• 作成日 : 2025年5月1日

医療法人の資金調達方法は?一般企業と異なる点や注意点を解説

医療法人の資金調達は、一般企業とは異なる特徴を持ち、特有の制約や課題が伴います。医療機器の導入や施設の維持には、多額の費用が必要となるため、安定した資金調達手段の確保が不可欠です。

本記事では、医療法人の資金調達の重要性や一般企業との違い、具体的な資金調達方法について解説します。

医療法人の資金調達が重要な理由

医療法人の運営には、安定した資金確保が欠かせません。新たな医療サービスの提供や地域医療への貢献を続けるには、十分な資金的基盤が必要なためです。では、医療法人にとって資金調達がなぜ重要なのか、その理由を詳しく見ていきましょう。

医療設備の導入に多額な費用がかかるため

医療法人が設備を整えるには、多額の資金が必要です。医療機器は単価が高く、必要な設備をそろえるだけでも大きな金銭的負担となります。

さらに、質の高い医療を提供するため、定期的な機器の更新も必要です。加えて、送迎バスの運行やバリアフリー化などの設備投資が発生する場合もあります。

こうしたコストを適切に管理するためには、医療法人には安定した資金調達手段が不可欠です。

経営の安定により地域医療へ貢献するため

医療法人の経営基盤を強化することは、地域医療の維持につながります。経営が安定すれば、病院の効率的な運営が可能となり、地域の医療提供体制を維持できます。

一方、経営が悪化すると医療従事者の確保が難しくなり、医療サービスの提供にも影響が出てしまうでしょう。そのため、適切な資金調達を行い、安定した経営を続けることが重要です。

医療法人の資金調達が一般企業と異なる点

医療法人の経営は、一般企業とは異なる独特の資金調達事情を抱えているのが現状です。資金調達の方法や入金サイクル、公的機関からの優遇措置など、さまざまな面で一般企業との違いが見られます。以下、医療法人の資金調達における特異な点について解説します。

株式や社債の発行による資金調達ができない

医療法人は、株式会社のように株式を発行して資金を調達できません。さらに、社債の発行も原則として認められていません。そのため、不特定多数から広く資金を集めることが難しく、資金繰りの選択肢が限られます。

経営の安定には、銀行融資や補助金の活用が重要です。さらに、診療報酬以外の収入を増やすのも難しく、財務基盤の強化が課題となります。こうした制約を踏まえ、医療法人は適切な資金管理を行いながら運営を続ける必要があります。

診療報酬が入金されるまでに時間がかかる

医療法人の資金繰りは、診療報酬の入金サイクルに大きく影響を受けます。

診療報酬は請求から入金まで2〜3ヶ月かかるため、売上があっても現金化が遅れがちです。一方で、人件費や薬剤の購入費などの支出は先行するため、資金繰りが圧迫されやすくなります。

このように、経営が順調であっても資金不足に陥るリスクがあるため、医療法人は入金のタイムラグを考慮した資金管理と調達を行う必要があります。

国や地方自治体からの優遇を受けやすい

医療法人は公益性の高さから、国や地方自治体からの優遇を受けやすい点が一般企業と異なります。「特定医療法人」と「社会医療法人」は、その代表例です。これらの法人は、医療を提供するうえで重要な役割を担っているためです。

特定医療法人は、厳格な認可基準を満たすことで、法人税の軽減措置を受けられます。また、社会医療法人は、夜間診療や離島・へき地での診療など採算が合いにくい医療を提供することが求められる代わりに、税制優遇だけでなく収益事業も認められています。

医療法人の資金調達方法

医療法人は、多額の資金が必要となるケースが多く、その調達方法は多岐にわたります。ここでは、医療法人が活用できる資金調達方法を解説します。以下で、詳しく見ていきましょう。

金融機関からの融資

金融機関からの融資は、医療法人が多額の資金を調達する方法の一つです。金融機関からの融資のメリットは、一度に多くの資金を調達できることと、長期的な返済期間を設定できる点です。

ただし、融資を受けるためには厳しい審査を通過しなければなりません。金融機関は返済能力を厳重にチェックするため、融資までに1〜2ヶ月かかる場合があります。また、信用格付けが低い場合は、金利が高くなるリスクもあります。

医療機関債

医療機関債は、医療法人が直接資金を調達する方法です。税引前純損益が3年連続黒字の医療法人であれば、規模に関わらず利用可能です。資金の出し手は地域住民や銀行などで、証券会社を介さずに直接資金を集めるため、比較的小規模(数千万円〜5億円程度)の資金調達に適しています。

購入者が資金を払い込み、医療法人が医療機関債の証書を交付する仕組みです。満期時に元金を返済し、期間中は約束した利率の利息を年1回支払います。法的には金銭消費貸借に該当し、複数の人から同時に借り入れる形です。

発行方法は、厚生労働省のガイドラインに基づきます。資金の使途は資産の取得に限定され、外部監査を受ける場合は、発行総額や購入人数に制約はありません。外部監査を受けない場合は、発行総額1億円未満、購入人数は49人以下に制限されます。ポスターやホームページで広く勧誘を行うことが可能です。

社会医療法人債

社会医療法人は、「社会医療法人債」の発行が可能です。金融商品取引法上の有価証券に該当し、公募形式で発行された場合は債券市場で取引されます。社会医療法人債により、多くの投資家から資金を集められる可能性が高まり、経営の安定化につながります。

債券は公募債と私募債です。公募債は不特定の一般投資家向けに発行され、私募債は特定の人向けに発行され、さらにプロ私募と少人数私募に分かれます。

発行時には、債券市場での評価基準や義務についての理解が必要です。また、勧誘対象の人数規制や譲渡制限もあるため、事前に内容の詳細を確認しておきましょう。

診療報酬債権流動化

診療報酬債権流動化は、診療報酬債権を担保に資金を調達する方法です。診療報酬債権は、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会が債務者であるため、高い信用度が特徴となっています。

さらに、手数料(金利相当)が低いため、コストを抑えられ、短期間で資金調達が可能です。緊急の資金需要に柔軟に対応でき、医療法人の資金繰りを円滑に進める手段となります。

リースバック方式

リースバック方式は、購入済みの高額な医療機器や事務機器を売却し、資金を調達する方法です。売却後もリース料を支払うことで、引き続き機器を使用できます。リースバックで得た資金は、原則として医療法人の裁量で自由に運用が可能です。

ただし、契約期間中の解約が基本的にできないため、リースバックを検討する際は、資金の使途や契約期間を慎重に計画する必要があります。

寄附金

医療法人にとって寄附金は、資金の安定化や事業の発展に役立つ重要な財源です。医療機器の購入や研究開発の資金として活用できるほか、活動内容を広く発信することでさらなる寄附を促すことも可能です。

寄附者は、税制上の優遇措置だけでなく、社会貢献への実感や医療法人の理念への共感を重視して支援を決める傾向にあります。

そのため、医療法人は寄附金の使途を明確にし、透明性を確保することで信頼を築き、継続的な支援を得ることが重要です。

補助金・助成金

補助金や助成金は、医療法人にとって返済不要の資金調達手段であり、経営負担の軽減に役立ちます。医療施設整備費補助金やIT導入補助金など、さまざまな制度として提供されていますが、補助率や助成額は制度ごとに異なります。

申請には審査があり、書類の準備が必要です。各制度の要件を事前に確認し、適切なタイミングで申請することが重要です。

医療法人の資金調達の流れ

医療法人が資金調達を行う際は、以下の流れに沿って進めることが一般的です。

  1. 書類の準備
    • 事業計画書や財務諸表など、金融機関の要件に沿った書類を用意します。
    • 事業計画書には、資金調達の目的、収益見込み、返済計画を明確に記載します。
  2. 申請手続き
    • 金融機関の窓口で申請を行います。
    • 事前に担当者と相談し、審査をスムーズに進めるための準備を整えます。
  3. 審査と追加対応
    • 財務状況や資金使途の適切性が審査されます。
    • 追加書類の提出や面談を求められる場合があります。
  4. 承認と資金受け取り
    • 審査を通過すると、融資が承認されます。
    • 契約手続きを経て、資金が振り込まれます。
  5. 資金管理と報告
    • 融資の場合は、返済スケジュールに沿った返済が始まります。
    • 資金の適切な管理と、必要に応じた報告を行います。

資金調達を成功させるには、流れを正しく理解し、各ステップを丁寧に進めることが重要です。事前に十分な準備を行い、計画的に実行しましょう。

医療法人の資金調達における注意点

医療法人が資金調達を行う際は、いくつかの点に注意しなければなりません。例えば、理事会の承認が必要な場合や、担保の提供を求められるケース、債務超過による資金調達の困難さなどが挙げられます。

これらの課題を正しく理解し、適切に対応することが、円滑な資金調達につながります。以下で、具体的な注意点について詳しく見ていきましょう。

理事会の議事録が必要となる

医療法人が融資を受ける際、多額の借入れには理事会の決議が必要です。理事長による単独の判断が、認められていないためです。

多額の借入れの基準は、明確ではありませんが、法人の状況を総合的に考慮して判断されます。理事会の承認は、経営危機を防ぐために求められるものであり、法人の存続に関わる重要な決定であるため慎重な審議が必要です。融資の際には、理事会の議事録を提出しましょう。

担保提供が必要となる可能性がある

医療法人が銀行から資金調達を行う際、希望通りの条件で融資を受けるのは、容易ではありません。金融機関は、回収リスクを抑える必要性から担保を求めることが多いためです。

特に、融資期間が長い場合は、担保の提供が必要となる可能性も高まります。したがって、平素から適切な財務管理を行い、金融機関との交渉に備える必要があるでしょう。

債務超過で資金調達が困難になる

医療法人が債務超過に陥ると、資金調達が難しくなる可能性もあります。金融機関は、資産を換金しても負債を補えない状況では、融資を断るか厳しい条件を課すことが一般的です。

また、金利の上昇や融資条件の悪化といったリスクも生じるため、債務超過を放置すると経営破綻につながる恐れがあります。

早急に収益改善やコスト削減に取り組み、財務状況の立て直しを図ることが重要です。自力での改善が難しい場合は、専門家の助言を求めることも検討すべきでしょう。

医療法人の資金調達を成功させるポイント

医療法人の資金調達を成功させるには、安定した診療報酬収入や効果的な資金源の確保が欠かせません。ここでは、診療報酬の安定化やMS法人の設立による利点について解説します。

診療報酬の安定化により借入限度額を増やす

医療法人が資金調達を成功させるには、診療報酬の安定化が不可欠です。診療報酬は主な収益源であり、その継続性や確実性が金融機関の信用を得るうえで重要な要素となります。

安定した収益を確保するためには、専門外来の設置や地域医療との連携強化を図り、患者数の増加を促すことが有効です。また、診療報酬の算定ミスや「査定・返戻」(審査機関による請求の修正・差し戻し)を最小限に抑え、収益の逸失を防ぐことも必要です。

これらの取り組みにより財務基盤が強化され、借入限度額の引き上げや融資条件の改善につながり、資金調達がより円滑に進むでしょう。

MS法人の設立で融資が受けやすくなる可能性がある

MS法人の設立は、医療法人が資金調達をスムーズに行う方法の一つです。医療法人は非営利性が求められ、株式や社債の発行が禁止されるため、融資を受ける際に担保不足に悩まされがちです。

MS法人は医療以外の業務を担い、営利事業を通じて資金を調達できます。その資金を医療法人に適正に貸し付けることで、資金繰りを円滑にできる可能性があります。

資金調達の選択肢を広げ、安定した病院経営を目指そう

医療法人は、株式や社債の発行ができないため、一般企業とは異なる資金調達手段を選択する必要があります。

銀行融資や医療機関債、診療報酬債権の流動化など、さまざまな方法があり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。経営状況や資金調達の目的を踏まえ、適切な手段を選択することが重要です。

さらに、国や地方自治体の補助金・助成金を活用することで経営の安定化を図り、地域医療への貢献を強化できます。適切な資金調達戦略を立て、持続可能な病院経営を目指しましょう。


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