だけを目的に導入することはリスクを伴います。本来の役割である「保障機能」や「資金準備手段」としての価値を見直し、経営の安定や将来のリスクに備えるための手段として活用することが重要です。

経営リスクに備える「保障」として活用する

法人保険は、本来、企業の存続や経営者の万が一に備える「保障機能」が主目的です。中小企業では、経営者個人に多くの責任やリスクが集中しており、社長の死亡や重病によって事業継続が困難になるケースも少なくありません。そうした場合に備えて、法人が死亡保険金を受け取れる契約にしておけば、事業承継借入金の返済、従業員の雇用維持などに必要な資金を確保できます。

また、キーマンとなる社員の不在に備える「キーマン保険」や、経営者の健康状態による事業リスクへの対応としての医療保険・がん保険の導入も、有効なリスクヘッジ手段です。節税目的で加入した保険が、結果的に企業の安定運営に役立つという観点での活用が望まれます。

長期的な資金計画や退職金準備に役立てる

法人保険は、将来の支出に備えた資金準備の手段としても有効です。経営者や役員の退職金を確保するために、一定の解約返戻金が見込まれる保険に計画的に加入すれば、会社の負担を平準化しながら長期的に原資を積み立てることができます。保険を解約して得られる返戻金を退職金に充てれば、法人側では損金算入が可能であり、節税効果を伴う資金移動が実現します。

ただし、この活用法は税務リスクを避けるためにも、「退職金規程」や「役員会の議事録」などの整備が必要です。また、予定通りに退職や保険解約が行われるとは限らないため、将来のキャッシュフロー計画に無理がないかどうかも併せて検討することが求められます。

法人保険を活用して節税と保障を両立しよう

法人保険を使った節税では、全額損金算入できる保険は限られ、2019年の税制改正以降はより厳格なルールが設けられています。短期的な税負担の軽減だけを目的にすると、後に課税リスクや資金繰りの問題が生じかねません。節税は「繰延効果」と捉えたうえで、保障の確保や退職金準備など、本来の目的に即した形で法人保険を活用することが大切です。制度の最新情報を常に把握し、税務・会計の専門家と連携しながら、自社に最適な保険戦略を設計していきましょう。


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