• 作成日 : 2025年10月21日

資金調達のクローズとは?流れや必要な契約書の種類を解説

スタートアップの資金調達ニュースでよく目にする「クローズ」という言葉。これは、投資家との契約を完了し、資金の払い込みが行われる最終段階を指します。クローズに至るまでには、「タームシート」での基本合意や、事業と財務の精査である「デューデリジェンス」といった、いくつかの重要なステップを乗り越える必要があります。

この記事では、資金調達のクローズの定義から、そこに至るまでの具体的な流れ、必要な契約書、そして注意すべき点までをわかりやすく解説します。

資金調達のクローズとは?

資金調達のクローズとは、投資家との間で最終的な投資契約を締結し、資金の払い込みが完了する、一連の流れの最終段階を指します。これは、事業拡大や優秀な人材の採用、マーケティング活動の本格化といった目的のために、投資家との信頼関係を法的に確定させ、事業を成長させるための資本を得る重要な手順です。

ここでいう「投資家」とは、主にスタートアップ企業に出資する以下の3者を指します。

  • ベンチャーキャピタル(VC):複数の投資家から資金を集めてファンドを組成し、高い成長が見込まれる未上場のスタートアップ企業に出資を行う会社。
  • コーポレートベンチャーキャピタル(CVC):事業会社が、自社の事業との相乗効果(シナジー)などを目的に設立した投資部門。
  • エンジェル投資家:創業期の企業を中心に、個人として資金を提供する投資家。成功した起業家などが多く、資金だけでなく経営に関する助言を行うこともあります。

これらの投資家との間で交わされるのが、本記事で解説するエクイティファイナンス(新株発行による資金調達)であり、その最終段階が「クローズ」です。

クローズとは投資契約の締結と資金の払い込み完了のこと

クローズ(Closing)は、投資家との間で交わされる最終的な投資契約書への調印と、その契約に基づいた資金の払い込み(着金)が完了した状態を指します。 これは、口頭での約束や基本合意書(タームシート)の締結といった段階を越え、法的に投資が成立したことを意味します。

このクローズをもって、スタートアップは新たな株主と事業を成長させるための資本を正式に手に入れることになるのです。ニュースなどで「〇〇億円の資金調達をクローズ」と発表されるのは、この手続きが完了したことを示しています。

クローズに至るまでの関連用語(タームシート、デューデリジェンスなど)

クローズに至るまでには、いくつかの専門的なステップと用語が登場します。

タームシート(Term Sheet)

投資家との基本的な条件をまとめた、いわば「基本合意書」です。通常、法的な拘束力はありませんが、後の最終契約の土台となるため、内容は慎重に交渉、確認します。主に、投資額、バリュエーション(企業価値評価)、発行する株式の種類などが記載されます。

デューデリジェンス(Due Diligence / DD)

投資家が、投資対象となる企業の価値やリスクを精査するために行う調査活動のことです。タームシートの締結後、クローズまでの間に行われるのが一般的で、調査範囲は多岐にわたります。

  • 事業DD:市場の成長性、ビジネスモデルの優位性、経営陣の能力などを調査します。
  • 財務DD:過去の決算書や将来の事業計画の妥当性などを、公認会計士などが精査します。
  • 法務DD定款や契約書、知財の権利関係、法規制の遵守状況などを、弁護士などが精査します。

バリュエーション(企業価値評価)

資金調達における「会社の値段」のことです。投資家は1株あたりいくらで何株取得するかを決めるため、バリュエーションを算出します。将来の収益性や類似企業の事例などを基に算定されますが、最終的には創業者と投資家の交渉によって決まることが多いでしょう。

エクイティファイナンス

新株を発行して、それを投資家に引き受けてもらうことで資金を調達する方法です。返済義務のない自己資本となるのが最大の特徴で、スタートアップの資金調達ではこの方法が主流です。これに対し、金融機関からの借入は「デットファイナンス」と呼ばれます。

資金調達がクローズするまでの全ステップとは?

資金調達がクローズするまでの流れは、複数のステップから成り、一般的に3ヶ月から半年程度の期間を要します。投資家と創業者、双方のリスクを精査し、最終的な合意を形成するためには、このような段階的な手順が必要となるのです。ここでは、投資家との面談から着金までの具体的なステップを解説します。

STEP1:投資家との面談と基本合意(タームシート締結)

最初のステップは、複数の投資家(VCやエンジェル投資家)と面談し、事業計画やビジョンを説明することです。 この段階では、事業の魅力を伝えるためのピッチ資料(プレゼン資料)が中心となります。投資家が事業に強い関心を持つと、より詳細な質疑応答や追加の面談が行われ、投資の基本的な条件をすり合わせます。

双方が大筋で合意に至ると、前述の「タームシート」が投資家から提示され、内容を交渉の上で締結します。

STEP2:デューデリジェンス(事業・財務・法務調査)

タームシート締結後、投資家による本格的な企業調査、デューデリジェンスが開始されます。 創業者側は、投資家から要求されるさまざまな資料を提示しなくてはなりません。たとえば、過去の決算書、主要な顧客や取引先との契約書、従業員名簿、知的財産権の登録証、許認可証などです。

この調査をスムーズに進めるため、事前に資料を整理し、クラウド上などで共有できる「データルーム」を準備しておくとよいでしょう。

STEP3:投資契約書の交渉と締結

デューデリジェンスと並行して、弁護士を交えた最終的な契約書の交渉が進められます。 タームシートの内容を基に、より詳細で法的な拘束力を持つ「投資契約書」や「株主間契約書」の文面を詰めていきます。

この段階では、経営の自由度に関わる条項や、将来の株式売却に関するルールなど、専門的な内容が多く含まれるため、スタートアップのファイナンスに詳しい弁護士への相談が欠かせません。

STEP4:クロージング(登記・払い込み)とプレスリリース

すべての契約書への調印が完了したら、まず投資家の払込を受け、その後払込日から2週間以内に資本金等の変更登記を申請します。

着金が確認できた時点で、資金調達は完全にクローズとなります。その後、多くの企業は、採用活動や事業提携を有利に進めるため、調達額や投資家名を記載したプレスリリースを配信します。

資金調達のシリーズ(ラウンド)とは?

資金調達のニュースで使われる「シリーズ」とは、企業の成長段階を示す言葉です。事業の成長に応じて必要な資金額や期待される役割が異なるため、資金調達はいくつかのラウンド(段階)に分けて行われます。ここでは、各ラウンドの意味合いを解説します。

シードラウンドからシリーズA, B, Cへの道のり

スタートアップの成長段階に応じた資金調達の段階は「ラウンド」と呼ばれ、通常は以下のように進んでいきます。

  • エンジェル/プレシード:創業前後のアイデアやプロトタイプの段階。エンジェル投資家やインキュベーターから数百万円~数千万円規模の資金を調達します。
  • シード:製品やサービスが完成し、顧客や市場の反応を見始める段階(PMF:プロダクトマーケットフィットの検証期)。VCなどから数千万円~数億円規模の調達を目指します。
  • シリーズA:事業モデルが確立し、本格的に事業を拡大していく段階。マーケティングや人材採用を強化するため、数億円規模の資金を調達します。
  • シリーズB, C以降:事業が軌道に乗り、さらなる市場シェアの拡大や海外展開、M&Aなどを目指す段階。数十億円以上の大規模な資金調達が行われることもあります。

資金の出し手:エンジェル投資家とVC(ベンチャーキャピタル)の違い

資金の出し手は、主にエンジェル投資家とVCに分けられますが、その性質は異なります。

項目エンジェル投資家VC(ベンチャーキャピタル)
正体成功した起業家や経営者など、個人の富裕層投資事業組合など、ファンドを組成して運営する会社
投資段階プレシード~シード期が中心シード期以降が中心
投資額数百万円~数千万円数千万円~数十億円
意思決定個人で判断するため、比較的早い投資委員会の承認など、組織的な承認プロセスが必要で時間がかかる
投資後の関与経営アドバイスや人脈紹介など、個人の経験を活かした支援経営戦略への関与、取締役の派遣、ガバナンス強化など、組織的な支援

資金調達のクロージングが難航する原因と対策

タームシート締結後も、クロージングが遅れたり、最悪の場合、破談になったりするケースはありえます。これは、投資家が多額の資金を投じる前の最終的なリスク確認の段階で、予期せぬ問題が発覚することがあるためです。ここでは、そうした事態を避けるための原因と対策を解説します。

原因1:デューデリジェンスでの問題発覚

デューデリジェンスの過程で、事前に説明されていなかった問題が発覚すると、投資家の信頼を損ないます。 たとえば、過去の決算書に不明瞭な会計処理が見つかった、代表者が知人から個人的に多額の借入をしていた、事業に必要な特許が会社ではなく個人名義で登録されていた、といったケースです。

こうした問題は、投資の中止や、バリュエーションの大幅な引き下げにつながる可能性があります。

原因2:契約条件での意見の対立

最終契約の交渉段階で、経営の根幹に関わる条項について意見が対立し、交渉がまとまらないケースです。 たとえば、投資家が派遣する取締役の権限の範囲や、創業者である経営陣の株式売却を一定期間制限する「ロックアップ」の期間、あるいは投資家が持つ「拒否権」の対象範囲など、専門的な条項で合意に至らないことがあります。

対策:専門家(弁護士・会計士)との連携

これらの問題を未然に防ぎ、スムーズなクローズを実現するための最も有効な対策は、早い段階で専門家と連携することです。 スタートアップの資金調達に詳しい弁護士は、法務DDで問題となりそうな点を事前に洗い出し、契約交渉で創業者に不利な条項がないかをチェックしてくれます。

また、公認会計士や税理士は、財務DDに耐えうる正確な財務諸表の作成をサポートしてくれます。投資案件の経験が豊富な専門家への依頼は費用がかかりますが、資金調達の成功確率を高めるための不可欠な投資といえるでしょう。

クローズに必要な契約書や法務書類とは?

資金調達のクローズは、法的に有効な契約や手続きの積み重ねで成り立っています。新株発行という会社の根幹に関わる行為であるため、その後の経営に影響を及ぼす重要な書類を準備しなくてはなりません。

「投資契約書」と「株主間契約書」

クローズに必要となる「投資契約書」と「株主間契約書」が、エクイティファイナンスにおける中心的な契約です。

  • 投資契約書:投資家がいくらで何株を引き受けるか、といった発行条件のほか、会社の表明保証(会社情報が真実であることの保証)など、投資の前提となる約束事を定めます。
  • 株主間契約書:投資家が株主になった後の、会社運営に関するルールを定めます。投資家への情報提供義務や、取締役の派遣、株式の譲渡制限などが盛り込まれることが一般的です。

登記申請に必要な書類

新株を発行して資本金を増やすため、法務局での変更登記手続きが必要です。 その際には、投資契約書などに加えて、新株発行を決定した「取締役会議事録」や、投資家からの資金の払い込みを証明する「払込証明書」、誰が何株引き受けたかを示す「株式引受書」といった書類が必要になります。会社の機関設計によって決議の主体が異なるため、事前に確認して準備することが重要です。

資金調達のクローズは専門家と連携し計画的に進めよう

資金調達のクローズは、単なる入金を意味するのではなく、投資家という新たなパートナーを迎えるための、計画的で慎重な準備が求められる一連の手順です。とくにデューデリジェンスや契約交渉は、専門的な知識が不可欠なため、早い段階でスタートアップに詳しい弁護士や会計士に相談することが、スムーズなクローズにつながります。この記事で解説した流れとポイントをふまえ、事業を次のステージへ進めるための準備を始めましょう。


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