- 作成日 : 2025年8月29日
キャリアアップ助成金とは?正社員化コースを中心に受給額や申請方法などを簡単に解説
「パートやアルバイトの意欲を高め、長く働いてもらいたい」
「優秀な人材を正社員として雇用したいが、コストが気になる…」
こうした悩みを持つ事業主の方にとって、心強い味方となるのがキャリアアップ助成金です。キャリアアップ助成金を活用すれば、有期雇用労働者等の正社員化や待遇改善にかかる費用負担を大幅に軽減できます。
本記事では、キャリアアップ助成金の中でも特に利用の多い正社員化コースを中心に、誰がもらえるのか、いくらもらえるのか、個人事業主でも申請できるのかといった疑問に答えます。申請の流れや審査を通過するためのポイントも具体的に解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(有期雇用労働者等)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主(会社や個人事業主)に対して国が支給する助成金です。
この制度の目的は、非正規という理由で能力を発揮する機会が限られている有期雇用労働者等の意欲や能力を高め、企業の生産性向上と、労働者自身の雇用の安定を実現することにあります。
- 事業主側
人材育成や採用にかかるコストを抑えながら、従業員の定着率や満足度を高め、組織全体の力を強化できます。 - 労働者側
正社員としての安定した雇用や、より公正な待遇を得るチャンスが広がり、安心して働き続けることができます。
まさに、労使双方にとって大きなメリットのある制度と言えるでしょう。
キャリアアップ助成金は誰がもらえる?
キャリアアップ助成金を受給するには、助成金を申請する「事業主」と、キャリアアップの対象となる「労働者」の両方が、それぞれ定められた要件を満たす必要があります。
対象となる事業主の条件
キャリアアップ助成金の対象となる事業主は、以下の要件をすべて満たす必要があります。株式会社などの法人はもちろん、個人事業主であっても対象です。
- 雇用保険の適用事業所であること
- キャリアアップ管理者を置いていること
- キャリアアップ計画を作成し、管轄の労働局長に提出していること
- 勤務状況および賃金の支払状況等の書類整備や賃金の算出方法を明らかにできること
- キャリアアップ計画期間内に、キャリアアップに取り組んでいること
ただし、労働保険料を納入していない場合や労働関係法令の違反があった場合などは助成金を受給できません。
対象となる労働者の条件
キャリアアップ助成金の対象となるのは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(有期雇用労働者等)が該当します。以下の要件は正社員化コースの場合を想定しています。
- 6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者
- 正規雇用労働者として雇用することを約して雇入れた者でないこと
- 事業主と密接な関係(資本的・経済的・組織的関連性)がない者であること
- 事業主または取締役の3親等以内の親族ではない者であること
- 支給申請日において離職していない者であること
- 支給申請日において転換が予定されていない者であること
- 定年までの期間が1年以上である者であること
- 定年を迎えた者でないこと
- 就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること
キャリアアップ助成金はいくらもらえる?
キャリアアップ助成金には複数のコースが存在しますが、ここでは特に利用頻度が高い正社員化コースを中心に、最新の支給額や要件を解説します。
正社員化コースの支給額
正社員化コースは、有期雇用労働者等を正規雇用労働者(正社員)に転換した場合に助成金が受けられるコースです。
中小企業の場合、令和7年度(2025年度)までは、有期契約から正社員へ転換する場合に労働者1人あたり最大80万円の助成が受けられます(重点支援対象者かつ中小企業の場合)。
また、企業の取り組みに応じて以下の金額が加算されます。
- 正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等をした場合(1事業者当たり1回のみ):加算額20万円(大企業15万円)
- 多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等をした場合(1事業者当たり1回のみ):加算額40万円(大企業30万円)
これらの手厚い支援は、企業が正社員化に踏み切る際の大きな後押しとなるでしょう。
その他コースの支給額
正社員化コースの他にも、事業者のニーズに応じた多様なコースが用意されています。
- 賃金規定等改定コース
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用さえた場合に助成されます。 - 賞与・退職金制度導入コース
就業規則または労働協約の規定に基づき、すべての有期雇用労働者等に関して、賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積み立てを実施した場合に助成されます。
これらのコースを活用することで、正社員転換だけでなく、様々な形での処遇改善が可能となり、従業員のモチベーション向上と人材の定着に繋げることができます。
キャリアアップ助成金の申請から受給までの流れ
キャリアアップ助成金を受給するには、計画の策定から支給申請まで、正しい手順を踏むことが不可欠です。ここでは、主な流れを3つのステップに分けて解説します。
1. キャリアアップ計画書の作成・提出
まず行うべきは、キャリアアップ計画書の作成です。
キャリアアップ計画書には、どのような取り組みを、いつからいつまでの期間で、どの労働者を対象に行うのかといった具体的な内容を記載します。
作成した計画書は、取り組みを実施する前日までに、都道府県労働局へ提出する必要があります。提出しなければ、その後の取り組みを行っても助成金の対象とはならないため、最も重要な第一歩と言えます。
2. 就業規則の改定と正社員化の実施
キャリアアップ計画の認定を受けたら、計画に沿って具体的な取り組みを進めます。
- 就業規則の整備
就業規則に正社員への転換制度を明記し、労働基準監督署へ届け出ます。(正社員化規定がない場合) - 正社員への転換
対象となる労働者を実際に正社員として雇用します。 - 転換後の雇用継続と賃金支払い
転換後、6か月間の雇用を継続し、その間の賃金を支払います。転換前6か月と比較して3%以上増額している必要があります。
3. 支給申請
正社員への転換後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に、管轄の労働局またはハローワークへ支給申請を行います。申請には、支給申請書のほか、キャリアアップ計画書、転換前後の就業規則または労働協約、雇用契約書、出勤簿、賃金台帳など、多くの添付書類が必要です。
書類に不備があると審査が滞ったり、不支給の原因になったりするため、入念に準備して提出することが肝心です。申請後、審査を経て支給が決定されると、指定した口座に助成金が振り込まれます。
キャリアアップ助成金に関してよくある質問
ここでは、キャリアアップ助成金の利用を検討している事業主から特によく寄せられる質問について回答します。
キャリアアップ助成金の審査は厳しい?
「キャリアアップ助成金の審査は厳しい」と感じる事業主がいるのは事実です。実際に、要件や手順が細かく定められています。特に、出勤簿や賃金台帳といった労働関係帳簿の整合性は厳しくチェックされます。日頃から適正な労務管理を徹底することが、審査を通過するための大前提となります。
キャリアアップ助成金はいつまで申請できる?
キャリアアップ助成金は、国の予算に基づいて実施されるため、年度ごとに内容が変更されたり、コースが統廃合されたりする可能性があります。
また、支給申請には厳格な期限が設けられています。支給申請は、対象期間(賃金支払期間6か月)が終了した日の翌日から2か月以内です。この期限を1日でも過ぎると受理されないため、計画的なスケジュール管理が不可欠です。
個人事業主が申請する場合の注意点は?
個人事業主も助成金の対象ですが、特に以下の3点に注意が必要です。
- 雇用保険への加入
従業員を一人でも雇用した場合、雇用保険の適用事業所となる手続きを速やかに行う必要があります。 - 対象労働者の範囲
個人事業主本人や、事業主と生計を同一にする親族(配偶者や子など)は、助成の対象となる労働者にはなれません。 - 労務管理の徹底
法人に比べて労務管理体制が整っていないケースも想定されます。就業規則の作成・届出や、労働時間・賃金の適正な管理を、より一層徹底することが重要になります。
計画的な準備でキャリアアップ助成金を活用しましょう
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者等の待遇改善と正社員化を後押しし、企業の成長を支援する非常に有効な制度です。
審査は決して甘くありませんが、一つひとつの要件を確実に満たせば、個人事業主であっても受給は十分に可能です。手続きに不安がある場合や、より確実に申請を進めたい場合は、管轄のハローワークや労働局、または社会保険労務士などの専門家に相談することも有効な選択肢です。この記事を参考に、まずは自社が対象になるかを確認し、キャリアアップ計画書の作成から始めてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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