• 作成日 : 2025年9月16日

相続税の節税対策は?生前贈与・不動産活用・法人化のポイントも解説

相続税は、一定額以上の財産を相続した場合に課される税金であり、放置すれば数千万円単位の負担になることもあります。しかし、相続税には非課

税枠や特例制度が多数用意されており、正しい知識と準備があれば大幅な節税が可能です。本記事では、相続税の仕組みから節税の基本、効果的な対策方法までを解説します。

相続税の基本

相続税は、財産を受け継ぐ際に課される税金で、相続財産の規模によって納税義務の有無が決まります。課税対象となる金額の範囲や税率、非課税枠などのルールを理解し、早めに対策を講じることで節税が可能になります。ここでは、相続税の仕組みと節税の必要性について解説します。

相続税の課税対象と基礎控除

相続税の対象となる財産は、現金、不動産、株式、預貯金など、亡くなった方が保有していたすべての資産が含まれます。課税にあたっては、まず「基礎控除」が適用され、遺産の総額がこの控除額を超えない場合には相続税は発生しません。基礎控除の金額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出されます。たとえば相続人が配偶者と子ども1人の2名であれば、4,200万円までは非課税です。

基礎控除を超えた部分に対して相続税が課され、その税率は課税遺産額に応じて10%から最大55%までの累進税率で決まります。高額の資産を相続する場合、税率の上昇により多額の相続税が発生することもあります。

節税対策の必要性

2015年の税制改正によって基礎控除額が大幅に引き下げられ、相続税の課税対象者は以前よりも増加しました。また、課税財産が増えるほど税率も引き上げられるため、適切な対策を行わなければ想定以上の税負担となる可能性があります。

生前に贈与を活用して相続財産そのものを減らしたり、各種の税額軽減制度を利用して課税額を抑えたりすることが、資産保全の観点からも重要です。

相続税の節税方法

相続税には、適用要件を満たすことで税額を大幅に軽減できる制度や特例が複数あります。生前から計画的に対策を行えば、将来の税負担を大きく抑えることが可能です。ここでは、相続税の節税に役立つ代表的な方法と、最近の税制改正を踏まえたポイントを解説します。

生前贈与で財産を減らす

生前贈与は、相続開始前に財産を計画的に移転し、相続時の課税対象額を抑えるための基本的な方法です。贈与税には年間110万円の非課税枠(基礎控除)があり、この範囲内であれば贈与税がかからずに資産を移転できます。たとえば子や孫に毎年110万円ずつ贈与することで、相続財産を少しずつ減らしていくことができます。また、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与に対する非課税制度もあります。

2024年の税制改正により、生前贈与加算の対象期間が「相続開始前3年以内」から「7年以内」に延長されました。ただし、相続開始前4~7年に行われた贈与については、合計100万円までは相続財産に加算しないという緩和措置も設けられています。したがって、節税効果を最大化するには、できるだけ早い時期から贈与を始めておくことが望ましいです。

生命保険を活用する

生命保険を利用することで、相続税の非課税枠を有効に活用できます。相続人が受け取る死亡保険金については、「500万円×法定相続人の数」までが非課税です。相続人が3人なら1,500万円まで非課税で保険金を受け取れます。これは現金や預金と異なり、非課税の現金資産としての活用が可能な点で大きなメリットがあります。

生命保険金は、必要書類が揃えば通常5営業日程度で支払われます。これは、遺産分割協議を経て凍結解除までに1〜2ヶ月かかることもある銀行預金と比較して迅速であり、納税資金や当面の生活費を確保する手段として有効です。

適切な保険金額を設定し、受取人を法定相続人に指定しておくことがポイントです。

配偶者控除を最大限に使う

配偶者が遺産を相続する場合、相続税が大幅に軽減される「配偶者控除(配偶者の税額軽減)」制度があります。この制度により、配偶者が相続する遺産については、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額まで相続税が非課税となります。たとえば、配偶者が1億円を相続した場合には相続税は発生しません。

この特例を適用するためには、相続税の申告が必須であり、遺産分割協議が成立していることが条件です。申告期限(死亡から10か月以内)までに手続きを済ませ、適用漏れがないよう注意が必要です。

小規模宅地等の特例を利用する

不動産を相続する場合、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」により、土地の評価額を大幅に減額することが可能です。たとえば、被相続人が住んでいた宅地を配偶者または同居の親族が引き継ぐ場合、最大330㎡までの居住用宅地の評価額を80%減額できます。

この特例は、事業用の土地(特定事業用宅地等)は400㎡まで80%、賃貸用の土地(貸付事業用宅地等)は200㎡まで50%の評価減が認められており、土地にかかる相続税を大幅に軽減する手段となります。ただし、適用には相続後の継続保有や居住・事業継続といった条件があり、税務署への届出や明細書の提出も必要です。事前に条件を確認し、専門家に相談しながら進めるのが賢明です。

養子縁組による法定相続人の数増加

相続税の基礎控除や生命保険の非課税限度額は、法定相続人の人数によって決まります。そのため、養子縁組を行って相続人の数を増やすことで、非課税枠を拡大することが可能です。孫を養子に迎えれば、基礎控除が600万円、生命保険の非課税枠が500万円増加します。

ただし、税法上で相続税の計算に含めることができる養子の人数には制限があります。実子がいる場合は1人まで、いない場合でも2人までが上限です。養子縁組は家族関係に大きな影響を与えるため、節税目的だけでなく、家族全体の意向を尊重して慎重に判断することが必要です。

生前贈与の注意点と効果的な活用術

相続税の節税策として広く利用されているのが生前贈与です。一定の非課税制度を活用すれば、将来の相続財産を着実に減らすことができますが、制度の改正や加算ルールなど、注意すべき点も増えています。ここでは、生前贈与の節税効果を引き出すための活用法と留意点を解説します。

暦年贈与と相続開始前加算のルール

年間110万円までの贈与には贈与税がかからない「暦年課税制度」は、多くの方が利用する基本的な節税方法です。例えば、子や孫に毎年110万円以下の贈与を続けることで、長期間をかけて相続財産を減らすことができます。

しかし、2024年以降の改正により、「相続開始前7年以内」の贈与は原則として相続財産に加算されるようになりました。これにより、亡くなる直前に贈与をしても節税効果が薄れるため、計画的に長期間続けることが重要です。なお、加算対象期間のうち、相続開始前4〜7年に行った贈与については、100万円まで非加算とする緩和措置も設けられています。

特別な目的による非課税贈与の活用

生前贈与には、教育資金・結婚・子育て資金など、特定目的であれば非課税で一括贈与できる制度もあります。たとえば、教育資金一括贈与では、30歳未満の子や孫に対し、最大1,500万円まで贈与税が非課税となります(受贈者ごとに信託口座の開設が必要)。ただし、信託銀行などを通じた管理が必要であり、制度の適用期限は2026年3月31日までとなっており、利用を検討する場合は期限に注意が必要です。

相続時精算課税制度の選択に注意

相続時精算課税制度は、2,500万円までの特別控除が利用できます。2024年の改正で、これとは別に年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が向上しました。ただし、一度選択すると暦年課税に戻せない点は従来通りです。また、相続時にすべての贈与財産が加算されるため、将来的な相続税負担が軽減されない可能性もある点に注意が必要です。

節税を目的に制度を選ぶ際は、贈与対象者の年齢や贈与額、財産規模、将来の相続計画などを総合的に見極めたうえで判断することが望まれます。税理士などの専門家に相談しながら進めるのが賢明です。

賃貸・土地評価引下げを活用した相続税の節税方法

不動産は相続税の節税に効果的な資産の一つです。現金と異なり、評価額を引き下げやすく、適切に運用すれば相続税負担を大幅に軽減できます。ここでは、賃貸や土地評価の引下げを活用した節税方法を解説します。

賃貸物件による評価額の引下げ

不動産を賃貸することで、建物は「貸家」、土地は「貸家建付地」として評価され、それぞれ減額が適用されます。たとえば、建物の評価額は借家権割合(通常30%)に応じて下がり、土地は借地権・借家権割合を踏まえた評価額になります。結果として、実勢価格1億円の物件でも、相続税評価額が2~3割以上下がることがあります。現金を不動産に転換することで、相続税の課税対象を抑えられる仕組みです。

小規模宅地等の特例でさらなる評価減

自宅や事業用地、賃貸用地については「小規模宅地等の特例」により、評価額をさらに減額できます。たとえば、自宅の宅地については最大330㎡まで80%減額され、賃貸用の土地でも200㎡まで50%減額が可能です。ただし、相続人が居住・事業継続・一定期間の保有などの条件を満たす必要があります。

長期的視点での不動産活用を

節税だけを目的に不動産を活用すると、空室リスクや維持費の問題に直面することもあります。賃貸経営の収支や、相続後の売却による譲渡所得課税なども見据えたうえで、不動産の組み入れ方を計画することが重要です。税理士や不動産の専門家と連携して、総合的な相続対策を行いましょう。

法人化を活用した相続税の節税方法

相続税の節税を目的として法人化を活用する方法は、主に不動産や自社株など資産規模が大きい家庭に有効です。法人を設立して資産を管理させることで、評価額の引下げや相続税の分散を図ることができます。ここでは、不動産管理会社の設立と自社株評価の工夫による節税のポイントを紹介します。

不動産管理会社で相続資産の評価を引き下げる

賃貸不動産を個人で保有せず、法人で所有・運用する「不動産管理会社スキーム」では、法人を設立してその法人に不動産を移転または取得させます。法人で得た収益から役員報酬や退職金を支払い、所得を分散することで、家族間で税負担を軽減できます。

また、法人が所有する不動産については、相続時に個人で所有している場合と異なり、「法人の株式」として評価されるため、物件の収益性が株価に影響を与える形になります。実勢価格よりも相対的に評価額が抑えられる傾向があるため、節税効果が期待できます。

自社株対策としての法人活用

中小企業経営者にとっては、自社株の評価引下げと承継対策が大きなテーマになります。業績好調で利益が積み上がると自社株評価も高騰し、相続時に多額の税負担を招く恐れがあります。

これを抑えるために、あえて役員報酬を増額したり、退職金を支給して利益を圧縮することで株価評価を下げる方法があります。また、早期に事業承継計画を立てることで、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度(事業承継税制)」を活用し、相続税の納税を猶予・免除できる可能性もあります。

法人化による節税スキームは制度の正確な理解と長期的な視点が必要となるため、実行にあたっては専門家の助言のもと進めることが重要です。

相続税の節税は計画的に、早めに進めよう

相続税の節税は、一度の対策で完結するものではありません。生前贈与や保険の活用、不動産管理会社の設立など、各手段には要件や制限があり、早期かつ計画的に取り組むことが求められます。相続が発生してからでは使えない制度も多いため、早い段階で専門家に相談し、自身の資産状況や家族構成に合った対策を選ぶことが節税成功への近道です。制度の改正にも注意し、常に最新の情報を確認しながら準備を進めましょう。


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