• 作成日 : 2025年8月19日

ペーパーカンパニーとは?作り方・目的・リスクを解説

ペーパーカンパニーとは、登記上は存在していても事業活動の実態がない法人を指します。一見すると怪しい印象を受けがちですが、すべてが違法というわけではなく、資産管理やM&Aのために合法的に活用されるケースもあります。

この記事では、ペーパーカンパニーの定義や設立手続き、合法的な活用方法、注意すべきリスクを解説します。

ペーパーカンパニーとは

ペーパーカンパニーとは何かを正しく理解することは、これから会社設立を考えている方にとって重要です。事業の実態を持たない法人がどのような目的で作られるのか、また法的にどこまでが認められているのかを明確に知っておきましょう。

登記はあるが実態のない会社を指す

ペーパーカンパニーとは、法務局に法人登記がされているにもかかわらず、実際には事業活動が行われていない会社のことをいいます。つまり、書類上だけ存在する実体のない会社であり、ダミー会社などと呼ばれることもあります。たとえば、法人登記だけを済ませて休眠状態のまま放置されている会社や、事業目的を記載しているものの実際には活動していない会社などが該当します。

ペーパーカンパニーと聞くと「違法ではないか」と疑問に思われるかもしれません。しかし、法人を設立しても事業を行わないこと自体は違法ではありません。M&A(企業の合併・買収)を進めるために一時的に設立される特別目的会社(SPC)は、事業の実態がないことが前提でありながらも、完全に合法です。このように、正当な目的で活用されているペーパーカンパニーも少なくありません。

犯罪目的の場合は法的責任を問われる

一方で、はじめから事業を行う意思もなく、租税回避や詐欺といった不正行為を目的としてペーパーカンパニーを設立することは、明らかに法の趣旨に反します。たとえば、資金洗浄(マネーロンダリング)や投資詐欺などの隠れ蓑として用いられる場合、たとえ形式的に登記が適切であっても、不正が明るみに出た場合には脱税や詐欺罪として重い刑罰の対象となることがあります。合法と違法の境界をしっかり理解し、正当な目的での設立であることが前提です。

ペーパーカンパニーが合法的に作られる目的

ペーパーカンパニーと聞くと違法な印象を持たれがちですが、合法的な目的で設立され、正当に活用されるケースも少なくありません。ここでは、主に合法な活用目的について解説します。

資産の管理や分離のため

不動産や有価証券などの個人資産を法人に移し、不動産を証券化するなど法人名義で管理する目的でペーパーカンパニーを設立するケースがあります。たとえば、個人ではなく法人が所有することで、相続税の節約やリスク分散につながるといった利点が考えられます。また、複数の事業や資産を分社化してリスクを切り分けることができるため、倒産隔離のために設立されることもあります。

M&Aや取引の円滑化のため

企業の合併・買収(M&A)において、一時的な受け皿として「特別目的会社(SPC)」を設立する場合があります。SPCは短期間で特定の資産や契約を扱うための法人であり、実態を伴う事業は行わないものの、法的には正当な会社です。

このように、適正な目的と計画に基づく法人であれば、ペーパーカンパニーも合法的とされます。

ペーパーカンパニーの作り方

ペーパーカンパニーの設立にあたって特別な制度や手続きがあるわけではありません。通常の会社設立手続きを経ることで、結果的に実態のない法人、すなわちペーパーカンパニーが生まれることになります。流れを正確に理解しておきましょう。

ペーパーカンパニーは通常の会社設立手続きで作れる

「ペーパーカンパニー」という言葉は、法律上の制度名ではなく、実際に事業活動を行っていない法人の状態を指す通称です。そのため、株式会社や合同会社など、一般的な法人格を取得する通常の手続きを通じて設立されます。会社法に基づいて法人登記が完了すれば、それがペーパーカンパニーとして扱われる可能性があります。

つまり、「ペーパーカンパニーを作る」というのは、あくまで会社を作った後に事業活動をしない状態にとどめることを意味します。法人格自体は通常の会社とまったく同じであり、特別な書式や設立方法があるわけではありません。

一般的な会社設立の流れ

株式会社を例にとると、まず社名(商号)や本店所在地、事業目的、資本金、役員構成といった基本事項を決定します。次に会社実印を作成し、定款と呼ばれる会社の基本ルールを記載した文書を作成します。株式会社の場合はこの定款を公証役場で認証してもらう必要があります。

その後、定款に記載された資本金を発起人名義の銀行口座に払い込み、登記に必要な申請書類を揃えて、法務局に提出します。書類に不備がなければ、設立登記が完了し、会社として正式に成立します。なお合同会社の場合は定款の認証が不要であり、比較的手続きが簡略です。

ペーパーカンパニーを作りたい場合でもこの流れは変わらず、定款には事業目的を記載し、最低限の資本金を払い込み、正式に登記を行う必要があります。何もしない会社だからといって、設立要件が免除されるわけではないことに注意しましょう。

専門家への依頼の可否

設立の手続きを司法書士や税理士などの専門家に依頼する場合、不当な目的があると判断されれば依頼を断られることもあります。たとえば「脱税のために会社を作りたい」といった趣旨で相談しても、法律に反する可能性がある以上、専門家は協力できません。ペーパーカンパニーであっても、適法な目的での法人設立であるかどうかを見極めましょう。

ペーパーカンパニーを設立するメリット

ペーパーカンパニーを設立する動機として最も多いのが、税負担の軽減など金銭面での利点です。中小企業向けの税制優遇を活用し、法人税や経費処理の面で節税を狙う事例が多く見られます。ただし、こうしたスキームには一定のリスクも伴いますので、まずは代表的なメリットから理解しておきましょう。

法人税の軽減を目的とした所得の分散

日本の法人税率は原則として所得に対し23.2%ですが、資本金1億円以下の中小企業には軽減税率が適用されます。具体的には、年800万円までの所得に対しては15%(※令和9年3月期まで。その後は19%)とする制度が存在します。このため、1社で1,600万円の利益(課税所得)を出すよりも、2社に分割してそれぞれ800万円の所得とすることで、グループ全体の納税額を抑えることが可能になります。

たとえば、A社単体で1,600万円の利益を出した場合、23.2%の税率で約371万円の税額が発生します。一方、A社と別に設立したB社(ペーパーカンパニー)に利益を800万円ずつ分けた場合、各社が軽減税率15%の対象となり、それぞれの法人税は約120万円、合計240万円となります。このように、法人を2つに分けるだけで、「理論上は」約130万円もの節税が見込めるのです。

※中小企業については、令和9年3月31日までに開始する各事業年度分の年800万円以下の所得の部分は税率が15%に軽減されていますが、例外はあります。

参考:法人税率の軽減 | 中小企業庁

交際費の損金算入枠が法人ごとに拡大

法人税法上、交際費は原則として損金に算入できませんが、資本金1億円以下の中小企業は、交際費の損金算入について、以下のいずれか有利な方を選択できます。

  1. 年間800万円までを上限に、支出した全額を損金に算入する。
  2. 支出した「接待飲食費」の50%を損金に算入する。

つまり、1社だけでは800万円が上限ですが、もう1社ペーパーカンパニーを設立すれば、別枠でさらに800万円まで経費として認められる余地が生まれます。

交際費が多い業種においては、この制度を複数法人で適用することで、より多くの接待費等を経費処理できるようになり、実質的な節税効果をもたらします。ただし、交際費の限度額をフルに使い切る企業は多くないため、効果は限定的であり、このメリットはすべての法人に当てはまるとは限りません。それでも「法人を増やすことで経費の枠が広がる」という発想は、設立の動機として一定の現実性があります。

参考:No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算|国税庁

ペーパーカンパニーを設立するデメリット・注意点

ペーパーカンパニーには一定の節税メリットがある一方で、法的リスクや金銭的負担など、見過ごせないデメリットも存在します。ここでは代表的なリスクを解説します。

違法とみなされるリスクがある

ペーパーカンパニーで最も大きなリスクは、税務署などから「違法な脱税スキーム」とみなされる可能性があることです。たとえ形式上は正当な法人でも、税金を不当に減らす目的で設立されたと判断されれば、税務調査で追及されるおそれがあります。節税と脱税の線引きは極めて厳格であり、判断を誤ると高額な追徴課税や延滞税が課されることも珍しくありません。

海外のタックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーを使った所得移転は、タックスヘイブン対策税制の強化により厳しく規制されています。実態のない海外子会社の利益は、日本の親会社と合算して課税される仕組みが整備されており、過去に有効とされていた手法は現在では通用しなくなっています。令和5年度税制改正では、「グローバル・ミニマム課税」(多国籍企業に対し各国共通の最低法人税率(15%)とする制度)が創設され、課税はより強化されています。

さらに悪質な場合、刑事罰の対象になることもあります。架空の取引をでっちあげて所得を隠したり、反社会的勢力の資金隠しに使ったりする行為は、法人とその関係者が重大な法的責任を問われる可能性があります。社会的信用も著しく損なわれ、個人や企業の再起は困難になるでしょう。

一方で、実態のある事業を目的に会社を設立すること自体は合法です。たとえば副業を法人化する場合などは、税制上のメリットが得られるとしても、業務の実態があれば問題視されません。ただし、同一の事業を複数法人に分けて利益を分散するような手法は、不自然であると判断されやすく、税務上の否認対象になりやすい点に注意が必要です。

参考:外国子会社合算税制の概要|財務省グローバル・ミニマム課税関係|国税庁

維持費と事務的な負担が大きい

ペーパーカンパニーであっても、法人として設立されている以上、定められた義務はすべて履行する必要があります。たとえ休眠状態で事業を行っていなくても、毎年の決算処理と確定申告は必須です。これには会計処理や税務申告が含まれ、税理士などの専門家に依頼すれば数万円から十数万円の費用が発生します。自分で対応するにしても、書類作成や申告作業に相応の時間と労力がかかります。

さらに、法人住民税の「均等割」と呼ばれる固定的な課税があります。これは利益の有無にかかわらず発生する税であり、たとえ赤字や活動実績がなくても納税義務は免れません。中小企業の場合、都道府県と市区町村あわせて年間約7万円前後の納税が必要となります。これは事業をしていないペーパーカンパニーにも例外なく適用されます。

加えて、会社を継続させるためには、法定調書の提出や役員改選の登記など、定期的な事務手続きも生じます。これらを怠ると法務局から通知が来るだけでなく、最終的には「みなし解散」として強制的に法人格を消失させられることもあります。特に株式会社では、12年間登記が行われていないと自動的に解散扱いになる制度(みなし解散制度)が存在しており、長期間放置することもできません。

このように、事業を行っていないにもかかわらず、法人を維持するためのコストや手間がかかり続けるという点は、ペーパーカンパニー特有の大きな負担といえます。節税を目的に設立しても、こうした維持コストを差し引くと、実質的なメリットが残らないことも多く、事前の十分な検討が不可欠です。

ペーパーカンパニーとマイクロ法人の節税効果の違い

見てきたように、ペーパーカンパニーは実体のない法人と言えます。一方、マイクロ法人は「経営者1名で事業を実施する小規模法人」という位置づけです。

どちらも節税を意識して設立されることが多いペーパーカンパニーとマイクロ法人ですが、その節税効果の内容と正当性には明確な差があります。個人事業主が法人化を検討する際には、この違いを理解したうえで判断することが重要です。

ペーパーカンパニーは形式的な節税にとどまる

ペーパーカンパニーの節税スキームは、主に複数法人間で利益を分散させることにより、法人税の軽減税率や交際費の枠を複数社で利用するといった形式的な手法に頼る傾向があります。しかし、これらの方法は実体がなければ税務署から否認されるリスクが高く、追徴課税等の対象になる可能性もあります。また、資産売却を通じた損益操作なども実務的・法的なグレーゾーンとなりやすく、リスクと隣り合わせです。

マイクロ法人は実態に基づく正当な節税が可能

一方、マイクロ法人では、役員報酬の設定による所得分散、一定範囲の経費計上、法人税の軽減税率の適用など、実態ある事業活動を前提とした節税策が可能です。たとえば、個人で1000万円以上の収入がある事業主がマイクロ法人を設立し、必要経費や役員報酬を適切に設定することで、課税所得を抑えられます。また、社会保険料の調整を目的に、年収や役員構成を最適化する設計も行われています。

節税を目的とするならば、表面的なスキームではなく、事業の実態を伴うマイクロ法人を基盤とした方法のほうが、法的にも安心して継続できる手段といえます。

ペーパーカンパニーの設立時は、正しく理解して慎重に判断を

ペーパーカンパニーは活用次第で資産管理や事業運営に役立つこともありますが、使い方を誤れば法的リスクや税務上の問題を招く可能性があります。節税目的での設立を考える際は、実態の有無が判断の大きなポイントとなります。合法的かつ継続可能な形で活用するためには、制度への正しい理解と慎重な判断が欠かせません。安易に進めず、必要に応じて専門家の意見を参考にしましょう。


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