• 更新日 : 2025年11月25日

海外に法人登記をするには?設立形態や手続き、必要書類まとめ

海外での法人登記は、事業を展開する国の法律にもとづき、現地法人や支店といった適切な事業形態を選択して手続きを進めることが求められます。そのため、設立形態によって必要書類や費用、税務上の取扱いは大きく異なります。

海外展開を検討する企業の担当者が、「どの形態で進出すべきか」「日本での手続きと何が違うのか」といった実務的な課題に直面することも少なくありません。

この記事では、海外で法人を設立する具体的な方法から、日本で事業を行う外国会社の登記まで、手順や注意点をわかりやすく解説します。

目次

海外へ進出する際の事業形態とは?

海外で事業展開する際の主な形態には「現地法人」「海外支店」「駐在員事務所」「GEO(グローバル雇用代行)」があります。どの形態を選ぶかによって、設立手続きの難易度や費用、現地での活動範囲、税務上の取扱いが異なります。事業目的に応じて慎重に検討しましょう。

現地法人:独立した法人格で高い信用力

現地法人とは、進出先の国の法律に準拠して設立される、日本の本社とは別の法人格を持つ会社(子会社や合弁会社など)です。本社から独立して事業活動を行えるため、現地企業としての社会的信用を得やすいのが特徴です。

  • メリット:現地での資金調達や取引において有利に働くことが多く、事業上のリスクを現地法人に限定できる(有限責任)点が強みです。
  • デメリット:設立手続きは複雑で、時間とコストがかかる傾向にあります。また、現地の会社法に従った運営が求められます。

海外支店:本社の一部として比較的簡易な手続き

海外支店は、日本の本社の一部として海外に設置される拠点です。独立した法人格を持たず、本社に従属する形で事業を行います。

  • メリット:現地法人を設立するよりも手続きが比較的簡単で、コストを抑えられる場合があります。また、多くの国では海外支店の損益を日本の本社と合算して申告できます。
  • デメリット:信用力が現地法人に比べて低いと見なされることがあり、支店の活動で生じた債務や法的責任は、日本の本社がすべて負う(無限責任)ことになります。国によっては、支店課税が行われる場合もあります。

駐在員事務所:営業活動を伴わない情報収集拠点

駐在員事務所は、本格的な事業展開の前段階として、市場調査や情報収集、物品の保管などの非営業活動を行うための拠点です。営業活動や契約行為は行えません。

  • メリット:設置手続きが最も簡単で、費用も抑えられます。通常は法人税の課税対象とならない場合が多いです。
  • デメリット:収益を上げる活動はできないため、事業の拡大にはつながりません。将来的に現地法人や海外支店へ移行することを前提とした形態といえるでしょう。

GEO(グローバル雇用代行):法人設立不要で現地人材を雇用

GEO(Global Employment Outsourcing)は、現地の専門会社(GEOサービス提供会社)が雇用主となり、企業に代わって人材を雇用・管理するサービスです。現地に法人を設立することなく、必要な人材を確保できます。

  • メリット:法人登記が不要なため、迅速に海外での事業活動を開始できます。さらに、法務や労務管理を委託できるため、コンプライアンスリスクを低減できます。
  • デメリット:サービス提供会社の規約に従う必要があり、直接雇用に比べて指揮命令系統のコントロールが制限される場合があります。

【比較表】海外でどの事業形態を選ぶべき?

各進出形態の特徴をふまえ、自社の目的や事業フェーズに合った形態を選ぶことが大切です。

形態おすすめのケース手続きの難易度
現地法人現地で本格的に事業を展開し、信用力を重視したい場合複雑
海外支店コストを抑えつつ、営業活動を行いたい場合普通
駐在員事務所市場調査や情報収集など、本格進出前の準備段階の場合簡単
GEO迅速に人材を確保し、法人設立をせずに事業をスタートさせたい場合不要

海外で法人登記する手続きの流れとは?

海外で法人を設立する際の手続きは、国や地域によって異なりますが、一般的には情報収集から登記申請、税務登録までの一連の流れがあります。各ステップで現地の法律や慣習を理解し、慎重に進めることが必要です。

STEP1:進出形態の決定

「現地法人」「海外支店」「駐在員事務所」といった事業形態の中から、自社の海外戦略に最も適したものを決定します。この決定は、事業目的、投資規模、許容できるリスクの範囲、将来的な事業拡大の可能性などを総合的に考慮して行います。この段階での選択が、その後の手続きの複雑さや必要書類、設立後の運営コストに大きく影響を与えます。

STEP2:進出先の法制度に関する情報収集

進出を希望する国の会社法、税法、外資に関する規制、労働法、知的財産に関するルールなどを詳細に調査します。特に、以下の点は必ず確認しましょう。

  • 外資規制:外国資本の出資比率に上限がないか。特定の業種に規制はないか。
  • 最低資本金会社設立に必要な最低資本金の額。
  • 役員の要件:現地在住者やその国籍を持つ人物を役員に含める必要があるか。
  • 税制:法人税率、源泉徴収税、付加価値税(VAT)など。

政府系機関であるJETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイトは、各国の制度や設立手続きに関する最新情報が掲載されており、情報収集に役立ちます。

参照:外国企業の会社設立手続き・必要書類 | ジェトロ(日本貿易振興機構)

STEP3:現地の専門家(弁護士・会計士など)への相談

海外での法人登記は、言語や法制度の違いから自社のみで完結させるのは困難です。そのため、現地の法律事務所や会計事務所、設立代行コンサルタントといった専門家に手続きを依頼するのが一般的です。国によっては、登記手続きに現地資格を持つ弁護士の関与が義務付けられている場合もあります。

専門家を選ぶ際は、実績や費用体系に加え、日本語でのコミュニケーションが可能かどうかも確認するとよいでしょう。

STEP4:会社名(商号)の決定と本店所在地の確保

設立する会社の名称(商号)を決定します。多くの国では、既存の会社と同一または類似した商号は使用できないため、事前に登記機関のデータベースなどで利用可能か調査(商号調査)が必要です。 あわせて、登記上の本店所在地となる住所を確保します。実際にオフィスを賃貸するほか、国や地域によってはバーチャルオフィスや専門家の事務所の住所を利用できる場合もあります。

STEP5:登記申請に必要な書類の準備と認証

登記申請には、日本の親会社や役員に関する書類、そして現地で作成する書類が必要です。国によって要件は異なりますが、一般的に求められる書類は以下のとおりです。

一般的な必要書類の例

書類の種類具体例備考
日本の親会社に関する書類発行から3ヶ月以内など有効期限がある場合が多い。
役員・株主に関する書類
  • パスポートのコピー
  • サイン証明書(印鑑証明書)
  • 英文の経歴書
  • 日本の住民票
サイン証明書は公証役場や在外公館で取得。
現地で作成・準備する書類
  • 定款(Articles of Incorporationなど)
  • 設立時取締役会の議事録
  • 登記申請書
現地の言語で作成。専門家が作成をサポートするのが望ましい。

書類の認証手続き:アポスティーユと公印確認

日本で発行された公文書(登記簿謄本など)を海外の機関に提出する際、その書類が本物であることを証明する「認証」を求められます。認証方法は、提出先の国がハーグ条約(認証不要条約)加盟国かどうかで異なるのが一般的です。

  • アポスティーユ(Apostille)
    ハーグ条約加盟国に提出する場合、日本の外務省で「アポスティーユ」という付箋による証明を受けます。この証明があれば、提出先国の駐日大使館・(総)領事館による領事認証は不要です。
  • 公印確認+領事認証
    ハーグ条約非加盟国に提出する場合は、まず外務省で「公印確認」を受けた後、提出先国の駐日大使館・(総)領事館で「領事認証」を受けるという2段階の手続きが必要です。

これらの認証手続きは複雑で時間を要する場合があるため、専門家と相談しながら早めに準備を進めましょう。

参照:公印確認・アポスティーユとは|外務省

STEP6:現地の登記機関への申請

準備したすべての書類を、法務局に相当する現地の登記機関に提出します。オンラインで完結する国もあれば、窓口での手続きが必須の国もあります。申請が受理され、審査に問題がなければ登記が完了し、法人設立証明書などが発行されます。登記完了までの期間は、数日で終わる国から数ヶ月かかる国まで様々です。

STEP7:登記完了後の各種手続き

法人登記が完了しても、事業を開始するまでにはまだやるべきことがあります。

  • 法人銀行口座の開設:
    登記の証明書や役員の身分証明書などを銀行に提出して口座を開設します。近年、マネーロンダリング対策が厳格化しており、口座開設の審査が厳しい国も増えています。
  • 税務・社会保険の登録:
    税務当局へ納税者番号(TIN)の登録、付加価値税(VAT)の登録、従業員を雇用するための社会保険や年金制度への加入手続きなどを行います。
  • 各種許認可の取得:
    事業内容によっては、営業許可や特定のライセンスが必要になるため、関係省庁への申請を行います。
  • 駐在員のビザ(就労許可)申請:
    日本から従業員を派遣する場合、現地の移民法にもとづき、就労ビザや居住許可の申請が必要です。

海外法人登記にかかる費用や税金はどうなる?

海外での法人登記や会社運営には、日本とは異なる費用や税金のルールがあります。特に設立時の初期費用と、事業開始後の税務については、事前に正確な情報を把握しておくことが不可欠です。

登記手続きにかかる費用の内訳

登記にかかる費用は、進出先の国や依頼する専門家によって大きく変動します。主な内訳は以下のとおりです。

  • 登記免許税・登録料:国や資本金の額に応じて定められた費用
  • 専門家への報酬:弁護士、会計士、設立代行コンサルタントなどへの依頼費用
  • 公証費用:定款などの書類を認証してもらうための費用
  • 翻訳費用:各種書類を現地の公用語に翻訳するための費用

これらの費用は数十万円から数百万円に及ぶこともあり、事前に複数の専門家から見積もりを取ることをおすすめします。

法人税は進出先の国で納めるのが基本

海外法人は、その事業活動によって得た利益に対して、進出先の国の税法にもとづいて法人税を納めます。国によって税率や優遇措置が大きく異なるため、タックスプランニングを含めた進出戦略が海外展開の成否を左右します。

タックスヘイブン対策税制に注意

法人税率が著しく低い国や地域(タックスヘイブン)に子会社を設立し、そこに利益を移転して日本の税負担を不当に軽くしようとする行為は、租税回避と見なされる可能性があります。日本の「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」により、一定の要件を満たす海外子会社の所得は、日本の親会社の所得とみなされ課税される場合があります。安易な節税目的での法人設立は、後に大きな税務リスクを招く可能性があるため注意が必要です。

参照:外国子会社合算税制の対象とすべき租税回避について | 国税庁

海外の法人登記情報を確認・取得するには?

海外企業との取引や、海外子会社の管理において、現地の法人登記情報を確認したい場面があります。登記事項証明書や登記簿謄本の取得方法は、日本国内と海外で異なります。

日本で外国会社の登記情報を調べる方法

日本で登記されている外国会社であれば、日本の法務局でその登記情報を確認できます。最寄りの法務局窓口で請求するほか、オンラインでの請求も可能です。これにより、日本における代表者や営業所の所在地、登記された事業内容などを確認できます。

参照:商業・法人登記のオンライン申請について | 法務局

「登記事項証明書」や「登記簿謄本」の取得手順

日本国内で登記されている外国会社の「登記事項証明書(登記簿謄本)」は、法務局の窓口で交付請求書を提出するか、「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)」を利用して取得できます。手数料を納付すれば、誰でも取得可能です。

各国の登記情報をオンラインで検索する際のポイント

多くの国では、日本の法務局に相当する機関がオンラインで登記情報を提供しています。ただし、言語が現地語であることや、利用登録が必要な場合がほとんどです。現地の専門家を通じて取得するか、国際的な企業情報提供サービスを利用する方法も有効でしょう。

日本で事業を行う外国会社の登記方法は?

海外の企業が日本国内で継続的に事業を行う場合、日本の法律にもとづいて登記することが義務付けられています。この登記により、日本における取引の安全性や透明性が確保されます。

外国会社の登記が必要になるケース

外国会社が日本に営業所を設けて事業活動を行う場合や、営業所を設けなくても日本における代表者を定めて継続的な取引を行う場合には、登記が必要です。

登記の申請先は法務局|営業所の有無で管轄が異なる

外国会社の登記を申請する法務局は、日本国内に営業所を設置するかどうかで異なります。

  • 営業所を設置する場合:その営業所の所在地を管轄する法務局
  • 営業所を設置しない場合:日本における代表者の住所地を管轄する法務局

参照:外国会社の登記について | 法務局

外国会社の登記における主な必要書類

外国会社が日本で登記を行う際は、主に以下のような書類が必要です。設立国や会社の形態によって詳細は異なるため、事前に管轄の法務局や司法書士に確認しましょう。

  • 登記事項申請書:外国会社の登記を申請するための基本書類
  • 本店の存在を証明する書面:本国の官庁が発行する登記事項証明書や会社設立証明書など
  • 日本における代表者の資格を証する書面:取締役会議事録、株主総会決議書、委任状など
  • 外国会社の定款:または会社の性質を識別するのに足りる書面
  • 日本における代表者の本人確認書類:住民票、印鑑証明書、パスポートの写しなど

これらの書類は、多くの場合、日本語への翻訳文を添付することが求められます。

登記を怠った場合のリスク

外国会社が日本で継続的に取引を行っているにもかかわらず登記を怠ると、過料(罰金)の対象となる可能性があります。また、登記をしていない会社は、その名義で訴訟の当事者になることができないなど、法的な不利益を被ることも考えられます。

海外での法人登記成功は事業形態の選択から始まる

海外で法人登記を行うには、まず現地法人や支店など、自社の戦略に合った事業形態を決定することが第一歩です。手続きは進出先の法律に従う必要があり、言語の壁や法制度の複雑さから現地の専門家への相談が一般的です。

また、日本で継続的に事業を行う外国会社も、日本の法律にもとづく登記が求められます。費用や税金の仕組みも国によって大きく異なるため、事前の十分な情報収集と周到な計画が、グローバルな事業展開を成功に導くでしょう。


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